クイックドロウ
〜?、時間不明〜
バンギラスとキングドラが見つけたキャンプ地…今の明かりは真ん中にある焚き火のみ…その赤の光の影には一人のポケモン…ヘルガーがじっとしている……。
「…………来たな…。」
森の奥にいても分かる…ポケモンだからこそ伝わってしまう気配…ヘルガーは森のポケモンのことは殺せるだけ殺して熟知していたのでその中の別の殺気に気づいていた…。
「隠すのが下手だな…慣れてない…いや、あえて隠さない…と考えるべきか…。」
ブツブツと独り言を呟きながら自身のホルダーに手を伸ばし、マグナムを取り出す…既に弾丸は入っている…後は狙って撃つだけ……。
「ま、すぐに脳天貫いてやるか……。」
自身の実力を高く評価し此度の殺気への勝利を確信する…ヘルガーは左前足にマグナムを構えながら川でとったコイキングを食していた。
「こいつ…全然身がねぇな…あと固い…だがほんの僅かな柔らかな身がまた格別…。」
口の中で美味しい身の部分だけを飲み込み、残りはプっと吐き出す、口の中には美味な味と血の味…ヘルガーはそれを気にする様子は無かった。
……バッ…!……カサッ…!
「!?」
僅かに聞こえた音に気づき、ヘルガーはその方向に銃口を向ける…草陰は沢山あり更には深夜…見つけるのは困難と来た。
「チッ…隠れるのは上手いな…さっきのあの気配もすっかり無くなってやがる…。」
ここからどうやっておびき出そうか…この際一発撃って威嚇するか…?、いや、一度下がるべきか…二つの選択肢を頭に浮かべた時だった…。
ブンっ……!
「は!?」
草陰…ではなくその横の通り道から真っ直ぐに一本の槍が飛んでくる、まさかの別方向の投擲攻撃は予想しておらず、ヘルガーは直感で顔だけを左に逸らした、槍はヘルガーの横をかすり、サクッ!と音を立てて地面に刺さる…ヘルガーの右頬からは血がゆっくりと流れていた…。
刺さった槍に目だけを向ける…ヘルガーはそれに見覚えがあった…知らないと思われていた人間の武器を唯一知っていた白の生物……ヘルガーは流れた血を舌で舐めとる。
「…久しぶりだな…ヘルガー…。」
「…生きていたか…貴様…。」
面白い獲物(アブソル)が暗い森から姿を現した……。
焚き火の明かりは必要無かった…曇り空からは月が出ており、地に僅かな光を与える…お互いの姿ははっきりと見えていた。
「死んでなかったんだな……。」
「…………。」
「そこの草陰…さっき揺れたよな?、誰かいるだろ?」
「?」
草陰の所で顔を一瞬顰めるアブソル…明らかに何かあると分かるとヘルガーはニヤリと笑う。
「顔に出てる…まだまだガキだな…。」
バンっ……!
「!?」
揺れた草陰ピンポイントでマグナムを発砲する…弾丸が勢いよく入った所からは……。
「……さぁ、何のことやら…?」
「なんだと?」
血は出てこなかった…弾丸はただ草を貫いて過ぎ去っただけだったのだ…貴重な弾を無駄にした…その事にヘルガーは舌打ちをしてアブソルを睨む……。
(こいつ……わざと撃たせやがった…草陰は石でも投げて注意を向けさせたのか!)
「あと……5発かな?」
「このガキ……!」
アブソルはヘルガーに残りの弾丸数を予想する…それはヘルガーに弾切れを狙うと伝えているのと一緒…だがそれを考慮していても隙をどうつくのか…それを考えるべき時間はない…考えれない戦闘は……焦りを生む……焦りは一つの判断のミスに……そのミスは……死に繋がる。
「弾切れを狙うつもりか?、残念、予備はあるぞ。」
「……あぁ、知ってる。」
「そういえばお前一人で来たのか……?」
「さぁ…どうだろうな……復讐に加勢は必要か?」
(揺さぶりは効かない…こいつ…読んで動ける奴か…それにしても復讐だ?あの洞窟の雑魚……)
「電光石火…!」
「何!?」
一言呟いたアブソルは一瞬でヘルガーの前から姿を消した…ヘルガーは整理していた頭を空にして集中に神経をまわす……その気配を察知した方向は……。
「後ろか!」
カキィンッ……!
