敗北…そこから僕は…。
〜バンギラスギルド 医務室2:38〜
「う…あれ?…ここって…ギルドの…医務室…?」
誰もが寝静まった夜中、アブソルはようやく目覚めた。誰か近くにいないか探そうとベッドから降りようとするが腹部が痛む…ヘルガーに撃たれた跡がまだ治っていないようだ、包帯がいろんな所に丁寧に巻かれている。
ガチャリ……
「!?」
誰か入ってきた、暗くてよく見えないなぁと思っていると月を隠していた雲が都合よく無くなる、月明かりを頼りに目を凝らしてみるとタオルやらの医療器具を持ったロコンがいた。
「ア、アブソル、起きたの?」
「あ、はい…お久しぶり?です、ロコンさん。」
しばらくの間の気まずい沈黙…最初にこれを突き破ったのは…。
「アブソルが起きたぁぁ!」
「え、ロコンさんちょ…痛っ!?」
ロコンだった、嬉しさの余り泣きながらアブソルにダイブし顔を胸に擦り付ける、包帯が濡れ、傷口に少し響いてしまうがアブソルは我慢してロコンを受け止めた、落ち着かせるのに10分はかかった。
「心配したんだよ…もう2日も経ってるんだから…。」
「2日……そんなに僕は…心配かけてごめんなさい…。」
「アブソルに包帯付け替えたり身体が拘縮しないようにマッサージするの大変だったんだから…。」
「……ごめんなさい…あとありがとうございます…。」
「ずっと近くで起きるの待ってたんだから…バンギラスさんたちも心配してるよ?」
「……ごめんなさい……。」
さっきから謝ってばかりだなぁ…それほど心配かけてしまったのか…。
「エーフィを抑えるのも苦労したんだから……。」
「ごめんなさ……え?」
「ん?」
ちょっと待って、今なんて言った?エーフィを……抑えた……?なにがあったんだ…この2日間。
「あ…看病役にエーフィが本妻の私が!ってすすんで出ちゃって…絶対何か無理すると思ってみんなで説得しようとしたら…ね…。」
「な、なるほど……。」
これ以上は聞かないでおこう…恐らくエーフィさんのことだ…一緒に寝るとかそういう事がしたかったのだろう…この間も一緒に寝てロコンさんに涙目で怒られた事があったから可能性はある…あれは辛かった…凄い緊張した。
「……さて、アブソル…。」
「?」
気を取り直したロコンはアブソルと改めて向き合う…そして…。
「なんで…私を置いていったの……。」
さっきとは打って変わって真剣な表情のロコン、笑って誤魔化せる日常とは訳が違う……。
「…えっと…その…ロコンさんが…辛そうだったから…でもアイツを放っておくわけにも…。」
「それでもだよ!…それでも…私は…アブソルといたかった…バッジで急に返された時どれほど怖かったか…。」
「……。」
「ねぇアブソル…正直に答えて…今の私は…君の役にたてない……?」
「そ、そんなことは…!」
「本当にそう?、心の中では私は役に立たない臆病者だって思ってないかな…。」
「ど、どうしてそのようなことを……?」
「だって…だって私は…アブソルに最初っから助けて貰ってばかりで…今もそう!、私は…何も出来なかった…ただ見ていることしか出来なかった!」
ロコンは泣きながら思ってきたことを口にする。アブソルは何かかける言葉を探すがなかなか見つからない…下手をするとロコンを更に傷つけてしまう……。
「アブソル…謝るのは私のほうだよ…ごめんね…こんな駄目なパートナーで…。」
「…………っ!」
「ア、アブソル!?」
だから僕は言葉ではなくまずは行動で態度を示した…邪魔な毛布を剥ぎ取り、ロコンを強く抱きしめる。
「どうして!?……アブソルは……私を……。」
「役に立たない子?何を言っているのです…始めてあった時から振り返ってみて下さい…。」
「え…?」
「森で道を間違えた僕を案内してくれたのは誰ですか?、この街とギルドを教えてくれたのは誰ですか?、美味しいパンを毎日作ってくれたのは誰ですか?」
「そ、それは……。」
ロコンは何か言い訳を探しているようだがさせない…、アブソルは構わず続ける。
「一緒に鍛錬に付き合ってくれたのは誰ですか?、僕の武器を一緒に作ってくれたのは誰ですか?」
「アブソル……。」
「……こんな何も知らない僕を…パートナーとして受け入れてくれたのは…誰ですか?」
