Past not to be able to delete
side―メイ―
「ゼニガメとタッツーはピカチュウと一緒に消火作業をお願い……ミニリュウとニドランはポケモン達の救助に当たって。もし、火傷状態になっているポケモンが居たら直に私の元に連れて来て…そしたら、火傷直しで直すから…。わかったわね、…皆」
そのリーフの的確な指示に四匹のポケモン達は首肯して、其々の作業に取り掛かっていく。
私はそんなポケモン達に負けてられない…と思い、辺りを見回していった。
すると、炎に囲まれて身動きが取れなくなっている数匹のポッポ達と一匹のピジョットを見つける。
そのポッポ達はピジョットの羽に包まってビクビクと怯えていた。ピジョットもまたその迫り来る炎を睨み付けながらも額から冷や汗を流していく。
「何とかしないと…」
私は必死になってリーフ達に助けを求めるような視線を送るも、ピカチュウ達は各自の担っている作業で手一杯なのか全然気付いてくれない。
リーフもミニリュウ達救助チームによって運ばれて来たポケモン達の治療で忙しいみたいでこちらに気付く事は一切なかった。
「どうしよぉ…」
誰の力も借りれない事を知り、情けない声を上げてしまう。
単に私自身が助けにいけば良いのに…と単純に考えるも、それと同時にガタガタと両足が震え始めてしまい…挙句の果てには恐怖の余りペタンと地に膝をつく。
過去に受けた傷―火傷の跡が残っている左足が徐々に痛みを訴えてくる。
そんな過去への恐怖を脱ぎ捨てられない私自身に対してイラつきが心の中で溜まっていく。
「今はイラついている場合じゃない…! そうだ…、私がやらないと…現状で動けるのは私だけなんだから…!」
何とか蓄積されたイライラを振り払うと瞳に「絶対助け出す」と言う強い思いを宿して懸命に立ち上がる。
恐怖で震える足で―左足の痛みを堪えて走り出した。ピジョット達を助け出す為に自らが苦手とする炎の中へ向かって…。
「―メイ…!?」
リーフはその私の様子に気付き、呼び止めようとするも、
「リュウ…リュウ!」
必死になって声を上げてくるミニリュウに阻まれる。
「ミニリュウ、どうしたの…。―ッ…、早くそのバタフリーを診るから…こっちに!」
そのミニリュウに表情を顰めてしまうも、背後に背負っていたバタフリーに困惑してしまう。
バタフリーは体中に火傷を負っていた。
「直に直して上げるわね…」
リーフは重症であるバタフリーの治療に集中していく。
心の中で私の事を心配しながら…。
そして、私は今…ピジョット達を包囲するかのように囲んで煌々と燃えている炎の傍へとやって来ていた。
「助けに来たよ。だから、安心して…」
危険に犯されている所為で警戒心が強くなっているピジョットは接触を図る私に向かって小さな唸り声を上げてくる。
脅えていたポッポ達を庇うかのように彼らの前へと歩みを進めた。
その姿は我が子を懸命に守ろうとする母親のように見える。
もしかして、この子達は親子…。そして、このピジョットは母親で子供達を守ろうとしている…なら、まだ説得の余地があるかも…!
