屋敷の仕掛け - 後編
...な、なにこれ。床が沈んでる?
ミミアンが水中に潜ると、床が明らかに下へ伸びていたことに気が付いた。どうやらレントラーが立つ位置とモルクが立つ位置だけ床の高さが固定されているらしく、その他の床は沈むように構成されているらしい。それにもう一個気が付いたこと。それは水の量である。
何故なら最初は直ぐにモルクのお腹あたりに水が来ていたはずなのに、そこからは水位が変わらなかった事。けれど、その間も水は絶え間なく流れ続けていた事...その疑問の答えは全て沈む床に隠されていた。つまり、この条件が続くならばモルクとヨーテルは沈まないという事であり、レントラーも沈まないという事であった。
...時間は少し稼げるようだけど、あんまりゆっくりは出来なそう。
にしても...両手が凄く痛む......ちょっと無茶しすぎたか...
バタ足で潜り進みながらミミアンは一瞬だけ、先ほどの連続パンチで血が滲んだ手を見る。どうやら、激痛が走るものの動かせるあたり、取り敢えずは大丈夫らしい。
...チョットこの体は泳ぐのには適してない......モコモコしてて気持ちいいし、ある程度なら衝撃吸収とか隠し玉が出来たり便利だけど、水を吸っちゃうとまるで重りね...
そんな事を思いながら、ミミアンは気が付かれずにレントラーの後ろ側に回り込む。今だに床は沈み続け、潜った時の水深は二メートル位のはずだったが、いつの間に五メートルくらいに届こうとしていた。一体この部屋はいつまで下に伸びるのだろうか...。
...やばっ!息がっ!!
不意に息苦しさが来て、慌ててミミアンは上昇して水面から顔を出して大きく深呼吸をする。すると、ふとモルクの声がして振り向くと、心配していたような顔をしていたのでミミアンは耳で大きく丸を作り、また水中へと潜った。
二回目の潜水。今度はレントラーが乗る台を観察すると、まだ乗れそうなスペースが少しだけ残っている事が分かった。けれど、乗れても雷は完全に食らってしまう程で大きくはない。それに、どちらにせよ床に乗らないと攻撃を当てることは出来ない...つまり、覚悟を決めて近づくしか選択肢はなかった。
ミミアンは覚悟を決め、気付かれないように近づく...
...ぐっ!? 流石にここまで近づくと電気が......ま、負けてたまるもんですかっ!!
身体を突き抜ける痛さと、自分の意思と違って身体の自由が効かなくなる違和感と戦いながら、ミミアンは身体をレントラーの無理へと動かす。が、一番大変なのは近づく事ではなかった。
...つい、た......ま、まずい身体が持ち上がらないっ!?
そう、顔くらいは出せるが、濡れた身体に痺れた身体では立ち上がるのが困難だったからだ。確かに、レントラーが乗る床の縁は掴めたものの、電気が強すぎるせいで自由が効かなくなく、床とレントラーの間にある水位に身体を入れられない。しかも、近づけば近づくほど意識も薄れていく...
...うぐっ!? あ、案外早く息が...
縁を掴んだ時に一瞬だけ呼吸出来たが、あまり吸い込めなくて直ぐに苦しくなる。そんな時に放電が急に止まり、身体のみ動きが少し軽くなった。そのチャンスを逃さずミミアンは身体をねじ込み、立ち上がって周りを見る。
すると、今まで避け続けていたレイエルがレントラーの攻撃を抑え込んでいたところで、急に放電が止まったのはレイエルのお陰と分かった。それに注意も引いている為、チャンスは今しかなかった。
「...はぁぁぁあっ! ぴよぴよ、パンチ!!」
未だ痺れる身体に無知を打ち付けて、なるべく体を捻りながら突進混じりに右の耳でレントラーの横っ腹を殴り付ける。その途端に、先程まで放っていた青白い雷をその場所に残しながら、凄い勢いで扉の反対側にある壁までぶっ飛んで激突し、そのまま大きな水柱を起こして水の中に落ちた。
暫くは光っていたが、暫くするとその光が消え、先程のような淡い赤色の光がほんのりと中を照らし出す。それを見て、直ぐにレイエルがその場に近づいてサイコキネシスで水面から引き上げるが、既に呼吸は無くて死んでいた。
「...ミ、ミミアン!?」
「...へっ?うわぁ!? ミミアンちゃん!!」
ふとモルクの声に振り返ると、殴り飛ばしたミミアンの姿はそこには無く、代わりにその場所でバチャバチャと小さな水柱が立っていた。慌ててレイエルはレントラーを落としてミミアンを水面から引き上げた。すると、身体をピクピクと痙攣させた彼女の姿...。そして苦しそうに呼吸し、意識は虚ろで...危ない状況なのは直ぐにでも分かった。
「...うぅ、ごめんなさい...無茶をして......」
「大丈夫よ、寧ろ助かったわ...。だけど、今は安静にしてて。 モルク、ヨーテルちゃんの事を見ててくれてありがと。私が変わるわ」
「ありがと。 ...でさ、この扉をどうしようか考えたんだけど、やっぱりコレを使って爆破するのが最悪案なんだけど、他に意見あったり...する?」
恐爆の種を濡れないように持ちながら、レイエルに尋ねる。するとうーんとは考えるが、
「ごめん、私もそれしか浮かばないわね。で、爆発の火球はどう回避するのよ? まさかヨーテルちゃんも水の中へダイブ...って、それしかないわよね。 ヨーテルちゃん...少しだけなら我慢できそう...?」
「...い、一応は......。 し、尻尾の炎は消せますし...ほんとに少しだけなら潜れなくは...」
そう言うと尻尾の炎を消せ見せ、辺りが暗闇に包まれる。けれどレイエルは暗闇だろうが問題ないので、ヨーテルの顔を覗き込むが別に消したくらいでは辛いとは思わないらしい。
「...わかったわ。ヨーテルちゃん、じゃあ...ん、ちょっとまってね...もしかしたら。 ヨーテルちゃん、ちょっとサイコキネシス強くするけど良い?」
「へっ? 良いですけど...何をするのですか?」
「...やったことは無いのだけれど、サイコキネシスでヨーテルちゃんをコーティングしちゃえば水の中でも大丈夫じゃないかって思ったのよ。 ...どう、掛けてみない?」
「...はい、それにかけてみようかと思います。それに私が足を引っ張ってしまっているので......」
「...決まりね。モルク、ちょっと爆発のトリガー任してもいい? 二人に強力なのやるから」
「あー、分かったよ。じゃあ種だけ持って反対の壁に居てくれる? そうして、合図したら落として。それに僕が電撃を狙い撃つから、当たったらすぐ水の中に潜ってよ?」
「了解よ」
そう打合せし、レイエルは言われた通りにドアの反対側の壁に張り付くような位置に移動し、モルクが持つ恐爆の種をドアに密着させた状態で浮かす。そしてモルクはドアから離れ、まさに今までレントラーが立っていた場所へと泳いで移動する。そして、立ち上がると
「...行くよレイエルっ! 電撃の槍ッ!!」
左手を後ろに引き、引いた手に電気を集めてまるで槍なような物を生成する。そしてレイエルのほうへ無言で頷き、レイエルも頷いたことを確認して電気で作った槍を投げた。そしてその槍は見事に種の中心を貫くのであった...