シャルル
リオル「……あ、先生!こっちです!」
アブソル「……!」
山を駆け下りるアブソルは下の方でリオルに声をかけられ、崖を飛び降り合流する、シルヴァもフィオーレもどうやら山を降りる最中に接敵することはなかったようだ…。
アブソル「シルヴァ、ありがとう…お陰でこっちの方は多分終わらせることが出来た…。」
シルヴァ「そうでしたか…あの、マスター…ひと仕事終えたところで申し訳ないのですが…。」
そう言うとシルヴァは目線をチラリと向ける…つられて振り返るとそこには疲れたのかぼーっと放心状態になってるフィオーレの姿があった…よく見ると頬に涙腺の跡が残っており、綺麗な顔が少し台無しになっている…いや、これはこれで美しいとも表せれるのだが…。
アブソル「…これって…やっぱり…。」
リオル「急だったから説明出来なかったとはいえ、先生が原因だと思います…。」
シルヴァ「山を降りてからもマスターの名を呼び続け…しまいにはこうなる(放心状態)まで泣き出してしまいました…今さっき少し落ち着いた所です…。」
フィオーレ「アブ…ソル?」
アブソル「フィオーレ…今戻ったよ。」
アブソルの気配を感じたのかようやく顔をあげるフィオーレ…目に光が無いままゆっくりとアブソルに近づいてくる。
アブソル(あ…これ怒られるか叩かれるかかな…。)
まぁそりゃそうなるわな…と歯を食いしばって頬を叩かれるのを覚悟する…そして最初に来た感覚は…。
ポフッ…。
アブソル「ん…?」
フィオーレに抱きしめられ、ビンタ覚悟で閉じていた目を開けるアブソル…綿のように柔らかい感覚はフィオーレの体毛だった。
フィオーレ「アブソル…なの?」
アブソル「え?あぁ、うん、そうだよ?」
何故かフィオーレがもう一度聞いてくる…思わず間の抜けた返答になった…かっこ悪い…。
フィオーレ「アブソル…アブソルだぁ…!」
アブソル「フィオーレ…?何言って…痛っ!?」
ようやくアブソル本人と理解したのか、抱きしめていた腕の力がさっきよりも強くなる…どれほど待つのが辛かったか…安心感でまた出てきた涙が頬ずりされることで痛いほど伝わってくる…てか実際痛い…。
フィオーレ「良かったあ…血だらけだけど生きてる…。」
アブソル「返り血です…あ…フィオーレの身体にも付いちゃってるからそろそろ離して…。」
フィオーレ「…やだ。」
アブソル「…珍しく我儘…!」
フィオーレ「だって…また…いなくなっちゃうもん…もう少し…このままで…。」
アブソル「後でじゃ…ダメかな?」
フィオーレ「…うぅっ…。」
アブソル「ごめん分かった…!もう少しだけならいいよ…!」
フィオーレ「…うん…!」
そこで涙目の上目遣いは卑怯でしょ…と考えつつも仕方ないかとアブソルは受け入れることにした。
リオル「あの、師匠…?前が見えないのですが…。」
シルヴァ「見なくて良いのです…貴方には後5年は早いのですから…さ、ここから少し離れましょう…邪魔にならないように…。」
リオル「は、はい…!」
この時二人が空気を読んでこの場を離れた苦労にアブソルとフィオーレは気づくよしもなかった。
〜ヴェレーノアジト前(予想)〜
…ドサッ…。
キングドラ「…よし、これで24…村長、オレンのみだ…まだ行けるか?」
アバゴーラ「礼を言う…こっちは32じゃ、老人と舐めてかかってるようじゃが…まだまだ若いもんには負けんよ…おっと失礼…!」
キングドラと言葉を交わしつつも、『てっぺき』を両手に纏い、背後から襲いかかって来たドククラゲに一打し、気絶させる。
キングドラ「そんな使い方が…長生きしてると色々アイデアも湧くのか…。」
アバゴーラ「良いじゃろう?とある海賊の船長も使ってる戦法を参考にしたのじゃ…!」
キングドラ「海賊…!?クソっ…気になる…!」
アバゴーラ「全てが終われば話してやろう…それより…「こうそくいどう」を頼んでも良いかの?そろそろ2倍速に落ちてしまう…あと…。」
キングドラ「分かってる…あれだろ?」
ドククラゲ「……。」
二人の視線は倒れているドククラゲとは別の個体のドククラゲを黙認している…数は一匹、だがさっきの奴らとは明らかに雰囲気が違う…一瞬ヴェレーノを予想したが…ボスゴドラの言う特徴とは異なる…別物だ。
アバゴーラ「あ〜あれか…?さっき話してたはっきんぐつーるとやら…こいつはあれを付けてるからあんな強そうなのか?」
