行動開始
青い空は雲一つなく広がっており、太陽は隠れることなく照り続ける、草木も風によって静かに揺れていた…そんな恵まれた天気の中、僕は目を覚ます…。
「う、うーん……。」
まだ寝たいという重い体に鞭を打ち、体を起こすと大きく体を伸ばす。いつも通りの朝が来た、そう思っていた。
「……あれ?ここどこ?こんな所で寝てたっけ?」
そして体を起こすと異常に気づく。
目線が低いような…。縮んだ?、いやいやまさか、どこかの名探偵さんじゃあるまいし…。それに名探偵にはこんな綺麗な白いモフモフの毛はないよ……モフモフの……白い……毛なんて……。
「人間にそんな毛は生えねぇよ!」
流石に不審に思った僕は丁度近くにあった池に自身の顔を移した。すると……。
「…この姿…アブソル…間違えない、これが今の自分だ…ということは…まさか!?」
人間がポケモンになった!?
「嘘だろ…こんなことって…ゲームとか夢の中でしか有り得ない!」
慌てて自身の顔を前足で引っ張る……痛い……夢じゃない…これは現実なんだ、受け入れなくてはいけない。
「……よし、まずは落ち着こう、慌てると余計に思考がまとまらなくなる、深呼吸…深呼吸…。」
息を吸って……吐いてを2回繰り返し、なんとか心をおちつけることに成功する。
「まずは状況の整理だ…、僕が目を覚ますとそこは知らない森だった。そして体の異常に気がつき、確認すると僕はアブソルになっていた…うん、この展開…やっぱりそうだった。ポケモンのゲームで見たことある!」
しかしどういうことだ?今の自分は確かに名前も家族や友人も思い出すことが出来ない…だが…。
「それ以外の記憶は…一部を除いて覚えている…。」
そう、僕には記憶が少し残っていた。普通の展開なら人間の頃の記憶は綺麗さっぱり忘れており、そんな記憶喪失の中、物語は始まっていく。
「…悩んでいても仕方がない…。まずはこの森を出て少しでも情報が欲しい…。」
そう考えた僕はすぐに行動を開始した。周りを見渡せば木ばかり……だが…。
「整備されている道がある…。これを辿れば森から出られるな…。それなら話は早い、急がなくては。」
整備された道に足を乗せ、僕は走り出す。これからどんな道を歩むことが出来るんだろう。どんなポケモンが待っているのだろう。この先どうなるか分からないこの状況に胸を高鳴らせながら……。
あれから20分くらいがたった。周りは相変わらず木や石ばかり、そんな森の中をアブソルはただひたすら走り抜けていた。
「すごいな…この体のおかげか全く疲れないぞ…それに人間の時と比べてスピードも全然違う!この調子なら日が沈む前に森を出られるかもしれないな……。」
新しい体にも少しずつ慣れ、道を更に進んでいく……行くのだがそんな中一つの疑問が出てきた。
「…それにしても妙だ…。この森には何故さっきからポケモンが一匹も見当たらない…キャタピーとかコンパンとか森を生息地としたポケモンがいても良いはずだけど…。」
しかし周りにはポケモンの姿どころか鳴き声すら聞こえない……何かあったか?、そう考え始めた時だった。
「!?」
何かが飛んでくると本能が直感で示し1度足を止め左に飛ぶ。するとアブソルが先程いた位置にはグサリと言う音と共に2本のトゲが刺さっていた。
「これは……針……技だとしたらミサイル針か!?」
誰かに狙われていると考えたアブソルはすぐに飛んできた方向に目を向ける。しかし誰もいない。周りを見渡すも木が邪魔で確認が出来なかった。
(木の上からの攻撃なら打った後は隠れるために移動するはず……。草木は揺れていない……、ということは狙った訳では無かった?、だとしたら流れ弾だろうか…。それはそれで確認する必要があるな…主に自分の安全のために。)
アブソルはミサイル針が飛んできた方向に走って行った。草木を飛び越えて向かった先には二匹のポケモンが向かい合っていた。
「ミサイル針を打ったのはあのスピアーか。おそらくあのロコンに当てようとしたが外したということか…。」
だが戦況はスピアーの方が有利とアブソルは考えていた……。対するロコンが傷だらけに対し、スピアーは無傷だったからだ。
(!?、このままじゃロコンがやられる!)
