怖い顔
Side シルク
「...なっ!? お、おま...その...え!?」
〈コレが本当の私の姿。多分私はコレを使った後...確実に動けなくなる。面倒かと思いますが、介護をお願いしますね......〉
アブソルが驚くも無理ないわね。私達は時間は少しだけど一緒に行動したことがあるし、どの様な人なのかも知っている。それにしてもミュウさん、何かを願うように手を合わせる前に動けなくなるって言ったけれど、一体何をするのかしら。一つ言えるとしたら、あの状態をしているならば私達が知らない、見たことが無いことをする事。
前は大声で呪文のような言葉を唱えると、突如としてフライゴン、ボーマンダ、ラティアスとラティアスを呼び出した事があった。ミュウさんも数少ない異国の技を使える持ち主で、自らを"サモナー"と名乗っていた。確か訳すと召喚師って意味だったかしら?
それと、このような異国の能力を使えるのはミュウさんと、ミュウさんが協力する代わりに救出条件の三人の中の一人だったアグノムさん、千年に一度目覚めると言われるジラーチ、時を渡る事が出来るセレビィ...けれど私がこの世界に訪れた時にお世話になったシードさんは多分違う。色違いのチェリーさんも多分違う筈。
その他に居るのは心の雫の守り神であるラティアスさん。私とウォルタ君をルデラ諸島へ訪れるキッカケを作ってくれたナルトシティの親方、今は亡きプクリンのシュエリさん...。後は目の前に居るルカリオで、しかもアーシアちゃんと同じ人間だったらしいから驚いてしまう。
〈...皆さんちょっと私から離れて下さい。巻き込んじゃいますから〉
「ま、巻き込む...? わ、分かったわ」
「わ、分かりました。スイちゃんマコトさん、それにアブソルさんも」
「うん」
「あー、言っておくが俺の名前はスガマサだ。片隅に覚えといてくれ」
スガマサ、それがアブソルの名前って実名かしら。そんな事より、ミュウさんの身体がだんだん緑色の光に型どられて、対して真っ黒になった相手のルカリオと球体...ん、ちょ止まって、仮に異国の技は"物を使って発動"していたと仮定すると、シュエリさんの死亡原因となっていた紫の小刀、私のトレジャーバックに入っているレイエルさんの白いオカリナ、金色で六角形の飾りが付いたミュウさんのペンダント、そして青色をしたラティアスさんの心の雫...綺麗に全て話しが繋がる。
つまり異国の技は"異国の物"が関係し、それを使えば誰でも使えると仮定出来る。コレならば人間だったらしいルカリオが扱えている理由も説明出来...ってアレ? ミュウさん...私が考え込んでいる間に形どると言うより、炎の様に緑色のオーラがゆらゆらと揺れてるけど...え、いったい何が、
〈...ふんっ!!〉
「うぉっ!? おい!なんなんだこの揺れはよ!?」
「ひゃっ! ...ア、アブソルさんあんまり動かないでマコトが落ちちゃう!」
「ひゃあ!? な、なんなのです!?」
「な、何か一瞬すごくグラッとしたよー!?」
な、なに今のふっ飛ばされそうな圧力...もしかしてコレが危ないからミュウさんは遠ざけたのかもしれない。距離減衰がどれだけなのかは分からないけれど、近くに居たら吹っ飛んで行く事は簡単に予測は出来る程の威力はあった。そんな事よりもミュウさんを形どっていたオーラが消えて、ミュウさんの目が開いていた。
見た目は変わらず願う前のミュウさんだけど、私は何か違う感覚を感じた。それも明らかに何か違う。息苦しいというか、圧迫感というか、若干の恐怖というか、そんなような感覚がして私は深く息を吸って身震いした。そして私と同じように感じ取った人が一人...アーシアちゃん。
もしかしてアーシアちゃんも同じ感覚を感じたのかと思ってテレパシーで念を送ってみると、彼女は少し驚きで身体が一瞬震えながらも相槌を返してくれた。周りから見れば何をしているのかと思われそうだけど、ちょうど全員ミュウさんの揺れにビックリしていて私達のやり取りを見ていなかった。
〈...行う器は我。仲介はセレビィ。災しはルカリオ。我、この実を犠牲としてルカリオを戻せ!〉
「っ! ...え、ミュウさん!?」
一瞬の出来事過ぎて、私を含めて見ていた全員が何が起きたのか全く分からなかった。感覚といえばミュウさんが唱えて、何かを放つまではほんの数秒までは覚えていたけれど、そこから先の記憶が無くて、気が付いたらミュウさんが倒れていた。そしてルカリオは...
