優しさ - 後編
Side アブソル
「...纏めて掛ってこい!!」
自分自身に気合を押し付けて、ガキらへと飛び掛かった。この際生きてる死んでるはどうでもいい。本当だったら生け捕りにしろと上の奴らに言われたが、止む得なければ殺しても良いと許可は出ている。確かあの猿野郎の話しだとシキジカは使えると言ってたな...アレだけは手加減するか。
さてと...リファルの守るは俺の鎌の一撃じゃ砕け散らないか...まあ、マスターランクだけあるな。そして俺が仰け反ると直ぐにマリルとシキジカが連携して攻撃...ぶっちゃけシキジカの方は当たらんから良いが、問題はマリルの攻撃だ。威力がソコソコでコントロールが凄まじく上手い。さっきもシキジカの攻撃を補正してたしな...。
「くっ! 水鉄砲如きじゃ俺は倒せんぞ!!」
「っ!」
「マコト! 間に合って体当たりっ!!」
「援護するわ! シャドーボール!!」
...くそ、シャドーボールを気にして体当たり食らっちまったか。少しばかりメスだから痛くねぇだろうとは思ったが...結構痛てぇか。それにしても、反射的に無防備な姿を見て切りつけそうになっちまった。アイツからからの命令は生け捕りだ。致命傷を追わせたら面倒なのもあるが、出来れば穏便に済ませたいところだ。まぁ...反射的にマリルは切っちまったが。
それにしても...このイーブイなんかに一体なにがあるんだ。確かに転送時に色々影響受けた野郎ということは知っているが、そのこと以外俺は何も知らねぇ。まぁ、確かにコイツの周りには色んな奴が居るし、コイツの記憶を書き換えちまえば従う奴が出てくるかも知れねぇしな。特にシキジカとミミロルとはよく居るようだし、コイツらを説得させちまえば自然的に全員従うと踏んだんだろう。実に単純な考えだ上層部の野郎どもは。ホントに子供の純粋の心を弄びすぎた。
「...取り敢えず、お前からだ!!」
「っ! ハ、ハイドロポンプ!!」
「やらせない!! エナジーボールっ!!」
「もう一回シャドーボール!!」
「俺を忘れてねぇだろうな? エナジーボール!!」
...くそ、やっぱり多すぎる。俺は取り敢えずハイドロポンプをなるべくギリギリで避け、その後のシキジカの攻撃は横移動で避け、リファルの攻撃は回避が間に合わずぶった切って対処した。やはり避けるやら防ぐのは簡単だが、これでは完全な耐久試合だ。何かしらブレイクポイントが無いとコッチには勝機は見えない...なら作ればいい。
俺は一応で隠し玉がある。頼りたくなかったがドリームメイカーズの試作アイテムらしく、珍しい範囲効果を持つアイテムらしい。まだ調整が済んでいないせいで自分も食らう可能性が高いらしいが、ちょっとしたギャンブル...ん?
「や、やっぱりアイツ強いよ...」
「アタシなんか当たりもしてない...ホントに倒せるのかな......」
「泣き言は聞きたくねぇ。まあ全員の攻撃を必要最低限の動きで対処をしたのを見せつけられちゃそう思うか」
...ちっと心折れ掛かってやがるところを見ると、やはり子供か。まあリファルは折れてないらしい。
だが気付いた事と言えば、前足をなるべく地に付かないを見ると初撃の切り裂き攻撃の痛みが続いているという事か。つまりアイツがやった事は一時的な対処で良いらしい...どんなタネか知らんが、捕まえてみれば分かることだろう。
にしてもアイツ、俺の心読んでやがるな...って図星か。別に構わんが、全部読まれたままだと面倒だ。ふう...やっぱりあいつから始末するべきだ、なぁ!?
「ひっ!?」
「レ、レイエルさん...?」
「...な、何でもない。 すぅー...はぁ......シャドーボール!! サイコキネシス!!」
「よく分からないけど...ハイドロポンプ!!」
「俺も行くか...リーフブレード!」
オイオイまた遠距離攻撃かよ、いい加減にして欲しいもんだ。そして今度のはコントロール式か...まるでホーミングミサイルだな。ハイドロポンプを避けるのは少し横に移動するだけで楽だったが、シャドーボールは四つも放たれて全てバラバラに動かれると処理がだいぶ厄介だ。しかもこの状況でリファルが突っ込んできたのは中々にヤバイ。攻撃を受け止めようものならシャドーボールが襲ってくるわ、かと言って反撃しなきゃこの状況は覆せん。これはマジで隠し玉を使うべきか...?
