The forest which is burst in flame
side―なし―
トウヤ達の妨害を受け、ヒトカゲを奪う事に失敗したカレンは苛立ちを募らせながらもある事を決意する―それはトウヤ達を血祭りに上げる事とどんな手を使ってでもヒトカゲを手に入れる事を…。
その決意の元…彼女は飛行船の中にある研究室へとやって来ていた。
ヒトカゲを手に入れる為に開発された捕縛装置を…。
そして、トウヤ達を倒すと言う目的で作られた凶薬を受け取る為に…。
「それでその二つの出来はどうなんだい…、ゼス」
両腕を組んで壁に寄りかかっているカレンが武器・薬剤開発チーム主任であるゼスに急かすような言い方で尋ねていく。
「はい、姉御…例の試作品はこちらに…」
白衣を着たゼスはその言葉に反応して、両手に持った物を見せる。
右手にはトウヤ達を倒す為に様々な薬を調合して作られた凶薬『E・B(Enhanced Body)』…。
左手にはヒトカゲを捕縛する為に開発された『石化ガントレット』が持たれていた。
「では、この二点について説明しますね。まずは、凶薬『E・B』についてですが…この薬はポケモン達の能力を五分間だけですが二段階上げる事が出来、多用する事によって継続時間を増幅する事が可能です。ですが、もし多用し続けた場合はポケモン達の今まで培―「あぁー、もう片っ苦しいねぇ―!」―姉御…話はまだちゃんと…」
ぜスの長い説明に聞き飽きたのか、カレンは引っ手繰るように彼の両手から道具を奪っていく。
「何だい、文句でもあるのかい…!?」
注意をする部下を鋭い眼差しで睨んで、黙らせる。
そんな部下の様子を無表情で見つめると直にその視線を自身が手にしている二つの道具へと移し、ギュッと握りしめた。
「彼奴らは必ずアタイ達の追跡から逃れる為にトキワの森に入るに違いない。そうなれば森林が邪魔になって上空から探し出すのが困難になるね…。でも、その時が彼奴らを探し出す―嫌、誘き出す絶好のチャンスだよ…。まぁ…、その分彼奴らからは怒りを買うだろうけどね。先回りして早く行動に移そうかねぇ」
カレンは何かトウヤ達を誘き出す為の秘策を思いつくと表情を歪め、小さくも冷たい声で笑い出す。
後にそれがトキワの森で甚大な被害を生み出す事になるとしても…。
side―トウヤ―
燦々と輝く太陽が二番道路を照らしていく。
僕達はその光を浴びながらも、リーフの提案でトキワの森へと急いでいた。
「リーフ、本当にトキワの森に入れば安全なんだよね…?」
「えぇ…、確実とまでは言えないけど少なくとも空からの追跡は逃れられる事は出来るし、今よりは状況がマシになると思うわ」
何だか不安になり、彼女に問うも強い声で肯定してくる。
実際、僕達がニビシティに着くまでのかかる時間は大体一週間位と思い、二番道路を三日間…トキワの森を抜ける事に四、五日間は必要だと見積もっていた。
だが、突如珍しいヒトカゲを連れた少年―アオさんに出会い、ポケモン密猟団『ファンタシア』に追われている彼を助けると決めた僕達は急ぐ為に二番道路を二日目の今日中に抜け、そのままトキワの森に入ろうと考えていた。
余りの暑さに参ったのか、アオさんが急によろめき、一瞬気が遠くなる。
「大丈夫ですか、アオさん…」
その隣を歩いていたメイが身を少し屈めながら心配そうな表情でアオさんを覗き込む。
そんな彼女の様子に「大丈夫ですよ」と小さな声で返すと笑って見せた。
僕はそんな二人の遣り取りをぼーっと眺めていると、
「見えて来たわよ、トキワの森が…。でも、何か…赤いのが見えるけど…?」
リーフが低くも確りとした声音で教えてくれるも言葉の最後には何かを不安がるような物言いをする。
僕は一瞬赤いのが見えると言うリーフの言葉に疑問を抱き、トキワの森の方向に視線を合わせる。と同時に映った光景に目を疑った。
