Episode0『少女の決意』
side―シオン―
今日は七月四日…。
目前に映るのは夕日を背景にしたイッシュの顔とも言える町―ヒウンシティ。
その夕焼け色に染まったイッシュの大都市は画家でもあるアーティさんが開いた個展でも彼の描いた絵で一度見た事があった。
私はある目的でカントー行きであるロイヤルイッシュ号に乗り込んでいた。
「ねぇ、ニャース…。何だか家出みたいな形になっちゃたけど大丈夫かな…」
モンスターボール越しに見える化け猫ポケモン―ニャースにゆっくりと震える声で問い掛けていく。
その瞬間頷くかのようにモンスターボールが上下に揺れた。
そう、ニャースは私が幼い頃に彼が津波で溺れ掛けていた所を助けた事が切っ掛けで出来た最初の友達であり、大切な家族。
でも、出会った頃は私を、―嫌…人間自体を怖がっていた為に全然懐こうとしなかったが、諦めずに接していく内に徐々に仲良くなっていく。
以後は大切なパートナーとして良い関係を築く事が出来ていた。
そして、今回家を出てカントー行きを決意したのはこの子の両親を探し出す為である。
「そうだよね…、君の両親を探し出す為には君の故郷であるカントー地方に向かわなきゃいけないんだし…。それに私の苦手な部分である人混みの中や高所恐怖症を直す為に旅に出るんだから…」
自身の旅をする目的を言葉にして決意を固め、弱音を吐こうとする感情を抑制していく。
もう一度次第に遠ざかっていくヒウンシティを瞳に、―そして忘れないように必死になって脳内に焼き付けていった。
数分経つと涼しい風が吹き始め、私はその風に涼しんでいく。
「うぅ〜涼しぃ〜。でも何だか寒くなりそうだから、部屋に戻ろうかな…」
両腕を天高く伸ばし、う〜んと小さな唸り声を上げて踵を返し自室へと向かって歩き出す。
その時、一人のお団子ツインテールの少女と擦れ違い、その独特的な髪型につられて瞳が彼女の後を追いかけてしまう。
すると、一匹のピカチュウを連れた少年に対してむぅーっと頬を膨らませ、怒っていた。
その彼女の怒った表情に少しビクッと怯えてしまうも、何とか顔を左右に振りながら恐怖を外に追い出す。
再度、彼女達に視線を戻す。
「あの二人、カップルなのかな…? それとも、兄妹…とか…?」
私はそんな二人の遣り取りが気になり見つめるも、
「…でも、私には関係ないかな…」
他人事だと片づけて再び歩き出した。
その足取りには先程までの寂しさや悔恨の思いなどが感じられなかった。
―to be continued―