過去の記憶と壊音の霹靂(3)
気がつけば虹と桜咲が並んで座っている光景に戻っていた、だがアブソルは立ち上がることが出来ない…家族を見殺しにしてしまった罪…更にはそれを忘れていた…そんな罪悪感に押しつぶされていた…。
「そっか…八雲君はそれでここに……。」
「はい…近くの森で隠れていた僕は2週間くらいそこでサバイバル生活を送っていました…。」
「2週間!?八雲君その時まだ4歳…だよね?」
桜咲は八雲が言うことがとてもじゃないが信じられなかった…小さい子供が見知らぬ森で一人で暮らしているのだ…これを自分におきかえても耐えられないと理解できる、しかし八雲は当然の事のように続ける。
「歳なんて関係ないですよ…この世はそんなに優しくない…知識だけじゃ生きていけないのです…まぁ…自分も全力であらがうみたいな感じでしたけど…。」
これもお父さんとお母さんのおかげです!と付け加えて八雲は軽く笑う、桜咲はそれが無理して作られた笑みだとすぐに気づいた…2年経ってこの子は6歳…未だにその心の傷は癒されることはない。
「ですが限界は来てしまいました…警察の捜索隊に運悪く見つかってしまったのです…。」
「運悪くって…保護してもらえるんだからそれで良かったんじゃ?」
「確かに僕は安全です…しかし周りはどうでしょう?」
「えっ……?」
「先生の言う通り、僕は警察によって守られ安全が保証されます…ですがもし…残党がいたとしたらどうなると思いますか?」
「え?…ドラマとか映画だったら口封じに殺しに行くってのはよく見るけど…まさか!?」
途中で桜咲も八雲の考えに気が付く、そう…八雲は……。
「先生の考えで間違いありません、僕が見つかればテレビやらなんやらですぐにニュースとして広まってしまいます…そしたら犯人達も生き残りがいると感づかれるでしょう…更には保護されたばかりだから保護施設ではなくまずは近くの交番で予定を立てていると分かってしまったら…確実に守りが少ないそこを攻められます。」
「それで君は……。」
「僕も必死で説得しました…僕のことは周りに広めないでほしい…出来れば内密を求める…と、警察の皆さんは僕の考えを話したらすぐに理解してくれました。」
周りを巻き込まないようにするために一人を望んだ子供…普通はここまで考えて動くのは有り得ないだろう、だがこの子は違う…家族を失った恐怖をこらえ、周りのために隠れながら生きていたのだ…その辛さは警察も…桜咲も知らない…知っているのは八雲ただ一人だ。
「この時の僕は……何を希望に……何を求めて生きていたんだ…?」
アブソルは罪悪感を拭いきれないなか、ようやく落ち着きを取り戻し立ち上がる、分からないことだらけだ、この先自分はどう生きれば良いのか、ポケモンの世界にきた自分はどうやって元の世界に戻れば良いのか、考えても解決しない問題が積み重なっていく。
「それで……八雲君はその後どうしたの?」
「それから僕は警察の手も借りて偽の履歴を得ました、小さいこの時に両親を亡くした子供として、周りから探りが入らないように記憶喪失ということにもしてくれました。」
「どこまで考えているんだ…君は……。」
「分かりません…ただ生きることに必死だったので…。」
「でも君がここを自ら選んで来た理由が分かったよ、ここは離れた田舎の森の中にある孤児園であり研究所、君が犯人達から身を隠すにしてはもってこいの場所だった、という事だね。」
桜咲の考えに八雲は正解の意思を示し、コクリと頷く。
「…辛かったよね……。」
「…家族のことを思えば…どうってことないですよ。」
「分かると思うがもう安心だよ、ここは私以外君の過去は誰一人知らない…もう…大丈夫だ…。」
桜咲の安心させるための言葉を聞いて八雲は静かに笑った。
「本当に……よく頑張った……。」
……そこから先は自分と桜咲先生、施設のお友達は先生の助手さん等、色んな人と過ごしている光景をずっと見てきた、最初はやはり他人に気をつかって話しかけることすらままならなかったようだが少し先へ…また先へと飛ぶと打ち解けていく事ができたらしく、僕が施設のみんなとかくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり……武術をかっこいいから教えて、と興味をもってくれた子達には自ら教わったことを伝え、吸収してもらい、よりハイレベルなヒーローごっこを楽しんでいた。
気がつけば5年…時間は空間と共に飛んで飛んで……僕の歳は11歳となっていた…ここからだ…僕が始めて武器の扱い以外の興味を持ったものに出会えたのは……。
アブソルは大きくなり、見た目も少し大人っぽくなりかけの八雲を見ている、八雲は一丁の拳銃を構え、立てられた気木の的をジーッと見つめている……。
「………………。」(カシャンッ!)
