違和感
「...うぅ? あれ、ココは...何処?」
引っ張り上げられたような意識に少し疑問になりながらも、身体を起こして当たりを見渡す。そこは何処かの部屋の様で、お尻には布団が引かれていて、自分の他にミミロルとヒトカゲが寝ていた。
匂いは畳のような、最近何処かで嗅いだことのある匂い...なんだっただろうか。記憶が曖昧で、そもそも何故ココに居るのかも同じく曖昧な為に、合っていたとしても確信は持てない。
じゃあ何か無いか、その他五感で分かる事は無いか、色々試してみるが殆ど収穫は無かった。分かっているのはここは何処かの和室と言うことと、日が出ていて夜ではない事くらいである。
さてどうしようか...とりあえず覚えている所から繋ぎ合わせて行くしか...無いかな?
そう思いながら、頭に残っている記憶の断片を集めて組み合わせ始めた。けれどピースは水、町、船、電気、そして爆発...どれも当てはまりそうなピースが見つからない。水と船は分かる、町と電気も分かるが...残る爆発とは何なのか。コレが一番な主要キーな様な気がしてならないが何なのか分からない。
そんな感じで色々と暫く考えていると、ふと左側でゴソゴソと動く音に気が付いてそちらに顔を向けた。すると、今まで寝ていたミミロルが頭を片手でキツく抑えながら身体を起こしていた。
「......ああ、結局私たちはあの爆発で気を失っちゃったんだ...。 その後にみんなが旅館に運んだか治療してくれた...で良いのかな」
などと独り言を言い始めた。けれど聞いていてそんな事は関係なく、私達、旅館の新たなワードで一気に記憶のピースが埋まって、女の子へと顔を向けて名前で声を掛けた。すると、その子はこちらを振り返った。くるっと丸まった耳を持つ、言わなくともミミアンだった。
「あっ、モルクさん気も気が付いたのね...っと言っても、私もいま気が付いたとこだけど」
「まぁ、僕も同じような感じだよ。さてと...ココは旅館の一間で良いのかな?」
「多分だけど合ってるは...ふぅ、良かったヨーテルちゃんはあんまりダメージは無いみたい」
ふとミミアンはヨーテルの存在に気が付いて近寄り、額に手を当てて安堵の息を漏らした。
「にしても助かってよかったよ。なんで生きてるか分からないけど、もしかしたらお空の世界だったりして」
「...せっかく助かってるのにそう言うのやめてっと言いたいけど、実際そうだった可能性が高かったから何とも言えない感じ。 あ、ちょっと目が覚めたって伝えてくる」
「うん、頼んだよ」
そう言ってミミアンは引き戸を開けて廊下に出る。確かにここは先程まで食事や寝泊まりした宿で間違いは無いらしい。けれど、今はどこに居るのかが把握が出来ないので、取り敢えず知っている場所が現れるまで歩いてみる。
だけど歩いても歩いても知ってる場所には出ずに、しかも同じような風景が続くと、なんとなくループしているような...そんな気がしてしまう。それに、
...何も聞こえない。静かすぎて怖いくらい...しかも、この感じさっきと同じ感覚がする......
何も音がしない事に不安を覚えて歩が遅くなり、そして止まった。そう思えば無音は...おかしい。宿の床は歩けばギシギシとなる筈だけど、改めて歩いてみるとそんな音は一度も鳴らなかった。寧ろ気の特有の柔らかさが無いというか、コンクリートの上にとても本物そっくりに描かれている上を歩いているような...そんな感じなのだ。壁は同じように宿と見た目は一緒だけど、なんとなく違和感...が?
あれ、指先がそう思えば痛くない...どうして?
ふと出した手に痛みが全くないことに気が付く。見てみると何事も無かった手で、血が出た様子も、動かしても全くどうもならない。しかもGギアすら無い。
これは完全におかしい。そう思って鳴らない床を走って開けたままの引き戸を探す。すると案外早くにたどり着き、息を切らしながら部屋に戻ると、
「お帰り。そんなに息を切らしてどうしたのミミアンちゃん?」
「...ココ、なんかおかしい。確かに見た目や匂いとかは私達が寝泊まりした宿にそっくりだけど、色々と違和感が多い。まるでそっくりに作られた偽物のようで」
床を触り、辺りを見渡しながらミミアンはモルクに言う。すると意外と思う答えが...いや、言い回しが帰ってきて、驚きながら顔をモルクの方へと向けた。その言い方とは...
「...そっか。流石、君はデータ通りに警戒心が強いね」
「データ...通り......あなた達は誰っ!? 二人は何処なの!?」
「誰って、僕は僕...いや、モルクのデータを元にして作られたコピーさ。そして、こっちはヨーテルのデータを元にして作られたコピー。 そして当然の如く...」
そう言いながらニヤリとする。その途端に後ろからの殺気に横に飛び退くと、そこには右拳を床に殴りつけたままで固まっている...
「あーらら。避けちゃったか」
「...わ、わたし......!?」
自分にそっくり、いや全く同じ見た目で同じ声のミミロル...ココまで似てくると驚きより唖然のほうが勝る。違う所は...見当たらない。
そう思えばサラッと流してしまったが、モルクもヨーテルも完全に瓜二つ...なら本人は何処なのか。まさか、正しく自分と同じ状態に陥っているのではないか、そう思うと冷や汗が出る。
「そう、私は貴方。貴方は私よ。 ...ふふ、初めまして私のオリジナルさん」
「...なんなの、あなた達の目的は何っ!? 二人は何処なのよっ!!?」
「おー、怖い怖い。そんなに怖い顔しなくても教えるわ。 ただし、私に勝てればねっ!!」
そう言うと拳に炎を纏って、動きも同じく殴り掛かってくる。慌ててミミアンは飛び避けて回避し、直ぐに拳に雷を纏って距離を取る。
「あら、避けちゃばかりじゃ勝てないと本能で分かってる筈なのに...どうして避けるの? 逃げ打ちは私の得意分野でしょ」
「...そう、確かに私はそれは得意よ。けどね、それを私そっくりな偽物から言われると腹が立つし、躊躇が出るの。 けど...すー、はぁー......もう迷いは無いわ。さあ、手加減無しに行くわよっ!!」
そう言いながら拳の雷をもう片手にも纏い、結果的に二つの拳に雷を纏って飛び掛かった。それをスルッと避けてオリジナルは距離を取ると、同じく両手にコチラは炎を纏って飛び掛かるのだった......。