仲間入り
デンリュウ「…ガハッ…!!」
アブソル「……。」
フィオーレ達が音に気づいて振り返った時、最初に視界に入ったのは『命のたま』だった…そこからゆっくり顔を上にあげる…全員が目にしたのはアブソルの槍に背後から綺麗に貫かれたデンリュウだった…。
フィオーレ「アブソル…そんな…どうして…?」
アブソル「……。」
フィオーレ「答えてアブソル!」
貫かれた身体からは出血が止まらない…だがそれでもアブソルの表情は険しいままで、フィオーレ達は冷静を保てない…。
キングドラ「フィオーレ落ち着け…よく見るんだ…。」
ボスゴドラ「やはり読み通りか…。」
フィオーレ「読み通りって…なにこれ…黒い…霧…?」
シルヴァ「霧にしては薄い…これは…幻影…!ということはあのデンリュウ様はまさか!?」
リオル「偽物…!?」
少しずつ霧がはれていき本来の景色へと戻っていく…槍に貫かれたのはデンリュウではなく伏兵として潜入していたゾロアークだった…。
ゾロアーク「ゲホッ…!くそっ…てめぇら演技かましてたな…いつから気づいてた…この幻影は完璧のはず…!」
血を吐きながらゾロアークは問いかける…それを聞いた時、キングドラとボスゴドラは思わず鼻で笑い答えた…。
キングドラ「あぁ、姿形は完璧だ…褒めてやる…だが性格までは真似出来きてなかったぞ…デンリュウはそこまでスラスラと言葉は話さないし…何より敵に対して諦めるとは嘘でも口に出さない…。」
ボスゴドラ「普通電気を辿ったら正面入口から入るだろ…アイツが深手を負わせたのにわざわざ崖から飛び降りて裏口から入るバカはいねぇよ…あと一緒のギルドで暮らしてるんだ…違いなんて嫌でも分かる…舐めんな…。」
シルヴァ「…しかし…いつから入れ替わって…。」
ボスゴドラ「多分焼けたあの街に別れて入った時だ…キングドラと離れた時を狙われたんだろうな…。」
ゾロアーク「チッ…そんな理由でバレてると…うぐっ!?」
アブソル「余計な言葉は聞きたくない、デンリュウさんをどこへやった…居場所を吐け。」
キングドラ「!?」
ゾロアーク「へへっ…そんなこと言われて答えると思…グッ!?」
アブソル「聞こえなかったか…?居場所を言えと言ったんだ…次に同じようなことを話してみろ…またこの槍を動かすぞ…。」
フィオーレ「アブソルやめて!これ以上血を流すのは…!」
アブソル「フィオーレ、シルヴァ、リオル…この山を降りる…先に行っててくれ…。」
フィオーレ「アブソル!」
フィオーレの言葉はアブソルに届いてないように見える…だがシルヴァは見逃さなかった…アブソルの槍が揺れていた…槍を支える手も一緒に…そして…アイツが持っているものを…あぁ…マスターも怖いんだ…今からやることが…どれほど大切か…私も聞いていたから…。
アブソル「シルヴァ…頼む…!」
シルヴァ「…承知…!」
フィオーレ「待って!離してシルヴァ!違う…!こんなのアブソルじゃない!」
マスターであるアブソルの言葉に従い、シルヴァはフィオーレの叫びを聞き流し両手でしっかりと抑え、細い身体から出る力とは思えない速さで連れていく。
シルヴァ「リオル…付いてきなさい…!」
リオルは状況についていけてない…その場を離れていくシルヴァ、フィオーレと変貌したアブソルを交互に見るだけだ…。
アブソル「…僕も後で合流する…リオル…行ってくれ。」
リオル「…はい…。」
アブソルから指示を受けてようやくリオルは動きだした…離れていく弟子の姿を見てアブソルはゾロアークに視線を戻す。
アブソル「キングドラさん…ボスゴドラさん…アバゴーラさん…後は頼みます…。」
キングドラ「あぁ。」
ボスゴドラ「場所を聞かなくてもデンリュウはきっとここだ…後は任せとけ…。」
アバゴーラ「……。」
キングドラとボスゴドラはそれだけ言うと崖から飛び降りる…アバゴーラは無言で行ってしまった…今彼は何を思ったのだろうか…失望させただろうか…。
ゾロアーク「く、くははははははっ!!気づいたか!あぁ…そうだよ!全部俺だ!あの人に言われて全部引き受けたんだ!利用…されてるとは…考えずにな!」
血を流しながらも高笑いして話すゾロアーク…息を切らしながら話している所から弱っていることは間違いないと思うがその明らかに普通でない反応には逆に恐怖を感じさせる…。
アブソル「…どこで手に入れた…あれを…誰から譲り受けた!」
ゾロアーク「俺がデマをぶちかましたら全部信じたぜ…?この世界から悪者を消したいって…その為には力が必要だって…そしたらアイツ、私は『両方を平和にしたい』なんてバカ言ってよ…足と腕だけを狙うようにって助言と共にこんな良いものを寄越しやがった!指を動かしただけで殺せるこれを…!」
アブソル「…そいつは今どこへ行った…。」
ゾロアーク「別の所へ既に移動済みだ…!ここにはヴェレーノとその部下しかいねぇよ…ところで良いのか?部下から聞いたが別れて行動してるんだろ…街に戻った奴らは今頃どうなってるだろうな?」
アブソル「…やはり…貴様ら…!」
ゾロアーク「ドククラゲしかいねぇからお前らも気づいたと思うがもう遅い…あのバンギラスも!戻った時には近くの街の奴らと一緒にくたばってるだろうよ!」
アブソル「……!」
ゾロアーク「楽しみだぜ…悲哀に打ち震えるてめぇらの顔を…あの洞窟の奴らに負けないくらいの断末魔が想像でき…!」
グシャ…。
ゾロアーク「グフッ…!?」
最後まで言い終わる前にアブソルはその槍を…血が出ないようにゆっくりと引き抜いた…。
ゾロアーク「は…?」
アブソルの行動に理解ができず、傷口を抑えながら後ろを振り返るゾロアーク…その時だった…。
ドスッ…!!