だがこのタイミングで使っていいものか。一つしかないわけだし、そもそもに効果があるかどうか分からないものを隠し玉にする必要あったのかと今更に疑問が湧いてくる。爆発の種でも良いような気がする。そこそこに狭い訳だし、まあ後で説教を受けることになるが、確実に爆破させればダメージだろう。それか受け身の覚悟でこの状況で爆破してみるか?
アイツらの所に駆け寄って自分ごと爆発に巻き込まれる...あたりどころ悪きゃ死か。まあ試作品に命預けて中途半端に苦しむならコロッと逝ったほうが明らかに良いだろうしな...やるか。だが取り敢えず最初は...
「うざってぇんだよ!!」
「なっ!? 受け止めやがった!?」
「...ぐっ! な、中々に痛むじゃねぇか...だが、お前の攻撃の方が確実にやべぇだろうからなぁ?」
「...ほう。だか、コッチは四人だぞ? この状況なら一方的に攻撃だって出来るが?」
「...だろうな。だがな、この密着状態じゃアイツら手は出せねぇぞ?」
「子供の無垢な性格を弄びやがって...お前結構あくどい野郎だ」
「...そういうテメェも中々だが?」
「お前ほどじゃねぇよ。 ふっ、これが敵じゃなきゃライバルになりそうな気がするが、それこそ野暮ってもんか」
「ならこっち側に来ればお前が望むものになるぞ?」
「バカ野郎、誰がお前らの方に行くってんだ。まあ今までの悪事を全公表して、昔みたいな"夢を作る工場"へと戻れば話は別だがな?」
「そんな時の時代は知らねぇし、それこそ何年前だ」
「 ...五年前、俺がそこで働いていた時だ。フィリアもそうだ」
「テメェ歳は幾つだよ。明らかに計算合わねぇじゃねぇか」
「それはお前らが調べたやつに示されてるだろよ」
「健康診断じゃあるまいし、そんなことまで乗ってねぇ...まぁいい。 ところでリファル、お前は本当に全員を救える覚悟はあるか?」
「...何が言いたい」
「何って...こういう事だ!!」
「っ!? うぐっ...」
俺は急に力を抜き、よろけた所へ空いている左手で殴った。あえて爪は出さなかったが、自分の倒れる体重に俺のパンチも入って威力は中々のはずだ。数秒はこれで動けない。
さてと...少々怖いが、爆発の種を口に加えてと...行くぞ!
「つ、突っ込んできた!? シャドーボール!!」
「エ、エナジーボール!!」
「ハイドロポンプ!!」
「っ!? ふんっ!!」
また遠距離の報酬かよ...やはりこれ以上続くとスタミナが持たん。それに時間も勿体無いのもあるが、そろそろ上の奴らが文句飛ばしてくるか...。アイツら安全なところから指示を飛ばしやがって、全く自分で行動しようとしねぇ...ったく、何やってんだあいつらは。唯一に分かっているのは...アイツらココ、アルトマーレや本島に対して絶対的な権力と金融機関、治安団体まで取り込み、俺達が使う通信端末であるPギアのコントロールセンターまで配下に入れていること。
取り敢えず俺は初撃のシャドーボールを今度は爪での引っ掻きで消滅させ、次に迫るエナジーボールとハイドロポンプを転倒覚悟のサイドステップで避ける。その後すぐに立ち上がり、走り近づいて手前で飛び上がった後、口に入れていた爆発の種を右手へと持ち替えて投げ落とし...
「...やらせないっ!!」
「.........なんだとっ!?」
種が床に叩きつけられる瞬間、黒い影が高速で目の前を通り過ぎ、種を取っていった。最初は何がなんだか分からなかったが、少し見渡すとまさに投げ落とした爆発の種を片手で持っているイーブイの姿...こいつ、復活してやがった!?
