小さな挑戦者
〜バンギラスギルド〜
バンギラスとキングドラは時間が珍しく空いたため、2人で少し休憩がてらにお茶を飲んでいた…実は先程までボスゴドラがチェス(積み木)やろ〜!としつこくバンギラスに迫っていたのだがキングドラと話し合った結果、面倒臭いと言うことで気絶してもらった。なので今はとても静かだ……。
「アブソル君達大丈夫かな〜……。」
「リーダー…そもそもあんたが頼んだんだろ?あんたが信用しないでどうするんだ…。」
「信用していない訳じゃないよ…ただ少し心配でさ……。」
「ほぉ…具体的にいうと?」
「このギルドの信頼度…私のせいで低いから……街とかで評価聞いたら落胆するんじゃないかな…って。」
「あぁ…そういうことか、大丈夫だろあいつらなら。」
即答で大丈夫と言い切ったキングドラにバンギラスは少し驚いた、思わず持っていたカップから手をはなしそうになる。
「やけに自信有り気だね?」
「当たり前だろ?例えリーダーが街の人々から低評価扱いされていても、俺達はここにいる…あんたの本来の姿を知っているからだ、リーダーならそこまで考えていると思ってたんだが……?」
「あはは……嬉しいような…ちょっと恥ずかしいような…不思議な感じがするな…。」
「自信を持つのはむしろリーダーだ、あんたは自分よりも周りをよく考えてくれている…というか創設してまだ5年も経っていないギルドを急に信用しろという話がおかしい…慌てすぎだ、少しずつ、確実にレールを作ることを俺は幼馴染としても副リーダーとしても勧めるぞ。」
いい事言ったなと言わんばかりに自身の首をうんうんと頷かせるキングドラ…余程信用されているらしい……。
「……ありがとうキングドラ…自分らしさを貫ける良いきっかけになったよ……。」
「礼はいらん、助け合いと支え合い、外れた道から元に戻す、それが仲間というものだろ?」
「先程目の前でその仲間の1人(ボスゴドラ)を気絶させた私にそれは当てはまるのかな……。」
「例外はない、悪気が無いのは分かっている…対応が難しいから避けていることもな。」
「分かってるなら助けてよ……。」
「見守ることも仲間としての務めだ。」
「ありがとうの言葉撤回、やっぱり意地悪。」
「急な手のひら返しだな!?」
ピンポーン♪
お互いの思いをまだ話したい所だったが誰か来たようだ…バンギラスは入って良いよとだけ伝えるとドレディアが慌てて扉を開けて入ってきた、普段冷静な彼女にしては珍しいことだ。
「す、すみません!お取り込み中でしたか?」
「大丈夫だよ、ところでその慌てよう…何かあった?」
「その事で連絡を……!その…こ、この間捕らえたポケモンが…だ、脱走を!」
「この間のポケモン…捕らえた……まさかヘルガー!?」
「最近のおたずね者捕獲の履歴はそいつが新しい!脱走者はヘルガーで間違えないな…だが何故だ?どうやって抜け出した……?」
「ちょっとジバコイル保安官と連絡とってくる!」
アブソルの因縁の相手の脱走…その事に驚きを隠せず、バンギラスは気絶したままのボスゴドラのことを忘れ、急いで部屋から走り出て行った……。
〜アブソルside、中央街〜
「……マスター、申し訳ありません…こちらはダメでした。」
「シルヴァもか…ロコンさんは?」
「ごめん、私もダメだった…沢山いるから1人位は見つかると思ってたんだけど…甘かったよ。」
「あとマスター…その…大抵の方が入りたくても入れない理由がありまして……。」
「……バンギラスさん?」
アブソルの指摘にシルヴァは頷く、ロコンに視線を向けると彼女も頷いた、加入を断る理由は皆同じだった。
バンギラスが…親方が凶悪ポケモンとして恐れられているから……。
「まさかバンギラスさんが理由になるとは…普段はあんなに仲間思いなのに……。」
「大将が街に来ることが少ないことも分かりました…恐らく大将も周りの視線を気にして下手に動けないのではないかと……。」
「でもすぐに信用してもらうこと……は難しいよね…。」
打つ手なし…何とか手を考えたい所だが3人はハァ…と深く息を吐いてしまう、まさかここまで難しいとは思いもしなかったのだ…。
「所で…さっきからついてきてる子はマスターのお知り合いですか?」
「へ?知り合い…何処?」
「後ろですロコン…ほら、あそこに…マスターの後ろの草陰、青い耳が見えているでしょう?」
「……何時からか分かる、シルヴァ?」
「多分森の辺りからではないかと…同じ中央街を目的地としているだけと思っていましたが……。」
そういうとシルヴァは1人で行かせてほしいとアブソルに頼み、ゆっくりと草陰に近づいて覗いて見た、リオルだ…メモ帳にペンを走らせ、何かを記録している…ジーッと見てみるとアブソルのことばかりだった…シルヴァはこれはもしや?と思い、声をかけて見ることにする。
(警戒されないように…ふれんどりーと言うやつで…慎重に…!)
