Contact with a rocket team
side―なし―
真昼の暑い時間帯…。
気温は三十度を超え、鬱蒼と茂る草の中を行き交う野生のポケモン達は大量の汗を体中から流していく。
その地獄のような暑さの中で黒ずくめの衣装を身に纏った五人の男達が歩いていた。
「暑いぜぇ…」
「もう疲れたんだけど…」
男達は足をふら付かせ、文句を言いながらも目的地であるニビシティへ着く為にまずその途中で通るトキワシテへと向かっていた。
その男達の歩く前方で一人余裕を見せるかのような足取りをする者も居た。
「ゲシシッ…、お前らもうこんな事で弱音を口にするなんて…。そんな事じゃ、ロケット団の恥だぜ―おい、もっとテキパキ歩けよ。ゲシシシッ…」
その男が特徴的な品のない笑い声を上げると同じロケット団の同僚達を揶揄するような物言いで貶していく。
「だけどよ、カイン…こんな暑さじゃ、誰でもへばるぜ。なぁ…?」
一人の同僚がバカにしてくるカインにイラつきを募らせていくも、みっともない言い訳を述べ、他の者達に同意を求める。
求められた者達は刻々と深く頷き、同意を示す。
「ゲシシッ…、情けない奴らめ。トキワシティにあるロケット団の隠れ家で一時的に休憩出来ると言うのに。こんな所でバテるとはそれでもアクア様の――むっ…、あれは…」
一瞬別の所で行われていたバトルの様子が気になり、視線を向けると波乗りを繰り出してマンキーを倒すピカチュウの姿が映る。
そのカインの行動に促され、他の同僚達もピカチュウへと視線を移し、驚いてしまう。
「波乗りを使えるピカチュウか…、興味深い。ゲシシッ…」
そのピカチュウを心から欲しいと欲望を抱き始めるカイン。
彼はこれからどうやって勝利した事に喜びを感じている少年からあの波乗りピカチュウを奪うのか策を練っていくのであった。
side―トウヤ―
時間帯が夕方になり、上空で煌々と輝く夕日がとても美しかった。
でも、今の僕にはそんな綺麗な夕日を眺める余裕がなく、今自分を取り囲むかのように立ち塞がる野生のポケモン達を振り払う為に脳をフル回転させ、打破できる策を必死になって模索していく。
そう、前方も左右も後方も全ての方向から敵に囲まれ、完全に包囲されている―そんな最悪な状況であった。
目前では何か策を思いつく為の時間を戦う事で稼いでくれるフシギダネとピカチュウの二匹が居た。
ピカチュウ達はその状況下に立たされても諦めていないのか、その瞳には強い意志が宿されている。
そして、そのピカチュウ達の近くには目を回しながら、情けない恰好で倒れている野生のポケモン達の姿があり、この二匹がどれだけ強くなったのかを物語っている。
「ピカチュウ、フシギダネ…まだ行けるか…」
「ピッカ!」
「ダネダーネ!」
そんなピカチュウ達に嬉しさと頼もしさを感じるも、息を切らしながら傷だらけの体で戦い続ける二匹に対して次第に不安になっていき、声をかける。
すると、二ドラン♂に向かって新技―葉っぱカッターを繰り出すフシギダネが…。
攻撃を喰らわせる為に急降下してくるオニドリルを新しく覚えた技―影分身でかわして電気ショックの一撃で倒したピカチュウが力強い声で返事を返してくれた。
「よし、ならまずは正面突破だ―ピカチュウ、波乗りで前方に居るポケモン達を蹴散らすんだ。フシギダネは葉っぱカッターで波乗りを阻止しようとピカチュウに襲い掛かってくるポケモン達の排除に回ってくれ! ―いいな…?」
戦闘態勢を取っているピカチュウは返事を返す代わりにピンッと尻尾を振って見せた。それが昔からの付き合いである僕には了解したと言う了承のサインだと理解出来る。
ピカチュウは僕に指示された技―波乗りを繰り出す為にどこからともなく大波を作り出そうとする。
だが、その事に集中する隙だらけのピカチュウに好機と見た前左右から包囲していた野生のポケモン達が其々の技でピカチュウに襲い掛かっていく。
オニスズメやオニドリル達はドリル嘴で、二ドラン♂やニドラン♀、コラッタは全身に力を込めた渾身の体当たりで―マンキー達は力を込めた右手で空手チョップを…。