「アンタが当てたのは遠くまで吹っ飛んだアタイのボーンクラッシャー! ったく、反射的に守ったせいか腕やられたなコレ...いたぁ.........って!? な、な何でこんなとこにミュ、ミュウが!? つーか何でこんなとこで倒れてんだ!? しかもスガマサ!お前いつ現れた!?」
「...じ、時間が戻ってる? いや、時間はさっきより進んでる...シルク、コレって......」
「...うん、たぶんウォルタ君の考えで間違いは無いわ。私達は何事も無かったけれど、ミュウさんが異国の技でルカリオの時間だけ戻したようね。 でもコレで...みんな! 精神統一される前に捕らえるわよ!」
『おー!』『了解!』
「ちょ!? な、何でアンタら誰も言っていない隠し玉を知ってんの!? と言うか来るな!! 来るなぁ!!」
完全に混乱したルカリオの静止を誰も聞かず、私とウォルタ君、マートル君、リファルさん、スイレンちゃんとレイエルさんが一斉に飛び掛かって、逃げ惑うルカリオを追い回した。流石に人数が多いのもあって一分経つ前に捕まえて、私のトレジャーバックに入れてある縄で手首をキツく締めて、水晶玉のようなものは保険でトレジャーバックに仕舞いこんだ。中々に大きかったけれど、そこはトレジャーバック、入れてしまえば大きさなんて関係なかった。ホントに仕組みが不思議だけど突っ込まないでおく。
因みに追い掛けなかったアーシアちゃん、マコト君、リトちゃん、スガマサさんは倒れたミュウさんのところに居て、今ミュウさんはアーシアちゃんの背中の上に載せられていた。
「くそ、こんな奴らにアタイが囚われるなんて屈辱よ...」
「残念だったなリッカ。まさかお前があんな冷静さを失う顔を見れるとは思わなかったぞ?」
「う、うるさい黙れ!!」
「そう思えばだが、コイツはギアを身に着けてねぇのか?」
「ん? あー、リッカは波動を感じ取るのに邪魔になるからと拒否した。その代わりに同期の俺以上に強く仕込まれたようだが、結局は覚えが良くて苦痛量は同じらしいがな」
「それは良いとして、リッカとか言ったわよね? 捕まえたは良いけど...どうしようかしらね。あ、とりあえずミュウさんが来てくれたこともあって全員ダメージは最小限よ」
「アタシ達の方はマコトが深めの傷を受けたけど、シルクさんの薬とアタシのアロマセラピーで応急処置程度は」
「おいスイレン、俺の事は無しかよ。まあ確かにマコトに比べればかなり軽いもんだったがな」
「で、その傷を負わせたアブソルが何故ココに居るかを、なぜ毒を打たれてピンピンしているか説明が欲しいんだけど、そこの所はどうなのよスイレンちゃん」
「それはちょっとだけ長くなるかもナノ。そもそもこの技を覚えた理由がフォルテさんにあって、その時は大して技を使えなかったし、誰かを守ったり助けたり出来ればと思った時に覚えられた技、それがアロマセラピーだった。だけどこの技は回復じゃなくて状態異常の治癒を目的した技と知って、どうにか回復にも持っていけないかと思ってた。 けれど、更に調べてみると自然治癒力を上げてくれる別効果もあることが分かったの。そこで相談を持ち掛けたのが...」
「私だったわけね」
「うん、シルクさんが作成する薬で技の補佐か対象者に使えば恩恵を得られるような方法が無いか聞いたの。あと別口でウィアさんにも聞いていて、ドリームメイカーズが使う毒の成分を調べてもらって、シルクさんに渡したこともあった。そこからかなり時間が経っちゃったけど、この町に来る間に船の上で完成して、アタシとシルクさんが二種類を一つずつだけ持ってるの。 因みに効果はもし仲間の誰かが毒を打たれた場合、一人だけ治癒出来る程度の解毒剤が一本、アタシの自然治癒力を底上げしてくれる促進剤が一本」
「ちょ、ちょっと待て...そんな貴重な奴を俺なんかに使っちまったのかよ!?」
「...死なせたくなかったから、じゃ駄目かな?」
「っ!? ...はあ、この際言うがお前はなんで娘と性格が似てんだよ。馬鹿真面目というか、したいと思ったらそれだけしか突っ走っちまうその性格。しかも娘の夢が"何でも治して、お母さんみたいなお医者さんになる"とか言ってたの思い出すと...軽くデジャブるんだが」
「...うそ、でしょ...? まさかそんな筈...」
「お、おいどうした?」
「ス、スイレンちゃん?」
「.........もしかして、お父さん?」
「「「お、お父さん!?」」」
あの、急な事に状況が軽く飲み込めないんだけど!?しかもいきなりな事過ぎて全員聞き返しちゃった...いや、聞き返すわよねこの状況なら!?
