第2章 『光狼の大地』
P8 覚醒の炎
「・・・・・・うーむ・・・」

光というのは、優しくも力強いものだ。
閉ざした視界は光で赤く染まり、自然の温かみを一身に受ける。
俺は今、いわゆる日光浴ってやつをしている。
洞窟前の岩に座り、あぐらをかいて太陽に向く。
そして目をつむるだけ。
なんともシンプルで、なんとも退屈で、なんとも心地いい。

「・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・」

小さく息を吐くと、後ろの洞窟を振り返る。
いや、正確には洞窟の中で寝息を立てるメスのシャワーズに。

「起きる気配・・・ないな・・・・・・」

体を丸めて気持ちよさそうに眠っているセレナは、もはや呆れの対象となっていた。
日の角度から察するに、既に時刻は9時ごろといったところだ。
昨日は夕飯も食べないで寝ちまったから、多分7時ごろ。
セレナは約14時間もの間、夢の世界を旅している。
まぁ厳密に言うと、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があって・・・いや、どうでもいい。
本来なら起こすべきなのだろうが、あまりにも心地よさそうに眠るもんであって、起こしづらいというか・・・

「・・・ま、いいや」

そういや昨日の昼から何も食べていない。
なにか食べ物を探すべく、俺は木々が生い茂る中に入って行った。


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「ねんりき」

薄い紫のオーラに包まれたナナシの実は、ぷちっと音を立てて枝から離れる。
重力に従ってそのまま・・・・・・

「よっと」

俺の手の中にすぽりと納まった。

「・・・・・・よし」

一晩ぐっすりと眠ってリラックスしたからだろうか、ねんりきのパワーがほんの少し上がっている。
精度もなかなかだ。
俺は左の掌を見つめると、手を握って開いて握って開いて・・・

「使い方・・・かぁ・・・」

現在のエスパー技は、今のように日常では非常に便利なものだ。
しかし、この程度ではシキが言っていた通り、実践に使えるハズがない。
ねんりきで攻撃しようにも、気力でアッサリ破られてジ・エンドだ。
けど、戦い方によれば、俺の脆弱なエスパー技だって十分に使えるようになる。

「ま、ゆっくり見つけていけばいいか」

俺はもう一つナナシを取るため、樹上に手をかざした。

「・・・え?」

異変に気づいたのはその時だった。
体が宙に浮いて・・・いや、違う。
吹き飛ばされたんだ・・・

「ぐあぁッ!!」

樹木に、背中を思い切りたたきつけられ、肺の中の空気が全て抜けたような気がした。
受け身もとれずに、そのまま地面に落下する。
全身に鈍い激痛が駆け巡った。

「グルゥゥゥゥゥゥ・・・」
「ま・・・た・・・・・・お・・・前・・・・・・か・・・」

俺の目の前には、昨日のリングマが立っていた。
うかつすぎた。
何故少しも警戒をしなかったッ・・・!

「グルルルゥゥ・・・グアアアアアッ!!」

リングマの握られた両手が振り上げられる。
このままじゃ・・・死ぬ・・・!
生きる気力に任せてフラフラになりながらも立ち上がり、俺は右手を構えた。

「う・・・おおおおお!!」

渾身の力で撃ち出したドラゴンクロー。
互いの技が交錯し、火花が弾ける。
体の大きさでも、技の威力でも、使用者自身のパワーでも、全てが劣っている。
必死の抵抗を試みても、俺の右腕はじりじりと押され始めた。

「や・・・べぇっ・・・」
「グアアアアアアアアアア!!」

まずい、ドラゴンクローを中断すれば脳天に攻撃を喰らって終わりだ。
けどこのままじゃ押し入れない・・・!
命がかかった極限状態の中、俺は全力で思考を回す。
かえんほうしゃはこの体制からじゃ撃てない。
ねんりきも・・・今じゃ意味がない。
いっそシキが助けに来てくれるにまかせようか・・・
思考に一瞬の影がよぎった。
そしてついにその時は最悪の形で訪れた。
俺の右腕を纏っていた竜の力はあっけなく霧散したのだ。

