Ancient Pokemon fossil seizure case
side―リーフ―
時間は既に午後一時半を回った頃…。
昼食を食べ終えた私達はジョーイさんからポケモン達を受け散ってニビ科学博物館の入口前まで来ていた。
「ここね、ニビ科学博物館は…」
タウンマップを片手に場所が合っている事を確認し、独り言のように呟きそれに頷く。
「じゃぁ、早速中に入って古代ポケモン達を復元して貰おうか…!」
その声を聞いたメイが元気良く博物館の中へと入場して行く。
「まぁ…、ジム戦に挑む為にはもうちょっと戦力が必要だし…それに古代ポケモンにも興味が無いって言ったら嘘になるから…別に良いかな」
トウヤもまた一人納得したように頷き、ジム戦を後回しにされた事を何とも思っていないのか…ちゃんとした足取りでメイの後について行った。
私は彼の様子に安堵し、博物館の中へと入って行く。
side―トウヤ―
「ニビ科学博物館へようこそ!」
中に入ると直に入口付近に設置されたカウンターにいる受付嬢の人に迎えられる。
「あのすみません、化石を復元したいんですけど…」
そのカウンターの所まで近づき、リュックの中から貝の化石を取り出して見せる。
メイ達も同じように其々の持っている化石を出してカウンターまで歩み寄って来る。
「はい、わかりました。では、復元させて貰いますのでこちらのトレイに置いて下さい。後、復元させるのにはお時間が掛かります。ですので、ここには化石や進化の石など珍しい物を展示していますから…宜しければそれを見て貰ってお時間を潰して頂ければ良いと思います。…それでは」
軽くお辞儀をすると化石が置かれたトレイを両手に持って奥の部屋の中へと消えていく。多分、あそこに化石復元装置があるんだろうな…。
一瞬フッとそんな事を考えてしまうも、
「トウヤ、考え事してないで早く廻ろうよ…博物館の中を」
上目使いしてくるメイを見下ろして、彼女達と一緒に博物館の中を廻ろうと思い始める。
「ねぇ、最初は何処から見て行くの…?」
「そうね、まずは一階の展示物から見て行こうかしら…。ねぇ、トウヤ…」
「うん、そうしよっか」
メイの問いにリーフは顎に右手を当て考える仕草をすると、直に案を出して僕に聞いてくる。その言葉に同意して見せた。
そして、一階の中を歩き回りながら、硝子張りのショートケースの中に展示された古代ポケモン達の化石や飾られている幻のドラゴンポケモンとうたわれるカイリュー(種族名はリーフに聞いた)の骨格などを見て行く。
「凄いよ、トウヤ…リーフ。本当に色んな物あるよ、あそこにあるのって隕石じゃない…。ねぇ、リーフ…あれもポケモンに何か関係あるんだよね」
きょろきょろと周囲を見回して子供みたいに興奮するメイ。
僕達はそんな燥ぐ彼女の姿につい苦笑してしまう。
side―なし―
トウヤ達が展示物に現を抜かしていた頃…ニビ科学博物館の屋根裏で黒ずくめの男達が化石とそれを復元する為の装置を奪う為に作戦を立てていた。
「いいか…、まずはAチームが客達の視界を奪い、動きを封じる為にドガース達に黒い霧を放つように指示を出す。その後、私達Bチームがサカキ様が用意してくれたこのシルフスコープを使って霧の中から化石と化石復元装置を探し出し、即座に奪って脱出する。その際に面倒となる警備員達はもう私のクサイハナの眠り粉によって深い眠りへと誘っている。だが、もしかしたら我々に刃向う邪魔者達が出て来るかもしれないから、その時の為にAチームは黒い霧を一階と二階に充満させた後…直に我らBチームと合流して力を合わせてその愚か者達を倒す事…そして、これが君達の分のシルフスコープだ。いいな」
中年の男―ダイルは次々に作戦内容を説明していき、他の者達はその一言一言を聞き逃さずに理解して刻々と頷いてくれる。
その彼らの真剣な態度に満足な表情を浮かべシルフスコープを渡すと、
「良し、では各自持ち場についてくれ。そして、必ずやこの作戦を成功させて我らが敬愛するサカキ様に朗報として持ち帰ろうぞ…!」
高揚に満ちた声を上げ、黒ずくめの男達は其々の持ち場に移動する。
「現在、午後一時五十七分。決行まで後三分か…」
ダイルはそう小さく呟き、フッと不敵な笑みを浮かべるのであった。
side―メイ―
私達はロケット団の脅威がジワジワと迫っている事も知る余地も無く、二階へと足を運んでいた。
「ここは宇宙関係の物ばかりが展示されてるんだね…」
「へぇー、ねぇ…あれってスペースシャトルコロンビア号じゃない…!」
「あそこには月の石があるわ」
トウヤとリーフもまた気になる物を発見したのか…二人とも其々別の方向に指を指しながら伝えてくる。
「ねぇ、リーフ。確か月の石ってポケモンを進化させる為に扱われる道具なんだよね」
脳裏でゲンスイさんから教わった事を思い出して、その知識を言葉に表す。
「えぇ…、そうよ。月の石は進化させる物で、主にプリンやピッピなどに使われるわ。それに今…貴方が持っているニドラン♀の進化形体であるニドリーナも月の石を使用して上げれば最終形態の二ドクインに進化させる事が出来るわよ…」
「そうなんだ、何だか凄いんだね進化の石って」
