練習試合
〜バンギラスギルド 食堂〜
バンギラスをはじめギルドのメンバーは既にお腹をすかせて食堂へと集まっていた。アブソルはきりさくの練習に集中しすぎて遅れてしまい、あわてて自分の席へと座る。左隣にはやはりエーフィが当たり前のようにいた。目が合うとニコリと太陽のような暖かい笑顔を送ってくれる。ヤバイ今ちょっとドキッとした…。
「二人とも仲いいッスね〜!、とても会って一日の縁とは思えないッスよ〜。」
そう言って来たのは二足歩行のカブトムシ…失礼、同じメンバーの仲間であるヘラクロスだった。〜ッス、とつけるのは口癖のようなものらしい。
「ふっふっふ〜♪ヘラクロスさん、日にちなんて関係ないのです!私とアブソルさんは切るにも切れない運命の赤い糸で結ばれているのですから!」
「お〜!もうそこまで仲良くなれたッスか!アブソルもやるッスね〜♪」
まって…なんか変な方向に行きかけてません!?
「いやそこまでは進んでいませんよ!?僕はそう簡単にホイホイと付き合うような男じゃないです!」
「私じゃ…ダメでしょうか……。」
「エーフィさん!?いえ!そういうことじゃないんです!エーフィさんもとっても魅力的ですよ!えーと、だ、だからそう落ち込まないでください!」
アブソルは慰めるためにエーフィの頭を優しく撫でる、だがエーフィさん……涙目の上目遣いは反則です…。卑怯です。あとヘラクロスさんがさっきからずっと微笑ま〜と言いたげな視線送ってる…。
「そ、そうですか…私が…魅力的…ふふ♪、じゃあまだチャンスはあると言うことですね!分かりました!私もっと女性としての磨きをかけてアブソルさんの最高の妻となって見せます!」
ブハッ!?
アブソルは思わず吹き出してしまった。ヘラクロスはそれを見て大爆笑……恥ずかしい…。誰か助けて…と思ったその時、
「あ、アブソル…これ…ミミロップさんから教えて貰って作ってみたの…良かったら食べて…その…感想…聞かせてくれないかな?」
アブソルの右隣にロコンがやってくる。手に持っている大きめのお皿の中には焼きたてのパンがいくつかのせられていた。焼きたてということもあって食欲をそそる良い匂いがアブソルの鼻をくすぐる。
「これ……全部ロコンさんが?」
アブソルの質問にロコンはコクリと首をふる。
「うん…だけど…始めて作ったものだからさ…ちょっと自信なくて…ってアブソル!?」
気づいたら僕はロコンが作ったパンを頬いっぱいに口に入れていた。我慢出来なかった…。
「……ど、どう?」
ロコンは感想をアブソルに聞く。いつの間にか他のメンバーの視線もアブソルに集まっていた。アブソルはゴクリとパンを飲み込みうーんと唸る。その光景を全員が唾を飲み込んで見守っていた……。
「え?なに?なにこの状況?、キングドラどうなってんの!?」
「リーダー…ちょっと黙っててくれ…。」
一名空気を理解してない者がいたが全員ガンスルーする。そしてアブソルは目を開き…
「…うん、すごく美味しいよ…ロコンさん。」
アブソルの一言に周りのメンバーもおぉ!と声を上げる。顔を赤くしてしまったロコンはお皿で表情を悟られまいと隠していた…可愛い…あとわかりやすい…。
「むむむ……ロコンさん…アブソルさんの胃袋を1発で掴むとはなかなかやりますね…。」
「ライバル現る…ッスね、エーフィ。」
アブソルはすごい早さで一気に三個も食べていた。余程美味しかったのか頬についてしまってることにも気づいていない…。
「もう……右頬、付いちゃってるよ…。」
そう言ってロコンはアブソルに近づく、そして……。
ぺろり……。
とアブソルの頬を舐めた。
「………………え?」
「ああああ!ロコンさん!ずるいですよー!私だってまだそんな大胆な事してないのにー!」
クスッと静かに笑うロコンにエーフィは涙目で猛抗議していた。昼食も騒がしくなってしまったな…。
「……あれ?アブソル?おーい、大丈夫ッスかー?アブソルー?…固まってる?」
僕はというとあまりにも急な事だったため、対応が追いつかず、フリーズしていたらしい……。
〜ギルド3階、トレーニングルーム〜
騒がしい昼食を終えたあとはまたトレーニングルームで特訓していた。近くでロコンさんも見てくれている、あとやはりエーフィさんもいた、もうこの人付いてこい!といったらどこまでもついて行きそうで怖い。
「お、いたッス!アブソル〜!」
きりさくの練習をしているとヘラクロスが大きく手を振ってこちらにやって来た。
「ヘラクロスさん?何か用でしたか?」
「いやー、さっきから木をバッサリ切ってるだけでこれだけじゃ暇なんじゃって思って…どうッスか?一度俺と練習試合してみないッスか?」
ヘラクロスの用件は練習試合の申し込みだった…。確かに練習とはいえ、実際にポケモン相手に勝負するのも良い経験になるな…よし…。
「いいですよ、ですが僕も必死なので最初っから全力で行きますけどね!」
「そう来なくっちゃッス!元人間のアブソルがどんな戦い方をするかすごく楽しみッスよ!」
ヘラクロスは少し離れた所で構えた。アブソルもキングドラに貰ったベルトから新しく作り直し補強した槍を取り出す。
「アブソル!無理はしちゃダメだよ!」
「ファイトですー、アブソルさ〜ん♪」
ロコンとエーフィには巻き添えをくらわないように距離をとってもらった。
「その棒みたいなものも使うんすね…じゃ行くっすよ!」
「よほひくおへはいひはふ!」(よろしくお願いします!)
