人間の知識という名の武器
〜自室、アブソルの部屋〜
ゴオォォ!コーン!コーン!カーン!
「………違う……やり直し…ロコンさん!もう一度お願いします!…。」
「分かった!じゃあ次は少し強めに!」
…ゴオォ…カーン!カーン!カーン………。
「…ねぇキングドラ…アブソル君とロコン君が誰かに恨みを持っているのか呪いをかけようとしてるんだけど…。」
「…いやリーダー…あいつらは単に鉄から新しい武器を作り出しているだけだ…呪いとかは関係ない。」
「で、でもさぁ…わざわざ迷惑になるからって自室に工房作っちゃったんだよ?、何があってもおかしくないよ…きっと私に何か恨みが……カタカタ」
「そのマイナスな考え方はやめろ、あんたはここのリーダーだろうが…そんなんじゃチームは引っ張れないし、計画していた遠征も夢とロマンとお宝で一杯ではなく…そうだな…塵とゴミのガラクタで一杯でおわるぞ…。」
「うっ!……そ…そうだね…私がこんなんじゃダメだな…ありがとうキングドラ…よし!じゃあ早速行ってくる!」
「立ち直りがはやいな!?全く…ん?アブソル達に用事があって来てたのか?」
「う、うん、そろそろアブソル君とロコン君に依頼を任せようかなって思ってさ…でもアブソル君今あれだから入りづらいなぁって…ハハ……。」
その時アブソルの鉄を打つ音は収まった。
「……よし!出来ました!…結構うまく仕上がりましたね…」
「やったね!アブソル!」
「お、丁度終わったっぽいぞ、今ならどうだ?」
「スー…ハー…コンコン、アブソル君、私だ、入っても良いかな?」
「バンギラスさん!?どうぞ!鍵はあいてます!」
「よし!じゃあキングドラ!いってくる!」
「……ただ依頼書渡すのに深呼吸は要らんだろ…まぁ言いや、良い成果を期待するとだけ伝えといてくれ。」
「はーい」
バンギラスはアブソルの部屋をそっと開けて中にはいる…そこにはアブソルが鉄から作った武器が2、3本置かれてあった…作った本人のアブソルは奥の机で先程作ったものの出来を確認している、隣ではロコンが物珍しそうにその様子を見ていた。
(キングドラが言ってた槍?って武器の先の部分かな?…あれ?これって…。)
「バンギラスさん、何か自分に用事が…?」
「あぁ、そうだったそうだった!アブソル君、君とロコン君はここに来て3日が経った。そろそろこの生活も慣れたんじゃないかな?キングドラから聞いたけど技も習得したようだね。」
「はい!きりさく、を使えるようになったおかげでヘラクロスさんともいい線まで戦えるようになりました!」
(10戦中10勝しといていい線ってそれじゃ嫌味にしか聞こえないよアブソル!)
ロコンはツッコミを心の中でいれた。アブソルはもうすっかりポケモンとしての体には慣れ、今では槍を使ったアクロバティックな動きまで取り入れる程に成長していたのだった。
「ヘラクロス君と互角……か、なら大丈夫そうだね、アブソル君!はいこれ!」
バンギラスはアブソルに1枚の紙を渡した。その内容は近くの海にある海岸洞窟で一匹のポケモンとはぐれてしまったので探してきてほしいというものだった…そう、捜索依頼だ。
「これって……依頼書!!」
アブソルが読んでいたものが依頼書だと分かった途端ロコンは獲物を捉えた獣のように飛びついてきた。
「うわっ!ロコンさん!急に飛びつかないでください!心臓に悪いですから!」
「ハハッ、2人ともパートナー同士ともあって仲がいいね!心配は要らなかったみたいだ、でどうかな?やって見る気はあるかな?」
「「やらせて下さい!!」」
「おぉ…揃った…、じゃあこの依頼は実行、引き受けると本部に伝えてくるよ、2人とも、明日は頑張ってね!」
そう言ってバンギラスはアブソルの部屋から出ていった。
「アブソル!やったね!ここに来て3日、遂に私達の初依頼だよ!」
「そうですね!…しかしあの時のスピアーのような我を忘れたポケモンが襲いかかってくるという可能性もあります、簡単な依頼ですがここは…」
「準備を怠らずに最善を尽くす!だね!」
