ネットの申し子
ー前書きー
記号について
「」セリフ
『』無線
〈〉ウィア
特殊な呼び方
コメットチーム レイエルチーム
シェイドチーム シルクチーム
リライトチーム アーシアチーム
ーーーーー
「...チームコメット、配置に着いたわ」
『りょ、了解です。ではオペレーション通りに...皆さん、気を付けて下さいね』
「大丈夫よ、変なヘマをしない限りは。みんなも大丈夫よね?」
チームコメットと名前を付け、リーダーを務めるレイエルは班員の状況を確認する。けれど特に問題なく、しかも全員落ち着いた様子だったのを感じ取る。それを確認すると、レイエルがゴーストタイプの強みである透明化と素通りで中を伺う。中は左方向と上方向、ちょっと歩いて右方向に道があり、どの方向からも敵は見当たらなく...いや、何も無く静まり返っていて不安と思えるほどだった。
...気配がまったくしないわね。好都合ちゃ好都合だけど。
そう思いながらチームのところに戻り、懐からカードキーを取り出して差し込む。暫くすると、頭上で赤く光っていたライトが青色に点灯し カチャ と乾いた音が鳴る。不安でもう一度中を伺うが、やはり気配はゼロだった。
因みに使ったカードキーはアーシアチームを待ち伏せして居た敵を返り討ちした時に落としたのを拾って、ウィアがまさに今解析してアクセス権を奪取したのである。
「...よし良いわよ。さてリーフ、案内をお願い出来るかしら?」
『はい。 ...チームコメットさん達が今居るのは西側第二入り口です。ココは中から開くことも、出ることも出来ないので注意して下さい』
「要するに一方通行って訳ね。さて、いつまでも居られないわ。頼むわよ」
『ぜ、全力でオペレーターを努めさせて頂きます。 まずは扉を背にして正面すぐ右を進んで下さい。そしてT字路に差し掛かったらまた右に曲がって直ぐ左に曲がって下さい。そこまで来ましたらコチラから折り返します。何かありましたら知らせますね』
プツッと小さな音を鳴らしてリーフ側から通信を切ると、画面に通知をバイブレーションに切り替えましたと表示される。どうやら忘れると通知音が鳴ってしまう為、リーフ側から変更してくれたらしい。
だがその事には気付かず、レイエルを先頭に言われた通りに通路を進んでいた。
「...静かですね」
聞こえるか聞こえないかの声量で、ヨーテルはレイエルに対してふと漏らす。
「そうね、静か過ぎて不安と思うほどよ...。 なんか...凄く嫌な感じがする」
そう言いながら指示されたT字路まで来ると、レイエルはまた透明になって先行して確かめるが、やはり誰も居なかった。その代わりにちょっとした変化があったが、嬉しい事では無かった。
それは...
...ココでカメラ、ね。しかもドアの前にも一つで、タイプは全方位型...辛いわね。
セキュリティカメラが付いていた事だった。コレでは扉に近づく事も、透明になれるレイエル以外は出れないので、実質一方通行である。どうしようかと思っていると、モルクが装着するGギアが震え、気が付いて見てみるとリーフではなくウィアが映っていた。
が、四人ともウィア自身が今居る事に疑問符を浮かべる事となった。何故ならウィアはチームに対して直接的な干渉をせずに、オペレーターに対して情報やデータを送り、尚且つオペレーター達のバックアップと、処理サーバーの保守だけをやると自らの口から話していたからである。
「...ウィア、なんでココに居るのよ?」
〈やはりそうなりますよね...。 取り敢えず何故ココに居るかですが、ズバリまだ何も起こってないからが答えですっ〉
ウィンクを一つ入れながらウィアはそう答え、答えが答えだった為に返答に困ったのは四人の方だった。でも、どうやらウィア側から察したのか、すぐに冷静な顔付きになると。
〈ところで、何故ココで立ち止まっているのですか? ドアを抜けて、狭い鉄製の階段を下った先がターゲットですよ〉
「あ、そこなのね。けれどカメラがあって行こうにもいけないのよ」
〈カメラ...ですか? コチラのデータ上ではカメラは見当たらないですが...それを映すは事は可能ですか?〉
「無理よ。形が全方位型だし、どこにカメラ向いてるか分からないし」
〈そうですか...。先程のカードスキャンによるシステム問い合わせだと、カード持ち主の権限はほぼ剥奪されているので......って、あれ? コレだけ全権限残ってる...〉
そう言うと今までウィアの肩上を写していていたディスプレイがズームアウトし、ウィアを斜め上から移すようなアングルへと変わる。変わったアングルに映し出されたのは正面、斜め右左に合計三つのホログラムキーボード。その形に沿ったコチラもホログラムのディスプレイも三つあり、そのディスプレイには色々なウィンドウが沢山開かれていた。そして、それを躊躇なく扱うその姿...生みの親であるライトとそっくりであった。
「何が残っていたのです?」
〈ちょ、ちょっと待って下さいね.........うん。既に無いグループの管理者権限ですね。少なくとも、この権限で関連付けされ、尚且つ操作出来るのは...特に無いですね。 さてと、結局カメラの問題はどうしましょうか...まさか、ダミーって事は無いですよね〉
「そうだったらどれだけ良いで..ん?」
不意に「あのっ...」と言う声に振り返ると、ヨーテルが何か言いたそうにレイエルの事を見ていた。
「どうしたのよ?」
