油断
そんなやり取りが起きているその頃、チームコメットは少し離れた廃屋の中、その更に奥の方で四人固まっていた。明かりはヨーテルの尻尾が放つ炎、ただ1つだけ...けれど故意に消すか、生命の危機でしか消えない為、この場では一番頼れる明かりではある。いや、その前に何故ココに居るかを話さなければならないであろう。
では何故ココに居るか、理由は単純明快である。追われたのだ。爆破の後、レイエルは戻れたのは良いが、予測外の爆発力に対応し切れずに割と大きなダメージを受けていた。それも、少し威力が上がったくらいでしょと高を括って居たからで、一つで充分過ぎる所を二個も使用してしまった事にある。
そして、二つ投げ込んだ中の一つが何かに当たって爆発、その爆風にあまり距離が無いうちにもう一つが誘爆し、爆発の火球に巻き込まれたのだ。
その後、一瞬だけ意識を失うも直ぐに三人のところへ戻り、暗闇の中をリーフの案内で抜け出す途中で、何事かと確認しに来た敵がレイエル達の存在に気が付かれ、後ろから尾行されていた。脱出後にGギアの通信を切ってしまったところに追手が来た為、通信をする間もなく逃げる事になったのだが、案外簡単に巻けたのは良いが、一応保険で近場にあった廃屋に、今居る場所に隠れたのである。
「はぁ...はぁ......まだ息が整わない...」
「あのさ、レイエル...大丈夫? 逃げてる時にかなり辛そうな顔してたけど...」
「こ、このくらいなら平気よ。ちょっと驚いただけだから...。 ところで、三人は大丈夫...?」
「ボクは平気だよ」
「取り敢えず大丈夫です」
「爆音で耳がキーンとしている以外、コッチも大丈夫」
「そう、良かった...」
それを聞いて少し緊張が取れたのか、レイエルは浮遊をやめて、モルクがあぐらで座っている上に降りた。ゴーストタイプなのにフワッとした感触と、暖かさ...なんとも不思議な感覚で、今までも何度か一緒に夜を共にした事はあったが、何故かモルクはドキッとしまった。更にヨーテルとミミアンからの二人の視線に顔を赤めながら、
「レイエル...その、何のつもり?///」
「少しくらい...良いでしょ? さてけほっけほっ! ん、んー......どうしようかしら。なんかわりと......住民が出てきたせいで、レーダーじゃ判断不可能なのよね...」
「んー、とりあえず報告した方が良いかなって私は思う。ヨーテルさんは?」
「私も同じ考えですね。それに、ちょっと頼みにくいですが、他のチームに確認取ってもらうのも良いかもです」
「うん、じゃあとりあえず...連絡しましょうか。 ...リーフ、連絡遅くなってごめげほっげほっ!!」
モルクの上に座ったまま、レイエルはGギアの電話帳からリーフを選択する。が、繋がってすぐに大きく咽てしまった。
『...レイエルさん、大丈夫です? それにターゲットから皆さん、そこそこ離れているようですけれども......』
「それなんだけど、爆破した後に敵から尾行されてたみたいで、追われちゃったのよ...。 けれど、今は巻いて廃屋の中に一応で隠れているけど、全員無事よ」
『そうですか...それは、もしかして通話をしている間にも追いかけられていたっという事ですか?』
「ううん、違うよ。少なくとも中に居た時は誰も気が付かなくって、出た時に気が付いて逃げた感じかな?」
『なるほどです。 ところで...何故レイエルさんはモルクさんの膝の上に...座っているのですか?』
リーフの言葉に少しピクッとして、少しのあいだレイエルの動きが固まる。
「.........どうでもいいでしょそんな事。 で、取り敢えず目標は完全に爆破したってシルクさんに伝えてくれる? 少ししたら私達も動き出すわ。その時にはもう追手は諦めているでしょ」
『分かりました、伝えておきます。それと、そのシェイドチームの事なのですが、少しこっちでオペレーションの変更になる出来事が起きてい...あ、ちょっと待ってて下さいね』
通話の中でライトがリーフを呼ぶ声がし、それに反応すると通話を一時保留状態にされた。けれどそんな事より、レイエルは『オペレーション変更になる出来事』に引っ掛かった。まさか、自分がオペレーション通りに従わなかったからじゃないかと。このオペレーションはウィアとライト、そしてリーフが夜通しして作り上げた計画なのを、眠れなくて館の周りを軽く飛んでいる時に気が付いたのである。
それを自己判断で勝手に変え、しかも大事にしてしまった。同じ爆発でも規模が十倍以上の威力がある、しかも緊急用で使う爆弾を三個のある中の二つも使ってしまったのもある。
やっぱり、あたしのせいで...
