第2章 『光狼の大地』
P5 夢の大地へ
あれから何日だ?
・・・・・・まだ3日だよ。
セレナとそのトレーナーの2人と別れて3日。
空が暗闇に包まれようとも一向に静寂が訪れないヤマブキシティの中、俺はビルの屋上で横になっていた。
路地裏からよじ登ってくるだけでも一苦労だし、冷たい風は容赦なく吹き付ける。
それでも寝床にここを選んだ理由は、星空が近いから。
星は手を伸ばせば届きそうに近い。
もしあの一番きれいに輝いているやつを取ってアクセサリにできたら、誰にあげようか。
フィーネはそういうのあんまり好きじゃないし、ティアルは・・・どうだろうな。
セレナは・・・・・・・・・

「・・・・・・セレナ・・・か・・・」

俺は今更ながら、2人を拒絶した自分に疑問を抱いた。
お前は本当に1人でよかったのか? 
お前は本当に1人で元の世界に帰れるのか?
お前は本当にそれでよかったのか?
いくら待っても答えは帰ってこない。
そういやあの人間、名前も聞いてなかったな・・・

「・・・・・・」

なんだか寂しさがこみあげてくる。
俺はなんでこの世界に来たんだろう・・・
一体・・・何故・・・・・・


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『はいっ! こんにちはリシル君!』
「・・・・・・またか」

万華鏡の中のような幻想的な空間。
俺が人間界に飛ばされた時に、ここに来た覚えがある。
そしてこの声も・・・

「なぁ、なんかお前キャラ違くねえか?」
『この前の時は友達に頼んでやってもらったんだよ! ちゃんとクリスタルは渡したみたいだね!』

随分とハイテンションで、なんだか調子が狂うな・・・
ここはまた、夢の世界なのだろう。
ということは・・・

「俺寝ちゃったのか・・・」
『随分疲れてたみたいだからねー、とりあえず君をこの空間に呼んだのはちょっと大変なことになってるから』
「大変なこと? ってか会話しづれーよ、姿現せ」
『そう? わかった』

突如、俺の前で光が収束を始める。
光は勢いを強め、その姿を成していった。

「ジラーチ・・・か・・・」

星のような姿、3つの短冊、閉じられた腹の目。
俺の目の前にふわふわと浮かんでいたのは、紛れもないジラーチだった。

「ボクが声の正体。名前はシキ、よろしく!」
「おう」

夢が絡んでるだけあってそれっぽい奴が出てきたな・・・
俺がそんなことを考えていると、シキは頬を膨らませた。

「ボクは夢じゃなくて願い事!」
「ああ、ああ、わかったわかった。てか心を読むな」

アハハと無邪気に笑うシキに、俺は溜息を一つ漏らした。
一応コイツは、俺を厄介ごとに巻き込んだ張本人だ。
が、憤る気力がわいてこないのは、コイツが持ってるなんかの力なのだろうか。
シキは笑顔から一転、表情を強張らせた。

「それじゃあ・・・いい? 友達が君に言った使命とも関係してるからよく聞いてね」
「・・・わかった」

シキはゆっくりとうなずいた。

「大変なことっていうのはね・・・・・・夢が壊されているんだ」
「夢が?」
「夢っていうのは繋がっているんだよ。夢は言うなれば並行世界、パラレルワールド。夢という1つの世界を、眠っているたくさんの人が旅するんだ。ま、人間界の夢は特別なんだけどね」

あんまり理解できていないが、とりあえず相槌を打っておいた。

「そして世界によって夢という世界も違う。今この人間界の夢は壊れていってる。なんとかして夢を修復しようにも、原因がわからない。誰か強い人に調査してもらおうと思ったんだけど・・・そしたら風のうわさでキミのことを知った」

シキはにっと笑う。

「アルフを撃退したんだって? 聞いたよ」
「へ? ああいや・・・おう」

俺はエイル先生に聞いた限り、ただ暴走しただけだったはず・・・
アルフをぶっ倒した記憶もないしな。
なんとなく食い違っている部分があるが・・・まぁいいや。

「というわけで、キミを人間界に呼んだんだよ。で、原因の調査をキミに頼みたい。僕も手伝うからさ」

結局ほとんど理解できていないが、俺が聞きたいのはただ1つ。

「そしたら・・・元の世界に帰れるんだな?」
「・・・・・・うん、ボクの力でキミを帰す」
「わかった」

そういうことなら、協力すべきだろう。
俺はただ元の世界に帰りたい。
それだけだ。

「今からキミを夢の世界に飛ばす。夢の世界って言っても、現実とほとんど変わらないからね。唯一変わると言えば、人間は1人もいなくて、人間の文明の発達はゼロだということ」
「なんで?」
「さっき特別だって言ったでしょ? 人間とポケモンが共存するこの人間界は、人間とポケモンとで夢の世界が変わる。つまり、夢の世界は2つあるんだ。今回行ってもらうのは、ポケモン側だから」
「そう、か」

