立場の危機
〜バンギラスの仕事部屋(自室)20分前〜
バンギラスは今思いがけない危機に直面していた…机の上に両肘を置き頭を支える体制で座り込んでいる…目線の先には一枚の紙があった。
「……これは…そろそろ不味いかもしれないね…。」
緊張…いや焦りによるものだろう…対策を考えていると喉が乾いてくる…バンギラスは一度悩みの元凶から目を逸らし、道具棚から一本の瓶を取り出した。
「悩んでばかりじゃ持たないな…これに頼らせて貰いますかねぇ…っと…。」
軽く鼻歌を歌いながらコップに注いでいく…紫の液体が一杯に…零れそうになる前で止めるとそれを一気に喉を鳴らして飲みほした。
一応言っておこう…彼は19歳だ……。
「ぷは〜〜〜〜〜っ!やっぱりコカ・コーラ(炭酸飲料ジュース)おいし〜〜〜!疲れた時はこれだよこれ!」
そして野菜の他にも炭酸飲料好きでもある。
〜バンギラスの部屋、現在〜
「…………てな訳で〜、この危機を乗り越えるために他でもない君たちに集まってもらったって事なんだ!」
話は今に戻り、バンギラスは集まったアブソル、ヘラクロス、ボスゴドラに目を向ける…三人ともは、はぁ……?と言いたげな顔をしていた。
「あの〜、バンギラスさん…危機が迫ってる…ってのは分かったのですけど……炭酸飲料のことはどうでも良くありません?」
アブソルの言い分に賛同して他の二人もうんうんと首を縦に振る。
「ど、どうでも良いなんてことはないよ!だって炭酸飲料だよ!?野菜じゃないよ炭酸飲料だよ!ただでさえ最近野菜について語れていないのにこれ以上に読者の皆さんに個性を伝えるとしたらこれくらいしかないじゃないか!」
「いや涙目でそれを言われても…あと読者って…。」
「アブソル君はいいよね!主人公だから!ただ槍振り回してるだけで周りの目線を集めるんだから!羨ましい!ヘラクロス君だって語尾に〇〇ッス!って後輩単語ぶちかましているから結構皆に覚えてもらってるしさ!」
そういうとうわーん!とわかり易くマジ泣きしてくる我がギルドの親方…本当にバンギラスの凶暴さが欠片もないな…こんな人に個性気にさせるなんて世界広いな…。
「……こ、個性については分かりました…ですがバンギラスさん…ひとつ言わせてもらっても?」
「…………なぁに?」
「……ボスゴドラさんのこと忘れてません?」
「……じゃあ話を戻すよー。」
「いやいや!待ってください!なんで今のことは何も無かった…全て忘れたのだ!風に話戻してるんですか!?いつものバンギラスさんはどこに行ったのですか!?」
「……空においてきたでしゅ。」
「バンギラスさん空飛べませんよね!?」
「親方はボスゴドラのことをちょっとライバル視してるんッスよアブソル。」
「ラ、ライバル…ですか?」
「そうッス、まぁ聞いてほしいッス!ボスゴドラ!アブソルの為に幾つか質問に答えてほしいッス!」
「ん?あぁ…おうよ!どんど来やがれ!」
最初は面倒臭いのかソファーに座ってからはゴロゴロしてばかりの彼だったが名前を呼ばれるとバッ!と起き上がった…扱い易いタイプか……?バンギラスさんはちょっと不機嫌そうだ…珍しい。
「好きな食べ物は何ッスか?」
「果物類なら何でもだ!木の実とかなんでも食べれるぜ!」
「ふむふむ……。」
「では次ッス!よく飲む飲み物を教えてほしいッス!」
「炭酸だな!コカ・コーラ・ゼロが一番だ!」
「チッ……。」
「ほぉほ……え?今誰か舌打ちしませんでした!?」
「………………。(プイッ)」
「では最後!人間の遊びで好きなのは?」
「将棋だな!」
「へぇ…意外ですね…。」
「さてここで親方にも質問!親方の人間の遊びで好きなのは!?」
「……………チェスだよ……。」
「バンギラスさんはチェスで……ん?」
「ここまでくればアブソルも感づいたッスか?」
「えぇ…野菜と果物、コカ・コーラとそのゼロ、チェスと将棋…なるほど…バンギラスさんとボスゴドラさんは似ているようで別の好みになっているのですね。」
「正解ッス!二人は好みや性格がほぼ同じ!、陰と陽のなりかけなんッス!」
「それがバンギラスさんからしたら面白く無かったのですね。」
「……そうだよ…因みに力は彼が上、私は知能が勝っているみたい。」
「まぁまぁそんなキャラとか気にすんなよ大将!好みが似ているからこそ仲良く!兄弟のようなもんだろう!現に将棋とチェスもルールはほぼ同じだしよ!ガハハ!」
「ルールは未だにおぼえてないでしょ……むぅ〜……。」
