生存者
〜深い森、時間不明〜
ボスゴドラ「ほ〜ら…たかいたか〜い……!」
イーブイ「ブイー!!」
ボスゴドラ「良し笑った!楽しいか?そうかそうか!ならもう1回…高いたか……」
ゴンッ!
キングドラ「何やってんだ馬鹿!!」
ボスゴドラ「痛った〜…なんで殴るんだよ!?」
キングドラ「あのな…お前ここがどこか分かってんのか!?森だぞ森!こんな所で高いたか〜いなんてしたら木に引っかかって擦りむいたり足場悪いから転倒したりするだろうが!そんな中そいつ落としてみろ!最悪高いじゃなくて他界するからな!?」
ボスゴドラ「おおっ!上手い!」
キングドラ「上手かねぇよ阿呆!」
フィオーレ「ボスゴドラやってるねぇ。」
シルヴァ「早速自分なりに頑張っているのでしょう…先程から空回りしてキングドラ様から叱られてばかりですが…。」
アブソル「…………。」
リオル「あの…先生……?」
アブソル「ん?あぁ…ごめん、ボーッとしてた。」
フィオーレ「アブソル〜…また考え事?、ちゃんと私達にも言ってよ?抱え込まれたら前みたいに自滅しかねないんだから…。」
アブソル「あはは…前のことがあるから何も言い返せないや…でも大丈夫、敵がどんな風に来るか考えていただけだから…。」
フィオーレ「ふーん…そう…ならいいんだけど…。」
新しくイーブイが仲間に入り、ボスゴドラさんが親として認識されてからすぐ…僕達は焼けた村?を出ていった…賑やかになったことをちょっとは喜んでおきたいところだが…今の僕にはそれが出来ない…なぜだろう…嫌な予感がする…。
デンリュウ「どうしたの?」
アブソル「いえ、なんでも…デンリュウさん、道案内…引き続きお願いします。」
デンリュウ「うん、任せて。」
考えているうちにまた足が止まっていたようだ…因みにデンリュウさんとは街の外で合流出来た…キングドラさんと行動していたはずだが生き残ったポケモンを探している間にはぐれていたらしい…泣き目になって座り込んでいる所を見つけた時は全員で安堵したものだ…。
アブソル(それにしてもこの嫌な感じはどこからだ…今の所は順調のはずだが…。)
イーブイ「ブーイッ!」
アブソル「うわぁ!?…イーブイ…?何でここに…。」
ボスゴドラ「すまんアブソル!キングドラと揉めてたら腕の中すり抜けちまった!」
アブソル「は、はぁ……。」
ボスゴドラ「ほら!いい子だからこっち来い!」
イーブイ「ブイッ!」
イーブイは僕に何か伝えたいのかぴょんぴょん可愛く跳ねながらボスゴドラさんの腕を華麗に避ける…すばしっこい子だ…あとまぁ…僕に伝えることなんで大体察しはつくけど…。
ボスゴドラ「良し、捕まえた…と。」
イーブイ「……。」グッ!
ひょいと持ち上げられたと同時に誰が教えたのか覚えたばかりのグッジョブサインを見せてくるイーブイ…違和感のことなど忘れて僕も手を返そうと思ったその時だった…。
キラン…
シルヴァ(光……?)
ドガアァァン!!