「そこのスピアー!ちょっと待って!」
叫ぶと同時に2匹の間に体を割り込ませ、無理矢理目線に入れる。ロコンは最初驚いた表情をしていたが、状況を理解すると首に下げていたバッグからオレンの実を取り出し、口に入れた。これによって傷の回復ができ、戦闘に復帰できる。
「貴方とこの子に何があったかは知りません…ですがここまで深く傷つけることは流石にひど…って!?」
話し合いでの解決を望んでいたのだかその前にミサイル針が放たれる。アブソルはなんとかそれを避けた。
「ど、どういう事だ!?声は聞こえてるはずだけど…。」
急な攻撃で思考が追いつかなくなっていると回復を終えたロコンが声を掛けてきた。
「ダ、駄目!あのスピアーは我を忘れていて私達を敵としてしか見ていないの!」
「我を…忘れてですか!?……意思疎通は無理か、なら力ずくで戦闘不能に持ち込む!」
アブソルは足に力を入れスピアーとの距離を詰める。そして同時に爪を開き、切り裂くの構えをとった。しかし……。
「!?、な、なぜだ…技が…使えない!?」
アブソルの攻撃は確かに当たったはずだった。しかし、その攻撃はスピアーの左手の針によってあっさり止められる。手応えが全く無かった。
ブンッ!と空気を裂いたスピアーの右手針の音によって正気に戻る。瞬時に体制を低くして避けた。しかし、このままでは防戦のみとなる。なんとか攻撃出来ないかとアブソルが思考していると…。
「後ろに下がって!」
ロコンの一言と同時に何かが投擲される。アブソルはすぐに高く飛び、一回転しながら体制を整えた。
ドゴオオォォン!!
結構な爆発の大きさだったと思う。アブソルとロコンの前にいたスピアーは爆発の土煙で見えなくなっていた。
「ばくれつの種…。この世界はやっぱり…。」
「急いで!、土煙があるうちに逃げなくちゃ!」
ロコンがアブソルを誘導し、森をただひたすらに突っ切る。後ろを振り返る余裕なんて無かった。
……どれくらい走っただろうか。二匹は木を影にして隠れ、息を整えていた。
「申し訳ない……。助けに入るつもりが……逆に貴重な道具を使わせてしまって…。」
「ううん、大丈夫!むしろ君が庇ってくれなかったら私今頃蜂の巣にされてたよ!だからこれでおあいこってことにしてよ……ね?」
「そうですか…ありがとうございます。しかし先程のスピアー、我を忘れていると仰ってましたが…何があったのですか?」
アブソルが聞くとロコンの顔が落ち込んだものになる。そして話し始めた。
「あのスピアー、ダンジョンにいるポケモンなの。ダンジョンにいるポケモンはとにかく凶暴な性格で…本来ならこんな所には居ないはずなんだけど…。」
「ダンジョンにいるはずのポケモンがそこを抜け出し、この森を縄張りとした。そうか…だから他のポケモン達がいないんだ……安全のためにこの森から逃げたから……そして森に入った僕とロコンは敵として見なされ、攻撃された。こういう所でしょうか。」
「え?……あ、うん。だけど私はこの森を何としてでも抜けたいの、森を抜けた先にはギルドがあって…その、そこに私も入りたくて……。」
ギルド?、ギルドと言えば確かプクリンが親方のあのギルドか!?そこに行けば自分がどうすれば良いのかを教えて貰えるかもしれない。もしかしたら他のポケモンになった人間にも会えるかも…。よし、それならこのロコンと行動を共にさせて貰おう。この子はいろんなことを知っている…今の僕には必要な存在だ。
「よし!なら一緒にこの森を抜けましょう!技は何故か使えませんがおとりくらいにはなれます!それに僕にもギルドには用事があるので。」
「いいの!?……あ〜良かった。1人じゃ結構不安だったの。君がいるだけですごく心強いわ!頼りにしてる!宜しくね!」
「あ、はい!ですがその前にあのスピアーとの戦闘は避けられないでしょうね…なので準備をしておきたいのですが……。」
「道具ならあるよ!オレンのみが3個、爆裂の種が1個、ゴローンの石も!」
「準備が良いですね…ん?ゴローンの石!?ロコンさん!それ僕が使っても良いですか!」
「良いけど……投げてダメージを与えるものだよ?、君がスピアーの近くにいると投げる動作に隙が出来てやられちゃう…。」
「分かっています!投げては使いません、別のことに使いたいのです。」
「ベ、別のことって?」
「それはですね……」
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「……で、出来るの!?それ?失敗したら君が大怪我を……。」
「大丈夫です、ロコンさんはこの策、乗ってくれますか?」
「君がそう言うのなら…うん、分かったよ!私も覚悟を決めた!やろう!」
「よし、決まったなら行動開始です!早速行きましょう!」