キングドラ「ご名答だ村長…前のやつは普通に勝てたがこれは…圧倒的にコードの出来が違うな…。」
ドククラゲ「……!」
アバゴーラ「下がれ!」
容赦なくこちらに突っ込み、触手を伸ばして叩きつけてくる、二人は一度大きく後ろに飛んでそれを回避した。
キングドラ「速いな…!」
アバゴーラ「退くか…?」
キングドラ「冗談!あいつ(ボスゴドラ)を置いていけるか…こうそくいどう!四倍速!」
しっかりとサポート効果を付与してドククラゲに挑むキングドラを見て、アバゴーラは思わず苦笑いをする。
アバゴーラ「やれやれ…ほんとにあいつ♀か…?」
一つ呟いてから、アバゴーラも再び「てっぺき」を纏い、その戦闘に加勢して行った…。
〜ボスゴドラ視点 ヴェレーノアジト中(予想)〜
ボスゴドラ「チッ…思ったより広く出来てやがる…。」
外のドククラゲの配下はキングドラとアバゴーラに任せ、ボスゴドラは一人中でボスらしく居座ってるであろうヴェレーノを探し回っていた…。だが中は思ったより広く、探すには少し時間をかけそうである。
ボスゴドラ「いっそここを壊して…駄目か…奴らの手掛かりがここに残ってたら完全に手詰まりだ…それにデンリュウもいる筈だし…。」
イーブイ「ぶい〜?」
心配してカバンから出てきたイーブイを優しく撫でる…キズぐすりやピーピーマックスを両手に持った状態だ…サポートは任せろと言うことだろう…思わず頬が緩んだ。
ボスゴドラ「心配してくれてんのか?ありがとよ…まだ大丈夫だから…な?」
イーブイ(コクリ)
イーブイと話して少し冷静になれた…今度は無闇に走り回らず…通った所を思い出しながら…。
ボスゴドラ「……ここは…!」
ちょっと考え方を変えたらすぐにそれらしい所に着いた…どうやら実験室のような役割を果たす場所のようだ…周りにはよく分からない機械がゴゥゴゥと音を立てており、あとは机が幾つかあるのみだ…。
ボスゴドラ「…長居したくない所だな…どうもここは寒気がする…ん?」
一番奥の机に束になって置かれてる書類を見つける…表紙には…見覚えのある文字が書かれていた。
ボスゴドラ(アンノーン文字か…コドラの時に何度か見たことあったな…。)
イーブイ「ぶい〜?」
ボスゴドラ「気になるか?ここだけでも解いてみるか…えっと…。」
?「コード0…適正個体選別書…。」
ボスゴドラ「!?」
突然声をかけられ、背筋が凍る…下手に動けないのでこっそりとメタルクローの光を右手に纏わせ、戦闘の準備をする…。
?「ボスゴドラ…?ごめん…私…。」
ボスゴドラ「は?…その声…デンリュウか!」
緊張を解いて後ろを振り向くと傷だらけのデンリュウが壁に身を任せて立っていた…ボスゴドラ視線が合うと久しぶり…と静かに笑う。
イーブイ「ぶいっ!」
ボスゴドラ「おっ、サンキューイーブイ、大丈夫か…オレンのみ食べれるか…?」
デンリュウ「ありがとう…その子は…?」
ボスゴドラ「俺の新しい家族だ。」
イーブイ「ぶいっ!」
デンリュウ「そう…こんにちは…宜しくね…。」
イーブイに簡単な挨拶をし、デンリュウはオレンのみを食べ、傷を治す…ふぅと一息つくと壁から離れ、イーブイをボスゴドラに返した。
ボスゴドラ「けどお前…どうやって自力で抜け出したんだ…?」
デンリュウ「話は後…ここ…出よ?」
ボスゴドラ「あぁ、それもそうだな…。」
それから走り出して3分後のこと…。
デンリュウ「さっきの…話だけど…。」
ボスゴドラ「走りながら喋るのかよ…これ読みながらでも良いか?」
デンリュウ「うん…えっとね…たまたま…ロープだったの。」
ボスゴドラ「ロープ?縛った道具がロープだから抜け出せたってか?」
デンリュウ「うん…ロープの端を掴んだ、あとは簡単…どんな縛り方をしても…端を掴んで長さに余裕があるから…関節を外して…スポンって。」
ボスゴドラ「へーすげぇ器用だなおま…関節外した?」
デンリュウ「うん…ポッキンと…。」
ボスゴドラ「ふーん…ん?ちょっ待て!一旦止まれ!」
デンリュウの当たり前のように言う言葉に驚きを隠せず、一度止まってまたデンリュウの身体を再確認する。
デンリュウ「関節は…また元に戻せる…よ?」
ボスゴドラ「ほんとかよ…お前つくづく怖ぇな…。」
デンリュウの身体に問題がないことが分かるとボスゴドラは安堵する、とその時だった…。
……コォォ……。
ボスゴドラ「!?」
キタ……!!