アブソル「……え?」
ただグッジョブをグッジョブで返したかった…それだけなのに…僕の後ろにあったはずの大岩が爆発音と共に消し飛んだ…な、何を言っているのか分かんないと思うけど…僕も何が起こったのがさっぱりだった…。
リオル「まさか…敵襲ですか!?」
キングドラ「不味い…油断してた…。」
慌てて警戒体制をとるが周りには特に変化はない…ただ風で静かに草木が揺れているだけだ…。
ボスゴドラ「……来ねぇ…な…。」
フィオーレ「敵が見失った…訳じゃないよね?」
コジョンド「あの…見間違いじゃなければ先程その子の手が光った気がしたのですが…。」
ボスゴドラ「あ?イーブイの事か?」
キングドラ「いや、産まれたばかりのコイツでは岩を爆発させることは流石に無理だと思うが…。」
デンリュウ「…………。」
先程の高火力の爆発…シルヴァが見つけた一瞬の閃光…イーブイ…ここまで絞って思いつくとしたら…。
アブソル「…切り札…。」
フィオーレ「なにそれ…イーブイの技?」
キングドラ「全ての技を使った時に出せる高火力の一撃か…なるほど…だがそいつは体当たりとか鳴き声なら使えるんじゃないのか?」
アブソル「問題はそこなんです…技は親から継承したと考えれても他の技はどうしたのか…。」
イーブイ「ブイ〜?」
コジョンド「あの…まずはこの場を離れませんか…?今の爆音で敵に位置を知らせてるかも知れません…。」
キングドラ「そうだな…考えるのは後にしよう、とりあえず先を急ぐ。」
先導するキングドラさんについていきながら僕はイーブイのことについて他の心当たりを考えるが何も思いつかなかった…さっきから胸に残る嫌な予感のこともあるし…解決にはもう少し時間が必要らしい…。
〜数分後〜
キングドラ「お?あれは…。」
アブソル「何かありました…?」
キングドラ「村…さっきの所のように焼けてはいない…だがどうやらまだ未完成のようだな…。」
デンリュウ「焼けてないなら敵の基地の可能性…。」
アブソル「それは無いですね…見てください、作りかけの家が幾つも…こんなに作る必要はないはずです…守りの配分が手薄になるだけですから…。」
デンリュウ「流石の観察力…。」
アブソル「ヘルガーを逃がした敵軍について知ってるかもしれないけど…まずは安全を確かめたい…シルヴァ、偵察を頼めるかな?」
シルヴァ「承知!」
アブソルの命令に頷くとシルヴァはすぐにその場から姿を消した…すぐ隣にいたリオルは…うん、まぁ驚くよね…急に師匠が飛ぶんだから…。
キングドラ「アブソル…何故シルヴァを選んだ?」
アブソル「えっと…生息地の近さでの判断です。自分のやっていたゲームでのコジョンドはこういう山場に生息していましたから…上手く行けば野生のポケモンとして誤魔化せます、後は…危険に対応できる速さですかね。」
キングドラ「ほぉ…。」
ボスゴドラ「なんか問題でもあったか…?」
キングドラ「違う…リーダーと似ていると思っただけだ…。」
アブソル「似ている…ですか…自分は四足歩行ですが…。」
キングドラ「外見の似てるじゃない…!お前にはなんかこう…他人を知り尽くす才能があるっていうか…あぁもう!説明が難しいな…。」
フィオーレ「知り尽くす…か…後もう一息なんだけどね〜…。」
アブソル「それ…どういうこと…?」
シルヴァ「それはマスターが見つけなくてはならない事ですよ。」
ボスゴドラ「姉貴!いつの間に!?」
キングドラ「早いな…偵察は終わったのか?」
シルヴァ「最初に話した方がたまたま村長でして…大体のものは掴めました、安全に値する所です、あと詳しく話し合いたいと…。」
アブソル「話し合い…?」
シルヴァ「続きは後で、そちらの方がわかりやすいので…。」
〜名前のない村〜
シルヴァについて行ったアブソル達は少し大きめに作られた小屋らしきところに案内された…中で先に待っていたのは青い亀の外見をしたポケモン…アバゴーラだ、見た目からして恐らく高齢の者だろう…。軽く挨拶をしてから僕達も床に座り込んだ。
アバゴーラ「あのコジョンドから話は聞いた…主たちだな…?儂等の街で亡くなったものを弔ってくれたのは…。」
キングドラ「…出来ることをしたまでだ…くれたとか礼を言われるようなことはしていない。」
アバゴーラ「それでも嬉しい事…犠牲を増やす可能性を怖がり、家族や街を捨てた儂等には心残りとなっていた…村を代表して礼を言わせて欲しい…ありがとう…。」
シルヴァ「…という訳なのです。」
ボスゴドラ「あの焼けた所の生き残りが作った村か…てかあそこやっぱり街かよ…奴らも悲惨に壊してくれるぜ…クソッ…。」