「アハハ……まぁこんな感じッス…依頼の時はチームワークとか抜群なんすけどねー。」
「ありがとうございます…よく分かりました…では話が逸れるどころか僕のせいで脱線しちゃったのでバンギラスさん…立て直しをお願いしても……?」
「あ………!そうだった!コホン……じゃあ戻すよ、まずはこれを見てほしい。」
「……これは?」
「ミミロップにデンリュウ…キルリア…ロコン…コジョ…じゃないシルヴァ…メンバーのリストッスか?」
「なんだ大将?、気に入った女でもいたか?俺はあの格闘女(シルヴァ)がスゲェ好みだけどよ!」
「ボスゴドラ…ややこしくなるから止めるッス……。」
「……全員…女性?」
「「!?」」
「そう!それだよアブソル君!このギルドは統一に優れたチームワーク抜群のギルドだけど性別による分離が全く整って無かったんだ!」
「親方、それがなにか問題でも?」
「男性4、女性多数(指折りで数えていたが6人当たりで止めた)、このままでは我々♂達の立場が危うくなる!」
「なん……だと!?それはやばいな親方!……んで立場ってどういう意味だヘラクロス?」
「分かってなかったのに驚いてたッスか……。」
「バンギラスさん……ロコンさん達はそういうのは余り気にしていないのでは?」
「そうッスよ、皆凄く綺麗で優しいッス!親方の考えすぎッスよ!」
「いや……女の子はね…心の中では何を考えているのか分からないんだよ!私はキングドラと一緒にいるからそれがよく分かるんだ!そして私の第六感が伝えてる!至急新たな♂を増やしてってね!」
「「えぇ……。」」
〜バンギラスギルド入口前〜
「それでアブソル今から街に行くんだ〜。」
「マスターも大変でしたね……。」
「えぇ…この間エーフィさんが案内してくれた街に行けば見つかるかな…って思って…どうせ暇でしたしダメ元でって感じですけど。」
「マスター、宜しければ私も同行します。」
「私も行く!いいかな?」
「助かります…ロコンさんとシルヴァが居れば説明もしやすいです……。」
「では思いあらばすぐ行動です、早速向かいましょう…マスター、ロコン様。」
「あ、シルヴァ!私のことはロコンだけで良いよ!気軽に呼んで気軽に!」
「…善処します…えっと…ロコン。」
「うんうん!さ、じゃあアブソルもぼーっとしていないで動く動く!探しに行くよ、ギルド加入希望者かっこ男性限定かっことじ〜♪」
「りょうか……ってちょっとロコンさん!?余り引っ張な…わぁぁぁぁ!」
「マスター!?ロコン!?…これは速い、全力で飛ばねば……!」
上機嫌なロコンに引っ張られ引きずられる形になりそうなアブソルをコジョンドは慌てて飛び跳ねて追いかけた。
「…………………。」
ピョンピョン……。
その後ろの草陰にはゆっくりと…だが確実に追跡してくる者がいることを知らずに……。
〜街に行く道中の軽いトーク〜
ロコン「そういえば将棋とチェスってルールは王を取れば勝ちみたいなんだけど何か違いがあるの?」
アブソル「ボスゴドラさんはほぼ同じと言っていましたが実は全然違います、将棋は戦国時代の戦争、チェスは宗教の戦争を舞台にしてできているんです。」
ロコン「宗教……?」
シルヴァ「人間の世界では神を信じる…それによって決まり事…宗派のルールに分かれ、生き方の決まりに違いがあるのですよ。」
ロコン「へぇ…それがどう関係するのかな?」
アブソル「将棋とチェスのルールに答えはあります、将棋はとった相手の駒を出すことが出来る、チェスはそれが出来ません。」
ロコン「チェスは出せないんだ…。」
アブソル「戦国時代の戦争では打ち負かした人達を戦力の補強として入れることがあるんですよ、場合によっては忠誠を誓う者を変えて自ら加わることもあったそうです……しかしチェス、宗教戦争はそうはいきません……。」
シルヴァ「宗教とは神への誓い…言わば生き方を変えること…それは今まで信じてきた神を見捨てるのと同じ…だから加えず躊躇なく殺す…ですよね、マスター。」
アブソル「シルヴァの言う通り、これがチェスではとった駒が出せない理由、将棋とのルールの違いです。」
ロコン「そんな違いと理由があったんだ…イメージして動かすと楽しそうだね…!奥が深いなぁ……。」
シルヴァ「……しかしマスター、それでしたら何故ボスゴドラ様が話した時に教えなかったのです?」
アブソル「…すぐに忘れそうだし…あと話が絡まってややこしくなるから……。」
ロコン&シルヴァ「あぁ……納得(です)……。」