Practice start
side―リーフ―
「くぅ…」
三つの高威力の技がぶつかり合う事で生じた爆風が次第にその風力は強まっていく。
私はその吹き荒れる爆風に体を持っていかれない為に力強く地に踏み止まろうと足に力を入れていった。
左手で飛ばされそうになる被っていた帽子を必死に押さえながら…。
そして、膨張していく爆風は徐々にその力を弱めていき、視界にはトキワシティの街並みの風景が広がっていった。
メイの事が気になり、横に居る彼女へと視線を向ける。
すると、メイは私の心配するような視線に気付き、ニコリとあどけない笑みを見せてきた。と同時に彼女はすぐに真剣な眼差しになってゼニガメ達が戦っていた場所へと向き始める。
私もそのメイの行動に促され、目前で傷だらけになり倒れたゼニガメ達へと視線を移すと二匹共倒れているのが確認できる。
でも、倒れているのはゼニガメ達だけではなかった。
ナッシーもまた三つの顔が両目をグルグルと回しながら倒れ、周囲のアスファルトが原形を留めていなく先程の爆発を起こした三つの技がどれ程威力が高かったのか物語っていた。
そんな敵を虚ろな瞳で見つめていたメイが、
「倒したんだ、私達…」
力なくアスファルトに座り込んで、覇気の無い声で言葉にする。
「そうみたいね…、でも倒したは倒したけど。ゼニガメ達も戦闘不能状態になっているから実際は引き分けって所かしら…。―でも、ちょっと気になる部分があるのよ」
私も体中に疲労が蓄積されていた為、疲れ切った声で応じ、ある事に対して疑問を持つ。
「その気になる部分って…?」
疲れた表情になりながらも不思議そうに尋ねてくるメイ。
「今、私達はこのナッシーと戦っていたでしょ。その時、戦っているって言うのにあの子からはバトルをする事に対しての真剣さが感じられなかった―嫌、何かを試す為に態と手加減をしていた。そう、まるで私達の実力を測るかのように…」
「う〜ん、そう言われて見れば何かあのナッシー、何時も余裕そうな表情浮べてたかも…」
私の問い掛けにメイは人差し指を顎に当てながら、う〜んと数秒間悩むも何か思い当たる節が見つかると大きく頷いて見せた。
「ほっ…ほっ…ほっ…、そのとうりじゃよ。お主は様々な技を知っているだけではなく、優れた観察力と分析力を兼ね備えているみたいじゃな。これは鍛えがいがありそうじゃわい」
「貴方一体誰ですか…!? ―って、トウヤ…!?」
「トウヤ、貴方どうして一緒に居るの…!?」
一瞬、突如現れた謎の老人に警戒心を抱くも、その隣に立っていたトウヤの存在に気付くと驚いてしまう。
「実は…」
そして、トウヤから詳しい事情を聞いていった。
その数分後に私たちに待っているのが驚きであると言う事も知らずに…。
side―トウヤ―
周囲は暗闇に支配され、外ではもう人の気配が感じられ無くなった町―トキワシティ。
僕達はそこで突然襲撃してきた謎のポケモン達と戦い、世界で名を馳せた老人であるゲンスイと出会い、ポケモンバトルについて修行を三日間つけて貰えるようになる。
その修行が始まるのは明日からとゲンスイに言われ、先程のバトルで傷ついたポケモン達を回復させる為にポケモンセンターへと来ていた。
そして、もう時計の針は夜の八時を指していた為、夕食を終えた僕達は宿泊する為に貸して貰った部屋へと戻って来ていた。
「でも、まさか宿泊費が無料なだけじゃなく。食事代も全部無料でだなんて思いもつかなかったよ…」
僕はポケモンセンターがポケモンを回復してくれるだけじゃないんだと良く理解する事が出来た―それ以外にもポケモンの体調管理やモンスターボールの整備などがある。
ポケモン関係以外にも宿泊施設や食事などのトレーナーへのサービスも充実していた。
それに特定のポケモンセンターでは、温泉やポケモンバトルを堪能出来る所もあるらしい。
「本当凄いね、ポケモンセンター。何だか、細かな部分まで配慮出来てていたれりつくせりだね」
そのポケモンセンターの十分にも充実したサービスに満足し、リラックスしたメイが僕の言葉に同意する。
「そうね、でも何時もこんな環境が充実した場所で過ごせるって訳じゃないわ。これを見て」
その僕達のお気楽な声を聞いても真面目な表情を崩さないリーフが黄色い鞄の中から一つの地図―タウンマップを取り出す。
僕達はそのリーフの落ち着いた声に促されてカント―地方全域の場所が記されたタウンマップへと視線を投げる。
「次に行く町―ニビシティに着く為にはここ―トキワの森を通過しなきゃいけない。それにトキワの森に入るまでに二番道路も通らなきゃいけないから…大体ニビシティに着くには最低でも一週間位は掛かるから当分は野宿になると思うわ」
タウンマップに人差し指を当てながら、ポケモンセンターのサービスに満喫している僕達に釘を刺すような言い方でトキワシティからニビシティまでの行き道を説明していく。
「そんなぁ…」
横でメイががっくりと項垂れ、言った本人であるリーフも顔を顰めていた。
そうだよね…、女の子である二人にとってみたら野宿はあんまりって感じになるよね…。
