思い出の……?
〜?、時間不明〜
ヘルガーを瀕死の重傷に押さえ込み、アブソル達はようやく一息つける状態となった…ヘルガーはキルリアが持っていたロープでグルグル巻きにしている…逃げることは…難しいはずだ。(因みに気絶して貰った、やったのは何故かデンリュウ……。)
「アブソル君…お疲れ様!」
「えぇ…ありがとうございます…。」
緊張感を解いて地に身体を下ろしたアブソルにキルリアは労いの言葉をかける…だがその勝利には…。
「あ……その武器……。」
「急ごしらえでしたからね…壊れて使えなくなってしまいました…。」
アブソルのサンダラー(壊音の霹靂)からは弾丸の摩擦で生まれた白い煙が出てきている…アブソルが少し触るとバキンと音を立てて二つに折れてしまった…。
「アブ…ソル…。」
フラフラした足取りでこちらへとやってくるデンリュウ…目の集点がアブソルとあっていなかった…。
「……っ。」
「デンリュウさん!?」
デンリュウはフラッと身体をよろめかせるとそのまま倒れる…傷だらけの身体からはよく見たら血が出ていた…。
「やっぱり無茶させていましたか…キルリアさん!回復処置を!」
「あ、うん…えーっと…オレンのみは…。」
キルリアがガサゴソとカバンを漁っている間、アブソルはデンリュウを楽な体制へと変える。
「アブソル……ごめん…最後の…最後で。」
「何言ってるんですか…デンリュウさんとキルリアさんが僕を温存するために森のポケモンと全力で戦ってくれたからこそ、この勝利が収められたのですよ?」
「ふふっ…アブソル…優しい……。」
「え?そう…ですかね?」
「うん…そんなアブソルが…私はす…」
「こらそこイチャイチャしない!」
デンリュウが最後まで言い終わる前にキルリアはオレンのみを二人の口の中に勢いよく突っ込んだ…傷は回復…したのだがちょっと口周りが痛い。
「モグモグ…ふぅ…アブソルの意地悪…。」
「えぇ!?何でそうなるのですか!?」
「アブソル君!君の優しさは他の女を駄目にするんだよ、だから甘くしちゃダメ!」
「農作物を駄目にする害虫みたいに言わないでください!」
「クスクス……。」
トントン…
「ん?」
その時アブソルの両肩が軽く叩かれる…。
「アブソル(さん?)、ようやく見つけた(ました)……。」
「……………………え?」
まさか…ここまで……?冷や汗を垂らしながらゆっくりと後ろを振り返る。
声の主はやはり…ロコンとエーフィだった…。
……20分くらい経っただろうか…デンリュウとキルリアは後から到着したバンギラスとキングドラと合流し、アブソル達から少し離れた所で待機している……現在アブソル説教中…アブソルの二人を置いていった優しさはここで裏目に出た。
「しかし…良くやったな…ヘルガー確補、素晴らしい成果だ…。」
「ほとんど戦ったのアブソルでしたけどね…。」
「にしては二人共傷が目立つけど……?」
「アブソル君にヘルガーと万全な状態で戦ってもらいたかったんです…なので私とデンリュウで森を抜けるまでは…。」
「なるほど…キルリアも戦闘に…。」
「リフレクターと光の壁しか使えなくても…銀の針位の道具は使えますから…。」
「そっか…でも帰ったらドレディア君に治療してもらうように。」
「分かりました。」
「……。」(コクリ)
「パートナーとしてお礼を言わせて……ありがとね、アブソルを守ってくれて。」
「ロコンちゃん!?いつの間に…もうお話は終わったの?」
「うん、アブソルが私とエーフィの言う事何でも一つ聞くことを条件で収まったよ。」
(どんな追い込まれ方したんだいアブソル君……!)
