光中くん、サンムーンを欲しがる
今日は息子の光中と、近所の中古ゲーム店にやってきた。そろそろオメアルが1000円くらいになっている筈だ。
企画元に収入の向かう新品を公式店で購入するべきなどというプライドは持っているが、いやあえて言えば、中古ゲームなどを買うつもりはない。
ただ一人のファンとしては値段の変動は気になるわけだ。
「むむっ、この前までここにあったDSの相棒が消えている……地味に狙っていたのに」
「パパー!これ買ってー!」
「そ、それは……!」
やはりか。光中が持ってきたのは最新作、ポケットモンスターサン。
だが経験から察するに、ポケモンナンバリング業界における今作の立ち位置は、大きく見積もってブラホワ2がやっとであろう。
こんなお祭りソフトを買うのは、エックスワイ購入タイミングを逃したけど、罪悪感のない定価で、しかも古い環境はイヤーンとか寝言を抜かすピカチャンや携帯画面見てるようなメガパンピーに違いない。
「いかん!やめておけ光中。サンムーンはハズレの匂いがする。最近のポケモンは初見ユーザーに優しすぎる。それは金とモデリングが余ったフリークどもが、未だに脳内がカントー住まいの初見ユーザーにハワイ旅行でもプレゼントして喜ばせようなどと目論んだ末の実験ソフトなのだ。人体実験の片棒を担ぐつもりか!」
「言ってる意味はよく分からないけど、僕はまだVCポケモンしかプレイしてないよ。2017年のドットジェネレーション世界に生きてるんだよ。」
「ぬぬぬ、既にお得意様と化していたとは、まさに御用達!だが断る。この店ではトレーディングラバーストラップとかいう恐ろしい購入特典を用意しているのだ。そんな転売ヤーが喜びそうな特典を与えるわけにはいかん!欲しくないポケモンのラバーが出たらどうする!一生後悔するぞ!ソフト四つ買って四種類出るわけじゃないんだぞ!」
「うわーん!やだやだー!南の島でトリプルヒロインでハーレム体験したいよー!」
「それはアニメの中の話だ!ゲームとアニメと現実の区別くらいいい加減付けなさい!」
「フフフ、購入に踏み切れないでいるようだな!ゴールド!」
会計中のレジから呼び止める声!見知った子連れの親が、奥に引っ込む店員さんの到着を待っていた。
「シルバー!お前がこんなポイント利率の凄まじく悪い店にいるとはな。」
「ああ、ポンポン溜まるとか聞こえのいい文句にすっかり騙されたぜ……そんな事はいい!貴様、どうやらまだサンムーンのストーリーをインターネットバーチャルの世界レベルでしか体感していないようだな。甘すぎると見た!」
「なんだと……!いや、一応実況動画の視聴は避けているが……!貴様まさか!既にアローラなのか!リージョンシルバーなのか!?」
「商品はこちらでお間違いないでしょうかー」
シルバーの前の店員が持って来たのは、異様に小さい黒ビニールが付いたパッケージ。
ポケットモンスタームーン!店舗初回限定ラバーストラップ付属バージョン!店名は調べればすぐ出る!
「お父さん、早くラバーストラップを開けてください。今度こそモクローを当てるのです。」
「まて雷中、こういうのは店を出てからがマナーだ。」
「失礼いたましました。」
異様に礼儀のいい息子に一言告げると、支払いを済ませたシルバーが歩み寄って来た。
「シルバーお前……今度こそ、とはどういう意味だ。それ一体いくつめ……」
「ふっ、違えるなゴールド。俺は初期ポケモンのメス個体狙いとゲーム購入を同列に考えるほどの愚かなトレーナーに堕ちたつもりもなるつもりもない。これが二つ目さ。息子にはサンを買ってやったのさ。」
「いいなー!雷中くん買ってもらったんだ!ねぇねぇ、コソクムシって進化するの?」
「進化しますよ。」
「何回進化するの?」
「それはちょっと僕の口からは……あ、今回は殿堂入り後にシロナさんが……。」
「雷中よ!それ以上のネタバレは、このシルバーが禁止する!ていうかパパにネタバレしないで!」
「失礼いたましました。それよりお父さん。早くラバーストラップを開封しに行きましょう。」
「うむ……ふはは!そういう訳でゴールド!俺は帰ってスイレンちゃんとバルーンでイチャイチャする!失礼!」
親子は風のように自動ドアからゆっくりと立ち去って行った。
「パパ!やっぱりハーレムは存在したんだね!水着で海にダイビングだね!」
「いや、事前情報見た限りでは、どっちも無いような……いや、あるのか?」
「ねーやっぱり買おうよー!パパスイッチ買うでしょー!移行後にアローラだけ図鑑がスカスカになるのはやでしょ!」
「いや、最近はGTSもあるし、伝説配布も積極的にやってるからな。図鑑は埋まるさ。やっぱり買わん!なんか真似して買うのも忍び難い!」
「くそー!もうソフト万引きしてやるー!不良になってやるー!」
「こらやめなさい!そのソフトケースに中身は入ってないぞ!スカスカだぞ!」
「ヘーイ!帰りが遅いから迎えに来ましたー!」
「あ!ママだー!」
いつの間にか嫁が迎えに来る時間になっていた。もう夜中の12時だ。さすがに子供を連れ歩くのはマズイ時間だろう。
「いや、光中がサン買えっていうんだが……まーシルバーんとこも買ってるし、俺も気がない訳じゃないんだけど……いまいち踏み切れないっていうか……。」
「よーし、じゃあ光中には私からプレゼントしまーす!」
「な……なにぃ!?」
「わーいやったー!ママ大好きー!」
あっという間に会計は済まされた。しかも自分のぶんのムーンまで買っている!二個セット買いだ!
どうやらコンビニのポイントが溜まっていたらしい。
「とれ〜るセンターのニンテンドープリペイド買うついでに最近寄ってた甲斐がありマシター!」
「なるほど……そっちで貯める手もあるのか……クリス!ついでに俺のぶんも……!」
「ゴールドは自分のお金で買いなさーい!バイビー!」
「バイビー!」
二人は自動ドアの向こうに消えて行った。
新品のサンムーンが俺の目の前で三本も買われて行った。この店に関しては、売り上げは好調のようだ。
またしても店内に残されてしまい、目線が自然と、広告チラシが積んであるラックの方に向く。
アローラのポケモンがたくさん載っている。
「俺はこれで満足さ…。」
店の外、自転車のカゴに、若干重いソフトカタログの下に、サンムーンのフリーペーパーを置いた。
ペダルを漕ぐたびに、ページが風でめくれあがった。