でもこの事は次の言葉で決定的なものになった。
「お前、まさか......由美、か?」
「っ! ...うん、そうだよ。ホントに...ぐすっ...お父さんだったんだ...ぐすっ......」
「お、おいおい嘘だろ...」
「ユミって...もしかしてスイレンちゃんの名前...?」
「...ぐすっ、そうナノ。現実の名前はぐすっ...由美って言うの。 まさか...アブソルが無理やり離されたお父さんだったなんて...助けられてぐすっ...ほんとに...よかった...ぐすっ、うわぁぁあん!!」
「...おい、今この中で全力の動きが出来ないやつは誰だ」
「え、それはどう意味ですか...?」
「わからないか? 多分この後にやる事は親玉を叩く事だ。それで動けない奴が居てみろ...絶対狙うぞ。俺がその立場ならそうする」
「...確かにリファルさんの言う通りね。現状動けないのがミュウさんとマコト君。ついでに戻る時の付き添いとして一人強い人が欲しいから...戦力が少し落ちるわね......」
今はリファルさんとアーシアちゃんとウォルタ君、そしてレイエルと私が主戦力として考えておいて良い筈。マートル君は主戦力でも充分すぎる程に行けるけど、やっぱり控えめな印象がある。それはリトちゃんも同じ事だけど、扱える技が少ないから不安が残っちゃう。
あと残るのは...居ないわね。少し落ちるとは言ったけれど、そこまで落ちることは無さそう。問題は誰が良いかよね...。
「付き添いならアタシが行くわ。元々無理やりココに連れてきてもらったようなものだし。 それに、この二人ならサイコキネシスで浮かべながら飛ぶ事は容易いし」
「...確かに適任かもしれないわね。申し訳ないけど...頼めるかしら?」
「良いわよ。その代わりだけど...全員必ず帰ってきなさいよね。 そう言うアタシ達はだいぶ心配かけちゃったから強く言えないけれど」
「...あのー、アタイは?」
「お前は置き去りだ。付いてきても裏返しそうな野郎だしな」
「うーん、ならソレも連れて行くわ。ちょっとキツイかもしれないけれど、置いといたら置いといたらで面倒な事をしそうな気がするのよね。 その代わり二人と違って危なくなったら手放すけど」
「うっ! ...そ、そんな事したらアンタ人殺しよ!」
「何だ今更。俺も言えないがドリームメイカーズ自体が人殺し、誘拐していて、クラス的に上位にいる奴らは死刑だと思うが。 だったら、異変を止める為に仕方なく内部に潜入して言いなりになってた方がいいと思うが? 人間という証拠もあるんだぞ。押し通せば回避できるぞ? それに、置き去りにした場合...どちらにせよドリームメイカーズに殺されんじゃねぇーか?」
うわぁー...リファルさんって典型的な敵に回したくないタイプの人ね......。私なら途中で折れて従いますと誓っちゃいそう...。
「わ、分かったわよ...アンタ達の支持に従うわ...。もし途中で落とされてもそれまでという事にする...」
「決まりだな。 ...ライト、聞こえるか?」
『...ん、聞こえるよ。 どうしたの?』
「ああ、ちょいと怪我人と取っ捕まえた奴をレイエルが運ぶんだが、行かせても大丈夫か?」
『うん、問題ないよ。因みに人数は?』
「ミュウとマコト、それと捉えたルカリオで三人だ。怪我は二人」
『了解したよ。ところで...捉えたルカリオは暴れないよね?』
「ああ、大丈夫だ。だよなぁ...リッカ?」
「ひっ!? だ、大丈夫です何もしません。ですのでそのリーフブレードをお仕舞い下さいませ...」
『...えーと、取り敢えず大丈夫...なのかな? 準備はしておくから連れてきて良いよ。気を付けてね』
「ええ、分かったわ」
『そうそう、レイエルはその場所までテレポートしちゃってて場所が分からないだろうから...そこから拠点までのルートを直線距離と最短距離で繋いどいたよ。確認してね』
「助かるわ。さて...行くのは良いけど出口は何処よ?」
「それはリッカに言わせる。変なとこ誘導して、もし何かあったら...生き埋めか死より怖いもの見せてやっからな?」
「わ、分かりましたリファル様...」
...なんだろ、これがどっちが悪役なのか分からなくなるような光景ね...何だかリッカさんが可愛そうに見えてきたわよ...。笑ってるけど目が全然笑ってないと言うか、首元に平気でリーフブレードを押し当てる辺り...とか......。
まあ、それは置いておいて...コレで不安点は一つ解消ね。いつの間にかにスイレンちゃんとスガマサさんは奥で話して、なんか知らない情報があるか問かけっこして、笑ってる辺り多分大丈夫そうね。にしても本当に楽しそうに話してるわね...家族、か......。
「よしと...じゃあアタシは行くわね。 思ったよりも辛いから、グラインダーのように素早く行かないとダメそうねコレ」
「レ、レイエルさん気を付けて下さいね...?」
「ええ、無理せず全速力で行くわ」
「あの...本当にこの状態で行くよでしょうか...?」
「うっさいわね、落ちたらそれまでの人生だったと思いなさい。まあ...落とさないように努力はするわよ。 じゃあね、後は任せたわよ!」
「はい! 助けに来てくれて助かりました!」
最後アーシアちゃんの言葉に、笑顔で頷きながらレイエルはこの場を後にして、それを見計らったかの様にスガマサさんが付いて来いと言うので、付いていくと壁がけディスプレイがあるところへと私達を案内した。
その後、みんなが移動をした事を確認するとスガマサさんはなんだか少し躊躇う感じで、重たそうに口を開いたわ。案の定その内容だけれど...あまり私達にとってはいいニュースでは無かった......。