First battle
side―トウヤ―
「おぉ…、そうじゃったリーフ。こっちの子達―トウヤとメイも旅をしたくてこのカントー地方にきたんじゃ…」
オーキド博士が手をこっちに向け、僕達の事をリーフに紹介してくれる。
「宜しく、リーフ」
「宜しくね、リーフ」
僕達は笑顔を浮かべて挨拶するも、
「えぇ…、宜しく」
視線を逸らし、愛想の無い声で応じてきた。まるで、僕達に興味がありませんとでも言うように…。
僕達は突然の相手の対応に困惑してしまい、困った表情になって互いの顔を見合う。
「じゃぁ…、お祖父ちゃん。私…奥の方に行ってるから、そっちの二人との話が終わったら早く来てね」
リーフはオーキド博士にそう言い残すと部屋の奥へと戻っていく。
「すまんのう…、二人共。幼い頃は人懐っこい性格じゃったんじゃが、ある事が切っ掛けで今ではあんなに人見知りが激しくなったんじゃ」
オーキド博士は僕達に謝罪を述べ、苦渋に満ちた表情を浮かべた。
―何かあったのかな…と心の中で疑問を覚える。
だが、
「ほら、行こうよトウヤ。オーキド博士も悩んでないで…」
「え、うん」
「そうじゃな」
不意に背中を押され、一瞬吃驚する。しかし、その元気で溌剌とした声から僕を押したのはメイである事を理解でき、彼女のその言葉に従って部屋の奥へと向かって行った。
「こっちじゃよ…」
オーキド博士の声に促されて、前を歩く彼の後を追っていくと一つの机があり、その上には二つのモンスターボールが置かれていた。
「やっと、来たの…遅いよお祖父ちゃん…。遅すぎてもうポケモンと図鑑貰ったわよ」
待ち草臥れたのか…壁際に寄り掛かっていたリーフがオーキド博士を視界に映すと文句を言ってきて、最後には自分の分は貰ったと報告する。
「早いのう…。トウヤ君、このモンスターボールの中にどんなポケモンが入っているか確認してみるんじゃ。その後に、君にこのポケモンを与えよう」
そう言って一つのモンスターボールを渡してくる。
「はい、realize」
その言葉に頷き、モンスターボールをパッと宙に投げる。すると、蛙の様なポケモンが姿を現した。その体に幾つ物模様がついたポケモンは四足で確りと地面につき、背中に大きな種を背負っていた。
「このポケモンが僕のポケモン…」
「始めて見たかも…」
僕達は始めて見るポケモンに視線が釘付けになる。
「トウヤ君、このポケモン図鑑を使ってそのポケモンの事を調べて見たまえ…」
オーキド博士はそんな僕達の様子に笑顔を浮かべる。その表情だけを見るだけで本当に子供とポケモンが接する事を自分の事の様に喜んでくれているのが簡単に理解できた。
「分かりました」
ポケモン図鑑でフシギダネのデータを調べていく。
『フシギダネ、タネポケモン…ウマレタトキカラセナカニショクブツノタネガアッテスコシズツオオキクソダツ』
すると、ポケモン図鑑から機械音が聞こえてきてフシギダネの説明をしてくれる。
「この子の種族名、フシギダネって言うんだね。それにしても、その機械凄いね。ポケモンの種族名だけじゃなくて、その特徴まで分かっちゃなんて…」
「うん、そうだね。そっか、君…フシギダネって言うんだ、宜しくフシギダネ!」
「ダネダネ!」
行き成り飛びついて来るフシギダネをキャッチすると、互いに笑顔を浮かべ合い、突然フシギダネが一本の蔓を出してきたため、それを掴んで握手を交わす。
「何かいいな…」
メイはその僕達の姿を羨ましそうな表情で見つめてくる。
「あっちの机に置いてある残りのモンスターボールはもう受け取りに来る子が決まってて渡せんが、こっちならいいぞ。初心者用ポケモンではないが、鍛えれば最後には強力な戦力となりうじゃろう…」
そんなメイを見かねたオーキド博士が一つのモンスターボールを彼女に差し出してくる。
「いいんですか…。突然押し寄せて来た私が貰っちゃて…」
そのオーキド博士の予想外な対応に困惑するメイ。だが、そのスカイブルーの瞳は嬉しさで満ち溢れていた。
「いいんじゃよ、ほれ出して見なさい」
「はい! じゃぁ、お願い、出て来て!」
メイの遠慮していた気持ちを振り払うかのように出す様に促してくるオーキド博士。
彼女はその言葉に元気一杯に返事を返すとモンスターボールを空中へと力を込めて投げ、視界が眩い光に覆われる。
その眩い光が消えていくとタツノオトシゴの姿をしたポケモンが現れ、ピョンピョンと跳ねて彼女の元までやって来る。
そのポケモンはピカチュウと同じ高さで大きくも愛くるしいその瞳に魅惑される。
「この子が私のポケモン…」
