P8 幼き道化
俺は・・・・・・
そうだ、確か誰かの攻撃を受けて・・・
敵・・・・・・オノノクスだったよな、確か。
それで・・・・・・・・・
「目、覚めましたか?」
「うぎゃあっ!!!」
俺は横になっている自分の体を、必死にごろごろと転がした。
そして素早く立ち上がり、声の方に向けて構えを取る。
相手は困ったような笑みを浮かべ、両手を頭の後ろで組んだ。
自分に害はない、何にもしないというサインである。
「だ、大丈夫ですよ。とりあえずは」
「とりあえず?」
動悸が落ち着いてきた俺は、ようやく目の前に立つ相手の姿を捕えた。
黄色い体に、巨大な耳を持つ小柄なポケモン、ピチュー。
種族柄幼いような外見だが、口調も態度も落ち着いている。
そして何より、醸し出す雰囲気が恐ろしく静かだった。
「えっとですね、僕はヴァーリって言います。あなたたちが落ちてくるのが見えたので、僕が助けたんですよ?」
「というわけだ。多分信じて大丈夫だと思うぞ?」
「エイル先生・・・」
ヴァーリの隣にいつの間にか立っていたエイル先生は腕を組み、こちらを見据えていた。
俺はしぶしぶと構えを解く。
「なぁヴァーリ、あとの3人は?」
「まだそこで寝ていますよ」
ヴァーリが指差した方を見ると、リーオ、フィーネ、ティアルの3人が安らかとまではいかないものの、決して苦しくはなさそうな表情で眠っていた。
俺はとりあえず胸をなでおろす。
そこでふと俺の脳にとある疑問が浮かんだ。
「なぁヴァーリ」
「なんでしょう?」
案外素っ気なく、それでも丁寧に返された俺はやや言葉を詰まらせつつ続けた。
「ここはどこなんだ? さっき助けたって言ってたけど・・・・・・俺たちはどうしてたんだ? どうやって助けたんだ?」
見たとこ、俺たちがいるのは洞窟のようけど・・・
結構な広さで、天井に伸びる鍾乳石からは水がポタポタと滴り落ちる。
案外危ないとこだなここ・・・・・・落ちてきたらどうすんだ・・・てかここって鍾乳洞?
俺がいろいろと思考を張り巡らせる中。ヴァーリはそっとうつむいた。
「・・・・・・・・・・」
「悪ぃ、一気に質問しちまって・・・」
それを聞いたヴァーリはあわてて顔を上げ、微笑を浮かべた。
「いえ、大丈夫ですよ。自分の置かれている状況がわからないと、生物は不安になるものです。ただ、あちらの3人方にも聞いてもらいたいので、目が覚めるまでもう少し待ってください」
俺とエイル先生は顔を見合わせ、コクンと頷く。
ヴァーリはもう一度微笑を浮かべ、こっちに背を向けてすとんと座り込んだ。
背を向けるときの表情・・・
ヴァーリはなんだか悲しげで、秘密があることは容易に想像できた。
今は待つのか・・・・・・
きたるべき時まで・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「で、こうなると」
見慣れた2年A組、つまり自分の教室の風景。
エイル先生が黒板に板書し、前の方でリーオが寝息を立て、後ろの方でフィーネが黒板の内容をノートに写し、ティアルがぽやんと外を眺め。
いつも通りだ。
ただ一点を覗いて。
俺は体をひねり、教室の一番後ろの、さらに一番窓際の席を見る。
そこに座ってペンを必死に走らせているのは、かのピチュー、ヴァーリ。
授業中だぞーとエイル先生から指摘が飛び、俺はやむなく体を前に向けた。
えっとだなぁ・・・・・・
ヴァーリが入学しました、まる。
こういう展開の変化は読者が混乱するんじゃねぇかな・・・・・・
一応ピチューでも年齢は俺たちと同じらしくて、それでも結局入学かよ。
この世界で進化するにはある程度の強さと、進化を強く望む気持ちが必要になる。
見た目重視で進化しないってやつもいるし・・・・・・
この前杖をついて危なっかしく歩くエレキッドを見た覚えがある。
そういや全ては先週のあの日に始まったんだ。
あの日、俺たちが天界に行ってアルフと出会ったあの日。
洞窟の中でのことだ・・・・・・
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「全員そろいましたね」
リーオたちが目をさまし、たき火を囲んで全員が赤い光が揺らめくヴァーリの顔を見つめるころには、すでに日はとっぷりと暮れていた。