私はリーフ先生の講座を受け、また知識を増やしていく。最後に彼女は「まぁ…、進化させられるのは特定のポケモンだけだけどね…」と補足してくれた。
「皆…あの黒いのは何かな…?」
私達はその突然の声に反応して部屋の中へと侵入して来る黒い霧を瞳で捉えて驚愕してしまう。
それと同時に下の階から女性の悲鳴声が聞こえてきた為に直に階段へと向かい降りようと試し見るも、
「げほ…げほ、霧の所為で前が全然見えないよ」
「これは多分ポケモンの技だわ」
充満していく霧の所為で歩みを阻まれ、軽く吸ってしまい咳をしてしまう。
「糞、こうなったらピジョン…吹き飛ばしだ」
「ピジョ―!」
でも、トウヤのピジョンが両羽を羽ばたかせ、部屋中を覆っていた霧を次第に吹き飛ばしていった。
「良し、行こう皆…!」
「「うん!」」
私達はトウヤの掛け声に頷き、一人先に走り出す彼の後を追って行く。
side―なし―
ここは黒い霧が漂うニビ科学博物館の一階…。
「これで十分すかね…」
「あぁ、では次に化石復元装置を頂こうとするか…」
一人の若いロケット団員が肩に担いだ沢山の化石を入れた袋を見つめ、ニッと笑う。
ダイルは頷き、シルフスコープを使って出入口の近くにあるカウンターの奥の部屋を視界に映す。
「あそこにある筈だ。私の調べたとうりならな…」
そう、彼は一度この場所に一般人を装って潜入した事があり、その時に化石復元装置の在り処を突き止めていた。
「でも、急がないと霧が晴れてしまいますからね。早く奪って行きましょうか」
ダイルは一人の下っ端の言葉に同意し、数十人もの団員達を引き連れてカウンターを通り抜け奥の部屋の中へと入って行った。
side―トウヤ―
「真っ暗で何も見えない…トウヤ」
僕達は一階に辿り着くも、再び視界が闇に覆われてしまい、リーフが僕の名を呼んでくる。
「あぁ、わかってるよ…リーフ。ピジョン…もう一回頼む!」
「ピジョ、ピジョ――!」
僕は彼女に呼ばれた理由を理解し、ピジョンに二度目の吹き飛ばしを指示する。
滞空していたピジョンはそれに軽く頷き、吹き飛ばしを繰り出した。と同時に視界が鮮明さを取り戻していった。
そして、目前に広がる光景に言葉を失ってしまう。
強化ガラスを割られたショートケースの中に展示されていた筈の化石は全て奪われ、それを見に来ていた客達はグッタリと地面の上に倒れ込んでいた。
「そんな…化石が全部盗まれたなんて…。それに皆も苦しそうに倒れてる」
メイは心配そうに倒れている人達を見つめる。
「多分、周囲を漂っていた黒い霧を吸ったのが原因だと思うわ。人体に悪い影響は無いからその内に目を覚ます筈よ。だから、安心して良いと思うわ…」
そのメイの様子を目にしたリーフが安心するように言い聞かせた。
「うん、それなら大丈夫だよね」
リーフの言葉を耳にしてホッと胸を撫で下ろすメイ。
僕もまたその事に安堵し、次第に表情が緩んでいく。
その刹那、
「ゴルバット、エアカッターだ!」
どこからとも無く男性特有の低い声と共に幾つ物半月の形をした刃が僕達に向かって放たれてくる。
「―ッ…!? ピジョン…守るだ!」
「ピジョ―!」
その突然の攻撃に気付き、宙を飛翔していたピジョンに防ぐように命令する。
ピジョンは僕達の前に出ると直に球状の形をしたバリアーを形成し、エアカッターを防いでいく。
僕達はその放たれてきた方向に瞳を向ける。
すると、一人の黒ずくめの銀髪の男が居た―胸元には赤く「R」と言う文字が描かれていた。
「何なんだ、彼奴は…!?」
「わからない、でも攻撃してきたから敵って事だよね…?」
その全身黒に身を包んだ男をメイと一緒に凝視してしまうも、
「トウヤ…メイ、油断しちゃ駄目よ…。彼奴は悪の組織―ロケット団の下っ端だわ…」
「悪の組織…!?」
必死そうな表情を浮かべるリーフの声に僕達は驚愕してしまう。
「ガキが三人だけかよ…。まぁ…、直に片づけてここから脱出しないとな…。さぁ、出番だぞ野郎ども!!」
その僕達の姿を視界に映した銀髪の下っ端がフンッと嘲弄するように鼻で笑い、何か残念めいた物言いをし、最後には片腕を天高く上げてパチンと鳴らして見せた。
「何だか、イラつく相手ね…」
「うん、正直ね…今、すっごくムカついてる」
イラッとした表情を浮かべるリーフの言葉に同意し、侮辱してきた相手を睨み付ける。
しかし、次の瞬間に彼と同様に黒で身を染めた十人以上の男達が現れ、逃げ場を失くすかのように僕達を包囲していった。
「囲まれちゃったよ…。どうしよう…トウヤ、リーフ…」
完全に包囲された事に動揺し、僕を見上げてくるメイ。
不安そうにする彼女に「何とかして見せるよ…」と平気そうな表情を見せて安心させる。
そうだ、ここで僕が不安を見せる訳にはいかない…。
もし、不安を表に出したら、今僕を見つめているメイや隣にいるリーフを不安のどん底に落としてしまう。―それだけは…。
心の中で強くそう思うと二人の前にゆっくりと歩み出る。
そして、包囲してくるロケット団の下っ端の後方に立つ銀髪の下っ端を鋭い眼差しで見つめた。
二人は必ず守り切って見せる…と言う強い決意を胸に抱いて…。
―to be continued―