メイはあどけない笑顔を浮かべるとしゃがんで「おいで」とその小さなポケモンに来る様に促す。
その子は初めて見る彼女の姿にビクビクするも、その彼女の笑顔に恐怖を失くす。そして、頷いてスポンと彼女の腕の中へと飛び込んでいく。
「トウヤ、この子の種族名は何て言うの…」
その小さなポケモンを抱き上げたメイが自分もまたポケモンを得た嬉しさに心を弾ませながら、快調な声で聞いてくる。
その言葉に従い、ポケモン図鑑で調べていく。
『タッツー、ドラゴンポケモン…ゼンマイノヨウニマカレタシッポデカラダノバランスヲトル。クチカラスミヲハクコトガアル』
先程と同じ様にポケモンの説明を詳細まで詳しくしてくれるポケモン図鑑。
「そっか、あなた…タッツーで言うのね。此れから仲良くして行こうね、タッツー」
「タツ!」
その機械音がメイの耳に訴えていくと、彼女はその説明を理解してタッツーを強く抱きしめる。
タッツーはその彼女の反応が嬉しかったのか、頬を摺り寄せた。
「うむ、これで皆にポケモンを渡し終える事ができたわい。それじゃあ、リーフ―お前はこれからジム巡りをしてポケモントレーナーとしての腕を磨いて行くんじゃろ。それから、トウヤ…お前達はこのカントー地方を旅するのなら、リーフと同じでジム巡りをしてみてはどうじゃ…? 確かに旅をするだけでも経験になる事は多いが、ジムなどに挑戦する事で更に色んな事が経験できるぞ…」
そのオーキド博士の言葉を聞いて、ジム巡りをして自分の人生を大きく変えてくれたあの小さなポケモン探しも悪くないと思った。
嫌、むしろポケモンリーグでの白熱したあのポケモンバトルをテレビ越しに見て、自分も何時かあのバトルフィールドに立ってポケモンバトルをやりたいと考えていた。
そして、今の僕にはその夢を叶えるチャンスがある。
「はい、します…カントー全ジムを制覇して、ポケモンリーグ優勝してやりますよ」
「トウヤ、頑張ってね。私、応援してるから!」
力強く頷く僕。メイはその姿に笑顔を浮かべてエールを送ってくれた。
そんな僕の姿にオーキド博士が満面の笑みを浮かべると、
「うむ、元気があって宜しい。なら、リーフと一緒に腕試しと言うのはどうじゃ…お互いポケモンリーグ優勝を目指すライバルとして。なんじゃら、一緒に旅をするのもいいかもしれないのう…」
そう言って来る。
だが、
「嫌よ、何で…私がそんな初心者君とバトルしたり、旅しなきゃいけない訳。お祖父ちゃん、私…もう行くから」
リーフはオーキド博士の誘いを断ると、そそくさとドアの方向へと向かっていく。
「いいのかのう…、トウヤ君は別の地方からきたんじゃが…」
オーキド博士はそのリーフの反応を理解しているため、ニッと口元を歪めてわざとらしく発言する。
「別の地方から…?」
リーフはその言葉に歩みを止め、僕を凄い剣幕で見つめてくる。
「えっ!?」
僕は固まってしまうも、
「いいわ、やりましょ…ポケモンバトルを。見せて貰うわ、他の地方のトレーナーがどう戦うのか―そのバトルスタイルって奴をね」
リーフはそんな僕の様子もお構いなしに不適な笑みを浮かべていた。
side―トウヤ―
生気に満ち溢れ、輝く程の緑に覆われたオーキド研究所の庭。
そこで今、ポケモンバトルが行われようとしていた。
「いいか、互いに繰り出せるポケモンの数は一匹までじゃ。どちらかのポケモンが倒れるまで戦う。いいな…?」
「ええ、それでいいわ。stand up、ミニリュウ!」
「それでお願いします。realize、ピカチュウ!」
僕とリーフはオーキド博士の言葉に頷くとモンスターボールを宙に投げる。
「ピッカ!」
「リュウ!」
すると、眩い光と共に二匹のポケモンが出てきた。
「へぇー、貴方結構お目にかかれないポケモン持ってるんだ。―ピカチュウか…、だったら特性の静電気に気をつけないとね。ミニリュウ、今回は神速無しで行くわよ。下手に攻撃して麻痺になる訳にもいかないからね!」
「リュウー!」
リーフのポケモン―ミニリュウが了解したとばかりに声を上げる。
「初めてのバトルか…、行けるなピカチュウ」
「ピィーカチュ!」
全身に武者震いが走るも、何とか冷静さを保ってピカチュウに問う。
ピカチュウは両頬の電気袋で静電気をバチバチと鳴らしながら、肯定の声を上げる。
その瞳には何時もの可愛らしい物と違い、好戦的な物へと変貌していた。
やる気、十分か…。
そのピカチュウの表情にニッと笑い、心強いと感じる。
そして、
「試合開始!」
「良し、ピカチュウ! 先手必勝、電光石火」
「ピッカ!」