「ごあぁッ!!」

腹部に直撃するアームハンマー。
体をしたたかに打ち付け、骨がギシギシと悲鳴を上げた。

「あ・・・ぐ・・・・・・」

意識が虚ろをさまよい始め、視界が朦朧としてきた。
俺・・・死ぬのかな・・・
ぼんやりとした目で狂気に染まったリングマを見つめる。

世界が暗転した。


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俺は誰だ? 決まってる、リザードのリシルだ。
お前は誰だ? 俺だってリザードのリシルだ。
お前はなんだ? 俺は存在そのもの。
じゃあ俺は? ただの偽物だ。

一体これは・・・・・・

ふわふわと浮かんでいる感覚。
目を見開いた俺は、暗闇の中に立つ自分の姿を見た。
その姿は俺とうり二つ。
いや、違う部分もある。
その瞳は輝きを失い、血のように赤く染まっていた。
そしてニヤニヤと不敵に笑うその口。
そいつはフンッと鼻を鳴らした。

「お前が偽物さんだとしても、死んでもらっちゃ困るからな。今お前が保持していた“カラダ”は1つっきゃないんだ」

何を言っているんだろう、こいつは・・・・・・
こいつは・・・以前感じたことがある。
そう、アルフと戦った時だ。
リーオが倒れて、目の前が真っ暗になって・・・
それで・・・・・・

「とりあえずお前は見てろ。俺が力の使い方ってのを教えてやる」

空間に光が満ちる。
そのまぶしさに、俺は思わず目を閉じた。


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視界に一番に飛び込んできたのは、俺の命を押しつぶさんとアームハンマーを振り落すリングマの姿。
避けなければ、そう思うより先に体が動く。
素早く起き上がるなり背後に小さく飛びずさる。
リングマの右腕が鼻先をかすめ、俺は大きな違和感を覚えた。
体が自由に動かない。
動きをすべてプログラムされているかのように、俺の体は最小限の動きで最善の方向へと動く。
違う、ここではもっと大きく跳ぶべきだ。
俺の考えていることと脳が送る指令は途方もなく異なっている。
左腕を引き絞る。
爪が白く輝き、リングマの攻撃を横ステップで躱すと同時にそれは全力で打ち出される。
巨大な衝撃と共に、小さく発生する衝撃波。
ドラゴンクローを腹部に受けたリングマは、うめき声をあげて数歩後ずさった。
違う、戦うんじゃない。
逃げるんだ。
必死の抵抗も空しく、体は勝手に動く。

「見てろよリシル、いや、俺」

その言葉は俺の口から発せられたもの。
けど、俺の言葉じゃない。

「これが、力の使い方だ」

俺の体は両腕に炎を纏う。
その炎は俺が普段使っているものより遥かに熱くて、眩しくて。
刹那、炎は意志を持ったかのようにはじけた。

『な・・・・・・』

声は出ないが、俺は驚きの声をあげた。
炎がヒトダマのようにふよふよと浮いている。

「フレイムダンス。ねんりきで炎を操る、“俺たち”の技だ」
『フレイム・・・ダンス・・・』



その後の記憶ははっきりとしていない。
いつの間にやら眠りに落ちていたらしく、目が覚めれば、俺の意識と肉体はさっきのことがウソのように結びついていた。
そして目の前に倒れている、体から煙を上げたリングマ。
夢・・・だったのだろうか。
・・・・・・いや・・・

『今はまだお前に体を預けといてやる。せいぜい大事に使えよ』

脳内に響いた声は、俺の動悸を急激に高めた。


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お久しぶりですな、読者のみなさん。
次話も随分遅れそうだとかそうでもないだとか作者が言っておりましたぞ。

しかし・・・・・・
なんとまさかの、リシル君2重人格説!?
言うなれば光と闇と言ったところでしょうか。
どちらがホンモノでどちらがニセモノなのでしょうか・・・

そしてリシル君の新たな技、フレイムダンス。
これからの活躍に期待ですな。

ホッホッホ、次回もお楽しみに・・・・・・


タクミン ( 2013/03/20(水) 12:02 )