「まぁ…、そっか。なら、当分の食糧や傷薬とかのポケモン達に使う道具も買い集めないといけないね…。だったら、事前に必要な物は用意しとかないと」
そんな二人の落ち込み具合に軽く苦笑しながら、リーフ達と野宿などをする上で必要な物や何時買い出しに行くのかなどを話し合っていく。
心の中ではトキワの森でどんなポケモンと出会えるのか…、ニビジムでどんな熱いバトルが出来るのかと言う事に対して期待を脹らましていった。
そして、これから行われる修行についても…。
そんなドキドキやワクワクな気持ちで胸が一杯になるも、どこかでは早く自分の人生を変えてくれたあの無邪気で元気一杯なポケモンに会って感謝の言葉を述べたいと言う思いがあり、それが僕を焦らせるのであった。
side―トウヤ―
上空には煌々と輝く太陽が緑に囲まれた町―トキワシティを照らしていく。
人々やポケモン達を暖かく見守るように見下ろしていた。
僕達はその太陽からの日差しや真夏の暑さを必死に耐えながらもゲンスイの家へと向かっていた。
「暑いね」
「うん…」
「二人共、頑張って。こんなのにダウンしてたら、あの人の修行にはついていけないと思うわよ…」
余りの暑さに額から頬へと大量の汗が伝っていく―その中で右隣を歩いているメイは弱音を吐いてしまい、僕もまた彼女と同く暑さにやられていた為にその彼女の言葉につい同意してしまう。
そんな僕達の様子に見兼ねたリーフが注意してくるが、彼女も相当暑がっているのか服は汗でビショビショになっていた。
その汗が滲んだ服越しに十代の少女の特徴でもある綺麗な柔肌が目に映る。
僕はその事に顔が赤くなり、硬直してしまう。
そして、メイもまた彼女の傷ついていない左脚部を羨ましそうに見つめていた。
「どうしたの、二人共。早く行くわよ…」
その僕達の反応にリーフは頭の上にクエスチョンマークを浮かべると不思議そうに小首を傾げるも、「早く行こ」と僕達に促し、僕達は再び歩き出す。
そして、僕が赤くなっている理由を知り、羞恥心で一杯になったリーフに引っ叩かれるのはその数分後であった…。
side―リーフ―
「おぉ…来たか、リーフ。トウヤ達も」
「…お邪魔します」
「痛い…」
「仕方ないと思うよ、トウヤ…」
まだどこか怒っているような声でゲンスイさんに挨拶すると、隣でまだ痛みが引かれないのか赤みを帯びた右頬を擦るトウヤに半目で睨む。
睨まれた事で落ち込むトウヤにすかさずフォローを入れるメイ。
ゲンスイさんは先程一緒に居なかった事から理由が分らない為に一瞬そんな私達の遣り取りに疑問を思い浮かべながらも、
「分らんが…、まぁ良い。おっほん、ではこれからお主達―各自のレベルに合わせたトレーニングで遣っていく」
咳払いをして私達の注意を自身に促すと説明を始めていく。
「トウヤ、お主は三日間二十二番道路で徹底的に野生ポケモンやトレーナーとのバトルをして貰う。そうやって多くのバトル経験を積む事によって、どの状況で如何いった戦いをすればいいのかなどと言った瞬時での状況判断能力などを高める事がお主にとって一番の強くなる近道じゃ。何せ、エビワラーとの戦いでそれが良く分かったわい。それとこのリュックの中には傷薬などの道具が入っている。二十二番道路には西ゲートから行けるぞ」
「はい、分りました。じゃぁ、行ってくるよ皆!」
ゲンスイさんとの修行を物凄く楽しみにしていたトウヤは声を上げながら、受け取ったリュックを手に二十二番道路へと向かう為に家から飛び出していった。
「えっ、ちょっとトウヤ…!」
私の止めようとする声をスルーして…。
「トウヤって、昔から自分のやりたい事になると周りが見えなくなるんだよね…」
メイはどこか諦めたような声で止めるのは無理だと教えてくれた。
「何じゃ、彼奴意外にせっかちじゃのぅ…。まぁ、別に良かろう…ではメイ―お主はポケモンバトルをする前にまず基礎がなっとらん。じゃから、一日目でポケモンのタイプとその相性などポケモン知識の根本的な部分から叩き込まねば話にもならん」
「そうですよね、実際に私…トウヤみたいにポケモンの本とかテレビでポケモンバトルとか見てなかったし…」
そのゲンスイの言葉に少し項垂れるも、すぐに真剣な表情になって頷いて見せた。
「では、リーフ―お主は先日のバトルを見せて貰って気付いたんじゃが、お主の場合は自身が今までに培ってきたポケモンの技や特性などの知識を元にポケモンバトルで勝つ為に最も適した戦い方を頭の中ですぐに組み立てられる策士タイプじゃ。じゃから、お主にはもっとポケモンの知識を養う必要がある為書庫に一日間籠って貰い、そこでわしが今まで旅して様々な特性や技、それらをどうやって応用するかなどポケモンバトルで役に立つ事を纏めた何十冊物本を読んでマスターし、その後にトウヤと合流して一緒に二十二番道路での修行に励んで貰う。―いいな…?」
「一日でですか…?」
「そうじゃ」
「…分かりました」
一日だけと聞いて驚くも、もし今の私のレベルアップに繋がるのなら…と心の中で思い、やる事を決意する。
こうして、私達が其々のレベルを上げる為の猛特訓が始めっていった…。
―to be continued―