シルヴァの弱点、ボスゴドラの才能
時間不明、森林〜
バンギラス「ねぇキングドラ〜、私が計画した所となんで真逆の方向に行くの〜…ねぇねぇ…。」
キングドラ「うっさいわ!元はと言えばリーダーがヘルガーとその愉快な仲間達を捕まえると公言したのが理由だろ!ちょっとは命かけて付いてきてくれたこいつらに恥のない行動をしろ!あと体重乗せるな!俺は一応女だぞ!?そして重い!」
朝早くから始まった遠征一日目、歩いて休憩してを二回繰り返してきたアブソル達、時間からすると…3時間くらいだろうか…ここまで今の所変化という変化はない…目撃者の情報を頼りにギルドメンバーほぼ全員と+αで警備部隊のレアコイルが5匹、その他補助員のコイルが沢山付いてきてくれている…。
フィオーレ「山道だから結構足腰辛いよね…リオルは大丈夫?」
リオル「大丈夫です!これでも俺山育ちなんで!」
フィオーレ「そっか、でも何かあった時じゃ遅いからね?今なら私がこの尻尾に乗せて運ぶよ?」
この中では一番最年少?のリオルを心配するフィオーレ…進化してキュウコンになってからはなにかと世話を焼いてくれるようになったが…そのレベルは下手をすると……。
リオル「フィオーレさんの…尻尾…。」
はい…こうなる…リオルはすっかりフィオーレの尻尾に魅了、夢中になってる…あのもふもふのレベルは尋常ではない…誰もが思わず身を寄せたくなるのだ…結果、フィオーレにお世話を任せると…駄目なポケモンになる、恐るべし…もふもふ。
エーフィ「アブソルさーん?もしかして今、フィオーレさんの尻尾もふりたくなってます?」
アブソル「えぇ…ってはっ!嘘です嘘です!思ってません!」
フィオーレ「……むぅ。」
デンリュウ(クスクス……。)
何を考えている自分!?今回の遠征の目的は敵の再捕獲とその仲間の駆除だろう!?己の欲をすてるんだ!ましてやパートナーの尻尾を……ほんとに何考えてんだ…僕…。
バンギラス「ねぇねぇキングドラ〜……。」
キングドラ「こんのっ!?鬱陶しいぞさっきから!」
シルヴァ「まだやってたのですね…。」
ミミロップ「体重乗せられて構って攻撃されてるのにそれでも引きずるあの子凄いわね…。」
下手をしたら命を失うというのにこの危機感のなさ…警備隊の皆さん(数匹のコイルやらレアコイルやら)も最初はその目を大きく開くばかりだったが今はホッコリしながら話に入り、楽しんでいる様子が伺える…これが本来の遠征の在り方なんだ…でも…後少し時間が経てば……考えたくもない…。
ボスゴドラ「………おい、大将…ちょっと良いか?」
バンギラス「…なぁに…ボスゴドラ君?チェスは出来ないよ?」
ボスゴドラに声を掛けられたバンギラスはいつも通り、話し方は変えないが機嫌だけ変えるという器用な塩対応をする…だがボスゴドラはいつものヘラヘラとした自由気ままが……無い。
ボスゴドラ「キングドラ以外によ…水を含む奴っていたか…?」
バンギラス「……水タイプのポケモンってこと?…キングドラ…だけの筈だけど…何?喉乾いた?」
ボスゴドラ「違う…!水の匂いが強すぎんだよ…近くに泉や滝の冷たさは感じねぇ…そう言ってる。」
バンギラス「……まさか…!?」
キングドラ「ッ!?ふざけは中断だ!リーダー!」
バンギラス「分かってる!総員戦闘体型に!場所は不明、全方向を分担して警戒!ボスゴドラ君、感知を頼むよ!」
ボスゴドラ「…あぁ。」
急に戦闘の準備を急かされ、動揺しつつも円形に陣取るアブソル達…だが殺気は感じない……。