アイツ…ココ…!!
ボスゴドラ「………。」
窓から吹いた隙間風が教えてくれた…あぁ、やっぱりこうなるのか…まぁ、やらなきゃ終われねぇわな…。
ボスゴドラ「デンリュウ…イーブイを抱えて走れ…奥の階段を降りたら右に曲がってそのまま真っ直ぐ…いいな?」
デンリュウ「え?…でも…ボスゴドラは?」
ボスゴドラ「…頼む…!」
デンリュウ「…分かった…勝ってね…。」
ボスゴドラ「おうよ…イーブイ、お姉ちゃんを困らせるなよ?」
イーブイ「ぶいぃ…。」
ボスゴドラの目を見てデンリュウとイーブイも察してくれた…イーブイを抱えてデンリュウが階段を降りるのを見届けるとボスゴドラはそのまま相手の気配を感じとる…。
ヴェレーノ「…別れの挨拶は済んだか…?」
ボスゴドラ「わざわざそれを待ってたってか?そりゃどうも…けど別れの挨拶まではしてねぇよ。」
ヴェレーノ「ほぉ…強気だな…あのデンリュウとかかればまだ勝機はあったろうに…。」
ボスゴドラ「惚けても無駄だ…デンリュウを縛ったロープに毒を仕込ませていたのは既に分かってる、途中で動けなくなってお前のペースにする気だったろ…。」
ヴェレーノ「クク…やはり自然の忌み子には聞かぬ手段か…。」
不気味に笑うヴェレーノは触手を伸ばし、大量に埋め込まれたコードを見せつけるようにボスゴドラに向ける。
ヴェレーノ「今の俺にはこれが付いている…これがどういう意味か分かるか…?」
ボスゴドラ「あぁ…知ってる…自らの存在を否定したってことだろ…。」
ヴェレーノ「戯け…忌み子のお前には分かっているだろう…?否定したのではない…逆だ…肯定した…このコードを受け入れて完璧な強さを得たのだ…!今の俺に敵うものはいないも同然…所詮呪われた忌み子のお前には…!」
ボスゴドラ「ったく…忌み子忌み子と…うるせぇんだよ…。」
ヒュオオ……!!
瞬間廊下内に強い風が吹く…同時にこの場の空気がかわり始めた…。
ヴェレーノ(なんだ…この感じ…それにこの急な風…一体どこから…。)
イーブイ「…?」
デンリュウ「…イーブイ…お父さん…今から…本気出すみたい…私達がここにいたら…お父さんも全力が出せないって…もう少し離れよっか…。」
イーブイ(コクリ…。)
ボスゴドラ(……行ったか…。)
ヴェレーノ「呪われた忌み子風情が…脅かしやがって…ここで完全に終わらせてやる…!」
ボスゴドラ「俺は…呪われてもないし忌み子でもない…!」
ヴェレーノ「何…!?」
ヒュオオ………!!
ボスゴドラが目を閉じた瞬間、風がまた一段と強くなりボスゴドラを中心に舞い始める…外の草木も大きく揺れ始めていた…そして暫くしてその風は止み、ボスゴドラは目を再び開ける。
ボスゴドラ「我、この世の自然の理に触れしもの…この世の深緑を守りしもの…!」
ヴェレーノ「貴様…その目は…!」
ヴェレーノはボスゴドラの目を見て動揺を表す…見えない風の神秘に包まれた彼の目は今…深い緑に染まっていた…。
ボスゴドラ「我が名はシャルル…!我がこの世にある限り、森羅万象は覆せぬものと知れ!」