「ねぇピジョット、私は別に貴方からポッポ達を奪おうなんて思ったりしてないよ。だから、私を信じて…もう、増やしたくないの…私みたいに災害で家族を失う人やポケモン達を…! だから、本当に信じて…お願いだよ」
それは本当の思いでもう誰かが何か大切な物を失う所は絶対に見たくなんかない。そんな思いをするのは私だけで十分だ…。
その言葉がピジョットの胸に深く突き刺さったのか、警戒心を解いて小さく頷いてくれた。
「良かった信じて貰えて…。じゃぁ…待ってて、今直に何か助ける方法を考えるから…」
その事に胸を撫で下ろし、何とか助ける為に脳裏にある棚をあさっていくも、そこからは拙い情報を得る事しか出来なかった。
「何も良い案が思い浮かばないかも…」
最後には何も思い付かない私自身に呆れてしまい、どうしたらいいのかわからず…途方に暮れてしまう。
リーフだったら、何か良い案をパッと思い付くんだろうなぁ…。
そうやって項垂れていると、
「――ピジョ…!? ピジョット!」
ピジョットの叫び声が聞こえてきた為に顔を上げた。
すると、視界には炎によって焼き切られた木がピジョットの背後にいるポッポ達に向かって勢い良く落下していくのが映った。
ピジョットはポッポ達を守る為に羽を大きく広げてポッポ達の頭上に覆い被さる。
その身を挺して我が子を守ろうとするピジョットの姿に脳裏である人物を連想してしまい、忘れようとしていたある出来事を思い出してしまう。
そう、それはあの火事の日に起きた出来事でその人は炎に包まれた中で怯える六歳の私を強く抱きしめてくれた人物。
震える私の背中を優しく叩いて「大丈夫よ」と励ましてくれた人物で、私が密かに憧れを抱いていた人…。
その人は煙が漂うその中で恐怖に支配されていた私に「必ず私達は助かるから…」と只管声を掛けて元気づけてくれた。でも、助かったのは私一人だけ…。
「お…母…さん」
私を守ってくれた人を言葉で紡いでいくも、心は徐々に闇に呑み込まれていく。
―本当は守りたかった、私のこの手で…。でも、あの時の私は幼くて、無力で死なせたんだ…お母さんを…。私を守ってくれた大切な人を。
だから、今回もまた見ているしか出来ないのかな…? 目前で火事によって誰かが死ぬ所を……でも、それは…そんなのは…。
「いや…だよ」
その心の言葉を外に吐き出すも、体中に疲労が蓄積されていた為に地面に倒れこんでしまい、意識が朦朧としていく。
「―メイ、大丈夫!? バタフリー、念力でピジョット達を助けて…!」
「リーフ…」
その薄れゆく視界にリーフと一匹の蝶々みたいな姿のポケモンを映すと同時に完全に意識を手放していった。
side―トウヤ―
「―ヒトカゲ…ジャンプしてかわして下さい!」
「カゲトォ―!」
そのアオさんの言葉に頷き、勢い良く宙に舞い一条の光線を回避するヒトカゲ。
「くっ…!? でも、次で当ててやる…確実にねぇ〜!」
女性はその事に驚きを隠せずに声を出してしまうも、空中に逃げ込んだヒトカゲに標準を定めようとする。
飛行タイプではないヒトカゲはもう回避する術は無く、確実に当たってしまい石化してしまう。
何とかしないと…!
「フシギダネ、彼奴の右腕に装着されたガントレットに向かって葉っぱカッターだ!」
「ダネ…フッシャ!」
フシギダネは素早く頷き、背中の大きな種から数枚の葉を飛ばしていく。
「――くぅっ!?」
すると、女性はその攻撃を予想していなかったのか…、それともヒトカゲを捕縛する事で頭が一杯にだったのか…対応を出来ずに一枚の葉によってガントレットを真っ二つに両断されてしまう。
彼女はその事に対して驚きの声を上げようとするも、時すでに遅く残りの葉っぱカッターを諸に喰らってしまい無様にも焦土と化した地面に倒れこむ。
僕は敵の姿を視界に映して、
「やりすぎたかな…? でも、まぁ…倒す事は出来たんだし…」
ポケモンの技を喰らわせた事にちょっと罪悪感を感じるも、戦いが終わったんだ…と思うとホッと一息つき、安堵する。
