Rock town
side―なし―
時間帯は未明で時計の針が午前三時を指していた頃…。
ニビシティ付近に位置する四番道路に建てられた一つの家の中で黒ずくめの男達が集まって居た。
その数は数十にも及び、暗い部屋の中心に置かれた大きなテーブルを囲むように椅子に座っている。
彼らの胸には赤く「R」と言う文字が描かれていた。
「今日、我らはサカキ様から命じられたとうりに古代ポケモンの化石と化石復元装置を奪う為にニビ科学博物館へと乗り込む」
渋い顔付きの中年の男―ダイルが言葉を発すると他の皆が視線を彼に集中させた。
「では、決行は今日の午後二時とする。必ずやこのミッションを成功させるんだ! そうすれば、我らロケット団は戦力を一気に増大する事が出来、サカキ様の―嫌…我らの夢であるカントー征服に一歩近づけるのだ…確実にな…」
その彼の言葉に皆が気を引き締めて真剣な表情になると深く頷いて見せた。
side―トウヤ―
燦々と輝く太陽。
その暑さに影響され、徐々に汗を流していく人やポケモン達。
僕達はその暑さの中を必死に耐え続け、一つ目のポケモンジムがある町―ニビシティへ繋がる南ゲートへとやって来ていた。
そして、ゲートを通り抜けると同時に風を切って走り出した。
「早くニビジムに行ってジムバッジをゲットしないと…!」
その事で頭が一杯になり、そのジムリーダーと対決する事を考えるだけでも興奮とワクワクで胸が満たされていく。
「トウヤ、走るの速すぎるよ!」
「ちょっと待ちなさい、トウヤ。別にそんな急がなくたって…ポケモンジムは貴方から逃げようとしたりしないわ。だから、少しは落ち着いて…」
背後から二人の少女の声が聞こえてくる―旅の仲間で大切な友達であるメイとリーフだ…。
そんな二人に一瞬めんどくさそうな表情をするも直に振り向き、
「そんな事言ったってこっちは早くポケモンバトルがしたくて体中がウズウズしてるんだ。だから、急ぐしかないじゃないか!」
ポケモンバトルに対して熱い思いを言葉に表してキラキラと星空のように輝く瞳を二人に向けた。
「トウヤって本当…バトルバカだよね…」
「ハァ…、わかったわ。でも、その前にちゃんとポケモンセンターでポケモン達を休ませないとね。トキワシティを出てからずっと休ませて上げてなかったし…」
メイは何か呆れたような表情になり、サラッと酷い事を言ってくる。リーフもまた額に手を当てて深い溜め息をつくも、了承してくれた。
ポケモンセンターによると言う条件付きだが…。
「うぅーん、わかった…まずはポケモンセンターに行こっか…」
僕は渋々と頷き、ポケモンセンターのある方向へと歩みを進めた。
メイ達はその僕の様子に互いの視線を合わせて苦笑する。
私達が確りしないと…。
二人は心の中でそう思うのであった。
side―リーフ―
私達はポケモン達を回復させる為にポケモンセンターへとやって来ていた。
ジョーイさんに疲れ切っているポケモン達が入ったモンスターボールを渡すべく、彼女が居るカウンターに向かう。
でも、ジョーイさんの所までは沢山の人々によって一つの列が出来て居て、それに並ばなければいけなかった。
「やっぱり込んでるんだね、ポケモンセンター…。私達が渡す番が来るまで何だか時間が掛かりそう」
「そうね…でも仕方ないわよ、ここに居る大体の旅人がポケモンセンターに来る理由の殆どがバトルで疲れ切ったポケモン達を回復させる為だものね…」
メイはその余りの込み具合にハァッと小さな溜め息をつく。
私はそんな彼女の言葉に同意しつつも、仕方ないから割り切るように言っていく。
だが、大変そうな表情をして仕事に覆われているジョーイさんとラッキーの姿を一瞥すると彼女達に同情してしまう。
メイもまた「皆…少しはジョーイさんの事も考えてないのかなぁ…」と小さく呟いていた。
「バァートォールゥ―!」
ジム戦を楽しみにしていたトウヤにとってみればこの待ち時間は苦痛その物なのか…痺れを切らしてしまい、大声を出してしまう。
その直後、私達はポケモンセンターに居る全ての人達やポケモン達の注目を浴びるのであった…。
それから数十分経ち、ジョーイさんにポケモン達を渡した後…私達は時計の針が十二時を指している事に気付き、ポケモンセンターの中にあるレストランで昼食を取っていた。
「ねぇ、トウヤ…そう言えばアオさんから受け取ったリュックの中には何が入っていたの…」
「リュック…?」
私は向かいに座って注文したカレーライスを美味しそうに食べて居るトウヤに問い掛ける。
彼の隣でサイコソーダを飲んで居たメイが小首を傾げる。
そうだよね、メイ…あの時睡魔にやられて寝ちゃってたんだし…。
「これでしょ…。実は僕もまだ中身を見てないんだ…」
トウヤがドサッと例のリュックをテーブルの上に置いて見せた。
「ねぇねぇ…、中に何が入っているのか早く見ようよ…」
その謎のリュックを目前に出されたメイがそれを好奇心溢れる瞳で見つめ、急かしてくる。
彼女の好物であるサイコソーダをテーブルの片隅に置いてまで…。
私もまたプリンアラモードを食べ終えてリュックを目視する。
「わかった、じゃぁ…開けるよ」
私達からの熱い視線に小さく頷き、リュックを逆さまにして中から入っていた物をテーブルの上に出していく。