シルヴァ「……?」
アブソル「…キングドラさん…敵の気配…ありますか?」
キングドラ「今のところは無い、だが気配は探っとけ…ボスゴドラが言うんだからな…。」
アブソル「ボスゴドラさんの勘違い…とかは?」
バンギラス「断言する…ないよ、アイツはあんな鈍そうな性格してるのに気配察知が化け物レベルなんだよ…自然の声を借りてると本人は言ってるけどね…。」
シルヴァ「…嘘にしか聞こえませんが…。」
キングドラ「今に分かるよ…見てて。」
アブソルは正面は森林を向きながらも横目でボスゴドラの方を見る…ボスゴドラは目を瞑って地面に手を置いている状態でアブソル達の陣形の真ん中にいる…一人何かを呟きながら頭を下げる時もあった。
ボスゴドラ「……あぁ…そうかい…ありがとよ……。」
やっと顔を上げたボスゴドラはたまたま後ろを向いたバンギラスと目線を合わせ、合図を送る…いつでも戦えるか?と…バンギラスも口元を緩めて頷く…バンギラスは今の彼が一番好きだ…これだけがボスゴドラの唯一真面目にやってくれることだから…。
ボスゴドラ(内陣にフィオーレとキルリア…ドレディア…ミミロップ…リオル…エーフィ……外陣にアブソル…大将…キングドラ…ヘラクロス…姉貴…デンリュウか…そして…空中には警備部隊…ど真ん中には…俺……。)
改めて陣形を見直したボスゴドラはそのまま静止する…そろそろ緊張感が解けてしまう…そう誰かが思った瞬間…ボスゴドラの目は大きく開いた。
ボスゴドラ「…大当たりだ!デンリュウとアブソルの間真っ直ぐ約7m!水のポケモンが2体いる!デンリュウを中心に、姉貴と頼む!リオルとフィオーレ、ドレディアでフォローだ!」
デンリュウ「7m!?…り…了解…!」
アブソル「距離まで分かるなんて…シルヴァ!」
シルヴァ「分かってます!早急に!」(姉貴って私のことでしょうか……?)
一足先に指示された方向に向かうアブソル達、だがボスゴドラの大声の指示は続く。
キングドラ「ボスゴドラ!他は!?」
ボスゴドラ「すまん指示遅れた!3体それぞれ別方向から来る!大将は左に7歩、キングドラは2時の方向に10歩!ヘラクロスはそのままでいい!方向がバラバラだから乱戦になる、キルリアを中心として残りは後陣でサポートを!」
キングドラ「指示が遅れる割には正確だな!?高速移動!」
ボスゴドラ「キルリア!この3体もタイプは水だ!大将には光の壁を忘れるな!」
キルリア「あ、うん!分かった!」
ミミロップ「で?貴方はどうするのかしら?」
ボスゴドラ「6時の方向に1匹いた!そいつを片付ける!大将!後頼むぞ!」
バンギラス「うん…任せて…!」
あらかた指示を終えるとボスゴドラ一人外れた方向に走っていく…生い茂る草木はそんな彼をすぐに隠してしまった…。
キングドラ「ったく…今回も大当たりとはな……!」
ヘラクロス「うわ…ほんとに来たっすよ…!?」
バンギラス「ほんとに…なんでいつもこの時だけ真価を出すのか…。」
キングドラ「…なんか今頭の中にブーメランが浮かんだんだが…何故だ?」
エーフィ「無駄話はしてられませんよ!来ます!」
エーフィの一括で前に向き直り、茂みから出てきたドククラゲを注視する…。
ドククラゲの進む方向には丁度バンギラス達前陣が既に構えている…ボスゴドラは見えない敵の進行方向をピンポイントで当てていた…。
アブソル「戦闘行動…開始!」
デンリュウ「アブソル…私に合わせて!」