説明された時は驚いた…あの街には生き残ったポケモンが僅かながらいたのだ…たまたま食べるものを探して街からいなかったもの達…戻ってきた時には燃えてしまった我が家…運良く主犯者と思わしきポケモンを先に見つけたアバゴーラさんは冷静に戦力差を見極め、怒りと悲しみに打ち震える仲間達をまとめてここまでやって来た…。
アバゴーラ「主たちは何故ここに来たのだ…?ただの観光…のようには見えんが…。」
アブソル「…その主犯者の所属する組織を潰しに来ました…ごめんなさい、僕達がもっと早めに行動していれば…。」
アバゴーラ「謝ることは無いぞ若者よ、あやつらとは勢力差があった…主たちがもし加勢してくれても勝てるかは時の運でしかないのじゃ…。」
そう言ってアブソルの肩を叩くと優しくアバゴーラは笑う…その表情の裏には悔しさの念があるに違いない…それでも他のポケモンのためにと顔に出さないことを考えると胸が痛かった…。
ボスゴドラ「なぁ…あんたはあの街でもみんなをまとめていたのか…?」
アバゴーラ「そりゃもちろん、あそこに街を作ろうと考えたのは他でもないこの儂達じゃからな、みんなの顔はしっかりと覚えておる…。」
ボスゴドラ「…じゃあ…♀のシャワーズもか?」
アバゴーラ「まさか生きておったか!?」
ボスゴドラ「いや…ダメだった、コイツを俺に渡してからすぐに…死んだ。」
イーブイ「ブイ〜?」
アバゴーラ「…儂の記憶が正しければ…そのシャワーズはいつもその子を連れていた筈じゃ…卵から孵った姿を見れなかったのはさぞかし…無念じゃったろうな…。」
ボスゴドラ「…………。」
アバゴーラ「短い間でここまで赤子が懐くというのも珍しい…余程信頼出来る者とみた…。」
ボスゴドラ「いや…俺はまだ…!」
アバゴーラ「まぁそう慌てなさんな、時間はまだ十分にある…これからもその子を頼んだよ…。」
ボスゴドラ「……あぁ…任せろ…必ず立派に育ててやる。」
フィオーレ「アブソル…どう思う…?」
アブソル「どうって…?」
フィオーレ「アバゴーラさん達の街を壊したことについてだよ…多分ヘルガーのいる組織と関係あるよね…?」
アブソル「関係あるもなにも首謀者はその組織しかないよ…前もって調べたらこの当たりのお尋ね者はいなかった…奴らを除いては。」
アバゴーラ「儂等の街は…あやつらにとっては邪魔だったのかもしれん…。」
リオル「邪魔…!?そんなことは…。」
アブソル「アバゴーラさんの考え方は多分正解だよリオル、奴らのアジトから一番近くにある街…討伐隊の僕達からしたらありがたい補給ポイントだからね…。」
リオル「そんな…。」
キングドラ「相手を迎え撃つだけでなくその行動パターンまで推測…可能性があるものは消す…か…。」
コジョンド「相当頭が回るようですね…人数で押してくると考えていたのですが…これは如何なものか。」
デンリュウ「じゃあ諦める…?」
アブソル「え?」
デンリュウ「だって…相手はここまで徹底的にやってるんだよ?一度引いてギルドに報告すればまだ…。」
キングドラ「だが俺達は既にドククラゲ達を蹴散らした…もしこれが知られたとしたら奴らは場所を変えてくる筈だ…そうなるとまた見つけるのは大変だぞ…。」
デンリュウ「あ…そうだった…ごめん…。」
アブソル「敵も僕達が少数編成で来るとは考えていないと思います…攻めるなら今しかありません…デンリュウさん、怖いならここで待っとくという手も…。」
デンリュウ「…ううん、言い出したのは私だけど思ったことを口にしてちょっと冷静になれた…やっぱり私も行く…役にたちたい…。」
ボスゴドラ「ふぅ…びっくりしたぜ…!ここで貴重な戦略のお前がいなくなったら俺達の勝利は難しくなるからな!」
デンリュウ「褒めてるの?」
フィオーレ「もちろんだよ!デンリュウ気配りも出来るし強いからね!」
アブソル「何度かお母さんとイメージするくらい頼りになります。」
デンリュウ「…ち、ちょっと風に当たってくるっ…!」
フィオーレ「デンリュウ!?…行っちゃった…。」
コジョンド(照れた…?)
アバゴーラ「若いってええのう…うんうん。」
キングドラ「すまん…騒がしくしてしまったな…。」
アバゴーラ「いやいや、今の儂等には活気が欲しかったから丁度良い薬じゃよ…今日はここまでにして、ゆっくり休むと良い…奴らもすぐには動けん筈だからその間に策を練るのもよいだろう…。」
キングドラ「…感謝する。」
アバゴーラさんの言葉に甘えることにした僕達はそのままこの村で夜を越すことにした…。
〜22:30〜
アブソル「…………。」
…眠れない…なんでだろう…疲れているはずなのに妙に脳が働いている。
アブソル「…折角だし…槍と技の練習しようかな……。」
ブンッ!…ブンッ!…ブンッ…!
