身分の違うパートナー
休暇4日目……。
〜アブソルの部屋〜
クルックー、クルックーとマメパト時計が鳴る前にアブソルは起床した…現在午前5時、悩み事……言わずもかなヘルガーのことでこれからのことを考えていると深い睡眠をとることは出来なかった……アブソルは身体を起こし、ベッドから降りようとする。
シルヴァ「お目覚めですか?…マスター。」
アブソル「シルヴァ!?いつからここに!?」
シルヴァ「マスターが起きた気配がしたので私も起床させていただきました。」
アブソル「気配って…もはやポケモンでも難しいことを簡単にこなすね…。」
シルヴァ「私はマスターのメイドのようなものですから当然です、早速ですが何か暖かいもの入れますか?」
アブソル「……じゃあ珈琲頼んでいいかな?砂糖なしで。」
シルヴァは畏まりました、と一言伝えるとササッと準備に入る、既にお湯を準備していたのかスッと湯気の出たポットを取り出した…準備が良すぎる…てか今どっから出した?
シルヴァ「どうぞ。」
アブソル「は、早いですね…ありがとうございます。」
シルヴァ「メイドですから。」
もはやメイドの一段階上なんじゃないかとアブソルは思ったが心の中にしまっておいた…シルヴァは褒めた部分が突出してどんどん伸びているような気がする…これ以上褒めたらどう進化するのかもそれはそれで見てみたいがなんか怖いことになりそうだ。
シルヴァ「マスター、飲みながらで構いません、耳に入れておいてほしい事が。」
耳に入れておいてほしい……?何のことだろう…アブソルはシルヴァに目線だけを向ける。
シルヴァ「ロコンが明日までギルドを不在にするそうです。」
アブソル「ブハッ!?」
シルヴァ「マスター!?大丈夫ですか!?」
あまりにも急だった…シルヴァの不意打ちにアブソルは思わず珈琲の三分の一を吹き出してしまう。
アブソル「ゲホッゲホッ…ごめん…急だったからつい…それよりもどういうこと!?ロコンが不在って……。」
シルヴァ「マスター…落ち着いて下さい、ロコンはマスターの為に不在にしたのです……。」
アブソル「僕の…為?」
シルヴァ「後で大将の所へ行きましょう、詳しいことはそこで聞いてほしいとロコンが……。」
アブソル「わ、分かった……。」
〜7:00、バンギラスの部屋〜
朝食を早めにとり、アブソルとシルヴァはバンギラスの部屋で話を聞くことにした…ロコンが何故急に出ていったのか…目的は何なのか…全てをバンギラスはアブソルに伝えた。
バンギラス「ではこういう時とても便利な言葉を……実はカクカクシカジカでね……。」
アブソル「そうでしたか…ロコンさん…僕の為に進化を……。」
シルヴァ「しかし、その条件である炎の石の習得場所、特出の火山はいくらもらい火のスキル(特性)を持つロコンでも辛いのでは?」
バンギラス「単身で乗り込ませる真似は出来ないよ…だからキングドラに付き添いを頼んだ、彼女なら水のタイプで特出の火山を住処にする炎ポケモンと相性が良いからね、後無茶をしないようにあなぬけのたまも渡している。」
アブソル「そうでしたか…キングドラさんがいるなら……。」
バンギラス「さて、じゃあこっちはこっちでやらなくちゃねぇ……っと。」
バンギラスはよっこらしょと立ち上がるとシルヴァに何かを耳打ちする、シルヴァはしばらく考えたあと、承りましたと一言述べ部屋から出ていった。
アブソル「シルヴァ……?」
バンギラス「ごめん、ちょっと頼み事をね…今は君と話したいこともあったから……。」
アブソル「自分と……ですか?」
バンギラス「あぁ…正直に答えてほしいんだ……。」
バンギラスは一度部屋のドアを開けて誰もいないことを確認するとしっかりとクローズの立て札をかけ、ロックをする、そしてアブソルの対のソファーに再度腰を降ろした。
バンギラス「ロコン君をどう思っているかい?」
アブソル「…………え?」
聞いたきたのはヘルガーの事とか過去についてではない……ロコンの事だった、アブソルはバンギラスの問いにすぐには答えられず、黙り込んでしまう。
バンギラス「今までの視点を聞きたいな…海岸洞窟でヘルガーと会ったあとから…君がロコン君と一緒に行動するのを私は余り……いや、全くと言っていい位に見なくなった…アブソル君…君は誰も傷つけまいとロコン君を……大切なパートナーを避けてしまってないかい?」
アブソル「…それは…………。」
図星だ…僕はロコンさんを自然に避けてしまっている…ロコンさんはいつも僕を支えたい、ついて行きたいと言ってくれるのだがこれは僕の独り事情が絡んでしまっているのだ…もしこれで…僕の判断ミスでロコンさんが…大切な人が亡くなってしまったら…僕はもう一生立ち直れる気がしない……それが嫌だ…傷つくのが嫌だ、誰かが倒れるのを見たくない…死ぬなんて最悪のパターンだ…。
バンギラス「うーん…その間の空き方は図星って感じかなぁ…。」
アブソル「……はい…自分は…ロコンさんを…。」
バンギラス「守りたい…だよね?でもねアブソル君、置いていく事が彼女を守ると言うことは少し違うと思うんだよ、私は。」
アブソル「…………。」
バンギラス「むしろそれが逆の効果になることもあるんだ、今がその状況…このままじゃアブソル君とロコン君はパートナーではなくなる……かも。」
アブソル「…本当は…どうしたら良いのか分からないんです……何が正しいのか、それすら判断も出来ない……。」
バンギラス「悩んじゃうよね…無理もない…でもとっても大切なことなんだ…ロコン君の事、少し調べてみた…これを。」
バンギラスは何枚かで綴った紙をアブソルに渡す、めくって見るとそこには一つの豪邸が写っていた。
アブソル「高そうな家……ですね……あれ?この右下に乗ってるのって…まさかロコンさん!?」
そこには白のティアラと軽装を纏ったロコンが写っていた、左にはウィンディがいる…恐らく父に値するのだろう…綺麗…なのだが本人はむすっとした不機嫌な顔…不満?
