みんなに託すもの - 前編
「みんな、ちょっとだけ話聞いて」
レイエル達を囲んでガヤガヤしてるところにフィリアの一言が入り、みんなの声のトーンが下がり始めて止まる。そしてフィリアのことをじーっと見て、何を話すのか待つ。ココも変わった事でもある。昔はやはり話を聞いてと言ってガヤガヤは少し続いていたが、直ぐにピタリと止む。それに、物事に対して他の事を考えず、そのことだけに集中する事もするようになった。確実に良い子達に育ってるなとフィリアは実感しながら、
「話しは、次のチームの事よ。ギラファさん、審判お願い出来る?」
「あ、ああ。別に構わないが...」
「ありがと。次の試練だけど、私が相手になるわ。だけど、私の場合手加減するとダメだから全力で行かせてもらうけど...どのチームが名乗り出る? 相談しても良いわ」
そう言ってフィリアは一歩後ろに下がる。すると、どうする?やってみる?などと質問を問い掛けるような言葉や意見などが飛び交った。ちょっと時間掛かるかなと、フィリアがリファルの方へと身体を向けて少し歩くと、後ろから複数の近付く足音がして振り返った。そこに居たのはアーシアと、スイレン、モルク、何故かシルクだった。
「...私達で、お願い出来ますか?」
「ふふ、来ると思ってたわよアーシアさん。なるほど、シルクさんをリファルの代わりに今回は入れたのね。 でも、シルクさんはコレからなのに動いて良い訳?」
「大丈夫、私から提案した事だから。それに、フィリアさんの全力...感じたかったのが本音ね。 それに、あの調子だと終わった頃には回復は終わってると思って。あと、その呼吸の仕方...まさか喘息を患ってない?」
喘息...その言葉にフィリアの耳がピクッと反応した。そして、口をパクパクさせながら何かを躊躇い、溜息を吐くと。
「...流石、シルクさんね。病状を隠してたのをまさか見抜かれるなんてね。そうよ、私は喘息。しかもここ最近急によ。時期的には最終訓練が終わる少し手前辺り。 原因は不明だけど、一つ言えるのは走る事はなるべく控えて、ライトに教えてもらいながら持ち合わせているスキルを向上させてもらっていた。 ...それにね、確かに最近に息苦しいと思いつつ、気付かれないようにあまりみんなとは近付かないようにはしていた。一番辛かったのはご飯の時かな...咽ちゃうから」
「た、確かに...フィリアさん長い間咽てましたけど...まさか......」
「喘息とは思わないでしょうね。喘息患者は独特な呼吸法にはなるけれど、ほんとに日々を良く観察しないと他の人からは気が付くことは難しい。 けれど、まさか...見抜かれるなんて、ね。ところで、予測は付くけど理由を聴いても良いかしら?」
その問にシルクはコクっと頷くと、付けているギアを操作し始め、とある録音ファイルを選択し、拡散再生モードに切り替える。その音声ファイルに録音されていたのはフィリアとライト、シルクが何やら話し合いをしている声だった。
「コレは...?」
「昨日、夜食を食べ終えたあとにしていた会議の録音ファイルよ。咽方に引っかかりを覚えたから、録音していたの。 ...ほら、途中ヒュルルと断続的に聞こえるコノ...ウィアちゃんに秘密で頼んで調整して貰ったから良く聞こえるでしょ? コノ音が喘息患者の特徴的な呼吸時に出る音。コレを聞いて、私は確信したわけ。時期については今聞いたけれど。 でも、ふと考えてみれば急に修行からフェイドアウトした時と重なるから、そうなんだって納得したわ」
「そう...だったのですか?」
「...ええ、ホントよアーシアさん。 私は喘息。けれど、ライトさんとギラファさんにしか相談していなかった。あと、後ろからすっごーい視線を感じるけど...リファルにも話してなかった事よ」
「で、でもそんな大切な事なんで言ってくれなかったの!? 喘息って一つ間違えれば命の危険にも繋がる病気なのですよ!?」
「...心配させたくなかったのよ。みんなに、そう言ってくれたマコトさんにも。けど、ココでやらないで後悔するより、身を犠牲にしてまでこの世界を救いたかった...。 私はね、考え方としたら最低かもしれないけど...私が生きた証が残せるならば、それだけで十分なの。だから、知らなかった事として私と全力で挑んでっ! 誰か一人、とっておきの仲間を一人出しなさい!その子が私と1対1で挑みなさいっ!!」
そういうと走って距離を取り、姿勢を低くしてフィリアは戦闘態勢を取るのであった。微かに聞こえるヒュルル...と言う音に呼吸と方の動きが揃いながら...。