他者の為に…
〜バンギラスギルド、食堂18:00〜
「早速だけど結果を言うね…ヘルガーと思わしきポケモンが使っている拠点を見つけることに成功した。」
「!?」
ヘルガー探索を終えた翌日の日が沈んた頃…室内には張り詰める緊張感が走った…アブソルは撃たれた腹部に手(右前足)を当てる…その手は怒りか恐怖のせいか、震えていた。
「アブソル……。」
ロコンが声をかける…ただ名前を呼ばれただけ、それなのにアブソルの震えはすぐに落ち着いた。
「……大丈夫です…。」
バンギラスはアブソルとロコンのやり取りを見届けると続きに入った。
「明日の早朝……奇襲をかけることに決まった、今から一緒に来て欲しいメンバーの名前を呼ぶ、無理にとは言わない…だが出来れば…手伝ってくれ…。」
キングドラから紙を受け取ると、バンギラスは最初の名前を出す。
「……アブソル君…。」
全員の視線が自然とアブソルに集まる…アブソルの答えはもちろん…。
「了解です。」
即答だった…もし呼ばれなかったとしてもアブソルはきっと勝手に乗り込むだろう。
「頼りにしてるよ…次、ロコン君。」
「アブソルが行くなら私も行きます…。」
「分かった…三人目…デンリュウ君。」
「…………。」(コクリ)
無言でデンリュウは頷く、右手にはバチバチと音を立てた電気を纏っていた、準備は既に出来ている…の合図だろう。
「ありがとう…次が最後だ…………え!?」
バンギラスは紙の一番下に目を通す…とキングドラの方に目を向けた。
「キングドラ…この子はまだ……。」
「軽く見るなリーダー、こいつは確かに不向きと考える奴が多いだろう、だがサポートなら恐らくこの中で一番だ…毎日の努力している姿を見て判断した…。」
「そうなの……キルリア君?」
「え!?」
キルリアと聞いた途端、他のギルドポケモン達がざわめき出す…キルリア自身も選抜されたことに驚きが隠せなかった……。
「あの…エーフィさん、キルリアさんが選ばれることってそんなに意外なのですか?」
「えぇ、キルリアさんの技は補助が多くて…今までは裏方のサポートに回っていました…戦闘に入っている姿は誰も見たことがありません…。」
「補助が多い…それってつまり……。」
「はい…補助技が多いと言うことはその分狙われやすいのです…ですがキルリアさんは対抗出来る攻撃技が…未だにありません…。」
「……そうでしたか………ではやはり…僕が…。」
「アブソル、何か言った?」
「いえ、何でもありません…。」
キルリアはバンギラスに返事を返せない…下を向いたまま悩み続けていた。
「キルリア君…無理にとは言わないよ…今まで通りのサポートに入ってくれても誰も咎めるものは居ないのだから…ね?」
「えっと……い、行きます!、私だってアブソル君やデンリュウの役に立ってみせます!」
必死に考えた末の決断、その目には迷いがまだ見られたがいくつかの強い思いが伝わった…。
「そ、そっか…ありがとう…いざという時はよろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
その後暫くの間バンギラスの結果報告を聞いて、その場は解散となった、しかしキルリアは人形のようにその場を動かず、椅子から立ち上がれないでいた。
(い、勢いで行くって言っちゃった…どうしよう…足を引っ張ったら怪我じゃ済まないのに…。)
ハァ…と息を吐いて自身の顔に両手を当てる…サポートの失敗は死に繋がる…その責任を重く感じていた。
「……後悔……してる?」
「…デンリュウ…。」
いつの間にかデンリュウが戻ってきていた、キルリアの隣にデンリュウも腰を下ろす。
「ねぇ、デンリュウは怖くないの?」
「……何で?」
「だって…今までとは違う敵と戦うんでしょう…しかも沢山殺してる…アブソル君だって殺されかけた…。」
デンリュウはうーんと少し頭を捻らせるとキルリアに改めて向き合う。
「…キルリア…海岸洞窟のこと……覚えてるかな?」
「え?、うん…アブソル君を救助した時…でしょ?」
「その時…見たの…その殺されたポケモン達…。」
「……うん。」
「私は…その…感情を表すのは苦手…だけど…その時ね…始めて…心から…怖くなった。」
「……やっぱり?」
「で、でもね…それと同時に…止めなきゃ…って…思ったの。」
「止め……る?」
「……アブソルと…考えは一緒…これ以上は…被害者を増やしたくないって…気がついたら焦ってた。」
「だから…戦うの?」
「うん…自身の体も…もちろん大切…でも…私は出来たら…全員の安寧を望む…かな?」
「…………。」
「それは…キルリアも同じこと。」
「私も?」
「キルリアがいなくなったら…家族も悲しむ…ギルドも悲しむ…私も…耐えられない。」
「…うん。」
「だから…勇気を出して私は……戦うの、アブソルに負けないくらい……戦うの…この世界の為に…殺されたポケモンの…家族のために…!」
デンリュウの必死に伝えようとした思いはキルリアにちゃんと届いていた…いつの間にかデンリュウの言葉で考えが変わっていたのだ…世界の為…安寧の為、あぁ、私は行きたくない言い訳を探していたんだ…と。
