第1章 『天界の使者』
P4 拓かれた道
はらり、とページをめくる。
左側に貼られた写真は落ち行く巨大な隕石とレックウザ、そして2人の救助隊を写したもの。
確か、星の停止を食い止めたっていう探検隊の英雄伝説のさらに前、50年くらい前にあったっていうもう一つの英雄伝説だ。
人間がポケモンになって、救助隊の活動をパートナーと共に初めて・・・っていう話だ。
けど、おそらく俺が求めているものとは無関係。

「はぁ・・・・・・」

丸テーブルが並んだ空間の片隅に置いてあるベンチの上でポツリと溜息をつくと、本を静かに閉じ、傍らに置いてある本の山の一番上に積んだ。
ここ、アンティーレの図書館は恐ろしくでかい。
というか、長い。
円柱状の吹き抜けになっていて、壁にはズラリと本が並ぶ。
約5メートルおきの壁には足場が設置されており、行き来はエレベータで行う。
全部で10階あるうち、俺がいるのは一番下の1階。
フィーネとティアルは8階で調べてみると言っていた。
そういえばリーオはこの階にいたよな・・・・・・
ふとやけに静かなことを不審に思い、とある予想が大当たりであることを確信した俺はぐるりと周囲を見渡す。

「・・・・・・やっぱりね・・・」

案の定大当たり。
リーオは丸テーブルに上半身を預け、グースカと眠りこけているではないか。
しかしながら、寝息のボリュームが最小限になっているあたり、一応図書館のマナーはわきまえているということであろうか。
とりあえず放っておいて構わないだろうと判断した俺は、傍らの本の山から薄緑の本を1冊抜き取った。

「『世界の超常現象を求め』・・・か・・・・・・」

本のタイトルから察するに、学校の図書室には無かったものだ。
わざわざ図書館まで来たのは、そういうものから新たな情報を得るためでもある。
目次を開くと、馴染み深いものから聞いたこと無いようなものまで載っている。

「バミューダトライアングル、宇宙人・・・・・・アルフは無いな」

それでも何か関わるものは無いかと、俺はページをめくり始める。

「アルフについて、お調べですかな?」

目の前に誰かが立っていることに気づき、俺はバッと顔を上げた。

「そこまで驚かなくてもよろしい。ちょっとした好奇心故に聞いただけです」

そこに立っていたのはニコニコとした表情のヨルノズク。
どうやら、少し高齢のようで体つきにあまり元気がない。
俺はキッとヨルノズクを睨んだ。

「睨むことはありませんよ。あなたがアルフについて調べていることを公開したりなどしません」
「あんたは誰だ、なぜ俺がアルフについて調べているとわかった」

いまだに解けない警戒心をバリバリ表に出しながら、俺はヨルノズクに問う。
ヨルノズクは、ホッホッホと笑うと、静かに口を開いた。

「私の名はナレク。最近中学生4人組がアルフについて聞き込みをして回っているということを 小耳にはさみましてな、読んでいる本から、それはあなたではないかと思ったのです」
「・・・・・・・・・」

それを聞いた俺はほっと息を吐くと、ようやく警戒の色を解いた。
前も話したが、アルフの調査が国にバレれば研究部は即廃部。
俺はそれを恐れていたのだ。

「えっと・・・・・・ナレクさん? すみません、いきなり睨んだりしてしまって・・・」

ナレクさんは肩をすぼめて、力なく笑った。

「いえいえ、気にしないでください。国からの圧力を恐れたのでしょう? 仕方ないことです」
「ナレクさんも、アルフについて調べているんですか?」
「まぁ、そんなところです。どうです? 情報交換でもいたしませんか?」

ありがたい誘いだと俺は瞬時に判断した。
メリットはあれど、デメリットは微塵もない。
俺はそっと頷いた。

「じゃあ、仲間があと3人いるので呼んできます。1人はあそこで寝ているアリゲイツなんですけどね・・・」
「では、10分後に4階のフリールームにしましょう。あそこならうるさくしても問題ありませんから」
「わかりました、じゃあ後でまた会いましょう」
「あ、えっと・・・・・・リザード君?」

背を向けて歩き出した俺の足は、ナレクさんの抑え気味の声によって止まった。

「俺はリシルっていいます。なんですか?」
「リシル君、その『世界の超常現象を求め』っていう本、持ってきてくださいね」
「? え、ええ。わかりました」

俺の答えに満足したように、ナレクさんはエレベータへと歩いて行った。
俺は振り返って数十歩歩くと、眠り姫よろしく夢の世界を旅するワニ殿の肩を揺さぶった。

「おいリーオ、起きろ」
「・・・・・・んにゃ?・・・あるぅ・・・・・・・・・zzz」

何を言おうとしたのだろうか。
ともかく俺は、謎の言葉を発したリーオを引きずって、フィーネとティアルのもとへ向かうべく歩き出した。


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「ほう! 2ケ月前からずっと調査をしておられるのですか!」
「ええ、まあ。顧問も含め、調査をしています」