「は、ハロー?」
シルヴァがフレンドリーな声?をかけた瞬間リオルはペンをピタリと止め、身体を硬直させた…そして冷や汗を垂らしながらゆっくりとシルヴァの方に目を向ける。酷く怯えているようにも見えた。
「…………!……………………!!」
「……はい?」
何か話したいのだと思うのだがリオルは緊張の余り口パクになってしまっている…シルヴァはこれでは話が出来ないとアブソル達の助けを借りることにした。
「……どうやらこのリオルがマスターに用があるみたいです。」
「僕に?リオルの知り合いなんていないはずだけど……。」
「アブソルのファンとか!?」
「流石にないでしょう…それは。」
アブソルが目の前に立つとリオルの目は怯えから輝きのあるものに変わっていた…メモ帳を握りしめた右手が震えている。
「ロコン…これは…。」
「脈ありだね…!チャンスかもアブソル!」
メモ帳にアブソルの事が書いてあり更にはこの目、恐らくはアブソルに興味があるのだろう…ロコン達はアブソルに一任することにした。
「えっと…はじめめまして…だよね?僕に何か用だったかな?」
「ハッ!…え、……えーと……あ、あの…その……。」
用件があるのは間違いないようだ…だが緊張がまだ取れていないためか言葉が詰まってしまい、上手く話せていない…。
「大丈夫、ゆっくりで良いよ…自分のペースでね。」
「ひ、ひゃい!?」
リオルの返事に思わず笑いそうになったが堪える…しばらくするとリオルも落ち着いたのかせわしく動いていた身体がピタリと止まった。
「あ、あの……!バンギラスギルドのアブソルさん…ですよね!?」
「あ、うん、そうだけど…。」
「お、俺!アブソルさんに戦い方を教わりたくて……!お願いします!俺をアブソルさんの弟子にして下さい!」
「…………え?」
リオルの弟子志願にアブソルは思わず一瞬固まっていた……。
〜バンギラスギルド前〜
「という訳でリオルが新しく入ってくれるとの事だったのですが…。」
「……なんかギルドが騒がしいね、アブソル。」
「先生、いつもこんな感じなのですか?」
「せんせ…ま、まぁいっか…ギルドがいつも賑やかなのは変わりないではありませんか、きっとボスゴドラさんかヘラクロスさんが面白いことを……。」
とそこまで言いかけた時、ギルドの入口から誰か出てきた…デンリュウだ。
「アブソル……!」
「デンリュウさん、ただ今帰りました…えっと…ギルドに加入してくれる子を連れてきたのでバンギラスさんと話がしたいのですが……。」
「それどころじゃない……!アブソル…!早く中に…大変なの……!」
「大変…って何が?」
「私達が…私達が捕らえたヘルガーが脱走……!」
「!!」
ヘルガーという言葉を聞いてアブソルはその場にいる全員を差し置いてギルドへと走り込んでいった…。
(最小限の被害で抑えれなかった……!簡単すぎたのか……何が…一体どこで…どこで選択を間違えたんだ!?)
「せ、先生!?、ロコンさん…先生に一体何が……。」
「……アブソルの因縁の敵が…逃げたんだよ……。」
「因縁の……敵……?先生に……?」
リオルはアブソルが走って行ったバンギラスのギルドを眺める、小さな身体にはそぐわない…大きな砦のような建物がプレッシャーをかけているように感じる…リオルのギルド生活はこうして波乱の続きと緊張感と共に幕を開けた……。
元人間に憧れたリオルの挑戦はここから始まる……。