貴方に愛のお返しを……。
〜深夜、場所不明〜
喧しくピーピーと同じ音を立てる機械音…周りを見ればよく分からない装置や道具が散らばっている…何処かの地下施設だろうか…天井は鉄で抑えられているが左右は土の壁だった…。
「…………ここは……?」
アブソルは見覚えのないこの場所で目を覚ます…寝ぼけてギルド内をさまよったか…いや、それはないだろう…バンギラスのギルドにはこんな所はない…同じ地下の場所であれど、雰囲気、構造は全然違う…だとしたらここは何処だ?そこまでの記憶が定かではない……。
「………進むか……。」
考えても仕方が無いと判断したアブソルは真ん中だけに開かれた通路を歩き始める……進んでも……進んでも……進んでも……来たような機械に緑の水が溜め込まれただけの物が目に入る…同じ光景ばかり繰り返し…正直イライラする…帰ろうかと思っても通路はここだけ…足は止められない。
「……………………。」
どれくらい進んだのだろう…10分?、いや1時間?、それ以上に長く歩いたような気がする…時間の感覚を忘れそう…周りはやはり緑の水が溜め込まれた機械だけ…頭がどうにかなりそうだった。
「…………!?」
ようやく奥にたどり着いたようだ…目の前にあの機械がある……だが左右にではない…通路の真ん中だ、しかも何か入っている…大きい…ここが一方通行の終点で間違いないようだ。
「この中にあるのは…人?……人の形を保ってるな…。」
ここからじゃ少し遠くて黒い影しか映っていない…アブソルはその機械へと近づいていく。
「……何……!?」
中を確認した瞬間…アブソルの足は驚きと共に止まる…目を大きく見開き、機械のガラスに手を当てた…。
「……何故だ…おい!目を開けろ!何があった!?どうして…どうして君がここにいるんだ!?」
ガラスを叩いて起こそうとするが人間は目を覚まさない…小さく酸素マスクで規則正しい呼吸を繰り返している。
「……クソッ!待ってろよ…すぐ出してやる!」
アブソルは機械を壊そうときりさくの構えをとる…白の光が右手に集まり刃と化す…相手は物…躊躇…遠慮なんて要らない…。
「…………ハッ!」
ガコンッ……!
勢いよく振りかざすジャンプ切り…だが壊れない…傷一つ付いていない…アブソルは顔を顰めつつも今度は頭の角にも…左手にも白の光を纏い、三刀流の乱舞を叩き込む…が結果は一緒だった…。
「な…何で…鉄でも傷はつくはずだろ…ここまで硬いなんて…。」
何か打つ手はないか…と周りを見渡す…とアブソルはここでようやく気がついた…左右の機械にも何か入っている…どこの人間か確かめるために確認してみると……。
「……嘘だろ…今度はポケモン…?」
アブソルが見た通り…六体のポケモンが入っていた…アブソルはその内で眠っている3匹を見る。
「…シンボラーに…ダイケンキ…コジョンド?」
特に何か関連性があるようには見えなかった…がアブソルにはこの3匹に見覚えがあったのだ…この3匹は……。
「僕の…僕のホワイトの手持ちポケモン……。」
記憶の泉でも何回か見せてくれたから何となく覚えている…アブソルが人間…八雲虹であった時、データではあれど共に戦ってくれたポケモン…。
「……っ…他の3匹は!?」
後ろを振り返って反対の機械を見る…黒の影が同じく3体…やっぱりだ…何か入っている…。
もはや考えるよりも先に行動…何故自分がここにいるのか…ここはポケモンの世界か…あるいは人間の世界なのか…何にもわからない…だが…この子達は…助けなきゃと…自然に本能…らしきものがそう告げていた。
「うっ……がぁぁ!?」
突然襲ってくる頭痛…熱などによるものとは比べ物にならないほど…アブソルは痛みの余り、その足を止める。
「ッ!…うぐっ……!」
脳みその中で棘だらけの虫が大量に蠢いているような感覚…アブソルは痛みに耐えきれず遂にその身を地に伏せもがく……。
カッ……カッ……カッ……。
「だ……誰……だ!?」
持てる気力を振り絞り…顔を少し上げるアブソル…だが体までしか目視出来ない…顔が…見えなかった……空中をゆっくり降りてきた者は人間の入った機械へと近づいていく。
「待…て…それに…触れ…る……な。」
そこまで言うとアブソルは頭痛の痛みで気を失ってしまった…だが最後に見たものをこの目でしっかりと見た…。
あいつは人間の入った機械に何か入れた…間違えない……中の人間…八雲虹に何かを仕組んでいた筈だ……。
人間の頃の……僕……八雲虹には…まだ…知られていない何かがある……確信は定かではないが……。
死んでも構わん……お前はそういう奴だ。
実験体、そう…お前はただのモルモットに過ぎん……。
私のために死ね。
死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死…………!!
