P15 狂気にまみれる英雄
「ねぇ、オーディ」
「どうした?」
「あれ・・・」
ホバリングし、アルフたちの戦いを見ていた俺はシヴの指差す先を見た。
そこは、隣にいるトーレルのディルフォートサンダーによってやつらが墜落したところだ。
「ん?」
目を凝らせば、黒い瘴気・・・・・・いや、オーラが立ち上っていた。
あれは・・・・・・
その発生源、それはさきほどのリザードだった。
うつむき、見れば涙を流している。
しかし、両の足で大地を踏みしめていた。
「グ・・・アアアァァァアアアァァァァァァァァアァァ!!!」
「ぐおっ・・・!」
リザードが叫ぶと同時に、すさまじい圧力が私たちを襲う。
今のはなんだ!?
あのリザードがここまでの力を秘めていたとは・・・・・・・!
今やオーラは天に届くほど膨れ上がっていた。
これは・・・マズイ!
「シヴ! トーレル! 奴を抹殺する! 合わせろ!!」
「了解!」
「いいぜ!」
2人が頷くのを確認し、私は両手を前に掲げる。
2人も同じく両手を掲げた。
行くぞ・・・!
「「「ユニバースドライヴ!!」」」
叫ぶと同時に、俺たちの手元から真っ黒な空間が発生。
俺たちはさらに力をこめた。
空間内に大量の水を創造するイメージ・・・
「「「バースト!!」
そして空間から無数の黒いレーザーが放たれた。
宇宙のエネルギー、ダークマターを利用したこの技はあらゆるものを貫く!
レーザーはリザードに向かって一直線に飛んでゆき・・・・・・
「何ッ!?」
リザードの姿が消えた。
レーザーは地面だけを貫く。
今の一瞬で移動したというのか!?
この俺でも追い切れなかった・・・
「きゃあっ!!」
「シヴ!」
突如上がった悲鳴に、俺はとっさに振り向いた。
そこにいたのは、この高さまで跳躍してきたリザードと、そのはるか下に蹴落とされたであろうシヴの姿。
シヴはぴくりとも動いていなかった。
死んではいまい。おそらく気絶しただけだろうが・・・・・・
シヴが・・・こうもあっさりと・・・・・・
リザードは今、地面に向かって自由落下状態だ。
俺は息を吸い込んだ。
「アルフの諸君! 私たちの能力をはるかに上回る敵が出現した! 力を貸してくれ!!」
叫ぶと同時に、辺りから集まるアルフたち。
あっという間にシヴ、ヴァーリを除く全員が集まり、俺はリザードを見下ろす。
そして・・・・・・思わず息をのんだ。
「ヴゥゥゥゥ・・・・・・」
もはやそれはポケモンではなかった。
爪を逆立て、両手を大地につき、俺たちを睨む。
その眼は狂気に飢え、輝きの消えた血のような赤色だった。
「ヴゥ・・・・・・グアアアアアァァァァアァァア!!!!!」
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「いって・・・・・・」
全身にまとわりつく痺れという不快感に顔をしかめながら、俺は立ち上がった。
教師という仕事に着いてから、痛みなんて味わったことはない。
随分と久しぶりの感覚。
確か、トーレルの雷をくらった。
周囲を見れば、倒れているフィーネ、ティアル、ヴァーリ、リーオ、フェリルの姿。
特にリーオの傷がひどいが、全員息はしている。
今は治療する手段がないため何もできないが、とりあえず問題なさそうだ。
「リシル君は・・・・・・」
瞬間、背後の地面に何かが激突する音。
俺はあわてて振り向いた。
「な・・・・・・・・・!」
舞い上がる土煙の中にいたのは、全身傷だらけのトーレルの姿。
骨が折れているのか、動こうにも動けない状態のようだ。
「お、おい! 大丈夫か!?」
「・・・・・・あ? ・・・へっ、敵さんに情けをかけるものじゃないぜ、先生さんよぉ・・・・・・あいつはバケモノだ・・・・・・」
「あいつって・・・・・・?」
「あの・・・リザードの少年だよ・・・俺をこんなにするとはな・・・・・・ほら、あそこだ・・・」
トーレルが震える指で指差したのははるか上空。
俺は見た。
黒いオーラを身にまといっているリシル君の姿を。
アルフを力任せに殴り、足場にしてさらに跳躍。別のアルフにドラゴンクローを叩き込む。
3人動時に向かってくるアルフは、かえんほうしゃでまとめて黒コゲにする。
飛ぶ手段を持たないリシル君は、それでも見事な・・・いや、あまりにも一方的な空中戦をしていた。
俺は一瞬言葉を失う。
「・・・・・・違う、あれはリシル君なんかじゃない・・・」
怒りという感情に身を任せて、他人を傷つけるような子じゃない。
リーオ君のストッパーであり、それでもたまにバカやって、友達作るのが苦手で、勉強はそこそこの成績で、俺の理科の授業が面白いって言ってくれて、それで・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・俺の・・・・・・
自慢の生徒だ。
「うおおおおおおおおお!!!」
叫ぶ。
脳の中で何かが外れる感覚がした。
そうだ、俺は・・・・・・
両手を横に広げると、腕の根元からのびる純白の翼。
膝を曲げ、一息に跳びあがった。
速く。
速く。
「リシル君!!」
狂気にまみれた1人の生徒を止めるべく、アルフの翼をはためかせ・・・・・・
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今のは・・・・・・現実か・・・?
たしかに、今やつの腕の根元から翼が生えた。
俺の背にあるものとまったく同じものが・・・
天界で初めて会ったとき、何かを感じた気がした。
けど・・・まさか・・・・・・
俺は呟いた。
「エイ・・・・・・ル・・・?」
数年前に天界から逃げ出し、下界へと降りて行ったアルフの名を。
互いに夢を語り合った友の名を・・・・・・
上空でまた1人、アルフを蹴り飛ばしたリザードの少年に向けて飛び去る、バクフーンの後姿。
それはなんだか懐かしくて、同時になんだかさびしくもあった。
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まさかエイル先生がアルフだったとは・・・・・・
私も最初聞いたときは驚きました。
しかし、何故・・・?
さて、ちょっとした感想はここまでにして、次回予告といきましょう。
暴走するリシル君。
羽ばたくエイル先生。
ヴァーリ君の決意。
そしてアルフのトップ、オーディの決断とは・・・?
ついにラグナロクが終結。
今、天使たちの真実が語られる・・・・・・
次回、リレイト第1章「天界の使者」
最終話 『天使の羽』
ホッホッホ、お楽しみに・・・・・・