「わ、私…。」
「そうです…貴方が僕をここまで導いてくれたのです、貴方を失うのが怖いと思える程に、ここまで言えば分かるでしょう?、貴方は…ロコンは役に立たない臆病者なんかじゃない…誰にでも手を差し伸べようとする…優しい一人のポケモンなんですよ…。」
ロコンは黙って聞いていた、が涙はとめどなく溢れ出す…アブソルを強く抱きしめて感情を抑えていたが遂に声をあげて泣き出してしまった…さっきも泣いていたのに…涙ってどこからやって来るのだろう…。
「わ、私は…まだ…アブソルと…一緒に…いれる?」
途中で言葉が途切れながらもロコンはアブソルに問う。
「もちろんです。」
「こんなに…泣き虫でも?」
「僕が何回でも宥めます。」
「こ…こんなに…弱く…ても?」
「僕が守ります。」
「私で…いいの?」
「むしろ貴方が良いのです。」
ロコンとアブソルは互いを真っ直ぐに見ている、目を見たらわかるだろう…その言葉に嘘偽りは無かった。
「ありがとう…アブソル…。」
「礼を言うのは僕の方です、でも…ロコンさんの気持ちに気づく事が出来なかった…。」
「本当に優しいなぁ…アブソルは。」
「お互い様です。」
そう言って二人はようやく笑顔を取り戻した…夜のふたりきりの時間、それは互いの気持ちを改めて知る大切なものとなった…。
「アブソル…私は…強くなりたい…。」
「僕だって…これで終わりではありません、ヘルガーを止めなくては…。」
「また戦うの?」
「えぇ…なのでロコンさん…。」
「待ってて…なんて言わないよね?」
「…もちろん、むしろ逆です…僕の我儘に…付いてきてくれますか?」
「うん、絶対に…終わらせようね。」
「はい…必ず…。」
その言葉を聞くとロコンは目を閉じてしまった。耳をすませばすぅすぅと寝息が…どうやらこの2日間ずっと起きてて看病してくれたらしい…今度こそ置いていかないと分かって安心し、寝てしまったようだ。
アブソルはベッド上でしか動けないため、ロコンを自分の隣で寝かせ、毛布を被せる、そして自分もまた眠りに入ろうとした。
この敗北はただの負けではない…僕とロコンが強くなるための一つの経験となるんだ…僕はここから…この敗北から学んでやる、そしてもっと強くなってヘルガー…必ずお前を…
…殺してみせる。
〜バンギラスギルド7:00〜
「…………。」
「……ゴクリ…。」
「……はい、傷も何とか残らず治療出来ました、もう動いて大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます、ドレディアさん。」
「いえいえ…貴方が生きてて良かったです…貴方がいなくなってしまえば…エーフィちゃんもロコンちゃんも、立ち直れなかったでしょうから…。」
「…えぇ……。」
「凄いですね…まだ1週間経つかどうかの間にもう2人も女性を虜にするのですから…。」
「い、いえ…決してそういう訳では…。」
「ふふっ…ごめんなさい、ついからかっちゃった…でもあの二人からして貴方が特別な存在になっているのは確かよ…。」
「…なんと言えば良いのか…。」
「難しいとは思うけど…もっと自分も大切にしてね?」
「は、はい…。」
2人が話しているとドアが急にバーン!と開く。思わずキャッ!とドレディアさんが声を上げるくらいに大きな音だった。物静かそうだけどそんな声も出るんだ…。
「ヤッホー!アブソルいるかー?」
「あ、はい、ここに…ええと…。」
「あー、鍛錬で忙しくて挨拶とかしてなかったな、ピカチュウだ!気軽に読んでくれて構わないぜ!よろしくな!」
「よ、よろしくお願いします…。」
そう言って握手を交わす、と後ろからドレディアさんがピカチュウの頬を引っ張り始めた。
「ピカチュウさん!貴方はもっと女性らしくしなくてはいけません!少しは気をつけて行動をお願いします!」
医務室で騒ぎ立てる2名…ドレディアさんも大変だなぁ……。
「ピカチュウさん…そう言えば僕に何か……?」
「っとそうだった!、親方が待ってるぜ!ロコンもいるから早く行ってやれよ。」
「そうでしたか…ありがとうございます…失礼しました…。」
アブソルはそう言って部屋から出ていった。
「さて、伝えることは伝えたし早く朝食を…」
ガシッ!