フィーネは薄く笑いながらそう言った。
図書館の4階と5階にはフリールームと呼ばれる、話し合いなどに用いられる、いわゆる個室がいくつか設けられている。
俺はフィーネ、ティアルを呼び、ナレクさんの待つこの部屋へと来た。
いろいろなことを聞いたり、話したりするナレクさんはとても楽しそうで、とてもいきいきとしていた。

「それで、ナレクのじいさんよ。アルフについて調べてるって本当なのか?」
「本当ですとも。その前にぜひ、君たちが調査したことを教えてもらいたい」
「よし。ティアル、ノート出してくれ」
「これが〜、私たちの調査の結果です〜」
「では、見せていただきます」

ナレクさんはティアルからノートを受け取ると、大きな翼を使って器用にページをめくっていく。
俺たちは固唾をのんでその光景を見ていたが、やがてナレクさんはパタンとノートを閉じるとティアルに差し出した。

「これはお返しします。ふむ、とても努力をされているようですね。私の知らないこともたくさんあった。あなたたちが立てた仮説も実に興味深い」
「でよ、俺たちが知らないこと、じいさんは何か知ってるか?」
「ええ」

あっけらかんとナレクさんが言った言葉に、俺たちは唖然とした。
早速リーオが体を乗り出し、ずずいっとせめ寄る。

「で、なんだよ!?」
「まあ、落ち着いてください。ゆっくりとお話しいたしましょう」

ナレクさんはフウッと一息行くと、まずは・・・と言った。

「私がお話しすることは1つ。リシルくん、さっきの本持ってきてくれましたかな?」
「あ、はい」

俺はあわてて手に持っていた本を机の上に置いた。
いわずもがな、『世界の超常現象を求め』である。

「これの古代遺跡のページです。私はそれを見て知りました」

ナレクさんは、目次で古代遺跡のページ数を調べると、パラパラと目的の部分を探す。
そして古代遺跡について書かれたページ。
俺たち全員が本を覗きこむ。

「これは・・・・・・アンゲルス遺跡?」
「いかにも」

古代文明について博識なフィーネの呟きにナレクさんは頷いた。
アンゲルス遺跡はここ、アンティーレからはそう遠くない広大な森の中にある。
確か、この辺りに住んでいた古代の住人が作った遺跡だってずっと前フィーネが言っていたような気がする。
俺は小さく貼られた、鬱蒼と茂る木の中にそびえる、石造りの遺跡の写真を眺めた。

「でもよじいさん、遺跡とアルフに何の関係が?」
「私の考えでは、古代のポケモンたちはアルフとコンタクトを取っていたのではないかと思いましてな」
「「「こ、コンタクト!?」」」
「コンタクトか〜、なるほど〜」

俺、フィーネ、リーオが口をそろえて驚く中、ティアルだけがのんびりと口元に手を当てた。

「あくまで推測なんじゃがな。しかし、アンゲルスはとある国の言葉で天使を意味する」
「天使とアルフか・・・・・・無関係には思えないな・・・」
「リシルくんの言うとおり、私も何かあると思いました。それでぜひ行ってみようと思ったのですが・・・・・・」
「とても一人で挑めるような場所じゃない、そうですね?」
「・・・・・・はい」

フィーネの言うことは、俺たち全員が理解できた。
アンゲルス遺跡周辺の森は不思議のダンジョンになっている。
不思議のダンジョン内は問答無用で襲ってくるようなポケモンが徘徊し、危険なトラップが仕掛けてあったりと危険な場所なのだ。
でも・・・・・・

「でも、俺たちはアルフ研究部。行くしかないだろ」

右に視線を向けると、決意の炎を瞳にともしたリーオがそこにいた。
残る俺、ティアル、フィーネも頷くと、ナレクさんは笑みを見せた。

「そうですか・・・・・・残念ながら私は同行できません。私の代わりに真実を見てきてください」
「俺たち頑張るぜ! じいさん!」
「そう言って、足手まといになるなよリーオ」
「実際の戦闘力はこの中じゃリシル君が一番だもんね」
「エイル先生にも〜、話さないとね〜」

俺たちが頷き合うと、ナレクさんはもう一度笑った。


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ホッホッホ、ようやく私が登場する回でしたな。

なんだかお話をしていると、当時の記憶がより鮮明によみがえってくるのです。
あのときの彼らの目はそれはもう輝いていましたな。

さて、次回はアンゲルス遺跡についてです。
どうぞお楽しみに・・・・・




タクミン ( 2013/01/06(日) 23:48 )