第1章 『天界の使者』
P1 始まりの鐘
「・・・・・・んあ?」

鳴り響く鐘の音に、俺はゆっくりと目を開ける。
ひんやりとした風が頬をなで、まるで早く起きろと急かしているかのようだ。
まだ正常に働かない寝ぼけ眼をさすってしばらく待機。
やがて視界いっぱいに赤みを帯びたオレンジ色の空が広がった。
ところどころに浮かぶ雲は夕日に照らされ、澄ましたように流れゆく。
とりあえず体を起こすと、目の前に流れる川はさらさらと心地よい音を奏で、水面は夕日に照らされてキラキラと輝いていた。
俺はあくびを一つ漏らしながら、強張った四肢をゆっくり伸ばしていく。
右足、右手、左手、左足。
最期におおきく伸びをすると、勢いよく飛び起きる。
もう一度だけあくびをして、尾に灯った炎を確認しつつゆっくりと振り返った。
ここ、俺たちの住む町、『アンティーレ』は活気あふれるRPGのような街。
町の中央には巨大な時計塔がそびえ、1時間ごとに盛大な音楽を奏でるそれは、俺を見下ろして尚も鐘の音を響き渡らせる。
俺は真っ赤に燃える沈みかけた太陽を見つめ、そっとつぶやく。

「いつの間にか寝ちまったのか・・・・・・」

うかつだった。
風も日差しも心地よいものだからこの土手で一休みと思っていたが・・・・・・
えっと時間は・・・5時か。
確かここに来たのが2時ごろだったから、寝てた時間は大体3時間だな。
ったく、鐘の音を2回もスルーしちまうとは・・・・・・
・・・・・・・・・え?

「・・・・・・ヤベェ・・・」
「ヤベェ・・・じゃなくて、2時間も待ってんのに何で来なかったんだよリシル!! 約束は3時だろうがぁ!!」

後ろからの声に振り向くと、目前には巨大な水流。
・・・・・・ってオイ! ハイドロポンプは待てって!!

「落ち着けリーオ!!・・・・・・ぎゃああああああああ!!!」


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「だから、あの、スミマセンって、言ってるんだけど、包丁はやめようぜ包丁は」

現在の状況。
放課後の学校の教室にて縄に縛られた俺。
目の前にはリーオが手に握っている包丁。
その横にはティアルとフィーネ。

「いくら今日は短縮日課で午前中だけで学校が終わるからって土手で昼寝するか!?」
「何度も言うけどゴメンって・・・・・・痛い痛い痛い! ちょっと刺さってる!」

ぎゃあぎゃあとわめく俺とリーオを見て、フィーネは溜息をついた。

「リーオ、もうやめときなよ。リシルもあやまってるんだし」
「うえぁ!? 2時間も待たされたんだぜ!?」
「わたしは〜、別にいいと思うよ〜? 待ってる間トランプしてたから退屈じゃなかったし〜」
「フィーネ、ティアル・・・・・・サンキューな・・・」

ややオーバーに泣くようなしぐさで「うっ・・・ひっく・・・」と声をあげると、リーオはひとつ溜息をつき、
縄を乱暴に解いた。
ようやく解放された俺はさっきまで突きつけられていた包丁を眺める。

「なぁリーオ、それどっから持ってきたんだ?」
「ああ、家庭科室からちょっと拝借してきた」
「・・・・・・リーオ、今すぐ返してきなさい」
「へ〜い」

フィーネの命令じみた発言に、リーオはのたのたと教室のドアから出て行った。
そういや、紹介がまだだったな。
リーオってのはアリゲイツ。
フィーネはジャノビーで、ティアルはドレディア。
3人とも俺のおさななじみだ。
ああ、そうそう。
俺はリシル。種族はリザード。
俺たちは中学2年生で、とある部活動に所属している。
まとめて紹介しちまって悪かったな。

「じゃ遅くなっちゃったけど、リーオくんが戻ってきたら始めるよ」
「悪かったな、マジで」
「リシルくんは〜、大丈夫だよ〜?」
「お、おう?」

ティアルはのんびりとした特徴的な話し方をする。
最初は違和感あったが、10年以上もいっしょにいると気にならなくなるものだ。
俺たちは教室兼部室の机を4つ向かい合うように置き、リーオの帰りを待った。


