自然が繋ぐ
〜森林、時間不明〜
バンギラス達と別れてから約1時間が過ぎた…森林の様子には今のところ変化はない…だがデンリュウが案内する方向には必ず敵がいるはずなのだ…敵地に近づくほど周りの変化のなさにアブソルは違和感を感じていた…。
シルヴァ「デンリュウ様…本当にここであってるのですか…?」
デンリュウ「流した電気とのリンクは確実に距離が縮んでる…方向は間違いない…。」
フィオーレ「にしては凄く静かだよねさっきから…襲ってくる気配もないし…ここも一応ダンジョンだから住処にしてるポケモンもいると思うんだけど…。」
リオル「じゃあ…追い払われて縄張りにされた…とか?」
キングドラ「その可能性は無いな、争った形跡が全く見られない…住処を危険に晒されたらまず戦闘が始まるからな…。」
アブソル「あ、そうだ…ボスゴドラさん、森の木から何か聞くことは出来ませんか?」
ボスゴドラ「そう言われると思ってもうやってるぞ…だが…こいつら何も話さねぇんだよ、枯れて死んでる訳ではないからコンタクトはとれるはずなんだが…。」
デンリュウ「……?」
フィオーレ「わわっ!急に止まらないでよデンリュウ…!どしたの?」
デンリュウ「えっと…あれ…。」
デンリュウの指さす方向は空…アブソルがデンリュウに近づいて同じ視点から空を見ると黒い霧の様なものが薄く上がっているのが見えた。
キングドラ「木に視界が隠されて見えんな…何があるんだ?」
アブソル「黒の…霧らしきものですね…薄くて良く見えませんが…。」
シルヴァ「マスター、見間違いじゃないのでしたらそれって…。」
フィオーレ「…燃えてる…!?」
デンリュウ「…電気の方向も同じ…!」
アブソル「キングドラさん!」
キングドラ「……急ぐぞ!」
〜?、時間不明〜
アブソル「…!」
キングドラ「…遅かったか…。」
黒の霧らしきものを辿るとアブソル達は森の外へと出ることが出来た…そこでまず一息つきたかったが森から出て瞬間、目の前の光景にアブソル達は絶望した…。
フィオーレ「何…これ…!」
シルヴァ「燃えていたのは木じゃなくて…一つの村だったのですね…。」
キングドラ「黒の霧…いや、煙が薄かったのは村を燃やし尽くしたからか…。」
ボスゴドラ「…クソッ…!」
目の前の光景を見るとボスゴドラは走り出す…過去の惨劇と照らし合わせてしまったのだろう…その顔には動揺が見えた…。
リオル「ボスゴドラさん…。」
シルヴァ「リオル、私達も行きますよ…!」
キングドラ「10分後に村の入り口で集まろう…アブソルはフィオーレと向かってくれ…俺はデンリュウと行く。」
フィオーレ「アブソル、私達も行こう!」
アブソル「分かりました…!皆さん、また後で…!」
アブソル達もボスゴドラに続いて燃やし尽くされた村へ向かった。
ボスゴドラ「…ハァ…ハァ…おい!大丈夫か!」
崩れた木の家の下敷きになっていたゴーリキーをボスゴドラは助け出し、反応を求めた…抱えた身体は既に冷たくなっている…。
ボスゴドラ「駄目か……!」
目線に入った沢山のポケモン達にボスゴドラは声を掛け続ける…だがその言葉に答えてくれるものは誰1人いない…生きているポケモンが…見当たらない…。
ボスゴドラ「誰か…誰か…答えてくれ…!」
それでもボスゴドラは周りに呼びかける…生きているポケモンを1人でも救うため…。
ボスゴドラ(また…!また同じことの繰り返しなのか…!?誰一人救えることなくこの惨状を見ていることしか出来ねぇのか俺は……!それだけは…それだけはもう…!)
救いを求める声を求めてボスゴドラは走り続けていたが遂に疲れが身体に出てしまい膝から倒れてしまう…立ち上がろうとするが焦りのせいで足に力が上手く入らない…。
ボスゴドラ「…なんでだ…なんでいつも…俺は気づくのが遅いんだ…。」
一度倒れたことで少し落ち着きを取り戻したボスゴドラはゆっくり立ち上がるとフラフラと歩を進める…。
?「…………ウゥ……。」
ボスゴドラ「!?誰かいるのか!」
確かに今何かが聞こえた…ボスゴドラは一度立ち止まると神経を集中させる。
ボスゴドラ(頼む!この力で見つけ出してくれ…!)
