巡り合わせ
Side アーシア
「...では合計で1340ポケになります。はい、ありがとうございました! また御来店お待ちしておりますね?」
「ありがとうございましたーっ!」
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」
お客さんからお金を受けって笑顔で見送ると、わたしの声に反応してミミちゃんも負け時と大きな声でお客さんを見送った。その中で落ち着いた声が厨房から一つ...この声はエレナさんの声ではなく、DM事件で戦ったルカリオのリッカさん。少し前に働き口の事をわたしと話していたのを聞いて、エレナさんが雇った形。
エレナさん曰く、体格的に良さげで、重いシチューを掻き混ぜるには適すと思ったのと、わたしの知人でもありミミアンさんと知人だからとか...あの、騙されていたとは言え一応は敵同士だったんですよ?
「ただいま。とりあえず今日も異常無くて助かったわー」
「あ、おかえりなさいエレナさん。あの、毎回言いますがお客様居るのですからお家感覚で言うのは...」
『良いんだよアーシアちゃん、僕達はもう聞き慣れてるからね。今更何この人とかならないさ。 なっ?』
『そうだな。にしてもエレナさん、人は雇とらないとか言っておきながら雇ったのはどうしたんだい?』
「んー、気まぐれってやつかしら? あの娘を見てびびっと来たと言えば良いかしら」
『そんじゃあ、この可愛い店員も気まぐれかい? あたしゃーこの娘達の声を聞くとなんだか元気が出るんよ。中々な歳じゃけんど元気なうちは通い続けるんわ』
「か、可愛いって...///」
「...///」
『ほっほっほっ、照れ姿も中々じゃの。ではあたしゃそろそろ行くよ。おとっさんの面会時間じゃけんね。 お会計はテーブルの上においてあるんさ、御馳走様でした。またくるんよぉ』
「あっ、はい! ありがとうございました!」
「ありがとうございましたーっ!」
...本当にあのお婆ちゃん元気だなぁ。確かもう80近いとか言ってたっけ。それにしてもこのお店の来店、上は80代で下は10代とかなり広い。ナルトシティーの中心に位置する大型ショッピングモール、セントラルパークの中には何件かカフェも入っているらしいけれど、来客数は劣る代わりに顧客単価とか言ってたかな...ともかく一人辺りの注文数と滞在時間が長めらしい。だから結果的に来客は少なくても入っているお店と同等かその以上の売上を出しているだとか。
この辺はまだ難しすぎてわたしとミミアンちゃんは理解出来ないかな...大人なリッカさんは理解しているらしくて、たまに新商品の会議やら売上の計算、光熱費の計算とか私達が出来ない事務作業をこなしている。因みにリッカさんを雇う前は、帰宅後にリッカさんが持ち帰りで計算していた。
そんな時、わたしが身に着けるGギアがブルブルと震え始めた。なんだろうと思ってみてみると...
「ん、ライトさん...? リッカさーん、電話来ちゃったのでバックに入っても良いですか?」
「あ、良いわよ。けど早めにね」
「わかりました。ちょっと失礼します」
そう言って従業員通路を通って、昔にミミちゃんと初めて話した場所に入る。そこでGギアを操作して通話に出た。
「はい、もしもし」
『ごめんね、仕事中だったよね。だから手短に終わらせるよ』
「はい」
『えーとね、悪いニュースと良いニュースがあるんだけど、まず最初は良いニュースから。 まず、君たちの世界に戻るための装置の調整が完全に終わったよ。これでみんな安全に元の世界に戻ることが出来るよ。そして良いニュースがもう一つあるけど、それは来てからね。 最後に悪いニュースなんだけど...戻る為の装置が明後日の朝方から夕方までしか稼働が出来ないんだ。もしその間にそれを使わなかった場合...いつ戻れるのか分からなくなる』
「わ、分からなくなる? それは一体どういうことですか...?」
『明後日のその時間帯、時の巡り合わせが最高潮になるんだ。それと無事に帰れたとしても、コッチに戻れる可能性がほぼ無い。どうやらダークライを倒した事によって、歪ませていた時空や時間の理が解れて、繋がりが無くなるっぽいんだ。だから、戻らないなら一生こっちで過ごす事になる』
「...わかりました。この事をミミちゃ...ミミアンさんやリッカさんに伝えれば良いのですね?」
『うん。他のみんなには伝えてあるから、二人に頼んだよ』
「はい...あっ、切れちゃった......」
わたしはGギアに映る通信切断の文字を見ながらそう呟いた。確か調整に時間が結構に掛かるとか言ってたのに、まだ一ヶ月くらいしか時間立ってなかった筈。元の世界に戻れるのは嬉しいけれど、何だろうこの複雑な気持ち...。
最初はこの世界を救って現実に帰るって思っていたのに、今のわたしの中ではこの世界に居続けたい気持ちと帰らなきゃの気持ちが葛藤してる。それに、もし戻っちゃったらもう二度とこの世界に来られないような気が...。