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!!」
…クルックー…クルックー……。
「…………あれ……?」
気がついたらアブソルはベッドにいた…マメパト目覚まし時計が朝の6時を伝えてくれている。
「……夢…だったのか…?」
夢では片付けなれないくらいリアルだった……頭痛も…痛みも本物のようだった…実際まだ頭が少し痛い…アブソルは汗をかいて熱くなった身体を風で冷まそうと窓を開けるためにベッドからおり……。
バタン……!
窓は勢いよく開いた…朝の風は春といえどまだ冷たく、身体に当たる感覚が心地良い…のだがアブソルは今はそれどころじゃなかった…アブソルはまだベッドから降りていないのだ。
「汗だくですよ…タオル…ここに置いておきますね…。」
「あ、ありがとうございます……。」
代わりに窓を開け…タオルを準備したポケモンにアブソルはお礼を言う…だがその子は首を傾げた。
「敬語……?私には普通に話してくれて良いのですよ…?」
「え……いや、その……あれ?」
「あらあら……まだ寝ぼけていらっしゃいますのね…しばしお待ちを…お水持ってきます……。」
「ま、待って!」
アブソルはその子を呼び止める…寝ぼけてなんかいない…もとよりアブソルは既に眠気など覚めている、目の前の現実についていけていない…それだけ。
「何でしょうか……マスター?」
目覚めたアブソルの目の前には……夢に出てきた八雲虹の手持ちポケモン……コジョンドが居た。
〜バンギラスギルド、アブソルの部屋〜
「んで、私達を呼んで今に至る…って訳かな、アブソル?」
「はい……間違いありません……。」
「失礼!コジョンドさんはアブソルさんとどのようなご関係でしょうか!」
「ちよっ!エーフィ!?」
「私はマスターと……強いて言えばそうですね…家族…でしょうか…。」
「ま、マスター!?家族!?……侮れませんね……。」
「……?」
頬を膨らませて可愛らしい威嚇をするエーフィを止めるロコン…それを見て?マークを浮かべながらも、大人の妖艶さを引き立てた静かな笑いを漏らすコジョンド……。
「アブソル君……何このカオス……。」
「…バンギラスさん…僕もう考えるのをやめたいです。」
「落ち着け、朝から脳を使いすぎただけだ…幸い今は休暇…ゆっくり休める。」
その日の休暇はアブソルが珍しく身体を壊し寝ることに午前は回した……因みにロコンとエーフィ、更にプラスでコジョンドが看病を引き受けようとするのでバンギラス達はそれを食い止めていた事が後で発覚した…ごめんなさい…バンギラスさん…皆さん……。
「……あれ?…この流れ前にもあったような気がする……まぁ……いっか。」
突如部屋に現れたコジョンド…夢に出てきたあの機械……ポケモン……八雲虹…もう何が何だか分からなくなってきた…話の整理は体調を元に戻してからにしよう…アブソルは布団を掛け直し、再び眠りについた……。
(マスター…貴方は私に沢山の愛を注いでくれました…貴方はデータの分身で動いていましたが…私にはそれが直接伝わっています…それは他の皆さんも同じこと…私はその恩義を返したい…ここなら…その願いを叶えることが出来る…貴方にも私の愛を注いであげることが出来る…また……共に戦える……。)
コジョンドは胸に当てていた手を下ろし…アブソルが睡眠に入ったのを見届けるとドアをゆっくりと閉めた…。
「……こんな形ですけど……また会えてよかった……。」