アブソル「256…257……258…!」
アバゴーラ「ほぉ…槍術か、精が出るのう。」
アブソル「アバゴーラさん!?」
アバゴーラ「気になって見に来てしまった、歳をとると寝るのも起きるのも不規則でな…。」
アブソル「は、はぁ…あの…これについてご存知で?」
アバゴーラ「人間の知恵には興味があってな…それで若い頃から色々学ばせてもらったよ、若き人の子よ。」
アブソル「…知っていましたか…。」
アバゴーラ「スカイライブキャスターは毎日見ておるからな。」
アブソル「あぁ…納得です…。」
アバゴーラ「最初にあった時からお主の目に興味があった…勿論その武器にもな。」
アブソル「…………。」
アバゴーラ「幾つか…問うても良いかの?」
反射でアブソルはアバゴーラの目を見る…何かを見定めるような…嘘が通らないようにさえ思え…威圧まで感じかねない眼圧がそこにあった。
アブソル「…自分に答えられる範囲であれば…。」
アバゴーラ「では早速…主はこの世界になぜ来たのだ?」
アブソル「多分…復讐の為…ですがあんまり前の記憶を覚えてなくて…。」
アバゴーラ「ほぉ…ではもしその目的が果たせたら主はその後どうするのかな?」
アブソル「後…ですか…?」
アバゴーラ「そうじゃ…復讐を終えた後は人間の世界に戻るのかの?」
アブソル「自分には…待ってくれる人はいないので…。」
アバゴーラ「……そうか…それであの振り方か…。」
アブソル「え…?」
アバゴーラ「今の素振りの事じゃ、その振り方は攻めるというよりも誰かを守るためにやる牽制の大振り、しかし主にはそれが不確定に見える、よく見直してみると良い…方向がバラバラじゃったぞ。」
アブソル「…迷いがある…ということでしょうか…。」
アバゴーラ「左様、それでは後に己を見失うことに成りかねんぞ…若者よ。」
アブソル「…………。」
目的を果たしてやりたいこと…まず自分が何者なのかをはっきり知らないと求められないことだ…記憶の泉で見たものがもし全て真実だとしたら…僕に残っているものは何もない…ならゲームの展開のようにここに残る選択肢も…だがそれで良いのか?…桜咲先生の研究所のこともある…母の死体も見つかってない…叶うならば…もし生きているのならば…会って話をしてみたい…。
アバゴーラ「まだ…理想は見えないか…。」
アブソル「はい…。」
アバゴーラ「今は悩め、それが後に力となる…だがそうだな…こんな老いぼれが言える助言と言えば…己の今分かる大切なものを守るが良い…かの?」
アブソル「今ある…大切なもの…?」
アバゴーラ「うむ、夢幻を守ったとしても、そこにあるのは虚空…何も無いだけじゃ…確実にそこにあるもの…支えとなるものを見つければ…それが力となるだろう。」
アブソル「思いつくとしたら…ギルドのみんな…。」
アバゴーラ「その調子じゃ…成長を楽しみに見ておるぞ…八雲虹よ…。」
アブソル「あ、貴重な助言ありがとうございました!」
アバゴーラは笑顔で踵を返すとそのまま部屋へと戻っていった…心なしか楽しそうに見える…成長するわが子を見守るかのような…。
アブソル「…今確実にある大切なもの…か、あれ?そういえば…アバゴーラさんに本名教えたっけ……?」
暫く考えてまぁいいかと自分を納得させるとアブソルは再び槍を口に咥えて素振りを開始した…その目はさっきよりも確実に…光を灯していた。
アバゴーラ「虹よ…もっと自分に強欲であれ…さすればきっと…ここでも上手くやっていけるはずじゃ…。」
シルヴァ「…………。」
アバゴーラ「おぉ、シルか…主もあの子を見守っておったのじゃな。」
シルヴァ「えぇ、あの姿でもマスターですから。」
アバゴーラ「相変わらず虹にベタ惚れじゃのう、愛いやつめ。」
シルヴァ「ふふっ…褒め言葉として受け取っておきますよ…それよりお願いがあるのですが…。」
アバゴーラ「そう怖い目をするなシルよ…言いたいことはだいたい分かる。」
シルヴァ「では端的に言います。」
アバゴーラ「…………。」
シルヴァ「もう一度…マスターの支えになってくれませんか…?」