boring place for him
side -なし-
目を閉じていて、空の青さが感じられ、光で瞼がほんのりと熱を持ち、それが色を伝えてくれるのだ。
太陽が雲で翳った時なども瞼を通す光と熱の加減で分かっている。
フェンス越しに居るトウヤは深く息を吸い込んだ。
ここは、トウヤが入院しているイッシュ地方のヒウンシティにある総合病院の屋上。
トウヤは何時も不安になると高い所から町などを見下ろすことで心から不安を和らいでいた。
すると、階段を上ってくる足音が聞こえてきたため、トウヤは怠そうな目で上ってきた看護師を見る。
「はぁっ…はぁ……はぁ! 見つけました……よ、トウヤ君」
「はぁっ…、本当に……しつこいですね、あなた! もう、……いいんです。僕の体は日に日に弱くなっていって、最後には、…もう」
トウヤは己の中にあるー死への恐怖ーを抑えながら言い放つが、最後にその募っていた不安がこぼれ落ち、その不安から逃れようとしていた少年の瞳には生気を感じられなかった。
「……」
トウヤの今までに募ってきた弱っていく自分の体へのー不安ーと自分の寿命がもうもたないという真実を知っていることからできるー死への恐怖ー。この二つをぶつけられた看護師は、…ただ……ただ黙っているしか出来なかった。
トウヤは無表情で、でも低くまだ鋭さを残した声で、
「もう…、行きますんで」
そう、告げると左右の手に握っている自身の松葉杖を使って、病室へと戻っていた。
side -なし-
ここは診断室。
「あ…あの、すみませんでした。わ、私がトウヤ君に手術を受けるように説得しに行ったつもりが、……逆に私が…。途中で、どうしたらいいのか……本当に、わからなくて。ーーあの、私」
「……もう、いいよ」
アタフタしながら、謝って来る看護師にトウヤの担当である医師が苦笑しながら、「大丈夫だから」と看護師に言った後に座っていた椅子から立ち上がり、幾つものレントゲン写真が貼られているホワイトボードがある場所に歩み寄り、立ち止まると今度は考え始めた。
(……トウヤ君の病気は拡張型心筋症だね。……てことは、突然死もあるってわけだ。でも、トウヤ君は激しい運動をするはずがないから、急な心臓発作を起こす可能性は、ない。だが…、徐々に思うように動かなくなっていく体に焦りを感じて何か起こったら。)
と頭の中で幾つ物の病気の悪化の可能性やそれへの対策を考えていくがそれを一時中断し、アタフタしていた新人の看護師であるホシノを呼ぶと
「ホシノ君」
「…はい」
「トリート地方で受け入れしてくれる病院は見つかったのかい?」
「……いえ、まだです。やっぱり、いろんな病院に電話しても、世界一番の医療を誇るトリート地方ですから、『他の地方からの患者も受け入れているため、一杯だから、他をあたってくれ』って言うのがリピートしてまして」
その真実を言われても、医師の瞳には強い意志が残っていた。しかし、ホシノはそんな意志にもう一つ爆弾を放ってしまった。
「それにトウヤ君…、まだ手術を拒んでるんですね。ですから、その不安を取り除くために屋上に行ってたんですよ。だって……、トウヤ君は後…少ししか生きられないから…」
だが、医師はホシノを見て、不安な自分に言い聞かせるように言った。
「大丈夫…。トウヤ君なら…、きっと」
「先生」
ホシノはそんなヒコボシを見ていられなくなり、目を逸らした。
side -トウヤ-
僕は夢を見ていたーー自分の右足が使えなくなった日の夢。
ベッドの上から起き上がろうとしても、右足だけが動かず、人形のように倒れていき、最後に感じられるのは倒れた時の痛みと何故自分の右足が動かないのかという疑問。
「あれ……、どうなっているの…? 右足が可笑しいな…?」
嘘だ……、だって昨日まではちゃんと動いていたのにちゃんと歩くこと出来たのに。なんで…、なんでなんでなんで。こんなの、嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソダ。…ダレカタスケテ…。
僕はそう思うと自身の両手で無我夢中になりドアの所まで行き何とか立とうと藻掻くもその行為は無駄に終わる。
「だ、誰か助けてよぉぉぉぉっ!」
ー…ウヤ…ー
どこからか呼ぶ声がした。
「誰…?」
僕はキョロキョロと室内を見回すも誰もいなく、ただ床に這い蹲っている僕しかいない。
だが、また声がする。
ートウ…ヤ…ー
その声がした方に振り向くと眩しい光に包まれた。
ーto be continuedー