しかし、フシギダネの葉っぱカッターによってその行為は阻止されていき、最後にはピカチュウの乗った大波にのまれ、戦闘不能になっていく。
それは野生のポケモン達だけではなかった。
「ピィッカ…チュ…」
「ピカチュウゥー!?」
その多くの野生ポケモンを倒した本人であるピカチュウもまた消えていく大波から何とか飛び降り、地面に着地するもその足元はふら付き、一瞬にして崩れていく。
そんなピカチュウが心配になり駆け寄りたいと衝動に駆られるが、
「ダネダー!」
「何だよ、フシギダネ!」
フシギダネの必死に呼び止めるような声に反応し、後方を振り向くとその方向に居た野生ポケモン達がこちらに向かって来るのが視界に映った。
その事を目前にして倒される事に対しての恐怖が全身を駆け巡っていく。
でも、
「タッツー、濁流!」
聞き慣れた声と見覚えのあるポケモンが黒く濁った大波に乗り、野生ポケモン達を次々と倒していく様子にその助けてくれた人物の姿が脳裏を過ぎる。
「トウヤ、フシギダネ大丈夫…?」
「うん、大丈夫だよ。有難う、おかげで助かったよメイ」
その気遣うような声をかけてくるメイに頷き返し、お礼の言葉を述べる。
メイはその急にかけられてきた感謝の言葉に恥ずかしがる事なく、明るくどこか清純さを感じさせる笑顔を浮かべてきた。
「そっか。じゃぁ…、どのポケモンをゲットしよっかな…?」
その言葉を口にするとタッツーの濁流により倒されたポケモン達へと視線を向け、う〜んと一瞬悩みながらポケモン達を見回していくも一匹の二ドラン♀を捉え、気に入ったのか口元が緩む。
「あの子に決めた。行け、モンスターボール!」
鞄からモンスターボールを取り出すと勢い良く投げ飛ばし、目標であるニドラン♀に当たると同時にボールがカパッと開き、その中へと誘っていった。
もう戦う体力が残っていないニドラン♀はモンスターボールに入った後も抗う事なく、簡単にゲットされていく。
「やった、二ドラン♀ゲットだよ、タッツー!」
「タッツ!」
ゲンスイさんに教わったとうりに行い、二ドラン♀をゲット出来た事に心から喜ぶメイ達であった。
「おめでとう、メイ。…でもさ、ちょっと飲み込みの速度早すぎないかな…?」
僕もまたピカチュウを回復させ、疲れている二匹をモンスターボールに戻すとメイに心から思った気持ちを言葉にして送る。
心の片隅ではその彼女の成長の速さに驚かされていた。
side―リーフ―
「ふ〜ぁ…、やっと全部読み終わったよ。大体十四時間位読み続けていたかな…、何だか目痛いけど…仕方ないわね」
書庫の窓から一つの柱となって降り注いでくる強くもない月の光を目に焼き付けながら、読み終えた本を元あった場所へときちんと戻していく。
目や肩に極度の疲れを感じると頭上高く持ち上げた両手でう〜んと思いっきり伸びをして、首を動かしていった。
ポキッ…パキッ…と途中で首の関節の音が鳴り、それで首の方もどれだけ疲労が溜まっていたのかを理解し、その事に気付けなかった私自身に苦笑してしまう。
まぁ…、あれだけ本に没頭してたから仕方ないよね…。
「じゃぁ…、気分転換に外にでも出よっかな…。その時はゼニガメ達も出してあげないと…」
重い腰を何とか上げて立ち上がるとミニスカートについていた埃を払い、ドアへと向かっていった。
「あっ…、ゲンスイさん…」
「おぉ…、リーフか。書庫から出て来たと言う事は全ての本の内容をマスターしたんじゃな」
「はい、何とか決められた時間内に…」
書庫から出て来ると突然ゲンスイさんと出会い、今日の修行を終えたかと聞かれる。
私がその事に対して首肯するとゲンスイさんは少し驚きを含んだような表情へと変わっていった。
「こっちも案外終わるのが早かったわい…」とボソッと小さな声で呟いていた。
その「こっちも」と言う単語が気になり、一瞬頭を抱えるもある事が思いつくとゲンスイさんに訊ねる。
「あの…、もしかしてメイのポケモンの基礎固めはもう終わってたりするんですか…?」
「うむ、そうじゃ。メイの奴は直に基礎が確りとした物になったから、トウヤの居る二十二番道路に行かせたわい…」
「えぇ…、そうなんですか!?」