私はその出て来た石みたいな物に驚愕してしまう。
その石の表面には貝や甲羅の形が浮かび上がっている。
「この石は…?」
メイはトウヤと視線を合わせてキョトンとする。
「メイ…トウヤ、これは石じゃなくて化石よ。そう、既に滅んだと言われた古代ポケモン達のね…」
「古代ポケモンの化石…!? でも、なんで…そんな希少な物をアオさんが持ってたのかな…?」
その真実に驚愕するトウヤ。でも、新たに疑問が彼の頭の中で生まれては再度首を傾げてしまう。
メイもその彼の意見に同意を示すかのように頷いて見せた。
「ねぇ、これは悪魔で私の予想なんだけど…アオさんの故郷はグレンタウンでしょ…。多分、二人はマサラタウン行きの船に乗り換える為に一度そこで降りたからわかると思うけど、あそこに建てられたポケモン研究所には化石を復元させる装置があって五年に一回のペースで船が見つけられた化石を輸送して来るのよね。だから、アオさんがくれたこの三つの化石はそこから来てると思うのよ…」
「うん、確かに見たような感じするそんな研究所を…」
私の憶測にトウヤが一瞬脳裏の棚を探るも、直に見た事を思いだし肯定してくれる。
「ねぇ…、もう選んでもいいかな…」
今まで選ぶのを辛抱していたメイが上目使いで尋ねてくるのを視界に映し、私達は「わかった」と了解する。
彼女は了承された事を理解すると、再度テーブルの上に置かれた三つの化石をスカイブルーの瞳に映す。
その三つの化石は其々の形が異なっていた。
「まずは私から選ぼうかな…。うんーと…じゃぁ、この橙色の綺麗な化石にしよっと。良いよね、二人共…」
橙色の化石―秘密の琥珀を小さな両手で取り、私達に遠慮深げに聞いてくる。
「うん、良いよ」
「持つからにはその子と上手くやるのよ…」
私とトウヤはそのあどけない表情を浮かべる彼女に対して返答する。
彼女は嬉しさの余りに胸元でギュッと小さな二つの手で秘密の琥珀を握りしめ、「有り難」と満面な笑みを浮かべてお礼を述べてきた。
そして、私達は残った二つの化石―貝の化石と甲羅の化石を見つめる。
「リーフ、先に選んで良いよ。僕は後で良いから…」
「え…えぇ、わかったわ。じゃぁ、私はこの甲羅の化石を貰おうかしら…」
トウヤの気遣いに戸惑ってしまうも、何とか返答して甲羅の化石を右手で取る。
「そうなると、僕は最後に残った貝の化石をと…」
次々と残りの化石を取っていき、最後にはテーブルの上にリュックとメイの飲みかけのサイコソーダなどが残る。
「やっぱり、此奴等を復活させるとなればグレンタウンに行く必要があるんだよね」
「そうね、でもここからグレンタウンに行くとなると最低でも十一日はかかるわ。それに折角ここまで来たのに戻るってなれば何だかめんどくさいし…」
「そうだね。それにグレンタウンにもジムがあるから後でそこに寄れば良い話だから…。…でもさ、どんなポケモンなのか気になるから早く会ってみたい気持ちもあるから…悩んじゃうよね…」
グレンタウンに行くか…行かないかで談論していくも、結局決められずに時間だけが無駄に過ぎて行ってしまう。
そうやって話し合っていると、
「トウヤ君達ですね…、もうポケモン達の回復を終えましたのでカウンターまで…。あれっ…、もしかして貴方達が持っているそれは化石ですよね…?」
伝えに来たジョーイさんが私達が持っている化石を視界に映すと怪訝そうになって尋ねてくる。
「はい、そうですけど…」
古代ポケモンの化石なんて滅多に見ないから怪しむのは当たり前だろう…と一瞬思い、無表情で彼女の言葉を肯定してゆっくりと頷く。
その私の肯定する言葉に「やっぱり…」とジョーイさんは笑顔になって小さく呟き、ある事を教えてくれた。
「でしたら、早くその化石ポケモン達を復元されるおつもりなんですよね…その場合はこのニビシティにあるニビ科学博物館に行くと良いですよ。あそこには化石から古代ポケモンを蘇らせる為の装置―化石復元装置があるんです。それを使えば態々ポケモン研究所のあるグレンタウンまで行かなくても済みますよ」
「本当ですか…!?」
ジョーイさんの朗報にパチンッと両手を胸元で叩いて大喜びするメイ。
「そうなんですか、態々教えてくれて有り難う御座います。これで何とか時間を大幅に浪費せずにこの子達を復元出来ますね…」
私は嬉しさを表に出さないも、心の中では嬉しさの余りに舞い上がっていた。
「じゃぁ…リーフ、今直にでもそこに行こうよ…!」
表情を崩さない私にメイが快調な声で提案してくる。
「えぇ…」と小さな声で呟き、彼女はその事に「良し…!」と笑顔を浮かべて小さなガッツポーズをする。
「ニビジムは…」
約一名…文句を言いたげに睨んでくるも、
「「それは後で…!!」」
「……はい」
私達の重なり合う甲高い声に弱い声音で渋々と了承し、項垂れていく。
トウヤのその様子に罪悪感に苛まれ、御免ね…と心の中で謝罪を述べる。
まぁ…、本人には聞こえないから意味はないだろうけど…。
メイも同じなのか…申し訳なさそうな表情をする。
こうして、私達は一瞬トウヤに罪悪感を感じるも直にワクワクと期待に胸を踊らせ、化石復元装置のあるニビ科学博物館へと向かって行くのであった。
―to be continued―