目をつぶって祈り自然の草、木、風に問いかける…がいつものような答えが帰ってこない…燃えてしまったことで自然も生命としての限界を迎えてしまったのだ…更には風も吹いてこない…かと言って今の呻き声だけでは居場所が特定出来ない…。
ボスゴドラ(自然も駄目…なのか…!?)
祈りも届かず、遂に問いかけることを止めようとしたその時だった…。
カコン…!
ボスゴドラ「…そこか!」
背後から何かが落ちる音が聞こえ、反射的に振り返る…音の正体は未だに燃え続ける小さなヒノキだった…そしてそのヒノキは全ての使命を終えた後のようにボスゴドラの目の前で完全に木としての生命を終えた…。
ボスゴドラ「…ありがとよ…!」
小さくお礼を呟き、ボスゴドラは炭と化した木材の山をどかし始める…そしてその中から遂にぐったりとしたシャワーズを見つけ出した。
ボスゴドラ「見つけた…!待ってろ…すぐにこれをどかして…!」
どかして助け出す、と言おうとした所でボスゴドラはその手を止める…助けようとしたシャワーズが首を振っているのだ…助けることを…拒否している…。
ボスゴドラ「お、おい!なんで首を振るんだよ…遠慮は要らねぇんだよ…だから…!」
シャワーズ「…………。」ブンブン
それでもシャワーズは首を振る…そして奇跡的に潰されていなかった尻尾をゆっくりと動かし…ボスゴドラの前に差し出した…。
…………新しい命の入った卵と一緒に…。
ボスゴドラ「ま、まずはそいつからってことか…分かった…。」
シャワーズの震える尻尾から慎重に…崩れた木で傷つけないように卵を受け取る…。
シャワーズ「………ァ……。」
シャワーズはボスゴドラが卵を受け取るのを見ると口を必死に動かして何かを伝えようとしていた…。
ボスゴドラ「下手に話すな…待っててくれ…。」
シャワーズがゆっくりと笑って反応を返してくれたことを確認するとボスゴドラは卵を少し離れた安全な所へ置く。
ボスゴドラ「卵は安全な所へ置いたぞ…!さ、次はあんたの番だ…。」
シャワーズ「………………。」
ボスゴドラ「ん…おい?……寝てるのか…?」
シャワーズ「…………。」
ボスゴドラ「…なぁ…おい!何で………何でだよ!あと少しで助かるんだぞ!?あの子を残して逝ったら駄目だ!」
シャワーズに声を掛けながら邪魔な木材をどかし続ける…だがあと少しの所でボスゴドラはその手を止めてしまった…。
ボスゴドラ「………嘘…だろ…!」
全ての木をどかして見えたシャワーズの全身…その身体は…腹部を崩れた木材で貫かれ血だらけになっていた…。
あと少しで助かる……?いや…もう間に合わないことを…あのシャワーズは分かっていたのだ…必死に口を動かして最後に伝えた「ありがとう」は凄く重いものだった…。
ボスゴドラ「あ…あぁ……!」
ようやく救い出したシャワーズ…抱え込んだ身体は…やはり冷たい…頬には笑顔で浮かべた涙腺の後…満足したかのように…彼女はその命の幕を下ろした…。
ボスゴドラ「ゔあああああああぁぁぁ!!」
ボスゴドラの叫びと共に流れた涙は…彼女がこの卵から生まれる子供を育てられなかった悔しさで泣きたかった代わりだったのかもしれない……。
流れる涙を拭いながらボスゴドラは卵を冷たくなった彼女の手の中に持たせた…少しでも…この卵の温もりが天国にも伝わることを願って…。
ボスゴドラ「………………。」
卵を持たせたシャワーズを抱き上げるとボスゴドラは普段の歩きよりも格段にゆっくりと進む…。
…自分の子と一緒にいれる時間を…俺は長く作ってあげれただろうか…。