…地獄が始まった…。
ゾロアーク「え……。」
後ろを振り返った時からの記憶を振り返る…アブソルに身体を向けた時…何が起きた…視界が半分消えた…そして今目に映っているのは既にもう槍を引くアブソルの姿…。
アブソル「…………。」
沈黙が続く中、ゾロアークは右手を顔に当てる…ぬめっとした感触があった…もちろん血だ…じゃあどこから…それを考えた時ゾロアークの長く感じた時間はようやく元に戻った。
…右目を…貫かれた…!?
ゾロアーク「グ…ガアァァッ!?」
苦痛の声と共に遅れて感じる尋常じゃない痛みがゾロアークを襲う…抑えた右手でも覆いつくせない程の大量の血が手を伝って流れていく…。
アブソル「…これは海岸洞窟でお前が殺したポケモン達の怒りだ…。」
続けてアブソルは電光石火で体当たりし、ゾロアークを押し倒す…真っ白な毛皮に付いた血など気にする様子もなく…今度は…。
ズドンッ…!…ズドンッ…!
ゾロアーク「グッ…!」
彼の腰からとりあげたもの…シルヴァも見えてしまったマグナムで両肩を撃ち抜く…。
アブソル「…海岸洞窟の前にも何人か殺していたことはバンギラスさんから聞いてる…今撃ったのはその人達の分と思え…そして…。」
ゾロアークの身体を体重で抑え、再び槍を右前脚で持ち、ゾロアークの胸に当てる…。
アブソル「これは僕からのだ…地獄へ落ちろ…そして死して償え!」
ゾロアーク「……貴様っ!!」
ゾロアークが声とともに動くよりも早く…槍はその身体を鈍い音と共に貫き、大量の血飛沫を上げる…しかしアブソルの手は止まらない、ゾロアークの身体を何度も…何度も…誰の代わりでもない…自分の怒りとして貫いていく…。
アブソル「クソっ…クソっ…クソっ…!!」
悔しさの余り涙が出てくる…だが泣いたところで…こいつを何度も刺したって亡くなったポケモン達は戻ってこない…分かってる…分かってるはずなのに…!
ズシャッ…!
アブソル「ハァ…ハァ…。」
勢いよく槍を引き抜き、ようやく冷静を取り戻す…周りには大量に飛び散った血の跡…そしてただの肉の塊となった『連続殺人犯』の姿がそこにある…。
アブソル「これで…僕も仲間入りか…。」
そう呟くとフィオーレ達と合流するためにアブソルも真っ赤になった身体のまま山を逆走して降りていった…。
キングドラ&ボスゴドラ「………。」
アバゴーラ「…終わったようじゃの…。」
三人は耳を済ませるのを止め、崖から落ちてきた血を身体から拭き取る…最後まで聞いていたのだ…。
ボスゴドラ「背中を刺した時に急に目つきと口調が変わった時は何事かと思ったが…なるほど…ヘルガーに化けて殺したのも…全てアイツだったか…血の匂いは染み付いてたってか…。」
キングドラ「そのようだな…だが同時にやることも増えた…銃を渡したヤツら…あいつの言葉を聞く限りあれは…。」
ボスゴドラ「明らかに善者だな…そしてその人間の思いをまんまと利用し、力を得た…。」
アバゴーラ「そしてその残りの奴らは勘違いに気付かないまま、そなたらの暮らす街へと進軍か…大丈夫か…?今なら戻って加勢も可能じゃぞ?」
キングドラ「…警備官のコイルだけでなくアブソル達も向かわせたんだ…それにリーダーはそこまで心配されるほど弱くはない…。」
ボスゴドラ「寧ろ心配するのはこっちじゃねぇか?三人でヴェレーノ達潰すってのは…。」
キングドラ「帰るか…?」
ボスゴドラ「いや、ぶっ倒す…燃やされた街のこともあるしな。」
アバゴーラ「素晴らしい決意じゃな…おっと…そんなこと話してるうちにあちらから来たようじゃぞ?」
ドククラゲ「な、貴様ら何者だ!?どこから入ってきた!」
ボスゴドラ「見回りに見つかったか…ヴェレーノは任せろ…頼むぜ?副リーダーさんよ…。」
キングドラ「あぁ、まだまだやることは山積みだ…。」
いつの間にか集まって来たドククラゲ達へと向き直り、三人は目付きを変える。
キングドラ「さて…厳島の戦いの真似事といくか…。」
そう小さく呟くと彼女は一人、この戦場の中、静かに笑った…。