その事実に驚きと心のどこかで焦りを感じ出すと早く自分も二十二番道路に行って二人に混じりたいと言う気持ちが次第に強くなっていく。
そう、二人に遅れを取りたくない…そんな強い気持ちが…。
「私も二十二番道路に行きますね。二人に遅れを取りたくないので…」
その強い気持ちに突き動かされ、即座に二十二番道路へと向かっていった。
その思いが私にらしくない行動を取らせていく。
「なっ…、おい待つんじゃ…。今日はもう遅いから…って、行ってしまったわい。リーフの奴は冷静で聞き入れが良い性格だと思っていたが…」
ゲンスイさんは一つ深い溜め息をつくと「まぁ…、こうやって互いの事を刺激しあうのは良い事かもしれんのう…」と小声で呟いていた。
side―リーフ―
朝から昼までにかけて高かった気温は時間が経つと共に低くなっていき、涼しい風が腰まで伸びる長い黒髪を攫っていこうとする。
それを右手で押さえながらも、悪戯風の涼しさに心から安らいでいき、その気持ち良さにそっとエメラルドの瞳を細めた。
今日ずっと書庫に籠って殆ど外に出ていなかったせいか、少し気持ちが鬱になりかけていた。
それに…、
「ミニリュウ、ゼニガメ御免ね。今日はずっとモンスターボールにいれっぱで…、やっぱり昼は外に出て遊んでたかったよね…?」
「ゼーニ!」
「リュウー!」
ずっとモンスターボールの中に入りっぱなしであったゼニガメ達もストレスが溜まっているだろうと考え、歩くなら一緒にと思い二匹を小さなボールから無窮に広がる外の世界へと出していた。
本当に出して正解だったかな…。二匹共何だかリラックスしてるし、そんな二匹の姿を見て私自身の気分が良くなってきている。
「良し、じゃぁ皆…早くトウヤ達を見つけて私達も……あれっ、貴方…誰?」
私はニコリと小さく笑って大切なポケモン達に話しかけていくも、突然視界に映ってきた謎の黒尽くめの男を訝しげに思い問いかけた。
side―カイン―
あの波乗りピカチュウを喉から手が出る程欲しいと思った俺はその後、一度トキワシティの隠れ家まで行き、作戦を練って彼らが寝静まった深夜に決行しようと決め、今またここ―二十二番道路に再び来ていた。
作戦の名は「寝静まった時にピカチュウをこっそり頂まチュウ作戦」で、作戦の内容はその名のとうりに全員が寝静まった後にピカチュウを奪うと言う結構簡単な物である。
同僚達に「お前ネーミングセンス無さすぎ」と言われ、表面では「ゲシシッ…」と笑い返してやったが内面では傷ついていた。
其れだけじゃない、一緒に来てくれと頼むも散々笑った後に直に断りやがる。
ゲシシッ…くそぅ…皆、俺の事笑いやがって…後で見てろ。必ずあの波乗りピカチュウを奪ってアッと驚かせてやる。
「おい、ガキ…悪いがそこを退け、ゲシシッ…。今の俺は虫の居所が悪くてイライラしてるんだ。早く退かないとどうなるかわかっているよな…」
目前に立つ少女に向かって怒声を上げると命令口調で指図していく。
その少女を守るかのように二匹のポケモンが立ちふさがり、少女もまた怯える所か逆に戦意を宿した瞳でこちらを睨みつけてくる。
「貴方、ロケット団ね…。何の目的で現れた訳、もしかしてここに居るポケモン達に悪さしようとか考えているんじゃないでしょうね…」
「ゲシシッ…、バカめ。そんな小賢しい真似をこの俺がやる訳ないじゃないか、何途中で見た珍しいピカチュウを奪いに来ただけだ」
「珍しいピカチュウ…、もしかしてトウヤの…!?」
一瞬驚く少女の言葉から誰か知らない名前を聞き、考えていく。
「ゲシシッ…、そうだ」
そして、それがマンキーに勝った事で喜んでいた少年の名だと気付くと不敵な笑い声と共に肯定する。
「そうなんだ…」
その言葉に一瞬静かになる少女。
ポケモン達はその主人の反応に困惑してしまい、一瞥したりするも表情は被っている帽子によって遮られ、良く見えない。
だが…、
「させないよ…」
「ゲシッ!?」
暫しの静寂の後…、突如聞こえてきた少女の怒声にビクッと驚いてしまう。
「ピカチュウを貴方なんかに奪わせたりしない! ―絶対に…」
その怒声と共に上げられてきた瞳にはもう誰にも大切な人達を傷つけさせないと言う強い意志が宿されていた。
ーto be continuedー