「……え?」
「話はまだ終わっていませんよ?」
「えっと……ドレディア……?」
「問答無用です!」
「わあぁぁぁぁぁ!」
医務室はまた騒がしくなった……。
〜バンギラスギルド 食堂〜
「アブソルさん♪アブソルさん♪アブソルさん♪アブソルさん♪アブソルさん♪アブソルさん♡」
早速怨念みたいな術を掛けられながら僕はエーフィさんに捕まった……。
「えっと…エーフィさん…出来ればその…離れてくれません?」
「ダ・メ・で・す♪、この2日間ずっと寂しかったんですから…心配もかけた分、私が一緒にいます!妻として!」
「いやそれはちょっと…。」
「嫌ですか?」(うるうる目で)
「うっ……。」
前よりも積極性が増してしまったエーフィを止められないアブソル…そこにロコンが料理を持ってきてくれた。
「エーフィ!アブソルから離れて!今まで怪我してろくに食事も取れてないんだから、今日はしっかり食べて貰うよ!」
「では私があ〜んして食べさせてあげるです!」
「ダメ!パートナーとして私がやるの!」
「ロコンさんばっかりずるいです!私もアブソルさんといたいのですよー!」
ギャーギャーとアブソルの取り合いをするロコンとエーフィ……医務室に続きここも騒がしくなってしまった…。
「あらあら…モテる子は大変ねぇ…。」
「ミミロップさん…おはようございます。」
「おはよ♪、元気そうで良かったわ。」
「皆さんが助けてくれたおかげですよ。」
「ふふっ…みんな心配してたんだから…もう無理はしちゃダメよ?」
「気をつけます…。」
「よろしい♪、じゃあ私はあの子達を止めてくるわね。」
「お、お願いします…。」
ミミロップは二人を止めに行ってくれた…ふぅと一つ息を吐くとロコンが出してくれた食事に手をかける…美味しい…久しぶりだから尚更だった、アブソルの食事の手は止まらない。
「…隣…いい?」
「あ、はい。」
「ありがと……。」
スッと誰かが自然な動作でアブソルの隣に座った。しかし朝食は食べずにジーッとアブソルを見ている。
「……えっと……何か?」
「あ、ごめん…撃たれた後…大丈夫…かな…って」
「あぁ、何とか治りましたよ、傷口も塞がってます。」
「そう…良かった…。」
そう言うと二人は食事を再開する……会話が途切れてしまった…。
(き、気まずい……。)
何か話そうかなと思ったが何も思い浮かばない…話題が欲しい…何か、何かないのか!?
「あれ?デンリュウ、誰かの隣に座るなんて珍しいね。」
「…落ち着くの…アブソルの…隣。」
「そうなんだ、良かったね、アブソル君!またガールフレンドが増えて!あ、キルリアだよ!改めてよろしく!」
「よ、よろしくお願いします…。」
今日はみんなよく話しかけてくれるなぁ…気遣ってくれてるんだ…あとデンリュウさん女性だったのか…気づかなかった…あれ?よく考えたらここ男性少ないような…き、気のせいだよね?
「デンリュウはアブソル君の救助にも行ったんだよ!」
「そうなのですか!?ありがとうございました、デンリュウさん。」
「いいの…無事で良かった…ヘラクロスもね…一緒に…いたんだよ。」
「そう言えばヘラクロスさんは…?」
「まだ…寝てる…。」
「デンリュウ珍しくよく話すね!アブソル君が気に入った?」
…コクリ
「そっか!じゃあアブソル君にデンリュウの良い所を沢山知ってもらわなきゃね!」
「え、キルリアさん!?」
「デンリュウはねぇ…料理が上手でしょー、後はねー……」
「と、止まらなくなってしまった…。」
「ごめん…ね…こういうの…嫌い?」
「いえ、むしろ好きですよ。」
「そう…良かった…。」
「アブソル君?聞いてるかな?」
「え!?あ…ごめんなさい…途中から何話してるかすっかり…。」
「しょうがないなぁアブソル君は、じゃあ最初から行くよー!」
「ええぇ…。」
「……クスクス…。」
ギルドは今日も賑やかだ…アブソルはそう思いつつもキルリアのデンリュウアピールを耳に入れながら朝食を食べるのだった……はて…何か忘れてる気がする…。
「ど、どうしようキングドラ…アブソル君に聞きたい事沢山あるのに近づけない……。」
「はぁ…後にしろ、それからでも遅くないだろう?」
「私ももう少し若かったらあの輪に飛びこめるのに…。」
「俺たちまだ19だろ……。」