だがそんなことより、この状況は非常にやばい。流石に五対一じゃ敵わん.........撤退だ。まさか闇に飲まれ掛かって自己回復するとは想定外だ...ちょっと待てよ、もしかしてコイツ......。いや、そんな筈はない。ただ単にコイツは最初に連れてこられ、本部の干渉により色々影響を受けただけだ。しかも身体は...あれ、どうやってんだそう思えば。まあともかく、それだけでイレギュラーな存在になるなんてありえない。
今更に思ったが...こいつが覚えている技数は歴史の書に記されたイレギュラーな奴と同等だ。体当たり、アイアンテール、電光石火、シャドーボール、スピードスター、守る、手助け...それと自分では気が付いていないようだが、常時自動発動している剣の舞を合わせて八つ。コレじゃ"二千年前に起きたとされる世界的な異変...それを解決したチーム、あの時代で初めて免許皆伝を成し得た探検隊のリーダーそのまんま"じゃねぇか。
どうやら書物だとリーダーが異変解決後にタイムパラドックスで消えたらしいが、ディアルガの力で戻してもらったようだった。だが、未来の者のお念なのが取り付き、暴れまわり、チームの二人によってリーダーを葬ったと...何故か"破かれたページ"と破ったと思われる本の写しに記されていた。かなり年期が入っているところを見るに本物だろう。
...さてと、思い出すのは良いが囲まれたか。ならやってやろうじゃねぇか試作品。どうぜ俺の命が灯火だろうが、絶対に上の奴らはこのガキらを回収を最初にするだろう。ムカつくが、ドリームメイカーズって奴は使えなくなったら簡単にポイする。俺はそういうやつを何度も見ながら、蹴り飛ばしながらこの地位まで登り上がった。ぶっちゃけると元の世界じゃ味わえない部下という物を持てたのか...。
「ふっ...」
「な、何がおかしい」
「いや、過去の事をちょっと思い出してただけだ。さあ、やるならやれよ。この状況じゃ敵う訳ねぇしな」
「ほー? すぐに殺れるが、何かしら吐いてからでも遅くねぇよな。なんでも良い、吐け」
「なんでもと言われても困るなぁ? 絞ってもらわんと何を話すのか分からんぞ?」
「もう一度言う、何でも良いから吐け」
「...お前、データそのまんま通りじゃねぇか。 まぁ、喋っても良いが勝負はまだ付いてねぇぞ?」
「この状況で言うか。お前、結構なタフ野郎か馬鹿野郎らしいなぁ?」
「それは褒め言葉か? ...まあいい。ところでお前らは、俺なんかに構ってていいのか? お前たちの仲間と手合わせしているだろうアイツは、俺みたいにお喋りやらしねぇぞ?」
「そ、それってシルクさん達のこと...ですか?」
「ここに入ったのがそうならそうだろう。 ...ほー、シルクってあの考古学者か。中々に戦闘経験やら豊富らしいが、長引く戦闘には弱いみてぇだな。回復できないようで?」
「くっ! 時間稼ぎだったか!」
「それは無い。コッチはコッチでアーシアを捕らえるか全員捕まえるか、殺すかの要求があるからなぁ? まぁ...流石に人数さには勝てなかったようだがな。特にお前の復活が想定外だっ...やりやがったなアイツらぁ!!!!!」
「!?」
今の痛み...確実にギアに仕込まれた毒が差し込まれた時の痛み、やはりコレには抗えないか。ココに配属されてから全員に取り付けを義務付け...いや、一度付けたら外れない特別製のギア。しかもコレは対象者を確実に殺す為に強力な神経麻痺を引き起こす激薬で、少しの量で個人差はあるが数分もすれば死に至る。心臓に直接作用するように作られたらしい。この実験でかなりの人数が死んだ。使えないと見なされたやつがこれの餌食、実験体とされていた。少なくとも俺も途中で脱落していたら食らっていた...。
「お、おいどうした...急に声を上げやがって...」
「...やられたんだ毒を。お前たちも知っているはずだ、この毒の即効性を。 あはは、俺、捨てられたらしい」
「そ、それって...もしかしなくてもギアに仕込まれた毒...ですよね?」
「ああそうだ、これから俺は死ぬんだ。特に未練やらは残っていないが...やはり離された娘の顔は見たかった。元気で居るだろうか...ご飯ちゃんと食べられているだろうか...イジメられてないだろうか...病気してないだろうか...それだけが心残りだ。 まあ、最初こそ作戦が成功したら合わせてやるとか言っていたが、アイツらは俺の家族の事を何も知らない。会わせるなど不可能だ。それ以前に約束を果たすなんか思っても居ない。お前達のご存知の通り、ドリームメイカーズって言う今の現状はそんな企業だ」
「...最低な企業なのはアタシが色々調べて、嫌になるほど知った。当然それに属している貴方も許せない。 けれど...アナタは元々人間だったし、そして今でも別れた娘さんのことを強く願っている。それに、なんだかんだでアタシ達に対して手を抜いているような印象があった。 ...ホントはやりたくなかったんじゃないの?」
「...悟ったように言うんじゃねぇよ。お前に、お前たちに何が分かんだよっ!! お前達は俺にとっては敵で、作戦の邪魔な奴らだ!! しかも負けた相手から同情!? ふざけんじゃねぇよ!!」
「でも!! でも...本当にやる気だったらあの時にアタシを簡単に殺せた事、アタシは知ってるよ。アタシが体当たりした時、斬りかかりから蹴り飛ばしたのはそういうことなんでしょ?」
「うぐっ...じ、自己解釈してんじゃねぇ! いいから黙れえぇ!!」
「スイちゃん!!」