「その通りですロコンさん、捜索は明日ですし今日は準備を整えて早めに睡眠をとりましょう…そのためにもこれを仕上げなくては…。」
「そう言えばアブソルは何作ってたの?私の炎で鉄を溶かしたは良いけどこんなに小さくしちゃって…これじゃあアブソルが使っている槍の方が強そうだよ?」
ロコンの質問に対し、アブソルは淡々と答えた。
「ロコンさん、これはダガーという近距離で使う武器になるんですよ、さらに小さくて投げやすいために遠くの敵にも当てることも可能なんです。」
「な、なるほど…ポッポとかの空を飛ぶポケモンとも戦えるようになると…。」
「そういう事です。まぁ、僕の使う槍は降った時に隙が生まれやすいのでそれの対策にもなりますけど…。」
「手数で勝負ってことだね!いいなぁアブソルは、元人間だから色んな知識や物が使えて、私も使ってみたい!」
「ヘラクロスさんが槍で痣作っていたの忘れましたか?(笑)」
「うぅー…」
「そう落ち込まないでください、その内ロコンさんにあった道具を作りますから。」
アブソルの言葉にロコンはまた目を輝かせる。本当にわかりやすいな…そこが結構可愛らしいんだけど。
「約束だよ!?」
「男に二言はありません。」
「嘘ついたらハリーセン口に入れるよ?」
「約束は守ります、なので本当にハリーセンは連れてこないで下さいね?」
「はーい!ヤッター!私だけの道具〜♪」
(……その内…ですけどね…ごめんなさいロコンさん、今はこれと別のものに集中したいんです…。)
「アブソル?難しい顔してどしたの?お腹痛い?」
「あ、いえ!何でもないですよ!さぁ、そうと決まればこの武器の制作さっさと終わらせちゃいましょう!」
「了解!よーし頑張るぞー!!」
アブソル達は再び作業に戻った……。
〜ギルド地下2階、親方バンギラスの部屋〜
「…………………………。」
ピンポーン♪
「……どうぞ。」
「……いつもなら中で物を片付けようとドタバタするのに今回はしないんだな、リーダー。」
「……うん、ちょっとね…。」
「……率直に聞く。何があった?」
「アブソルの部屋でね…これを見つけた。」
バンギラスはキングドラに一つの部品を渡す。バンギラスの表情は暗いままだった。
「……これは?」
「この間親方だけの招集あったの覚えてる?」
「あぁ、解決出来なかった事件を調べるとかの内容だったな…確かその時は命を殺して奪ったポケモンがいて証拠を何一つ残さず消えたっていう連続殺害事件だったか…それがどうした?」
「…その弾…死んでいたポケモンの脳にくい込んでいたのと…同じ作りになっているんだ…。」
「なんだと!?じゃあアブソルが…」
「犯人ではないと思う。弾の作りは一緒でも長さと色が全然違う、明らかな別物だよ。」
「じゃあ何が言いたいんだ?」
「キングドラ、今まで私達が生きた中で…これが使われていたような物…あった?」
「……見覚えが無いな…机のネジとしても使えそうにはないし…脳に入るほどのものとなると回転力を与えるものが必要だと思う、そんなものは…。」
「だよね…でもアブソルの部屋にはこれがあった…。」
「…まさか!?」
「…あぁ……アブソルの他にも…人間の知識を持ってこの世界に来たポケモンが…いるかも。」
「……アブソルもその仲間という可能性は。」
「無いとは言えない、でも彼も何か知っているかもしれないんだ、だから…。」
「…分かった…できる限りの協力はもちろんする、人間の書物からその弾に関する道具を探してみよう。」
「助かる…よろしく頼むよ。」
「あぁ、じゃあ俺は戻るぞ、リーダーも仕事詰めで疲れてるだろう?少し休んだらどうだ?」
「そうする…zzz…」
「寝るのもはやいな!?……はぁ、まぁ仕方無いのか…俺もやるべき事をやろう…。」
「zzz……zzz……」
「…………アブソル……お前は一体…何者なんだ?」
キングドラの小さく呟いた質問には誰も答えてくれることは無かった…。
〜アブソルの部屋21:00〜