「クッ……!」
瞬時に後ろを振り向くと同時にマグナムの固い部分でアブソルの切り裂くを止める…アブソルは一度後ろへと下がる。
「…前とは違うようだな。」
「…その余裕はいつまで持つかな?」
「挑発には乗らんぞ?」
「でしょうね…では前置きはここまでにして……!」
「ハハッ!決闘のつもりか!」
ヘルガーは銃口をアブソルに向ける。
「笑わせるな!」
容赦のない2発の発砲…アブソルはそれを右に飛んで回避する…と同時に……。
……パチン!
(指ならし!?何のつもりだ!?)
ヘルガーは再びアブソルに狙いを定める…と。
音をたてずにデンリュウが背後から飛び出た。
「……チャージビーム…!」
「なっ……!?」
その隙を後ろから傷だらけのデンリュウが突いた…背中からの強襲にヘルガーは耐えれず、吹き飛ばされる…。
「がはっ……!、貴様っ…決闘じゃ無かったのか!?」
「決闘…?貴方の勝手な思い込みでしょう?」
アブソルはヘルガーに突っ込み切り裂くを連発する……ヘルガーは避けるので精一杯だった。
「コイツ……殺す!」
ヘルガーは怒りに身を任せ、再び発砲する…。
「リフレクター!」
ガラスの壁の様なものがアブソルの目の前に現れ、銃弾はアブソルではなく壁に当たって跳ね返った、技名を叫んだ方向を見るとキルリアがいつの間にかデンリュウの斜め後ろで構えている…キルリアもデンリュウと同じく身体中に傷を負っていた…。
(もう一人いやがったか!、だが伏兵はそれだけのようだな…目線でわかる!)
マグナムを握り直し、アブソル……ではなくキルリアに向ける……狙うはサポーター…あわよくばもう一人も…!
「まずはテメェらから死ね!」
(今っ!)
アブソルの方をヘルガーは見ていない…それを目視すると瞬時に腰のホルダーに手を入れる、気づかれてはいない…誘導の成功だった。
そして2発の発砲……リフレクターを貼る時間はない、当たる…ヘルガーはそう予測した…………が。
「デンリュウさん!」
「……コットンガード!」
デンリュウのコットンガードは待ってましたと言わんばかりのベストタイミングで発動する…出てきたモコモコの綿に包まれ、弾丸の勢いは完全に死んだ……そしてヘルガーのマグナムはこれで……
「アブソル君!今が6発目!」
「クソ!こいつも防御策を練っていたのか!?」
慌ててホルダーに手をまわし、新しい弾に変えようとする…その時、アブソルの目は光る。
「そこっ!」
バンバンバン……!
「うぐっ……!?」
アブソルはヘルガーの装填を突いて自分のオリジナル拳銃(サンダラー)を発砲する…ヘルガーと戦うために持ってきていたのだ…クイックドロウ(連続早撃ち)…銃を取り出してからの発砲までの流れを通すには完全なチャンスだった。
「こんのっ……!雑魚共が…!」
アブソルが発砲した弾はヘルガーの左前足に当たっていた…銃を右手に持ち替え、だらんと力なく下がる…利き手は封じた…。
「終わりだヘルガー…利き手が使えない中、マグナムは弾切れ…諦めろ……!」
「くっ……ふざけるな!」
ヘルガーは動かせる三本の足で勢いよく地面を蹴り、アブソルに接近戦を持ち込む…。
(銃を間近で撃つと暴発する…!ならば…!)
ヘルガーの噛みつき、横振りを避けながらアブソルはサンダラーを捨て、腰のホルダーからもう一つの武器を出す、何度も避けつつ…その必死の攻撃が大振りになった時……。
「電光石火!」
「くっ……!」
大きく空いた隙間から身体を通し、勢いよく体当たりをぶつける…ヘルガーは必死で持ちこたえるがそれも想定済み…アブソルは後ろに回り込むと……。
「……これでどうだ!」
後ろの二本足にダガーを一本ずつ突き刺した…貫通した足からは血が止まらない…もうしばらくしたら立つことも出来ないだろう……。
「あ……がぁっ!」
悲痛な叫びを上げ、ヘルガーは遂に崩れる…すかさずアブソルはヘルガーの喉元に残りのダガーを当てた、動かないように上からのしかかり、デンリュウとキルリアはそれを囲む。
「ゲームオーバーだ……!ヘルガー…!」
銃の力に頼りすぎたヘルガーの慢心……それはアブソル達の策略によって全て狂い出す結果となった。