End of the battle
side―リーフ―
「酷いわね、まさかここまでだなんて…。思いもしなかったわ」
「うん…、そうだね。―それにあの時と同じだ…」
私達は走りながらも、途中で見かける炎で焼かれ煙を上げている木々の無残な姿や燃え盛る炎から必死になって逃げ惑うポケモン達を目の当たりにしてしまう。
その悲惨な光景に何とか平静を保とうとするも、低くも悲痛な声を上げてしまう。
私の前を走っているメイもまた首肯し、小さな声で呟くと視線の先に何かを発見したのか急に立ち止まる。
「…メイ、急にどうしたの…?」
「リーフ、あれってピカチュウだよね…」
そんな彼女の様子に怪訝になるも、人差し指で示された場所へと視線を投げ一匹のピカチュウの存在に気付く。
「あのピカチュウ…もしかしてトウヤのかしら…?」
ピカチュウの尻尾についた傷跡や波乗りを繰り出している所を見て、トウヤのポケモンだと判断する。
同じ答えに辿り着いたメイと視線を合わせ頷き合い、消火する事に苦戦しているピカチュウの元へと走り出した。
side―アオ―
「ポケモンが大きくなって…」
「カゲェ…」
私達は徐々に体躯が大きくなっていくエレブーに対して驚愕してしまう。
「……」
だが、トウヤ君は驚いて居ないのか…嫌、まだ怒りを含んだ表情で不敵な笑みを浮かべる女性とエレブーを瞳に捉えていた。
「どうしたんだい、ガキ。アンタ、もしかして力を増したエレブーを目前に驚きすぎてて表情を変える事すら忘れたのかい。そっちから来ないならこっちからいかせて貰うよ、――エレブー…雷パンチだよ!」
「レェーブ!」
彼女の指示にこくりと頷き、熱を帯びた風を切って疾走していく。
「―速い!?」
その図体が大きくなったエレブーに対して私はパワーが上がり、スピードが下がったのではないのかと勝手に考え判断していた。
しかし、その予想を見事に裏切るかのように距離が離れた場所に立っていたトウヤ君の目前にあっと言う間に辿り着く。
「なる程ねぇ〜、パワーだけじゃなくスピードも上がって居たとはね。凄いね、この凶薬『E・B』は…。まぁ…、今はまずあのクソ生意気なガキからだね。倒しなエレブー!」
凶薬…なんなんだそれは…?
私は一瞬彼女の口から発しられた単語に困惑してしまうも、その彼女の冷徹な声と共にトウヤ君目掛けて放たれるエレブーの右拳が視界に映る。
だが、彼は全然かわそうとしなかった。
「―トウヤ君!」
私はそんな動こうとしない彼に叫び声を上げるのであった…。
side―トウヤ―
「―トウヤ君!」
危険を知らせて来るアオさんの叫び声を聞きながらも、動こうとしなかった。
―嫌、動こうとしなくても予想出来たんだ…相手が僕に向かって雷パンチを放って来る事ぐらい…。
そう、エレブーのトレーナーが敵意を含んだ瞳で僕を睨んで来た時から…。それは何かを企んでいるサインにも取れた。
―だから、
「フシギダネ、蔓の鞭で受け止めるんだ!」
「ダネフッシャ!」
直に対処出来る。
そして、フシギダネは僕の指示に素早く答え、一本の蔦を電撃を宿した右拳に絡めて受け止める―余裕を感じさせるような表情で…。
パワーアップしたと思われるエレブーの渾身の一撃を軽々と受け止めたのだ。
まぁ…、その威力はゲンスイさんのエビワラー程ではないが…。
「レブゥ――!」
自身の雷パンチを受け止められた事に対してなのか…、それともフシギダネの態度が気に入らなかったのかはわからなかったが、怒りの雄叫びを上げると今度は左手で瓦割をお見舞いしてこようとして来る。
「蔓の鞭でもう一度受け止めるんだ」
フシギダネは小さく頷き、それも背後に背負った大きな種から残りの蔦を飛ばし雁字搦めにして顔に直撃する直前で制止して見せた。
その事にエレブーは焦りが心の中で生じ、次第にそれが心を蝕んでいく。
「エレブー、落ち着きな。まだ負けた訳じゃないよ! 両手が塞がれても、まだ繰り出せる技があるじゃないかい…」
だが、そのトレーナーの叱咤に強く頷き、心の中で渦巻く焦りの渦を必死に振り払うとカパッと口を大きく開いた。
その口の中で光が収束されていく。破壊光線を撃つ気だ…。
「寄生木の種をエレブーの顔面に向けて放つんだ!」
「ダネダ…!? ――ダネ…ダネフッシャ―!」
予想外の指示に一瞬驚きの声を上げるフシギダネ。でも、僕の考えを理解すると直にエレブーの顔目掛けて寄生木の種を放つ。
すると、寄生木の種はエレブーのおでこにくっつき、一秒も経たない内に顔中に纏わりついていった。
「何してんだい、簿さっとしてないでパワーを溜めたんら速く撃つんだよ、破壊光線を!」
女性はやられてばかりのエレブーに痺れを切らして甲高い声で言葉を吐き出す。
そんな彼女の命令に答えようとするも纏わりつく寄生木の種の締め付けて来る力によって開いていた筈の口は無念にも抗う事が出来ずに閉じてしまう。
「―レェーブゥゥゥ―!?」
その刹那、破壊光線を吐く為に溜めていたパワーは行き場を失くした為に口膣内で爆発を起こしてしまい、その反動で開いた口からは爆発の余韻が黒い煙となり軌跡を残しながらも上空へと浮上していく。
「ダネ、ダネフシ!」
その出来た隙を見逃すまいと止めの指示を求めて来るフシギダネ。
僕はその要求に首を振って否定して見せると、
「もう、あのポケモンを攻撃しなくていいよ…フシギダネ。だって、もう戦闘不能状態になってるから。だから、僕達の勝利だよ…」
理由の言葉を述べていく。
両手に絡めていた蔓の鞭を解いてフシギダネは訝しげに相手を見つめるも、その瞬間ドサッと言う音を立てながら倒れていく姿を見て納得した表情を浮かべる。
「くっ、エレブー…。こうなったら、ブーバー…アンタがいきな!」
女性は悔しそうな表情で倒れたエレブーを視界に映すと、今度はブーバーに視線を移す。
だが、そのブーバーもまたアオさんとヒトカゲによって倒されていた。
「アンタまで…」
「これで貴方のポケモンは全て倒しました。それでもまだやりますか、ポケモン密猟団『ファンタシア』…!」
「カーゲトォー」
最後の手持ちを倒されショックを隠せない女性に対してアオさんが冷やかな声で問い詰めていく。
その声には冷たさだけでなく、怒りも含まれていた。
「……まぁ、いいさ。アタイはそのヒトカゲが手に入ればそれでいいんだからねぇ〜」
少しの間、沈黙してしまうも直に開き直って高らかな声を上げる。
ヒトカゲに向かって右腕に装着したガントレットを向けて来た。
「それは…」
僕は彼女の右腕についたそれを凝視する。
「こいつの名は『石化ガントレット』って言ってねぇ〜、あらゆる物を石化させちゃうのさ…。―だから、これを使って頂かせて貰うよ…そのヒトカゲをね!」
その言葉と共に石化ガントレットから一条の光線がヒトカゲに向かって放たれていった。
―to be continued―