バンギラス「正解、いつか話そうと思ってたんだ…ロコン君は…いや、フィオーレ様はこの村、街をまとめる次の後継者…簡潔に言うとお嬢様なんだよ……。」
暫くの沈黙…アブソルは突然の事実に息をすることも忘れていた…。
アブソル「お嬢……様?、ロコンさんが!?…話が飛びすぎてもう訳が分かりませんよ……。」
痛くなってきた頭を抱えてしばらく考え込む…そしてある程度まとめるとまた話を続きから再開した。
アブソル「しかしバンギラスさん、ロコ…じゃなかったフィオーレ様の本来の姿が分かったは良いのですが…それが今の自分とどう関係が?」
バンギラス「これを知った時は私も驚いた…詳しいことはまだ分からないが彼女は…多分家を抜け出していると思う。」
アブソル「家出…ってことですか?そしたら何故……。」
バンギラス「不自由ない暮らしに満足出来ないと仮定しようか…彼女はギルド加入直後、どんな様子だったか覚えてるかい?」
アブソル「いえ、確かその時はエーフィさんと話していて…フィオーレ様はピカチュウさん達と話している所を見てからそれっきりですね……。」
バンギラス「良し、じゃあ私が見たものそのままを伝えよう、フィオーレ様は泣いていた。」
アブソル「泣いてた……?」
バンギラス「疑問だろう?私も一緒だ、誰かと話して泣いているのだから…たわいもない日常の一つの筈なのにまるでそれがはじめてだったかのようにね。」
アブソル「はじめて…だったような…まさかフィオーレ様は!?」
バンギラス「さみしかったから誰かといることで心の隙間を埋めたかった…違うかな?」
なるほど…それなら合点が行く…僕がヘルガーに撃たれて気を失った後も彼女は涙を僕の為に流してくれた……だが待てよ…もし合点が行くのなら今までやって来た自分の行動って…アブソルは自分を逆の立場として当てはめてみる…戦える実力を持っているのに…それを認められず置いていかれ、一人帰りを待ちながら寂しさとも戦う姿…想像なのに寒気が背筋を走っていった。
アブソル「でしたら…今までの自分は……。」
バンギラス「大体ヒントは得れたかな?これから先は私も手を出す訳には行かない…アブソル君とフィオーレ様の問題だ、二人がどう受け止め、どう変わっていくのか、楽しみにしているよ。」
バンギラスはソファーから立ち、部屋から出ていこうとする短い距離の中でアブソルに伝えた。
バンギラス「Going my way……君の思うハッピーエンドが出来たら良いね……。」
アブソル「!?」
振り返った時にはもうバンギラスは部屋から出た後だった……バタンと風でドアが勢いよく閉まり、アブソルだけが残される。
アブソル「……Going my way…英訳すると…我が道を行け…ですか…。」
ゲームとは全く違うパートナーとの身分の違い…分からない心境…二人が肩を並べて共に歩く姿を見るにはあともう一押しが必要だった…。
〜バンギラスギルド、トレーニングルーム〜
その頃シルヴァはバンギラスに頼まれていた仕事をこなそうとしていた。その仕事は……。
リオル「よ、よろしくお願いします!シルヴァさん!」
シルヴァ「やる気は十分ですね…来なさい…。」
リオル「先手必勝です!はっけい!」
シルヴァ「遅い…ねこだまし!」
アブソルの弟子となったリオルの特訓相手だった。
〜余談〜
バンギラス「き、緊張した〜……。」
エーフィ「何があったか分かりませんが…お疲れ様です。」
デンリュウ「………………。」カキカキ……
バンギラス「ん?デンリュウ君は何を書いてるのかな?」
デンリュウ「……秘密…です……ふふっ……。」
バンギラス(あ、あれ?アブソル君との話…聞かれてないよね!?)