……アブソルは明日の依頼に備え、使う道具の準備をしていた。ロコンは隣の部屋で寝ている。
「うん、これでOKかな。槍とダガーとその他色々…そろそろ寝なくちゃな…おっと、その前に。」
アブソルはダガーの他にもう一つ秘密で作っていた武器があった。しかしその武器は組み立てが難しく、部品の整理からしなくてはならないのだ。
「これとこれと……これ、A、Bの部分は揃ってるな…あれ?弾が1個足りない…まぁ、1個ならいっか、また作らなくちゃ。」
簡単な整理を終え、アブソルもベッドにピョーンと飛び乗る。ふかふかな毛布がアブソルを包んでくれた。
「……この世界へ来て3日……か……。」
このポケモンの世界はゲームのとはまた違う世界の出来方をしているみたいだ…それが最初のミス、技が使えないのに無闇にスピアーを倒そうとして危ない目にあったという経験がハッキリと僕に教えてくれた。
「ちょっとこの世界について整理してみよう。」
アブソルは一度ベッドから降りてメモ帳とペンを取り出し机についた。そして早速書き始める。
まずはこの世界そのものについてだ。キングドラさんから聞いてわかったがこのポケモンの世界では過去に人間がいた時があったらしく、その技術が備わっているらしい。しかしそれは大昔のことであって今は誰1人として人間はいない…そしてこの世界はポケモンだけのものとなった…。
「…大昔…にしては鉄やら風車やらの技術があるよね…ここの人間は優秀だったのかな…そんな知識があるならこの世界から消えた理由って…うん、やめよう、考えても分からなくなってきた、次。」
次は人間からポケモンになったことについてだ。なんとこの世界はゲーム(救助隊、探検隊)が繋がっているらしく、それに対して星の衝突を止めたり、時間をまた正確に動かしたりと大事件を解決した元人間のポケモンがいるらしい。他にもキュレムがどーのこーのとかの事件も聞いたな…。しかし僕は彼らとは違う、記憶の事だ。キングドラさんの聞いた話によると人間からポケモンになった時、人間の頃の記憶は全員消えていた、と言っていたが僕には一部の記憶以外ほとんど覚えていた。
「……それも戦闘経験ばかり…槍が使えるとなると中二病か何かだったのかな?、はぁ…なんか恥ずかしいや…でも流れ的に僕にも大事件が関係する何かが来てもおかしくはない、今のうちに経験をもっと積まなくては…。」
次はポケモンの技についてだ。四つの技の習得が限界…ということでは無いらしく、あくまでそれは平均的なものとしてのことらしい。つまり、技の経験を積んでいけば色んな技が使えるようになるのだ。やっふー!フ〇イナルフ〇ンタジーのコマンドみたいだ!とふざけてる場合じゃない。僕の記憶と身体に対するデメリットかは知らないけど技が最初使えなかったのだ。今はきりさくともう一つ自力で覚えたものがあるが油断したら何が起こった時遅い、気をつけなくては…。
「…技の他にも僕には武器が扱えるのが特徴にもなるのかな…使えるのは刀、槍、ナイフ、四足歩行だから上手くは無いけど体術も覚えた記憶があるので扱える…。」
今日はここまでにしよう。明日の初依頼に備えてゆっくり休む……。(記入終わり)
「……よし!こんな所かな……それにしても、僕がここに来た理由ってあるのかな…何か目的でも分かれば良いんだけど…。」
アブソルはふと制作中の武器を取り出す。
「……なんで……こんなもの作ろうって…考えたんだろ…。」
アブソルが秘密で作っていたもの……それは一丁の銃だった。バンギラスが持っていったのはその弾だったのだ。
「…これを作らなくちゃって…そう思ってしまうんだよな…ダガーや槍よりも格段に危なく、峰打ちも出来ないのに…。」
アブソルは銃を別の所にしまった、そして同時にメモ帳も机に置く。
「もう寝よう…今はわからない事が多すぎる。」
僕は何のためにここに来たのだろう。なんで記憶があるのだろう。そして……なんでこんなに忘れてはならないものを思い出すような焦りがあるのだろう、そう考えながらアブソルは眠りについた……。