「あ、えーっとー...その、これから電源設備を破壊するわけですよね? 破壊するなら気付かれると思うので...このまま突撃しても良いのではないかと...思ったのですが......ど、どうでしょう? それに、爆弾を設置するくらいなら、緊急時にと言われてますが...狭い室内で恐爆の種を使えば...」
〈...確かにそれで充分ですが、強すぎてしまうのです。 恐爆の種の破壊力は、デフォルトの爆発の種の数十倍で、設置する爆弾は三倍から四倍程くらいです。 それに、恐爆の種に次元タイマーなど仕掛けられないので、そんな危険な事はさせられません。最悪の場合、巻き込まれます。巻き込まれないとしても怪我だけじゃ済まないです...〉
「なるほどね...なら、私が適任じゃない。すり抜けられる私なら設置して、爆破させて、ここに逃げ戻ってくれば良いじゃない」
〈あのー...レイエルさん、話しを聞いていました? そんな危険な事はさせられないと...〉
そう言いながら左手で頭を掻き、溜息混じりにウィアは呟く。だがレイエルはバックからなんと、恐爆の種を取り出した。
〈だっ、だから危険と言ってるじゃないですかっ!! いい加減私も怒りますよ!?〉
「...あのねウィアちゃん、危険な事はココに居る時点で決まってるの。それにちょっとイレギュラーが付加されたところで総合的な危険は変わらないわ。 だから、ウィアがダメと言っても私は行くわ。だから、三人はココで待ってて。いいわね?」
モルク、ミミアン、ヨーテルを見ながらくるっと周りを一周しながら問う。すると「気を付けて下さいね?」や「一発デカイのお見舞いしちゃえ!」、「戻って来なかったら恨むからね」とそれぞれ答えるが、行ってくる事に対しては全員承知らしかった。
それを見たウィアは
〈はあ、分かりました。ただし必ず帰ってくるのを約束する事。 そして、それをやった後の作戦変更...多いにやってもらいますからね〉
メガネを装着しながら、キーボードを高速で打ち始める。何をしているか分からないが、作戦変更によるプランの書き換えをしているのだとレイエルは察した。それを申し訳ないと思いながらも、
「分かってるわよ。じゃ、行ってくるわね」
と、一言だけ言って向かうのであった......。
ーおまけー
〈...はあ、信じられない。まさか本当に行ってしまうなんて......〉
通信切断されている事を確認し、溜め息を吐きながら三つあるキーボードを器用に駆使して何かを打ち込んで行くヴィアの姿。空中に映し出されるホログラムディスプレイには不明なウィンドウが幾つも開き、中には棒グラフや折れ線グラフみたいなウィンドウが幾つか、文字がビッシリ書かれたウィンドウもあれば、そのまた逆のウィンドウもある。後は爆弾の種、恐爆の種、そして設置する予定だった次元爆弾のデータが書かれているであろうウィンドウが三つあった。
因みにGギアでは分からなかったが、ウィアが居る場所はキーボード、ディスプレイ、そして座っている椅子以外何も無い。幅は直径三メートル程、高さは六メートル程くらいしか無い六角形の狭い空間に居た。
〈...作戦変更後のリスク計算、そもそものプラン変更による演算が全く追い付かない。結局、それを行う事をマスターに伝えてないですからね...今思うと、やはり伝えたほうが良かったかも...はぁ......〉
そう言いながらも手は全く止めず、キーボードを打ち込み続ける。そんな時にふと、ちゃんと見ていなかったもう一つのカードの存在を思い出した。アーシア達が拾ったアクセスカード、実は二つ拾っていたのだ。そのうちの一つは取り込み済みでレイエルが現在所持。もう一枚はアーシアが所持をしているが、データだけは既にウィアがコピーしただけで触っていなかった。
...調べてみよ
カードを手の上で具現化すると、そのまま座っている椅子にあるカードスロットへと差し込む。読み込ませている間、手の上で今度はグラスを具現化すると、何やらオレンジの液体を中に満たし、更に透明な四角い物体を四つほど生成し、最後にストローのような物を刺す。
見た目がオレンジジュースそっくりの飲み物をストローのような物で吸い飲みながら、読み込まれたカードのデータを右斜めにある、全く使われていないウィンドウに全表示させる。中にはゴウカザルの顔写真と名前、業務履歴、権限などがドバっと出力された。それを飲みながら一つ一つ読み取っていく...。
〈んー...なるほど。この権限でもあんまり効果無しね。やはり、中には入らないと操作不可能っと...って、これも変な権限持ってる。 リ、リチェンジャー?変えられた権限をもう一回変える権限...って、ちょっと待ってこの権限は案外強いかもしれない。もしこのアカウントに対し、当てられる権限を当てて、リチェンジャーで存在する権限を繰り返し続ければ.........〉
ウィンドウが高速で点滅し、その中では権限の変更が巡るまじく書き換わるのを見ながら、新たに一個ウィンドウを増やす。それには七割をウロウロしており、その数字の下にある八つの折れ線グラフが上下していた。
〈ちょっと回し過ぎかな。少し速度を抑えて...ん、大きな振動を感知。レイエルさんは...よかった、無傷みたいね。 さてと...マスターに報告しますか......〉
そう言いながらまた一つウィンドウを作り出すと、連絡名簿を開き、名前検索でマスターを検索、見つけたアカウントに対してコールする選択肢を表示させる。それにはテレビ通話と音声のみがあったが、少し迷ってから音声のみを選択する。
コールをしながらマイク付きヘッドフォンを具現化して装着すると、マスターが通話に出るのを待ちながら、爆破による被害状況を調べ始めるウィアなのであった......。