その視線の先には炎上するトキワの森があり、驚きと共に怒りが募っていく。
「何だよ、あれ!?」
その僕の怒声に僕達の後ろに居たメイ達もその悲惨な光景を凝視してしまう。
「酷い…」
「これは一体……八ッ、もしかして…!?」
メイは口元を両手で覆い、大きく開いた瞳は揺らいでいた。
そして、アオさんも驚くも何かに気が付いたのか直に表情が驚きから怒りの物へと変わっていき、急にトキワの森へと走り出す。
「えっ…、アオさん!? ちょっと…」
僕は呼び止めようとするも、
「メイ、どうしたのよ!? ……確りして!」
急にドサッと何かが倒れ込む音とリーフの慌てる声が後ろから聞こえて来て、慌てて背後へと振り向く。
急に座り込んだメイはクロスさせた腕で両肩をギュッと握りしめ、肩が激しく上下する程の呼吸をしていき最後には苦しいのか瞳が涙で潤んでいた。
その綺麗なスカイブルーの瞳は虚ろな物へと変わっていき、生気が全く感じられない。
「これって過呼吸……どうしよう、トウヤ」
苦しむメイの姿を目前にして何も出来ない自分自身に対して悔しさで一杯になったリーフが涙目で救いの手を求めるような眼差しを向けて来た。
「―もしかして…!?」
僕はメイが過呼吸を起こした理由に気付くと直に炎上しているトキワの森へと視線を移した。
そうだ、メイはこの光景を見て思い出したんだ。メイの故郷―ヒオウギシティが火事にあった時の事を…、メイの両親が亡くなった辛い過去を…。
じゃぁ…、メイはその自分自身のトラウマである過去に似た光景を見て過呼吸になったんだ。なら、早くあの火事を何とかしないと…!
そうすればメイの過呼吸も良くなる筈…。
僕は考えを纏めると、取り乱しているリーフの肩にそっと手を置き、
「落ち着いて…リーフ。僕がトキワの森に行って、あの火事を消火してくる。だから、…君はメイが落ち着くまで傍に居てあげて。出来れば、炎上しているトキワの森が見えない場所までメイを移動させる事」
まず彼女に落ち着くように言い聞かせ、心の中で固く決意をしてリーフに何とかしてくると訴えていく。
リーフはメイを胸に抱き寄せて、僕を見上げると頼まれた事に対して「わかった…」と小さく頷いた。
「頼んだよ、リーフ…」
その一言を残して風を切って走り出す。
途中、トキワの森から逃げ出してきた野生のポケモン達と擦れ違うも気をそっちに向けずにずっと視界には煌々と燃え滾る炎に身を包んだトキワの森を捉えていた。
「早くあの炎を何とかしてメイの笑顔を絶対に取り戻さないと…。アオさんも心配だし…」
side―なし―
「くっ…くくく…アハハハ…! もっと燃えな、燃えちまいな! ブーバー火炎放射だよ」
「ブーバァ―!」
周囲の草木がメラメラと燃え、熱を帯びたその場所で顔に傷を負った一人の女性―カレンの指示により、彼女のポケモン―ブーバーが自然を燃やしていく。
「スピッ!」
「フリ―!」
「ポッポォ―!」
「ピィーカ!」
「ケッ…、姉御の邪魔はさせねぇ…。カイリキー、受け止めろ!」
住処を襲われた事に怒りを覚えた野生のポケモン達が攻撃してくるも、それはゲイルが繰り出したカイリキーの四本の腕で全ての技が受け止められる。
野生のポケモン達はその光景に一瞬怯んでしまう。
「そっちが来ないならこっちから行くぜぇ…! カイリキー、岩石封じ!」
「ヒトカゲ、青い炎です!」
カイリキーは頭上に作り出した大きな岩を放つも、その刹那に別の方向から放たれてきた青い炎によって相殺される。
その出来事にゲイルも野生のポケモン達も驚きの表情をしてしまうも、
「やっと来たんだね、――坊や!」
カレンは瞳に映るアオとヒトカゲの姿に高笑いを上げるのであった…。
―to be continued―