「く、咥えていると不便ッスね…じ、じゃあ早速!」
(状況開始……!)
ヘラクロスは虫特有の羽を使ってアブソルとの距離を詰める、そして右手を後ろに上げて勢いよく振り下ろしてきた。
かわらわり、そう判断したアブソルも右手を振り上げ、きりさくの構えをとる。
ガキインッ!と二人の技がぶつかり、金属音に近い音が鳴り響く、ヘラクロスは一度バックステップで距離をとり今度はクロス状にして突っ込んできた。
今度はシザークロスか!アブソルもギリギリの所で右に前転して回避する、同時に槍を足元に振ったのたが見事に飛んでかわされた。
「流石、やるッスね〜アブソル。」
「ヘラクロスさんこそ、速くてついて行くのがやっとですよ。」
さて、どうしたものか…ヘラクロスさんの技は今の所分かっただけでかわらわりとシザークロス、どちらともあくタイプの僕には不利なタイプだ。一発でも当たればやられる可能性は高いな、だったら早期決着を望むしかない……やってみるか!
アブソルはヘラクロスの正面から突っ込む。ヘラクロスもそれを確認するとかわらわりの体制に入った、そして振り下ろす所、ではなく振り上げた所で今度は前転する。
「また前転の回避ッスか!でも今度はちょっとタイミングがはやすぎッス!」
「いえ、それが僕のやりたい事です!」
アブソルは前転すると同時に槍を地面に刺す、さらに前転の勢いを利用して…
ヘラクロスの真上を飛んだ
「なっ!?」
ヘラクロスのかわらわりは大きく空を裂く、その動作は大きな隙を生んでしまった、それを見計らってアブソルは空中できりさくの構えをとる、ヘラクロスもあわてて後ろを見たがもう遅い。
「もらったッ!」
ゴンッ!ときりさくはヘラクロスの額にクリーンヒットした、しばらくの沈黙のあと…ヘラクロスはきゅ〜っ…と目を回し、ドサリと静かに倒れる。
「ふぅ…状況終了…ありがとうございました。」
練習試合はアブソルの勝利で終わった。その試合はアブソルが少しは強くなることが出来たと言うことをハッキリと自覚させてくれた。
〜オマケ〜
「あ〜もう!悔しいッス!絶対あの一撃当たると思ったんすけど!」
ヘラクロスは目を覚ますとすぐに負けた悔しさを表情に出す、勝利への執着心は高いようだ…。
「ハッ!、もしかしたら俺もその棒を使ったらもっと強くなれるかも!アブソル!それちょっと貸してくれッス!」
「えーっ…ヘラクロスさん…幾ら何でもそれは…」
「いや、槍は本来人間が使う武器の一つです、ヘラクロスさんは人間に近い体格なので結構うまく使えるかも…」
「マジッスか!?じゃあさっそくやってみるッス!」
ヘラクロスはアブソルから槍をかりるとクルクルと早速回してみた。
ブンブンっ…ベシっ!…カランカラン……。
回す…のは多分上手いの方に入ると思うのだがすぐにバランスを失い、足に当たって落ちてしまった……。
「…………あれ?」
「…………フフッ。」(3人分)
「あ〜!?三人とも笑ったッスねー!今に見てるッスよー!俺絶対使えるようになってみせるッス!」
ヘラクロスは槍の振り回しを再開する。しかしやはり扱いはうまくいかず、ヘラクロスの体の節々に痣を作ってしまい、翌日の仕事を休んでしまったのはまた別の話……。