オーキド博士の合図と共にピカチュウが眩い光を身に纏い、一直線にミニリュウへと突っ込んでいく。
「そんな唯、真向から突っ込んでくるだけじゃ…ダメなのよ、ミニリュウ―竜の怒りで応戦して!」
「リュウー!」
リーフは言葉を吐き捨てると右手を払い、ミニリュウに竜の怒りを放つように指示する。すると、ミニリュウが口から青い炎を吐き出す。
「ピカチュウ、電光石火のままでジャンプ!」
「ピッカチュ!」
それに素早くピカチュウにジャンプして回避するように命令し、光を纏ったピカチュウはその指示に従ってジャンプする事で竜の怒りをかわす。
「え、攻撃技の電光石火を回避行動に使うなんて…!」
そのピカチュウの行動に驚愕するリーフ。ミニリュウもまた唖然と空を切り裂くように飛ぶピカチュウを見つめていた。
「ピカチュウ、電気ショック!」
「ピィーカ、ヂュ―――!」
相手の隙を見逃さずにピカチュウが両頬の電気袋から電気のエネルギーを放出させ、ミニリュウに放っていく。
「リュウ―――!?」
諸に電気ショックを喰らったミニリュウは勢いよく草原の上に倒れこむ。
「やったな、ピカチュウ!」
「ピィカッチュ!」
飛びついてくるピカチュウを抱きしめ、笑顔を浮かべ合い、初めての勝利の嬉しさを噛みしめ合う。
「ミニリュウ、戦闘不能! 勝者、トウヤ!」
「ミニリュウ!」
そんなミニリュウが心配になったのか…駆け寄って、「大丈夫」と声をかけるリーフ。その表情にはバトルで負けた悔しさはなく、不安げな表情を浮かべていた。
あんな表情もするんだな…。それにポケモンも大切にしてるみたいだし…。
先程と違う彼女の表情に驚きを覚えながらも、自身のポケモン―ミニリュウがバトルで受けた傷を懸念するかの様に接するその姿に感心する。
「トウヤ、お疲れ。いい勝負だったね、観戦してた私達まで興奮したよ。ね、タッツー」
「タッツー!」
タッツーを両腕に抱えたメイが元気一杯な声で称賛してくれる。
「うむ、メイの言う通り良い勝負を見せて貰った…。だが、トウヤ―ジムに居るジムリーダーと戦うにはまだまだじゃがな。無論、それはリーフも何じゃが…」
メイの言葉に云々と頷き、同意するオーキド博士。
「うん、有難うメイ、タッツー…それにオーキド博士も。じゃあ、オーキド博士…僕達はこれで「待って」―えっ!?」
ピカチュウを戻し、メイに視線を投げかける。それに気付いたメイが「もう、行くの」と何だか不満そうな表情をするも渋々と頷く。
そして、オーキド博士に行く事を告げようするも、突然制する様にリーフの声が聞こえてきた。
何だろう…と思い、僕達はリーフの方に振り返ると、彼女は平静を何とか保とうとしているが両頬は若干赤みを纏っていた。
スッと右手を差し出してくる。握手を求めてるかの様に…。
「え…?」
一瞬、唖然になるも、
「さっきのバトル、悔しいけど…負けたわ。でも、有難…なんだか次に活かせる、そんな気がするから…」
彼女はそんな僕の様子をお構いなしに、お礼を言うと頬の赤みを増していく。
「あ、うん…そっか」
見てるとこっちも何だか恥ずかしくなり、照れ隠しで帽子を深く被るも握手に応じる。
「うむ、ポケモンバトルを通じて相手―トレーナーやそのポケモンの事が分かり合うと言うが、まさにこの事じゃな…」
オーキド博士が自分の言った事に云々と頷いていく。
「―分かり合える…か。ならさ、一緒に旅しようよ。ね、リーフ。そしたら、友達になれるし、それに旅をするなら人数が多い方が賑やかで楽しいし…ね?」
タッツーを戻し、そのオーキド博士の言葉にメイは天使のような笑顔を浮かべて口ではとんでもない事を言い出し、「友達」と言うワードを聞いたリーフが「ふぇ…」とどこか可愛さを感じられるも間の抜けた声を上げる。
「おい、メイ、行き成り何言ってるんだ。リーフにも都合があるだろし、そんな行き成り言われたら。…って、リーフ?」
僕は突然の事に唖然になるも抗議していき、リーフに賛同を求める。
まぁ…、人数が多ければ多い程…旅は面白くなるだろうし、リーフとも旅はしてみたいけど…。
心の中でフッとその事を思うも、行き成り言われたリーフは困惑しているのだろうと考え、自身の中からその思いを取り除く。
だが、
「友達、私に…友達…」
「リーフ!?」
そのリーフに僕もまた困惑してしまう。
「ねっ、トウヤ…いいでしょ。そういうわけでしゅっぱぁーつ!!」
「頑張るんじゃぞー!」
そして、メイに引きずられる形で僕とリーフはマサラタウンを旅立っていた…。
ーto be continuedー