「―トウヤ君、安心するのは気が早いですよ。敵はまだ一人残っています」
アオさんの警告に心を引き締めると残っている最後の敵―筋肉質の男を睨み付ける。
睨まれた事で男は「ひっ…」と小さな悲鳴を漏らし、数歩だけ後退りする。
「どうしますか、まだやると言うなら相手になりますよ。勿論、正当なポケモンバトルでならの話しですが…」
ヒトカゲがアオさんの前に出ると小さくも鋭さが籠った唸り声を上げていく。
「その場合、凶薬は抜きでやるのを条件にさせて貰います…」
「くっ、くっそうぅぅ――!」
アオさんの冷やかな声に筋肉質の男は見っとも無い声を上げて逃げ出してしまう。自身のポケモンであるカイリキーを置き去りにして…。
「良いんですか、逃がしちゃって…」
またヒトカゲを狙って来るんじゃないか…と心配になり、アオさんに問い掛けるも、
「彼ら―ポケモン密猟団『ファンタシア』のヘッドは倒しました。ですから、頭をもがれた彼らはもう私達を追って来る気にはならないでしょう」
さらっと述べられる彼の最もな意見に納得してしまう。
「それにまだトキワの森に対しての危機は残っていますから…」
「そうですね」
その言葉に頷いてまだ周囲で煌々と燃える炎を視界に映す。
そして、アオさんと頷き合うと其々のポケモン達と共に消火作業に尽力していった。
side―メイ―
私は涼しくどこか心地良さを感じられる風に当たって目覚めていく。
「起きたのね、メイ」
「フリー」
すると、視界にはしゃがんで覗き込んくるリーフと先程の蝶々の姿をしたポケモンが映り、私はその初めて見るポケモンを不思議そうに見つめた。
そう、私達の中でこのポケモンを所持している人物はいない。その為になぜこのポケモンがリーフと一緒にいるのか一瞬疑問になり、う〜んと悩んでしまう。
その子は見つめられている事にきょとんとする。リーフはその光景を目前にして、私が不思議がるような視線を向ける理由に気付いたのか…一度何かを納得したような表情をするとその子について説明をしてくれる。
「そうだったわね、メイ―貴方にはまだ教えてなかったわね。この子はバタフリーって言って…私の手持ちポケモンの新メンバーなの。仲良くして上げてね…」
「そっか…よろしくね、バタフリー」
そのリーフの紹介を聞いてバタフリーに満面の笑顔を浮かべる。
「フリィィ――!」
バタフリーは受け入れて貰えた事を歓喜するとパタパタと両羽を動かしてフワリと宙へとゆっくり飛翔していき、私の頭上をクルクルと飛び廻っていく。
そのバタフリーのはっちゃけ振りに私はつい笑みを零してしまう。
「何だかこの子…元気一杯だね」
「えぇ…、これでも根は真面目な方なんだけどね」
リーフは笑顔を浮かべない物の、その声音は低くも優しさを感じられる。
「そうだ、ポッポ達は助かったのかな…それに火事は―!」
次の瞬間その事を思い出し周囲を見回していくも炎が見当たらなかった為に頭の中で混乱の渦が起きる。
「落ち着いて、メイ。もう消火の方も…ポッポ達の救助も無事に終わったわよ、全部ね。でも、火事の爪痕は残ったけどね…」
私のアタフタする様子にリーフは苦笑するも安心するように伝えてくる。でも、その最後の言葉には悔恨などが感じられた。
私もまた暗い表情になり、周囲に視線を彷徨わせていき、その凄惨な光景に息を飲んでしまう。
生気に満ち溢れていた草達は全て焦土へと変り果て…木々もまた葉が全て焼かれ、黒焦げになった本体だけが痛々しい姿で残っている。
その事に私はもし…もっと早くこの場に辿り着き、素早く消火活動をしていたら被害は今よりも少なく済んだのでは無いかなどと考えてしまう。
「行くわよ…メイ、ピカチュウ」
「うん…」
「ピッカ…」
考えていても仕方ないと思ったリーフが言葉を口にするとバタフリーを戻して歩き出し、ピカチュウもその横を歩き出す。
私もスッと立ち上がり、二人の後を追うように歩き出した。
トウヤ達と合流する為に…。
―to be continued―