まぁ、人間がいないのなら気が楽でいいけどな。

「あ、あと最後に1つ」
「なんだ?」

シキは俺の目をまっすぐ見据えた。

「2人まで、この人間界限定だけど、親しい人を同行させていいよ」
「親しい人・・・2人まで?」

この世界限定となると、リーオたちは当然ダメだ。

「あ・・・」

ふと脳裏をよぎる、シャワーズと1人の人間。
もしかしてあいつらなら・・・
・・・・・・いや。

「・・・親しい奴はいない。1人でいい」

俺の答えに、シキは心なしか残念そうにうなずいた。

「・・・・・・そう・・・じゃ、飛ばすね」
「頼む」

俺がうなずくと、シキは指をパチンと鳴らした。
いいなー、俺あれできないんだよな・・・
俺はそんなことを考えながら次に起こるであろう何かを待つ。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・おいシキ、なんにもおきねぇ・・・」

俺がシキに食いかかろうとした刹那、フッと足元の感覚が消えた。

「へ?」

足元を見下ろせば、ぽっかりと大口を開けた漆黒の穴。
え、おい、ちょっと待とうぜ・・・・・・

「あぎゃあああああああああ!!!」

重力に従って恐ろしく素直に、まっすぐ落ちていく。
俺は思わず叫び声をあげていた。

「ボクもすぐ行くからー!」
「シキ!! テメ、このやろおおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・・」


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「んあ・・・」

俺は目を覚ました。
背中を包み込む草のさらさらとした感触。
確かシキに大穴に落とされて・・・
ってことは、ここはあいつが言ってた夢の世界ってことか?
はっきりしない頭を無理やり覚醒させるべく、俺は起き上がって頭をブンブンと振った。

「あ、起きたねリシルくん」
「へ?」

俺は左に目を向けた。
ようやく戻ってきた俺の視力で捉えたのは、アクアブルーの左目を持った端正な顔立ちのシャワーズ。

「セ・・・」

呼びかけようとした俺は瞬時に言葉を切り、うつむいた。
彼女は俺が冷たく突き離した。
今さら俺に何かを言う資格は無い。

「リシルくん、顔を上げて」

俺は少し迷いながらもおそるおそる顔を上げる。
セレナは怒った表情を浮かべていた。

「まずは説明。さっき夢の中で私の目の前に突然シキくんが現れて、リシル君を手伝ってあげてって言われたの。もちろん快く承諾したわ。それでこの世界に連れてきたもらったんだけど・・・その間にシキくんに全部聞いたよ。リシルくんの使命のこと」
「セレナ・・・」
「別に私はリシルくんが拒絶したことを怒っているわけじゃないよ。リシルくんが親しい人はいるかって聞かれたとき、いないって答えたことに怒ってるの」
「・・・・・・ごめん」

セレナはしばらく険しい顔をしていたが「まぁいいわ」と笑顔を浮かべた。

「謝ったならそれでよし。もう少し私たちを頼ってよね、仲間でしょ?」
「ああ、サンキュー。 ・・・・・・私・・・たち?」

ここにはセレナしかいないはず・・・

「あ、起きたねリシル」

振り返ると、オレンやモモンといった木の実を大量に抱えて歩み寄ってくるセレナのトレーナーがいた。

「あんた・・・・・・わるかったな」

俺が一言そう言うと、人間はオレンの実を俺に投げ渡した。
食えということだろうか、俺はとりあえず一口かじった。

「僕たちも手伝うから、リシルの使命ってやつを」
「・・・いいのか?」
「仲間だろ?」

俺は心の奥に、何か温かいものを感じた。
まるで、お湯が注がれているような感覚・・・
セレナと同じように、人間も笑顔を浮かべた。

「そういえば、自己紹介まだだったよね。僕は藍芽崎直哉、よろしく」
「ナオヤ・・・か・・・・・・よろしくな」

あいがさき・・・ナオヤ・・・

「よっと・・・うん、皆いるね」
「あ、シキくん」

突如光と共に現れたジラーチを見て、セレナはそう一言。
果たしてシキがオスなのかメスなのかは知らないが、シキは笑顔で片手を上げた。
ちなみに、ジラーチに性別があるかどうかは知らん。

「えっとね、ボクたちが今まさしくいるのは、人間界の夢の中。リシル君、後ろを見てごらん」

さっきのことを怒ることも忘れ、言われるがままに俺は後ろを振り向いた。
そしておもわず息を呑む。
風に揺れる青い草原、連なる赤い山々、生い茂る薄い紫色の木々、さらさらと涼しげな音を奏でる虹色の川。
通常とは違う異常な色ながらも、そこには広大・・・いや、とてつもなく壮大な自然が広がっていた。
そして草原を闊歩するケンタロスやバッフロンの群れ。
ここは高台になっているようで、全てを見渡せる・・・

「この地こそがボクたちの旅する夢の世界。その名も・・・・・・光狼の大地」


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いよいよ本当の舞台となる世界に到着ですな。

次回からはこの世界の旅になりますかな。
語る私としても胸が高鳴ります。

ホッホッホ、ではまたお会いしましょう・・・・・・


タクミン ( 2013/02/18(月) 22:22 )