バンギラス達がアブソルの方をちらっと見る…うわ…エーフィ君に膝枕されて慰めて貰ってるよ…凄いレアな光景だ…。
「ふふふ……これで私とアブソルさんのデートが決定しました…愛のシルクロードは順調に建設されてます…。」
「エーフィ君…心の声出てる…。」
「リーダー…そろそろ帰ろう…ヘルガーが目を覚まして暴れる可能性がある。」
「そうだね…エーフィ君、アブソル君の様子は?」
「アブソルさ〜ん♪……あれ?………寝てますね…。」
「さっきの状況の中で!?」
「アブソル…疲れてる…仕方ない。」
「私の愛の囁きがぁ……。」
「無理しすぎだって言ってるのに……もう。」
「エーフィちゃんがものすごい一途…。」
「お前ら緊張感の調節もっとしっかりしろ!」
その後バンギラス達の補助もあり、一行は森から脱出した。
翌日……。
〜バンギラスの部屋、9時〜
いつも通りの朝を迎えたアブソルは朝食を食べると早速バンギラスの部屋へと向かって行った、ロコンとエーフィ、デンリュウとキルリアも付いてきてくれた。
「失礼します!…バンギラスさん…ヘルガーについて何か分かったことは…!?」
「いや……まだ起きてないみたいだよ…ジバコイル保安官からそれだけ伝えられてる…余程酷い重傷だったようだね。」
「そこまで酷く傷つけたつもり…あ……。」
アブソルは一緒に付いてきたロコン達を見る…その中で一名、滅多に見せない笑顔でいる子がいた…デンリュウだ。
「……なぁに…?」
「…いえ何でもないです!」
「……?」
アブソルは確信した…デンリュウさんは嫌いな人には容赦しないタイプだ…。
「とりあえず今はまだ様子見かな…情報が入り次第アブソル君に伝えるよ。」
「分かりました…お願いします。」
それだけ言うとアブソルは踵を返し、部屋から出ていこうとする。
「ちょっと待ってアブソル!」
「どうしました、ロコンさん?」
「どうしました?じゃないよ!何でそんなに平然としているの!?エーフィから聞いた話が本当だったら…か…家族を殺されてるんでしょ!?」
「え!?」
その言葉にデンリュウとキルリアも驚く…大体予想がついていたバンギラスとエーフィも苦い顔でアブソルの答えを待つ。
「初耳……アブソル…本当?」
「えぇ…そうですよ…僕の両親は恐らく…いや、銃が一緒だったことからアイツで間違いないと確信しています、使い方も全く同じでした。」
「だったら何で!?恨んでるんでしょ……何とも思わないの……?」
「恨む…?…えぇ…当然恨んでますとも!憎くて憎くて堪らないくらいにね!」
部屋に響くアブソルの怒声…むき出しの牙からはギリギリと音を立てている…。
「ですが……今の僕にはアイツを殺すことが出来ない…。」
「……え?」
「僕の両親を殺した…海岸洞窟のポケモンも沢山死んだ…万死に十分値する…死して償って当然のはず…なのに…僕にはそれが出来ない…!」
「……理由は…あるのですか?」
「分かりません…ただ…僕にはどうしたら良いのか…全く考えがつかないんです……。」
復讐の相手を目前で殺せないことに戸惑うアブソル…そんな彼に…家族のことを知らないロコン達はかける言葉が見つからなかった…。
「……失礼しました……。」
アブソルはバンギラスの部屋から出ていった…ロコンは閉められた扉をまだ見ている…。
「アブソル…。」
「ロコンさん…気を確かに……。」
「アブソルは過去を見ている…だが記憶を完全に思い出した訳では無いからな……。」
「気持ちの整理がつかないんだね…だから自分なりの解答を見つけられない…。」
「アブソル君……。」
「…………。」
「キルリア君、デンリュウ君…このことはどうか…アブソル君の整理がつくまで…。」
「はい…。」
「内密…了解。」
「じゃあ今日はこれで解散…自分のやりたいことに戻って…。」
その後昼食の時間があったのだが……ギルドの食堂にはアブソルの姿は無かった……。
〜アブソルの部屋〜
「…………ハァ…。」
アブソルは自身の部屋で横になっていた…ベッドで休んでいれば考えも落ち着いてまとまるだろうと考えていたのだ…だがそれは叶わなかった…頭の中がグルグル回る…答えのない円周率の最後を求めているような感覚だった。
「僕はどうすれば…何故今頃…仇を討つことに躊躇するんだ…。」
念入りに手入れしている槍を右手に握る…ヘルガーのことを考えるとその手は槍と共に震えていた。
コンコン……。
「ノック……?一体誰が…。」
ベッドから慌てて降り、槍を元の場所に戻してドアを開ける…誰もいなかった…。
「……おかしいな…確かに誰か来ていたような…ん?」
ふと鼻をつく良い匂いにつられ下を見る……。
「…クリーム…シチュー?」
誰かが持ってきてくれたのだろう…今度分かり次第お礼言わなくちゃ…アブソルはお盆を持っていこうとすると下から一枚の紙がヒラリと落ちる。
「紙……メッセージか何かかな?」
小さく丁寧に畳まれた紙を開き、中の文字を確認する…「遅くなったけどおかえり!思うことはいろいろあるよね…困ったらすぐに私を頼ってよ?私はアブソルのパートナーなんだから!」、綺麗に文字を揃えてそう書かれていた。間違えるはずが無い、一緒に過ごしていればすぐに分かる…ロコンの字だ。
「…エーフィさんといいロコンさんにまで……助けられっぱなしだなぁ…僕も。」
ロコン達のことを考えると自然と気持ちが楽になった気がした…今のうちにシチューを口の中に含む…。
「…………美味しい……。」
好みの味に思わずアブソルは笑みをこぼす…ドアの向こうでは思わずガッツポーズを決める影がひとつあった。
「……今回は手紙で済ませちゃったけど…今度はちゃんと直接言うからね?」
影の正体…ロコンはそう呟くと心底嬉しそうな足取りで自身の部屋へと戻っていった。