P2 授業はペン回して過ごせ
「オッス! リシルーーー!!」
「うるさい」
教室に入るなり目の前に飛び出してきたリーオを軽くかわすと、中ほどにある自分の席に鞄を置いた。
「おはよう、リシルくん」
「おはよ〜」
「ああ、おはよ」
ついでにフィーネとティアルも近づいてきて、いつものメンバーがそろう。
教室を見ると、先生の姿はない。
少し話ができそうだ。
「さて、今日の活動なんだが・・・・・・図書室で“アルフ”について調べるぞ!」
「大丈夫なの? リーオ」
「へ? 何が?」
フィーネの発言に呆けた顔でクエスチョンマークを浮かべるリーオ。
あ、こいつマジでわかってねぇな・・・
「・・・・・・ま、いいわ」
「リーオくんは〜、なんであんなこと言いだすのかな〜?」
「さ、さあな・・・」
相変わらず、なんだかわからないといった表情を浮かべるリーオに俺たちは溜息をついた。
何故かって?
まぁ後でわかる。
と、教室のドアが開き、おれたちの視線が集まった。
そんな中に入ってきたのは、右手に書類の束を持ったオスのバクフーン。
「おはよー。ほら出席とるぞ、席つけー」
バクフーン・・・・・・まぁ俺たち2年A組の担任、エイル先生っていうんだが・・・・・・
メチャメチャいい先生なんだよ。
まぁ詳しい紹介は後にして・・・・・・
エイル先生がよく通る声で呼びかけると、クラス皆が各々自分の席に着いた。
余談だが、座るのが一番遅かったのはリーオである。
エイル先生は手に持った名簿と俺たちの間で視線を何往復かさせた。
「・・・・・・・・・よし、全員いるな。では諸連絡だが、今日は2時間目の家庭科が国語になる。つまり1、2時間目は連続で国語だ」
教室中から不満の声が上がった。
ま、俺は頬杖ついて、黙って話を聞いてる。
ぶっちゃけ、どの教科も好きじゃないし嫌いじゃない。
「んで5時間目の数学がカット。6時間目の理科が5時間目になるから時間割に注意しろよ。んで、これが今度行う調理実習についての書類だ。目を通しておけよ。学級委員、配っておいてくれ。んじゃ終わり。国語の準備しとけー」
教卓の上に書類の束を置き、エイル先生はさっさと教室を出て行った。
約10分後には、チャイムと同時に1時間目の授業が始まる。
俺は早速カバンから国語の教科書とノートを取り出した。
「なぁリシル、国語が2時間ってどういうことだよ・・・・・・」
気付けば目の前にゾンビのような顔をしたリーオが立っていた。
こえーっつの。
「俺に聞くな。いいじゃねぇか、短縮5時間なんだから」
「そうよリーオ、どうせアンタは授業受けないんだからいいじゃない。リシルくん、これ」
「ああ、サンキューフィーネ」
俺はフィーネから先ほどの書類を受け取った。
まぁこれでわかったとは思うけど、フィーネは学級委員だ。
学校のために貢献するなんて、俺にはできっこないだろうな。
「フィーネちゃ〜ん、私にも〜、くださいな?」
「え、ええ」
・・・・・・ティアルはいつも通りのんびりしてんな。
さて、今日の国語は古典をやるんだったかな・・・・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お、終わ・・・・・・った・・・」
時間は飛んで、5時間目が今終了。
教室の前の方にある席で、チャイムと共にうめき声を上げるリーオの体が溶けていくのが見えた。
比喩表現ではない。
実際に触ってみれば、ゼリーのようにふにふにとしているだろう。
「今日の授業はここまで! 原子記号のとこ復習しとけよ」
エイル先生はそれだけ言って教室を後にした。
エイル先生は俺らの担任であり、理科を担当している。
プラスでもう一つつながりがあるけど。
俺は教材を鞄にしまうとそれを肩にかけ、席を立った。
一つ伸びをすると、後ろを振り返る。
後ろの方の席に座るフィーネとティアルは俺の視線に気づくと、ゆっくりと頷いた。
俺も頷き返すと、教室を出て一足先に図書室へ向かう。
窓から空を覗くと、今にも雨が降りそうな鼠色の空に顔をしかめた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おーす、お前らやってるか?」
「お、エイル先生か」
図書室に設置された6人は座れる丸テーブルで本を読み漁る俺たち。
不意に開いたドアからのしのし入ってきたバクフーンを見て、俺は声をあげた。
カウンターに座っている1年図書委員のラルトスに片手をあげて挨拶をすると、エイル先生は空いている席に腰を下ろす。
「今日は図書室での活動か。・・・・・・うっわ、ムズい内容だな・・・・・・」
エイル先生は傍らの本を一冊手に取ってパラパラとページをめくるなり、げんなりと呻いた。
机の上に積まれた本は、様々な超常現象についてだったり、北欧神話についてだったり。
昔、星の停止をくい止めた探検隊とジュプトルの英雄伝説まで、アルフに関わりそうな物はなんでもある。
ま、俺はこういうの好きだから別にいいんだけどさ。
キリスト教のノアの箱船とかセフィロトの樹とか、個人的にかなり興味がある。
ああ、俺は別にクリスチャンというわけではないぞ?