バンギラス達より少し前からアブソル達は2体のポケモン、ハンテールとサクラビスと交戦を開始していた…本来ならデンリュウともう一人、相性で有利なドレディアが前線に立つはずなのだが…ドレディアは戦う力が余りないのでシルヴァに代わってもらっている…そのため後ろではリオルと応急回復の準備をしていた。つまり、後ろからの援護はフィオーレとレアコイル達…体制は完璧に整っていた。
アブソル「切り裂く!」 デンリュウ「かみなりパンチ!」
二人の先制攻撃は見事にハンテールを直撃した、衝撃を耐えきれず、ハンテールは木に叩きつけられるまで吹き飛ばされる…だが残ったサクラビスも黙って見ている訳では無い…すぐさまシルヴァに突進を仕掛けていた。
アブソル「しまった…シルヴァ!」
シルヴァ「…………?」
デンリュウ「……え?」
シルヴァはサクラビスの突進を避けることなく正面でガードをとっていた…突進を喰らって後ろに下がるシルヴァ…目線だけはマスターのアブソルに一瞬向いていた。
シルヴァ「……あら…?」
アブソル「シルヴァ…大丈夫か!?何故避けなかったんだ?」
シルヴァ「え?……あの…よく聞こえなかったです…ごめんなさい…。」
アブソル「聞こえなかった…?」
フィオーレ「アブソル前!サクラビスがまた仕掛けてくるよ!」
デンリュウ「ハンテールもまだ来るみたい…!こっちは大丈夫だからシルヴァに付いてあげて…!」
デンリュウはリオルとドレディアにサポートを頼むとそのままハンテールへの追撃を開始した。
アブソル「……くっ!?」
サクラビスは次にアブソルを狙ってきた、水の波動からの突進…アブソルはそれを避けたり捌いたり…カウンターも仕掛けようとしたが早い…フィオーレの火炎放射もレアコイル達のチャージビームもヒラリとかわすのだ…シルヴァは…動かない、アブソルを先程と同じくただ見ているだけだった。
アブソル(シルヴァ…なんで動かないんだ!?調子が悪い…って訳でも無いみたいだが…。)
理由を考えるが心当たりがない…まさか一匹のサクラビス相手にここまで苦戦するとは…フィオーレ達と攻撃を続けていた時、シルヴァがアブソルに声をかけた。
シルヴァ「…あの…マスター!」
アブソル「どうしたの!?気分とか悪いのか?」
シルヴァ「し、指示はないのですか!?」
アブソル「え?特にはない…けど……あぁそっか!」
フィオーレ「アブソル!?大声出してどうしたの!?」
アブソル「シルヴァが上手く動けない理由が分かった!シルヴァ、次から行くよ!」
シルヴァ「了解です!マスター!」
二人の事情はお構い無しにサクラビスは再度突進…いや、今度はアクアジェットを仕掛けてくる…だがアブソルとシルヴァは動かない…引き付けて…引き付けて…。
……今っ!
アブソル「シルヴァ!ねこだまし!」
シルヴァ「……せいっ!」
パァンと勢いよくならした手にサクラビスは驚き思わずその早い動きを止める…ここで畳み掛ける……!
アブソル「飛び膝蹴りを!」
シルヴァ「ふっ…!」
指示を受けたシルヴァはすぐにサクラビスの顔面に膝蹴りをくらわせる…サクラビスは真っ直ぐ上に飛び、重力に従って落ちてくる。
アブソル「最後だ!シルヴァ!僕に合わせて…行くよ!」
シルヴァ「承知!」
合図と共に2人は走り、未だ落ちるサクラビスに向かってジャンプする…同時にアブソルは頭の鎌、シルヴァは右足に青い光を集め…。
アブソル・シルヴァ「「つばめ返し!」」
それぞれ顔面と胴体に叩き込み、サクラビスは勢いよく斜め下へと飛ばされ…その方向には…。
ハンテール「……!?」
デンリュウ「え……?」
ゴンッ……!!