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“アルフ”。
これを簡単に説明すると、2か月ほど前に目撃された謎の生命体、だ。
そう、謎。
これがミソなわけで・・・・・・

「ではこれより! 俺らアルフ研究部の活動を開始するっ!!」

うるさいな・・・・・・

「リーオ、毎回高いテンションだけど、私たちの方は下がっていくからやめようか」
「とりあえず〜、リシルく〜ん、例のやつ出して〜」
「ああ、ほら」

俺は手に持った小さくて白い羽を机の上に置いた。
それは力が宿っているかのように、神秘的に輝きを帯びている。
これはアルフを見たときに、俺が拾ったものだ。

「これが、アルフにつながる唯一の手がかりなのよね・・・」

フィーネのつぶやきは俺の胸に響いた。
“アルフ”は発見されてすぐに神々の存在で汚してはならない、と調査が打ち切られた。
つまり、国の上層部は“アルフ”に関して一切触れない。
俺たちアルフ研究部は名前の通り、アルフの謎を解明するためにリーオが作った部だ。
アルフの神々しさに魅せられたものが集い、できたもの。
おそらく国にバレたら即廃部だろうな。
それに、上層部がノータッチだからという理由で部員は増えず、現在たったの4人。
顧問含め5人だ。
ま、毎日楽しくやってるからいいんだけどさ。
ちなみに、部長は言いだしっぺのリーオだ。

「今回は6時まで30分しかないわね・・・」
「じゃあさ、今までの調査でわかったことをまとめようぜ?」

俺の発言に3人とも頷いた。
俺のせいで今日の活動ができないも同然だったのだから、こんくらいはしなくちゃと思っての発言。
どうやらいい方向に向いたようだ。

「ティアル、資料を出してくれ!」
「は〜い」

リーオの指示にティアルは一冊のノートを取り出し、4つの机の中央に置いた。
丁度全員から見える位置だ。

「アルフが目撃されたのは2ヶ月前の商店街。目撃者は100人を軽く超える。聞き込みや俺たちの記憶からすると、アルフは様々な種族のポケモンがいて、翼で空を飛んでいた。本来翼の無い種族も発見されている」

リーオはそう言いながらページをめくる。
ノートにはびっしりと聞き込みでわかったことや、俺たちが立てた仮説などが書かれ、
アルフのうつった写真などが貼られている。
リーオは続けた。

「俺たちはその目撃者の内の4人。その中でもリシルは唯一、舞い落ちた羽を手に入れた」

俺、フィーネ、ティアルは時々うなずきながら黙って話を聞く。

「羽を解析してもらったところ、この羽を持つ種族は存在しないとのことだった。つまり、アルフのみが持っているもの・・・・・・・・・こんなもんかな」

冷静に考えてみると、俺たちはかなり漠然とした問題に立ち向かっているもので、
終わりが全く見えない。
わかっていることも、大半はどうでもいいことの気がする。
言うなれば、宝箱が埋まっているところから3メートルほど離れたところにスコップを突き立てているような。
けど、掘り進めていけばいつかは宝にたどり着くように、俺はいつか解明できると信じている。
だから日々調査を重ね、着実に前へと進んでいるのだ。
リーオはノートを閉じながら言った。

「ま、ゴールは遠いかも知れないけど、一歩一歩進んでいこうぜ。んじゃ解散だ。あとリシル、明日はちゃんと来いよ」
「わかってるって」

俺は机を戻しながらそう言った。
俺たちは顔を見合わせると笑いあう。

「じゃ、また明日ね」
「明日ね〜」

フィーネとティアルは鞄を持つと、教室の戸をあけて廊下へと出て行った。

「俺たちも帰ろうぜリーオ」
「ああ、今いく」

俺たちは電気のスイッチを切り、暗くなった教室を後にした。
校門を出て、すっかり日の沈んだ道を歩く。
きっと・・・きっとみんなで謎を解明する・・・
俺は心にそう決めて、煌々と光る電灯を眺めた。

再び、鐘の音が響き渡る・・・・・・


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・・・・・・ホッホッホ。
今回の話は登場人物やアルフについての説明などになりますな。
まだ序の口とはいえ、物語の大切な1ピース。

さて、次はアルフ研究部の日常について話していきますかな。
ですがその前に、少し休憩を入れましょうか。
ふう・・・・・・

では、また次回お会いしましょう・・・・・・


タクミン ( 2013/01/06(日) 01:34 )