わざとらしく音をたてたマガジン(弾丸)を装填し、拳銃を的に向ける…狙いはただ一つ、ど真ん中…八雲は拳銃を手に構えたまま動かない、風を読み、軌道を図り、ジャストのタイミングを待つ…。
「…ファイア!(発射)」
カッコつけた掛け声と共に引き金を引いて弾を放つ、風が止んだ何も止めるものがない空中をBB弾は真っ直ぐ進み、的のど真ん中に命中した……。
「へぇ…ここで練習していたのか…。」
パチパチパチ……。
「?」
喜ぶ前に背後から拍手が送られ、八雲とアブソルは後ろを向く、そこには前よりも黒髪が消え、少し白髪が目立つようになった桜咲先生がいた。
「今日も練習かい?」
「はい!これを貰ってからは毎日練習させてもらってます!」
「そうかそうか、それは作ったかいがあったよ、もし壊れたらすぐに言うんだよ?」
「分かりました、ですがこれは大切な誕生日プレゼントなのです…壊すなんて無茶はさせませんよ。」
桜咲と八雲は研究所で過ごしているうちに暇があっては雑談をするようになった、八雲は滉陽から教わった槍だけでなく、ビリー・ザ・キッドの本(父が読んでくれたこの本と同じものが施設にもあった)からベースにして桜咲先生が特別に作ってくれたモデルガンを愛用するようになっていた。
「それにしても先生は凄いです!たった一冊の本を読んでその情報からコルトM1877ダブルアクションリボルバーを作るなんて普通の人じゃできませんよ!」
八雲は先生に尊敬を眼差しをこれでもかというくらいにおくる、しかし桜咲は八雲の言うことがどうしても早口に聞こえてしまって上手く伝わっていない……。
「えっと…コルトエムイチ…なんだっけ?」
「コルトM1877ダブルアクションリボルバー…通称サンダラーです!」
「あ、あぁ…そう…だったね。」(見た目だけしか似せてないんだけど…喜んで暮れてるならいっか。)
「ところで先生、何か自分に用が……。」
「あ〜そうそう…これをね……ジャーン!」
桜咲は持っていた袋の中から一つの物を取り出すとドラ〇もんのように上に掲げる。因みにさっきから桜咲はサンタさんの格好をしているのだが八雲は一切触れてくれていない。
「…………?」
「…………あれ?反応薄いな……。」
「先生…それ…ゲームカセットですよね?」
桜咲が取り出していたものはDSのゲームカセットだった、ピンク色の文字でパールと書かれていたものを渡される。
「去年のモデルガンに続けて今年はこれにしてみたよ!」
「は、はぁ……ポケットモンスターパール…最近の有名ゲーム作品ですよね…。」
「その通り!他の人にも別作品を送っているからみんなで仲良く遊ぶんだよ!」
桜咲はそう言うとどうよこのプレゼント選びのセンス!と言いたげなドヤ顔を決めた。
「………………。」
決めたのだが……。
「…八雲君…もしかして嬉しくない?」
「あー、いえ…先生、一つ聞いても?」
「うん、なんだい?」
「本体はどこですか……?」
「あ…………。」
これが僕とポケモンとの出会いである。
〜約1ヶ月後……〜
「虹!お前そのドータクンどこで捕まえたんだ!?」
「テンガン山、野生でいますよ。」
「虹さん!草タイプの弱点を!」
「ほのお、虫、飛行、毒、氷です。」
「四天王の部屋の前で波乗りしたら帰れなくなったけどどうしたらいいかな!?」
「それは……頑張ってください……。」
更に1ヶ月の時間が過ぎた頃には施設内の子供達はみんなプレゼントされたポケモンゲームに夢中になっていた、特に虹はほとんどの作品(ポケダンも)をプレイしていたらしく、いつの間にかタイプ相性、ポケモンの技についても記憶しており、他の子達へのアドバイス等を頼まれることもしばしばあった。
「おい虹!いくらお前が強くても俺のガブリアスにコラッタはないだろう!」
「まぁそう言わずに…見ていてくださいよ。」
「どうなっても知らんぞ!逆鱗!」
「気合いのタスキで持ちこたえます…コラッタ、がむしゃら!」
「な!?俺のガブリアスも体力が1に!?」
「コラッタ、電光石火!」
虹の考えた策によってガブリアスはコラッタに倒された。虹の画面にはWINの文字が出る。
「マジかよ…道具だけでそこまで変わるもんなのか!?」
「使い所を考えなくてはいけませんけどね、あとゴーストには効果がないです、ところで…ガブリアスに何か持たせているものは?」
「ん?強制ギプスだ!」
「何があったのガブリアス!?」
ポケモン…ゲームではあるがその交流は日頃の楽しみとして変わり始める…アブソルはそんな光景を遠くから見ていた……。
「……楽しそう…だけど…僕がポケモンの世界に来た理由がまだ出てないのが気がかりだな…。」
ピシッ……!