「エイル先生は〜、今日は出張で来れなかったんじゃないの〜?」
「出張はちょっと中止になってな。最近顔出してないから、様子を見に来た」
「それでもアルフ研究部の顧問だもんな」
「それでもは余計だリシル君」
そう、エイル先生は俺たちの部活動の顧問。
こんな変わった部活の顧問をやるとは・・・・・・と最初は思っていたが・・・
本人曰く、おもしろそうだからだそうだ。
ところで・・・
「うあ・・・・・・・う・・・・・・・・・・・・・・あ?」
「あ、起きた」
だらしなく涎を垂らして・・・・・・本の上だけど大丈夫なのか?
寝ていたリーオは奇妙なうめき声をあげ、目を開いた。
「・・・・・・・・・オハヨー・・・・・・」
そこまで言って、リーオは再び倒れこんだ。
さっきと変わらず、やかましい寝息を立てている。
これがさっき、リーオの発言に俺たちが抱いた不安。
リーオは・・・・・・なんというか、勉強や読書の類いが大の嫌いで・・・
そういうのをしたり、見たりすると眠くなる体質らしい。
「ったくよ・・・・・・・・・」
俺は怒りと呆れが2:8でブレンドした溜息をついた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2時間半ほどたっただろうか。
エイル先生も一緒になって本を読みふけっていた俺達だが、ふいにずっと黙っていたフィーネがパタン、と本を閉じた。
「ダメ、アルフについての記述は一切ナシ」
「俺もゼロだ」
「私も無かったよ〜」
「先生の方も無かったな」
「・・・・・・・・・・・・zzz」
「つまり、校内での調査はここまでが限度ってことね」
フィーネの呟きは俺たちに重くのしかかるものだった。
“アルフ”は神の存在として認識されているが、その実態を暴いてやろうという輩は少なくない。
当初はそう思っていた。
だがネットで調べてみると、アルフについての書き込みによって国の上層部に何らかの圧力がかけられることを恐れてか、アルフに関する記事は一つもない。
実際の写真などはアップされているが、2か月間アルフについての調査を行ってきた俺たちにとって、今さらそんなものが資料の内に入るはずもなかった。
そうすると、学校にこもっていたんじゃあ進展はないだろう。
「そうだな、先生がちょっと校長に相談してみるよ。校外の活動はダメかって」
「マジか!? サンキュー! エイルせんせー!」
リーオは急に起き上がると、目を輝かせてずずいっと顔を近づける。
エイル先生はひきつった顔で距離を取りながらも胸を叩いて、まかせておけと言った。
それがなんとなく頼りないもののように思えたのはここだけの話・・・・・・
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・・・・・・ホッホッホ、この笑いもお決まりのあいさつですな。
さて、皆さんも世界観の方がだんだんとわかってきたのではないでしょうか。
中学2年生、青春を思い出しますな。
あのころは楽しかったものです。
今も楽しいんですがね、少しさみしいというか・・・・・・
まぁ、こうして皆さんとお話しできるというのもまた一興。
少し休憩をはさんだら、次の話に参りましょうか。
次は1か月後の話です・・・・・・