「...ううん、あとで考えよ。今は仕事に戻らなきゃ」
ーーーーー
Side ミミアン
「こんなにも早く店早仕舞いなんて珍しいけど、今日って何かあったっけ?」
「え、今日はクリスマスイブよ。大事な日なんだから忘れちゃ駄目でしょ」
「え...あ、ホントだ。なんかいつの間の日々だったな。ところで、ケーキとか予約してないが大丈夫なのか?」
「ふっふー、私がしてないと本気で思ってんの? シュガー並みに甘いわよリッカ、予約したに決まってるじゃない!」
「し、してたの? 確かに、思い返してみれば一週間くらい前の時に一日だけ戻るのが遅い日があったけど、もしかして...」
「正解よ。それじゃ、今から取りに行くわよ! 異変も解決してくれた事だし、売上も上々なわけだし、ちょっと奮発しちゃったわよ!」
「うわぁー! 楽しみ!」
「ケーキか...食べるはかなり久しぶりだな。この感じだと夜飯もオードブルか?」
「そりゃそうでしょ。クリスマスイブの夜はお家でゆったり過ごして、ケーキ食べてに決まってるじゃない! ...っと言いつつ、去年はみんな居なかったから他フロアの人達で集まって、外でガヤガヤしてたけどね」
「あれ、そうだとしたら今年は...?」
「当然断ってあるわ。理由を話したら全員納得してくれたし。それとリッカ、お酒もあるわよ」
「ちょっと待て...俺、弱いぞ? それに、酒によった女が夜道歩くとかやりたくないしな」
「よく言うわ。リッカ女と言いながら腕っ節は男じゃない。その辺のチンピラ男なら捌けるでしょ」
「あ、あのなぁ...まぁ、否定はしないが...」
うん、リッカさんならそのへんは問題は無さそう。慣れている私でも大変なシチューの掻き混ぜを平然に片手でやってるあたり、流石しか言えない。
...にしても、アーちゃん電話来てから様子が変。ちょっと聞いてみよ。
「ねぇ、アーちゃん?」
「...へっ? な、なに?」
「なんか電話が来てから様子が変だけど、どうしたの?」
「べっ、別に何でもないですよ! いろいろと考え事をしてただけだから...」
「...そっか。けど何かあるんだったら言ってね? そうだ、今日一緒にお布団で寝ても良い?」
「ふぇっ!?/// な、何故ですか!?///」
「ん、なんの話?」
「えっと、今日はアーちゃんと一緒に寝よかなって。そんな話」
「あらら。ミミアンちゃんと一緒に寝たいと思ってたけど、そんな事なら今回はアーシアちゃんに譲るわ。変わらず布団も足りるし」
「エ、エレナさんまでっ!?///」
「イブの夜くらい良いでしょ? それとも...私の事、嫌い?」
「そ、そんなこと無いけどぉ...///」
「じゃあ決まり!」
「うぅ...///」
うん、アーちゃんは絶対に何か隠してる。一番は自分の口で言ってくれると嬉しいけど、少し押さないと口を開かない。気にしないようしていたけれど、明らかに電話で何か言われて、その内容に迷ってる。お節介様々だけど、自分の口から言ってもらうからね...。
「さてと...そろそろケーキを取りに行って帰りましょうか」
「だな。館内放送も今日は早めに閉めるとかアナウンスしてるしな」
「それじゃ戸締まりはしてるから、先にアーシアちゃんとミミアンちゃんはケーキ取り入ってて頂戴。たぶん顔パスで分かるだろうけど、引換券も持ってて。場所は裏に書いてあるわ」
「はーい、どんなケーキか楽しみ。エレナさんの事だから結構良いケーキ頼んでくれてそうだし」
「奮発したから中々のケーキよ。サイズは四号分だし」
「ちょ、ちょっとまて。四号って中々にデカイぞ?」
「大丈夫よ。全部カットケーキで一個ずつ別々に包装してホールにしてもらったから食べ切れなくても保存しやすいし、ナイフで切る必要も無いから洗い物が減って楽だわ」
「なる程な...だがそれ、作る側はかなり面倒だと思うのだが。一々手で巻いたりするのは苦だぞ?」
「あー、その辺はサイコキネシスでやってるらしいから問題無いみたいよ。サイコキネシスの操りに関しては、あの人以外に巧妙且つ繊細に扱える人は見たことないわ」
「な、なるほど...元居た世界で考えちゃダメか...」
「そう言う事。まぁ難しすぎて出来るのが彼女しかいないって所があれかしら。貴方達がこの世界を救ったと聞いてすぐに予約したわ。 ...じゃない、結果的に引き止めたあたしが悪いけど、早く行ってくる!」
「あいよ。アーシア、何を考えてるか知らんが後で聞いてやっから今は出ろ。ミミアンも」
「はいはい。いこ、アーちゃん」
「うん...」
私はアーちゃんに手を伸ばして、ちょっぴり強引に引っ張ってカフェを出た。にしてもいつも戸締まりはエレナさんだけなのに、なんでリッカさんまで? まぁいいか、今は言われた通りにケーキを受け取って、アーちゃんから悩みの種をどうやって聞こうか考えとこ。
...ん、そう思えばもとの世界に戻れる装置って今どうなってるのかしら?