The town of beginning
side―なし―
これは数年前の話…。
無窮に広がる青い空が雷雲に覆われ、光を帯びた雷―稲光が雨で柔らかくなった大地へと容赦なく降り注いで行き、北東の町―シオンタウンでは住民の殆どが家の中に避難していた。
だが、一つの人達の集団が墓地に遺骨を埋葬しに来ていた。
その全員が正装に身を包んでいる。
「―――オーキド博士、辛いと思いますが…早く此方に」
一人の大男がオーキドと言われた男に思いやるように声を放ち、一つの風呂敷を渡してくる様に要求する。
「……」
オーキドは両手に抱えていた大きな風呂敷を力一杯に握り締めると何かを悔やむ様な暗い表情を浮かべた。
「オーキド博士…お気持ちはお察しします。…ですが、早く息子さん達の遺骨を埋葬しないと…」
「……わかっとるわい」
少し急かす様な声に促され、観念したオーキドは風呂敷を大男に渡すとその中から出された木製の箱が墓の中へと埋められて行く。
オーキドは自分の遣る瀬無さに雨で濡れた拳を震わせ、息子達を守れなかった罪悪感に苛まれて行く。
次第に強さを増していく雨がこの悲しい感情を流し去ってくれれば…と都合の良い事を考えていた。
「ねぇ…、お祖父ちゃん―パパとママは…」
オーキドの着たスーツの袖を握った一人の少女が潤んだエメラルドの瞳で祖父―オーキドを見上げてきた。
今にも泣き出しそうな声でオーキドに尋ねてくる。
「リーフ」
―お祖父ちゃん、パパとママが死んだって嘘だよね…と純粋な瞳で訴えかけられ、どう答えていいのかと迷い、沈黙に陥ってしまう。
「ねぇ…、お祖父ちゃん…本当にパパ達死んじゃったの、嘘だよね―ねぇ、お祖父ちゃん……如何して答えてくれないの…。それにお兄ちゃんは何でここに来ないの…」
答えようとしないオーキドにリーフの問い詰めが徐々にエスカレートしていき、オーキドの袖を小さな両手で揺らして行く。その一言一言が鋭利な刃物となり、オーキドの心を深く抉っていく。
そのエメラルドの瞳から幾条もの涙が頬を伝い、ポタポタと雨で濡れた地面へと落ちていく。
「リーフちゃん、私と一緒にあっちに行って少し心を落ち着かせましょうか…」
「嫌だぁ、離してぇ―――!」
その状況を傍観することに耐え切れなくなったオーキドの助手であるヨキに両肩を握られ、振り切ろうとするも小さな少女の力では到底振り切る事が出来ず、そのまま連れて行かれる。
オーキドはリーフが居なくなると急に力なく膝を地面につけ、
「うぐぁ…、ぐぁぁぁ――――!」
悲しみに耐え切れず、ただ…ただ簸たすら赤子の様に泣いていった…。
side―トウヤ―
「やっと着いた…始まりの町―マサラタウンに。なっ、ピカチュウ…後、メイも」
グレンタウンでロイヤルイッシュ号を降り、マサラタウン行きの船に乗り換えて無事に喉かな風景が広がる南国の町―マサラタウンに着いた僕は歓喜に満ちた声でピカチュウに話しかける。一応メイにも声をかけた。
「ピッカ!」
左肩に乗っているピカチュウが楽しげに小さな手を上げ、応える。
「ねぇ、トウヤ。まだ、怒ってるの」
その僕の感情の篭っていない平坦な声を聞いてか…、しゅんと捨てられた子犬の様な目で見つめてくるメイ。
そうだよな、あれだけ怒られれば誰だって…。
ロイヤルイッシュ号で突然現れたメイに呆然としていたあの後にこっ酷く怒ってしまい、彼女を怖がらせてしまった。
僕はその事を思い返し、言い過ぎたことを反省するも旅をすると言う事は何時何が起こるのか分からなく彼女を危険に冒したくなかったためについ本気で怒ってしまったのである(旅をした事のない自分が言える立場でないことは理解しているが)。
だが、僕の中でまだ残っていた微かな怒りもマサラタウンの豊かな自然を眺め…、周囲に満ちていた清純な空気を吸う事によって自然と消えていく。
「怒ってないから…。ほら、行くよメイ」
「うん!」
オーキド研究所へと向かって歩いていく。
side―メイ―
「敷地が広いね…」
「うん、まさかここまでとは思わなかったよ。何だか、迷ういそうだね」
研究所とは思えない程の広大な敷地―その無窮に広がる緑の中に佇む一つの研究所。
その視界に広がる大草原に囲まれた研究所に驚愕する。
でも、緊張しつつもチャイムを押し、一般家庭と同じ呼び出し音が鳴り響く。
「おぉ…、来たのか案外早かったの…」
ギィー、ガタンと門の開く音がすると、オーキド博士が研究所から出て来て、私達の元まで来ると歓迎してくれる。
「トウヤ君と後…君は…」
オーキド博士は笑顔を浮かべてトウヤの姿を確認すると、今度はその瞳に私を映す。
でも、私の事はヒコボシ先生から聞いていないのか、年相応の皺が刻まれた額に手を当て、う〜んと悩み始める。
まぁ…私の場合は無断でトウヤについて来たからヒコボシ先生からは聞いてなくて当たり前か…。
苦笑しながら、そのオーキド博士の対応は当たり前だと考える。と同時に困った表情でトウヤに視線を向ける。
トウヤは見られているのに気付き、私の視線に合わせて小さく頷いてくれた。
「オーキド博士、この子も中に入っちゃダメですか…」
私の気持ちを察してくれたトウヤがオーキド博士に丁寧な口調でお願いする。
「まぁ…、良かろう。ここへトウヤ君と一緒に来たと言う事は君もまたポケモンと一緒に旅をしたいと言う気持ちが強かったからじゃろ。わしには、そんな気持ちを持った子供を見過ごすような事は出来んしな。さぁ、入ってきた前…」
何とか入れて貰える許しを得た私は心の中で安堵し、胸をなでおろした。
オーキド博士の後に続いて研究所の中に入っていく。
部屋の中には様々な機械が設置され、机の上には書類などが置かれていた。
「お祖父ちゃん、遅いよ。まだなの、ポケモンは…こっちは早く旅に出て、…ってあれ、その後ろの人達は…?」
すると、部屋の奥から一人の少女がこっちに向かって歩いてくるときょとんとした表情で見つめてきたため、私達も見つめ返す。
その少女は端整な顔立ちで白い帽子を被り、しっとり艶やかなブラウン色のロングヘアーを腰まで伸ばしている。
服装は青色のノースリーブを着ていて、十歳にしては服越しに胸のラインが浮かんでいる。下には赤色のミニスカートとルーズソックスを穿いていた。
そして、脚部の綺麗な柔肌を露出させている。左脚部に火傷の痕がある私はその事を羨ましく思っていた。
この出会いが切っ掛けである戦いへと巻き込まれていくなんて今の私達には予想もできなかった。
ーto be continuedー