ふと、その努力を簡単に壊してしまった罪悪感に、胸が強く絞められるような感覚がレイエルに押し掛かる。そして少し呼吸が乱れ、無意識に少しだけモルクの方へと寄り掛かると、ビクッとまたモルクの身体が震えた。けれどそんな事にレイエルは知らんぷりする。
そんな事がありながら少しだけ待たされると、
『すみません遅くなりました。 先ほどのオペレーション変更についてですが、変わりなく実行可能という判断が出ました。なので、シェイドチームが情報の抜き取りが完了次第にコチラから指示を飛ばすので、それまでは待機していて下さい。以上報告おしまいです』
「そう...良かったわ。 じゃあ待ってるわね」
そう言いながらレイエルは通信を切ると、モルクへ聞こえるか聞こえないくらいかの声量で「ありがと」と小さく言ってからフワッと浮遊を始める。けれど、完全には回復していないのかヨロヨロしていた。
「レイエルさん、まだ無理をしない方が...」
「...動けるから大丈夫。 さて、これからの事だけど、いま言った通り待つわよ。たぶん、先ほどの爆発でかなり警戒態勢だから、かなり時間掛かるかもしれないけど、オペレーション通りに進行するわ」
「なるほどです。 ...思ったのですけど、何故ココだけ廃屋なのでしょうか?この廃屋の両隣はしっかりとした家で景観と合っているのに、この廃屋だけ見た目が違いますし、ボロボロの家を放置だなんて...怪しいです」
「確かにそれは私も思った。第一に、今ここに居るこの部屋も変だと思う。 家にこんな感じの、言うならば牢屋みたいな場所を普通作る? 作るはず無いでしょう。四方を鉄で囲われて扉も頑丈な鉄扉、明かりは一切差し込まない。まるで危険な生物を閉じ込めておくオリのよう物を」
「...確かにそうだね。あっちからも、こっちから向こう側を見れないし、何かココには意味があって作られたしか想像が出来ないよ」
「...ちょっと、時間潰しついでに調べてみましょうか。一応敵が居ないか、外の方確認してくるわね」
そう言って、先程のように透明になってすり抜けを使おうとする。そして、何を思ったのか助走を付けてすり抜けようと、後ろに下がってから扉へと一直線に向かうと、
がんっ!
「いったぁ!?」
扉に跳ね返された。その出来事に理解が出来なく、そのままレイエルは地面に転がり落ちたが、すぐミミアンが抱き上げた。
「レ、レイエルさん大丈夫? なんかかなり痛そうな音が...」
「うん...コレばかりは流石に痛くないとは言えない......。 でも、どうして?アジトの壁は簡単に抜けられたのに、ここは抜けれないなんて。それに、この鉄ドアに跳ね返されたというより、何か他の要因で跳ね返さられたような...」
ミミアンの腕の中から再び浮かびだすと、今度はゆっくりと扉に触れる...が、今度はぐにっと凄く弾力があって、慌ててレイエルは後退りした。
「...何よこれ。カチカチかと思ったらグニグニしてて、凄く弾力が...一体これは何なのよ......」
「...ちょっとやってみようかな。ヨーテルちゃん、少し炎強くしてもらっても良い? ありがと......ぴよぴよパンチ!!」
ミミアンはヨーテルに明るく照らしてと要求し、明るくなった事に対してお礼を言いながら目を瞑る。少しして、ぱっと目を見開くと右拳を凄まじい勢いでドアへと殴りつけた。途端にドア枠ごとぶっ飛び、暗闇の中から悲鳴が二つほど重なって聞こえた。
でも、目の前に起きたことに三人は驚いてしまい、全く耳に入ってこなかった。しかも、
「...なんだ、指が折れるほど硬いと思ってたのに、柔らかくて残念。 けど、本気で折れちゃってたら困ったかも」
「...その、なんと言うか......凄いね、キミ...」
ぶっ飛んだドアは真ん中からくの字に折れ曲がり、殴った個所は潰れていたのをみて、ちょっと恐る恐る口に出した。
「凄くなんかない。だって、一番脆いところ一点に威力を固めて放っているだけだし」
「ですけどリファルさんの、あの固い守るを一撃で破壊...っと言うより、破裂させたほどなのですから、自信持ってもいいかと......」
「ありがと。でもまだまだ、私は上を目指せると思っているの。それにまだ私は中途半端だし、覚えなきゃいけないこと、特に自分の間合いへの詰め方とか、分かってないから...」
「そうかしら。私はそんなことを思ったのは一度もないわよ? ミミアンちゃんもアーシアちゃんと同じく、もう少し自分に自信持ってもい...誰っ!?」
不意に青いエネルギー弾が撃ち込まれ、レイエルはサイコキネシスでキャッチしたあと、そのまま光へと分解する。そして、理解の追いついたヨーテルは尻尾の炎のを強くして明るく照らし出す。ミミアンに至っては拳に雷を纏い、モルクは利き手とは逆の左手に電気を纏わせるのであった...