デンリュウの相手、ハンテールに丁度ぶつかり2人仲良く地面に叩きつけられながら森林の向こうへ吹き飛ばされて行った…。
デンリュウ「あ…行っちゃった……。」
リオル「やりましたね!デンリュウさん!」
デンリュウ「え?…あ、うん…そう…だね?」
デンリュウはリオルに先輩としてかっこいい所を見せたかったのだが…終わり方に納得が行くわけもなく、少々ガッカリした複雑な気分になった…。
アブソル「…ごめんシルヴァ!僕が気づくの遅れたせいで…。」
シルヴァ「いえ、私も自分で考えて動くべきでした…マスターも戦っているというのに…迂闊です。」
戦闘中にアブソルがシルヴァの「指示」の一言で思い出したことがある…シルヴァはアブソルが八雲虹だった時のポケモンなのだ…その時の彼女はゲームの中、データとしてのポケモン、何が言いたいのかというとシルヴァはこの世界の戦闘がゲームと一緒で交互に技を出し捌き合うと思ってしまったのだ…なのでマスターのアブソルの指示がないと攻撃をせず、また避けることも正しいと判断が出来なかった。
フィオーレ「よ、よく分からないけどとりあえず勝てたから良いんじゃないかな?」
シルヴァ「良くありません!今回はリオルがデンリュウ様の所にいたから良かったものの…このような失態…あの子に見られるわけには…。」
アブソル「まぁまぁ、すこしずつ覚えれば良いと思うよ?シルヴァは覚えるの早いから自分で考えて動くなんて造作もないことだよ!」
シルヴァ「マスターがそう仰るのでしたら…ぜ、善処します。」
フィオーレ「アブソル!私も記憶力には自信あるよ!」
アブソル「フィオーレはなんで張り合い気味なの!?」
リオル「先生!師匠!」
シルヴァ「リオル!?コホン…どうしたのですか?そんなに慌てて。」
アブソル・フィオーレ(スイッチを切り替えた!?)
リオル「お取り込み中すいません…ボスゴドラさん合流してます?」
アブソル「え?てっきりバンギラスさん達の方の加勢に行ったのかと…。」
リオル「コイルさん達から連絡があって…!まだボスゴドラさんだけどちらにも戻ってきてないんです!」
アブソル「……一度バンギラスさん達と合流しよう!みんな急いで!」
アブソル達は慌てて荷物を背負うと元いた場所へと駆け出して行った…。
〜同時刻、ボスゴドラ視点〜
ボスゴドラ「…見つけたぜ…やっと…。」
ボスゴドラが向かった先はこの森林の奥地にある大きな滝だった…その真ん中には残っている崖が…その上には1人のポケモンの影が見える…。
ボスゴドラ「まさかここでまた会えるとは思っても無かったぜ…!お前はどうなんだ?…ドククラゲ…いや、ヴェレーノ!」
ヴェレーノと呼ばれたポケモンは歩みを進め、影から姿を現す…その正体は二つの赤い光に多数のヒビが入っており、大量の触手を持っている…バンギラス達を襲ったのとは格段に違う殺気を放つドククラゲだ。
ヴェレーノ「私の名前を知っているとは…ふむ…お前…どこかで会ったか?」
ボスゴドラ「忘れたとは言わせねぇぞ…!鉄の町のフェールヴィル!これで充分だろ!」
ヴェレーノ「……あぁ、あの錆びれた所の、そんな前のことはもう余り記憶に無いな。」
ボスゴドラ「俺の故郷が…錆びれた…だと!?」
ヴェレーノ「あぁ…そう言ったが?」
ヴェレーノの言葉にボスゴドラは遂にその怒りのラインを超えてしまう…気がつけば殺意を剥き出しにしていた。
ボスゴドラ「フェールヴィルの…俺達の作り上げてきたものを愚弄するんじゃねぇぇ!!!」
ボスゴドラは怒声を上げながらメタルクローを構え、ヴェレーノへと突っ込んでいく…。
その時ボスゴドラは怒りの余り気づけなかった……ヴェレーノの目が…明らかに何かを楽しむような笑いを含めたものになっている事に…。