「え?」
アブソルが気になることを口にした途端……目の前で虹達にヒビが入る、いや、空気が割れた、アブソルはあまりにも急な事だったため、次々と割れていく空間を見ていることしか出来ない……。
「なんだ!?何が起きているんだ!?」
ピシ…ピシ…ピシ…ピシ…………バリン……!
遂に完全に空間が壊れ、アブソルの視界に一つのゲートのようなものが目に入る……周りからは機械音がピピピ…とうるさくなり続け、止まることがない…。
「空間の下に……別時間の空間……?」
アブソルはゲートの横の机にあった束の資料の一番上を見る、ポケモンについて書かれていた…ゲートの説明と一緒に。
「………まさかこれって…桜咲先生が話していたポケモンの……!?」
ここまで来ればアブソルも分かる、虹はこの作り出されたゲートに入り込んだのだ…だが…何故?、彼は新しい生活を手に入れたはずだ……不自由なんて何ひとつない。
「急に時間が飛びすぎて何が起こったのかよくわからないな…出口も見当たらないし…それに子供達の声が全く聞こえない……。」
何か手がかりがないかとアブソルは周りを探り始めた、他の資料…よくわからない数字で一杯…零れてしまったいちごミルク…桜咲先生の好物だ…今はどうでも良い…牛乳だったら話は別だが……メインコンピュータ…これだ!
アブソルはメインコンピュータに写し出された文字に目を通す、マウスを動かしてじっくり見たい所だがこの体は意識としての偽の身体…物や人はすり抜けてしまう。
「……タスク(手順)クリア…プログラム実行……15分前…3人…オールクリア?」
アブソルはOKと大きく出た文字まで見て改めてゲートに目を向ける…。
「既に3人……入っているのか?」
ギイッ……。
「!?」
鈍い音を立てて地下のハッチが開いた、どうやらここが出入口だったようだ、アブソルは意識体とはいえ、警戒しながら近づく…そこから出てきたのは……。
「………え?……。」
アブソルはまた呆然としていた、八雲だった、そこまでならまだ分かる、これはアブソルと八雲虹の記憶だ…彼が出てくるのは当然のはず…だが。
「何故だ……なぜ君は……その服を血で染めている!?」
アブソルは叫ぶが八雲には当然聞こえず答えない…頭の中に疑問が回る…何故君は泣いている……何故この場所に来た……その血は……誰のものなんだ……。
八雲はふらついた足取りでメインコンピュータまで歩き、目を通す…3の数字を見ると八雲は思いっきり拳を机に叩きつけた。
「クソッ……逃げられたか……!」
「逃げた…?……誰が……。」
アブソルは何が何だかさっぱり分からない…だが八雲が先に行った3人に対して良い感情は抱いていないと言うことだけは伝わった。
「先生…みんな…ごめん…お別れだ…。」
八雲はそう呟くとキーボードを打つ…するとシステムが作動し、ゲートを包んでいたガラスが取り除かれた、八雲はそのままゲートの前に足を進める。
「首を洗って待っていろ……これは……僕からの復讐だ!」
八雲はそのままゲートに入り込んで行った……パシュンとワープしたような音を立ててからガラスによってもう一度閉められる…。
「…………。」
アブソルは八雲がいなくなって静かになった実験室で未だに考えていた。
「復讐……もう訳が分からない……。」
ハッチに潜れば何かあると考えたアブソルはすぐにそこに向かって走り出す…瞬間……。
「あれ?身体が…薄く……。」
アブソルの意識体の体はどんどん薄くなっていく…青い光に包まれていた、今までにない症状だ。
「まさかここで終わりか!?も、もう少しだけ待ってくれ!せめてこの先に何があるのかだけでも……!」
アブソルの願いは叶わず、青い光も濃ゆく強くなっていく。
「くっ……ここまでか……!」
そう言い残してアブソルは意識体としてのタイムスリップを終えた……。
ピピピ……ピピピ……ピー!、ピー!、ピー!……。
アブソルも消えて機械音しか響かない実験室に警告音が鳴り響く、メインコンピュータにはシステムエラーと出ていた…原因はタスク(手順)のミス……それを修正してくれる人はいなかった……。
ピー!ピー!………………………………。
暫くしてから警告音は止んだ、どうやら緊急保護プログラムが作動したようだ、ゲートはプログラムによって完全に消え去り、赤くなったメインコンピュータも青に戻っている…いつも通りに戻った…正常になった……。
…………4の数字から幾つか数が増えていること以外は……。