第一の神獣 さいしゅうへいきR=ティマタキア
人は闘争を自覚することはない。
何かが起きた時、人はそこから目を背け、無くしてしまおうとする。
消えてしまうもの、見たくもないもの、それらを受け入れる術を、人は持たない。
可愛いもの、強いもの、人は逃げるようにそれを愛し、陶酔する。
それは自らが定めた害を遠ざける程に大きな力を持ち、ポケットに入るくらいに小さい。
それらは神から与えられたものか。
否、それは人の知恵。
人間そのものの姿なのだ。
「神は実在した……こんなにも、近くに。」
エーテル学園(略称)校長室。
この学園が後にウルトラビーストの収容教育機関になるのは、まだ先のお話。
現在のエーテル学園には人間の生徒が通っているが、これはまだ仮の状態に過ぎない。
今にして思えば、あの部活の発足が、そもそもの始まりだったのかもしれない。
「代表、瞬間的ではありますが、やはり現存するUBの能力を上回る数値で記録されています。」
「しかもそれが、学園の生徒と接触していると……ビッケさん、Rの起動に必要なエネルギーは、神々への恐怖、で間違いないですね?」
「古代シンオウ天空人の残した文献によればその通りですが、いまのところ、Rが過去にリバースメガシンカによって起動した痕跡はありません。人間に神を恐れさせるのは、本質的には不可能です。怪獣のようなポケモンの神は存在しても、彼らもまた、我々の観測内の力しか秘めていません。人間は既に神をポケモンとして認知してしまっているんです。」
「大人はね……けれど子供達なら、可能性はある。」
ビッケはひと束の計画書を手で押さえる。
ウルトラVRシステム正式稼働による危険性は、今の所存在しなかった。
初期段階であれば問題など存在しないのは当然だからだ。
「よいですか。広布は学園が行うのではありません。これはエーテル支部の仕事です。」
「では、直ちにザオボー支部長に連絡を」
「ええ、そうですね。何か成果があれば、彼を今後のUB保護計画の、教頭くらいには昇格してさしあげましょう。ウフフ……。」
カツーーン
代表のルザミーネが、扉に向けるが如く、大きなピンヒールの音を立てる。
物音がする。
足音だ。遠ざかっていく。
足音の主の名前は風間淳(かざまあつし)。
彼はこの騒動をいち早く察知していた。故に最初に神に恐怖したのは彼だったのだ。
運命がずれていたとしたら、その時点であって、それはもう手遅れ以外の何者でもなかった。
「ぜぇぜぇ……やはりさいしゅうへいきR、ティマタキアは存在する……どうする……もうすぐ例のゲームが始まってしまう……ちくしょう、俺には、どうする事もできないのか。」
真夜中の学校を逃げる彼の脳裏に、言葉が浮かんだ。それは直接話しかけられたとか、思いついたとか、そういうレベルの話ではなかったのだ。
ー屋上だ……完全なる……三……角……Δのちから……!
彼の足は屋上へ向かった。
自分でそう決めたのだ。そうとしか思えなかった。
扉を開ければ風は吹いた。だがその気流は息吹を持ち、鼓動を感じる程に高鳴った。
「俺の中を風が走る……!俺に力を貸してくれるのか!」
ー己れは気流と成るか
「そう成らざるを得ないようだ!」
彼はそれを恐れなかった。
それは彼の恐れにはならない。
これから彼を恐れることになるのは、神の方だからだ。