「ありがとう…デンリュウ…。」
「……?」
「私…やるよ!、絶対にヘルガーを止めようね!」
「うん……!、私も…頑張る!」
「良し!じゃあ今日は休んで明日に……。」
「あ…その事…なんだけど…手伝って…欲しいことが…。」
「もちろんいいよ!何かな?」
デンリュウは後ろから自身のバックとキルリアのバックを取り出す…事前にデンリュウは準備していたのだ。
「私のバック…デンリュウ…気が早いよ…。」
「い、急いで…欲しいの…。」
「どうしたの…?、出発は明日だよ?」
「アブソル…多分…一人で行っちゃう…!」
「え!?」
二人はすぐにアブソルの部屋に駆けつけたが遅かった…部屋のプレートをクローズにしたまま、アブソルは窓から外に出ていたのだ。
「みんなに知らせたいけど…時間が…無い…。」
「デンリュウ…私達だけでも行こう!」
「キルリア…いいの?」
「今ならまだ間に合うかも!さ、早く!」
「う、うん!」
キルリア達も窓からギルドの外へ出る…バンギラスから場所は聞いていたので迷わずそこへと走っていった。
〜?、22:00〜
「よし…ここまで来れば…。」
アブソルは単身でヘルガーの潜伏している森へと来てしまっていた、一度深呼吸をしてから森へと足を踏み入れようとする……。
「ヘルガー…待ってろよ…。」
「…アブソル……待って!」
「…え!?」
デンリュウとキルリアはギリギリの所でアブソルに追いついた…全力で走ってきていたので息が切れてしまい、ハァハァと呼吸を整える。
「よかった…間に合った……。」
「デンリュウさん…キルリアさん…どうして…。」
「アブソル…キルリアが呼ばれた時…申し訳なさそうな…顔…してたから…それで。」
「み、見てたのですか…。」
「アブソル君…ごめんね…気をつかってくれたんでしょ?あのね…私今はもう大丈夫!だから三人で行こ!ヘルガーを止めに!」
「……しかし…。」
「アブソル…もっと…私達…頼って…?」
「……守れないかも…しれませんよ?」
「私も戦う…!キルリアも守る…!だから…心配しないで…!」
「…分かりました……あの弾を撃つ武器に…気をつけて下さい…。」
「アブソル君…!」
「ごめんなさい…僕だけでは返り討ちにまた会うかもしれない…貴女達の力を…僕に貸してください!」
「うん……!」
「もちろん!頑張ろうね!」
予定よりも少なく…お互いを理解しきれていない三人編成……それでも引き返すことは考えずにアブソル達は森へと入っていった、踏み入れた瞬間に殺気を感じたが…全然怖いとは感じなかった…。
〜バンギラスギルド、同時刻〜
「リーダー……。」
「やるとは思ってた…!…でもまさかこんなに早いなんて…。」
「今すぐ他のメンバーを……!」
「いや、騒ぎになる!ロコン君とエーフィ君だけを呼んで!エーフィ君には救急セットの準備も!」
「了解した!」
キングドラは休んでいた二人を慌てて起こすと準備を促す…同時に事情も説明した…。
「そんな…アブソルさんが一人で!?」
「やっぱり私達じゃ…頼りにならないの…。」
「いや…それはないだろう…これを。」
キングドラは千切られたメモ帳の一枚をロコンに渡す、アブソルからの手紙だった。
「これって……。」
「アブソルの机の上にあった、読んでみろ。」
ロコンとエーフィは紙を広げると目を通し始めた。
〜ロコンさん、エーフィさんへ〜
勝手にいなくなって申し訳ありません、一足先にヘルガーと決着を付けてきます…。
バンギラスさんやキングドラさん達の力も借りたい所ですが…あの人間の武器が危険過ぎます…僕は皆さんを失いたくない…なので…一人で行かせて貰います。
エーフィさん…先日はありがとうございました、貴女が抱きしめてくれた温もりは…まるで本当の母のようで…とても安心しました…これからお母さんって間違えて呼ぶかも知れませんけど…笑って許してくれると嬉しいです。
ロコンさん…先日は僕のことを考えて…エーフィさんに頼んでくれていたのでは無いでしょうか?間違っていたらごめんなさい(笑)、ですがもうハッキリと分かりました…僕は一人では無かった…帰る場所もここがある…大切な…失いたくないパートナーがいる…お礼を何回も言っても足りないくらいです。
……もし、僕がヘルガーの所から無事に帰ってこれたなら…その時は…
…また…おかえりと…言ってくれませんか?
恐らく時間が無かったため、早急に書いたのだろう…字の雑さが目立ってしまったがそれでもロコンには十分に気持ちは伝わった…。
「……当たり前だよ……バカぁ……。」
気がついたら涙が止まらなくなっていた…アブソルは私が必要だったからこそ置いていったのだ、エーフィも一緒…今は後ろを向いてどんな顔をしているか分からないが肩が小さく震えていた…。
「アブソルはお前達を第一に考えて動くようになったようだな……。」
「じゃあ手紙を読み終わった所で助けに行こっか!その罪作りなパートナーを!」
「「はい!」」
ロコン達はギルドから他のメンバーを起こさないようにこっそり出るとアブソルを追うために走り出す。
もう一度……おかえりを言うために。