「さて、先ほどリシルさんからあった質問に答えていきましょう。まず、ここはどこだということですが・・・・・・ここはアンティーレという町の近くにある、とある洞窟です」
アンティーレ。
その単語に少なからず驚愕を覚えたが、何も言わずに黙って話を聞く。
おそらくみんな同じだ。
「次にあなたたちが置かれていた状況。あなたたちは空から落ちていたんですよ。この地上に。落ちた原因、それはおそらく天界から落とされたのでしょう。だんご屋に居た僕はなにかが落ちてくるのを見つけて、急いで駆け付けたんです。なんとか空中で全員受け止めて、激突は免れましたよ」
「な・・・・・・」
「リーオ? どうした・・・」
声をかけてから気が付いた。
リーオの手は固く握られ、小刻みに震えている。
「なんでお前がそれを知ってるんだよ!? なんでお前が! 俺たちが天界に行ったってこと知ってるんだよ!?」
リーオが動揺して声を荒げる。
ヴァーリは落ち着いてください、と一声かけ、洞窟の天井を見た。
「・・・・・・いいでしょう、お話しします。ただし、他言無用でお願いしますよ?」
なんとか落ち着いたリーオを含め俺たちがそろって頷くと、ヴァーリは右手を自分の横に、水平に掲げる。
瞬間、俺たちは息をのんだ。
腕の付け根からのびる、純白の翼。
バサ・・・と音を立て、それは小さな風を起こした。
「・・・・・・お分かりいただけましたか? 僕は天界の住人、アルフなんです」
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それから始まったんだ。
それ以来、ヴァーリは地上に降りてきた理由や俺たちについてきた理由を教えてはくれなかった。
けど、今ではすっかりなじんでいる。
そうそう、ヴァーリは俺たちアルフ研究部に入部したんだ。
理由はやっぱり教えてくれないけど、毎日楽しくやっている。
アルフに会うことはできたけど、その真実を掴むには至っていない。
研究部の活動はまだまだ続くんだろうなぁ・・・
「道化のよう」
「え? 何か言いました?」
「うぎゃあッ!!!」
いつの間にか目の前に立っていたヴァーリに、俺は跳びあがった。
実際に30センチくらい。
俺はしばらく唖然としていたが、やがて大きくため息をついた。
「だからおどかすなって言ってんだろ・・・」
「リシルさんが勝手に驚いただけでしょう。授業はとっくに終わってますよ。次は移動教室の音楽だから急がないと」
「ああ、悪ぃ」
俺は教室を出るために立ち上がり・・・動きを止めた。
ヴァーリが不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「どうしました?」
「道化師だ」
俺はヴァーリの頭に手を置き、ぐーりぐーりとかき回す。
ヴァーリはくすぐったそうにしている。
「お前は道化師。見た目に反して大人びているところ、単純そうでつかみどころがないところ。人をだます道化師そっくりだ」
俺はポカンとしているヴァーリを見た。
やはり同い年とは思えないほどに小さい。
けど・・・・・・
「俺たちの仲間だ、お前は。アルフがどうとか関係ない。よろしくな、ヴァーリ」
そこまで言って、俺は自己嫌悪に陥った。
何ガラにもないこと言ってんだ俺は、と。
けど、ヴァーリは今までの薄い笑みとは違う、満面の笑みを浮かべてくれた。
「こちらこそよろしくお願いしますね。リシルさん!」
こいつはアルフであり・・・クラスメートであり、友達であり、アルフ研究部の部員だ。
俺もにっと笑い返すと、鞄から音楽の教科書と楽譜を取り出した。
「さ、急ごうぜ!」
「はい!」
教室を飛び出て廊下を走る。
俺たちは再び顔を見合わせると、もう一度笑いあった。
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ホーーーーー!!!?
まさかのアルフが仲間に加わるという展開ですな!
友情と言うのは大切な物です。
私は学生時代、友達が少なかったものです。
・・・・・いえ、なんでもありません。
さて、次回からは少し日常に戻りましょうか。
どうぞお楽しみに・・・・・・