Under practice
side―リーフ―
トウヤが二十二番道路でバトルに明け暮れ、メイがゲンスイさんに徹底的にポケモンの基礎を叩き込まれたりと其々の修行に精を出している―一分でも、一秒でも無駄にしない為に…。
私もまたそんなトウヤ達に遅れを取らない為に、今家の中の奥にある書庫の前へとやって来ていた。
目前の重厚なドアを開いていく。
「ごほっ…ごほっ…、ここ埃凄いんじゃないの…くしゅん!」
ドアを開いた瞬間に突然書庫の中から沢山の埃が宙へと舞い上がり、私の元へと飛んでくる。
その一瞬の出来事に対応できる訳もなく、即座に咳とくしゃみの悪循環に陥ってしまう。
「グス…、何十年掃除してないんだろう。―あの人…」
グスグスと赤くなった鼻を人差し指で擦りながらも、書庫を掃除していないゲンスイさんに対して心に思い浮かんだ本心をぶちまけてしまう。
だが、本人は今傍にいない。
そんな人に向かって文句の一言二言口にしても意味がなく、唯の憂さ晴らしにしかならない。
それよりも今はその彼に言われたとうりにポケモンについての知識を吸収していかなければ…。
何とか気持ちを切り替え、ポケモンに関して纏められた本が収納された一つの本棚を探し出す為に視線を埃塗れな書庫の中で彷徨わせていく。
すると、妙に他の本棚よりも大きな本棚を見つけ、気になり近づいて見る。
「この本棚だね。―でも、これ全部読むのって骨が折れそうかも…」
沢山の本が一番上の段の左側からタイトル順に綺麗に収納されていた。
そのゲンスイさんが全世界から集めてきたデータを纏めた本の数は彼が言っていた数十冊ではなく、百を軽く超えていそうでその全てがポケモンバトルなどの物だと考えると驚きの余りに絶句してしまう。
そして、この全ての本を読み上げ、その内容を完全に把握しなければならないのだ―しかも、一日と言う期限付きで…。
無茶苦茶すぎて、何だか頭が痛くなってくる。
「でも、もしこの全てを覚える事が出来たら、今後のバトルで絶対に優勢に立てる筈だから…頑張らないと! そしたら、いずれお兄ちゃん共…」
そう、この三日間の修行を遣り終えた時、どれだけポケモントレーナーとしてのレベルが上がっているのかを想像し、それを実現して有名になれれば音信不通になってしまっているお兄ちゃんとの再会を果たせるかもしれない。
そして、これはその私の旅の目的であるその兄との再会やポケモンリーグ優勝を叶える為の礎で…。
私にとって最初で大切な一歩になるに違いない。
―だから…。
「やらないと、私の目的を達成する為に…!」
心に纏わりついていためんどくさいと言う感情を振り払うかのように強い声音で本心を言葉にすると、適当にあった本を手に取っていく。
その本のタイトルは『ポケモン 全特性収録図鑑』。
手に取った瞬間、その本の分厚さにポケモンの特性を書き留めるだけでこんなにページ数が必要なのか…と驚き、疑問になる。
だが、表情を怪訝そうにしながらも、本を開き始めると一つの特性の事についてびっしりと書かれていた。
その特性が如何いう物かは勿論で、その特性を持つ全ポケモンの種族名や特性がバトル以外で如何効果を齎すのかまで…。
全てが綺麗な字で詳細な部分まで書かれていた。
「凄い…」
その隅々まで書き込まれた特性の詳細に心から感服する。
その無駄のない必要な要点を纏められた今開いているページから知識を吸収していくと次のページ…その次のページと次々と読み上げていき、吸収していく。
side―ゲンスイ―
「凄い、ここまで飲み込みが早いとは思いもしなかったわい…」
わしは今、一つのホワイトボードがある部屋でポケモンの基礎がなっていないメイに対してタイプの相性や毒直しなどと言ったポケモンバトルで扱われる各道具などについて教えていた。
だが、席に着いていたメイはその事をすぐに理解していく為にその飲み込みの早さに驚いていたのだ。
「他には、何か教わる事あるんですか…?」
メイはそんな驚いた表情になっているわしに小首を傾げながらも、他にないのかと訊ねてくる。
「嫌、他には…何も」
「じゃぁ…、私はトウヤの所に行って一緒に修行してきますね」
他に何もないと知った彼女は手提げバッグを手にあどけない笑顔を浮かべるとすぐにトウヤの元へと向かっていった。
まぁ…、ちょっと教えるだけですぐに理解してしまうあ奴の頭の良さには吃驚したが、基礎を教え上げた後はトウヤの方に行かせるつもりじゃったし…。
「じゃが、あ奴ら教えがいがあるわい。それにもしかしたら、―嫌本当に彼奴を止めてくれるかもしれんのう…」
side―トウヤ―
リーフが書庫に籠ってより多くのポケモンの知識を得る為に本に没頭している頃、僕はゲンスイさんに言われたとうりに二十二番道路で経験を積む為に唯ひたすらに草原と言う名のバトルフィールドでポケモンバトルに明け暮れていた。
そして、今―ぶたざるポケモンのマンキーと壮絶な戦いを繰り広げていた。
「ピカチュウ、電気ショック!」
「ピィーカッチュ〜!」
ピカチュウがマンキーに向かって両頬から電気のエネルギーを放出していくも、それはマンキーの柔軟な動きによって次々とかわされていった。
その攻撃が当たらない事に対して次第にイラつきが募っていく。
「ウッキッキ〜」
その必死になって攻撃を指示する僕をバカにするように笑いながら、お尻をこっちに向けてペンペンと叩いて見せてきた。
そのマンキーの小馬鹿にしてくる態度に一瞬怒りが爆発しそうになるも深く深呼吸して自身の中で渦巻く怒りを一端静まらせ、脳裏で何かこの素早いマンキーを倒す方法はないのか模索していく。
あのマンキーの素早さは本物だ、現にここで戦ってきた二ドラン♂や二ドラン♀もまた凄まじい程の攻撃力を持っていた。でも、その時は相手の動きを封じたりして何とか倒せたから…今度も、何か手がある筈だ。
―そうだ、攻撃範囲が広い技なら。波乗りなら、もしかしてこのすばしっこいマンキーを倒せるに違いない。
「ピカチュウ、波乗りだ!」
「ピィッ…ピィッ…、ピッカ!」
ピカチュウは疲れた表情で息切れをしていた。その状況から後少ししか戦えないと言う事も理解できた。
しかし、その疲れ切った表情には想像つかない程の元気な声で応じてくれる。
ピカチュウはサーフボードに乗るような体勢を取り、どこからともなく突如現れた大波に乗っていき、それがバトルフィールドとなる草原全体を覆い尽くしていった。
「ウッキィ〜!?」
そのフィールド全体を覆い尽くす程の攻撃を避ける事も出来ないマンキーは諸にダメージを喰らってしまい、戦闘不能になってしまう。
「やったな、ピカチュウ!」
「ピッカチュ!」
そのびしょ濡れになって倒れているマンキーを見て、勝利した事を確信すると自然に胸の中から嬉しさが込上げてくる。
それと同時に心の中ではある一つの思いが生まれてくる。それは僕のポケモン達と一緒ならどこまでも強くなれると言う思いが…。
だが、そんな僕達を物陰から不敵な笑みを浮かべながら、見つめてくる黒ずくめの男達の姿に気が付く事が出来なかった。
その男達の胸元に「R」と言う文字が描かれていた事にも…。
―to be continued―