P14 歩みは紅蓮に輝く
「ハイドロポンプ!!」
「ロックブラスト!!」
鎧に身を固めたカメックスとサイドンによる攻撃はホバリングしているピクシーのアルフに向かって唸る。
ピクシーは涼しい顔でそれを見つめた。
「僕に向かってその程度の攻撃かい? 笑わせんな! ガイアインパクト!!」
周りのガレキや石が収束していき、ピクシーの目の前に巨大な岩ができる。
2つの技は巨岩にはじかれ、跡形もなく消え去った。
「「何!?」」
「くらっとけ!!」
巨岩は地面に向かって衝突し、ズン・・・と地響きを起こした。
同じような戦闘があと10つくらいあちこちで起きている。
その中には、イグリオの姿もあった。
その様子を見下ろす俺たち。
アンティーレという名の戦場の上空を、俺たち研究部の6人と1人は飛んでいた。
「おいフェリル! お前なんとかできねぇのか!?」
「いてててて!! 羽引っこ抜かないで!! 僕は戦闘型じゃないし、こんな大規模なものじゃどうしようもない!!」
まぁ、それもそうだ。
今はホウオウにへんしんしているが、フェリルはあくまでメタモンだ。
それにしても・・・
「フェリル、サンキューな。わざわざ来てくれて」
「いいよ。君たちとはちょっとした仲だから。僕も手伝うよ!」
「・・・・・・みんな! 上見て!!」
ラグアロクが始まって、すっかりのんびり口調が吹っ飛んだティアルが指差す先。
それを見て、俺は小さく舌打ちをした。
「アルフか・・・」
その数、3体。
サーナイト、ライチュウ、そして・・・
「トーレル!」
「久しぶりだな、お前ら」
リーオが見つめるのはオノノクス、トーレル。
以前俺たちを天界からはじき落としたアルフだ。
俺たちがとっさに戦闘態勢を取る中、無言で見つめ合う二人がいた。
「・・・・・・・・・」
「・・・そんなところで何をしている、ヴァーリ」
ヴァーリはキッとライチュウを睨んだ。
「わかってるはずですよね・・・・・・父上」
「え? 父上って・・・・・・ヴァーリくん、どういうこと!?」
フィーネの問いに、ヴァーリはそっと言い放つ。
「どういうこともなにも、親子なんですよ。あいつの名はオーディ。アルフを束ねる、天界の王です」
「お前がいるべきはそこではない。ラグナロクに参加しろ。アルフとしてだ」
「いやです」
「命令だ」
「知ったこっちゃないです」
オーディはしばらくヴァーリを見つめ、小さくため息をついた。
「そうか、息子に手をかけるのは気が進まないが・・・・・死ぬぞ?」
親子内の問題とあらば、俺たちにどうこう言う権利はない。
けどな、なんかムシャクシャするんだよ・・・
「ちょっとオッサン! ヴァーリ君はいやがってんのよ!? 父親としてどうなのよ!」
「アルフ全体にかかわる問題なのだ」
それでもくってかかろうとするフィーネを制し、ヴァーリは前に出た。
「父上、僕はしばらく地上にて、民と触れ合いました。ここにいる人たちと、学校生活を送りもしました。それでわかったんです。地上の民は滅ぶべきではない!!」
「下界の民自らがラグナロクの開戦を実行したのだ。それで十分であろう?」
「この・・・・・・エアロウェイブ!!」
ヴァーリは素早く風を集めて竜巻を起こし、オーディに向けて放った。
以前ヴァーリが見せてくれた技だ。
風が強すぎて、こんなの直撃したら本当にバラバラになる・・・!
しかし、オーディは動かなかった。
代わりに隣のサーナイトが前に出、両手を掲げる。
「サイレントステルス」
同時に、球体上の透明なバリアが展開された。
竜巻はバリアに衝突し、あっさりと霧散した。
サーナイトはバリアを解き、俺たちに向けてにっこりと笑った。
「私はシヴっていうの、よろしくね。ま、君たちが滅ぶまでのことだけど」
ぞっと悪寒がはしった。
強い。
ヴァーリのエアロウェイブはすでにポケモンの技という域を軽々と越えている。
しかし、シヴのサイレントステルスなるバリアはそれを易々と防いだ。
俺たちにどうこうなるわけがない。
エイル先生と特訓をした、だからなんだ。
アルフは俺たちと次元を異にする存在だということを思い知らされた。
足が震え、冷や汗が流れ出る。
全身の力が抜け、フェリルの背に膝をついた。
「リシルくん!? どうしたの!?」
耳元でティアルが俺の名を呼んでいる気がした。
もう、滅んでしまえば楽になれる。
俺の心は、その思いだけが支配していた。
「どうした少年、恐怖にとらわれたか? ・・・・・・おいオーディさんよぉ! やっちまっていいか!?」
「構わん、吹き飛ばせ」
「へっ、前回は手加減してやったが、今回はそうはいかねえぜ」
トーレルの両手に電撃がはしる。
バチバチと音をたてて光を散らすそれは、トーレルが手を頭上に掲げると共に雲の隙間へと吸い込まれていった。
「ディルフォートサンダー!!」
雲間から溢れる閃光。
そして全身を駆け巡る電流と激痛。
フェリルを含む俺たちは声も上げず、地面へと落下していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・・・う・・・あッツ・・・」
下に固い地面の感覚。
いまだに体中を駆け巡る痺れにふらつくきながらも、俺は立ち上がった。
生きてる。
それだけは感じた。
そして、絶句。
「なん・・・だよ・・・・・・これ・・・・・・」
目の前の光景は俺の気力という名の心をいとも簡単に突き崩した。
アンティーレは既に町と呼べるかも疑わしいまでに破壊されていた。
全住宅の半分以上が倒壊、市場があったであろう場所には散乱した木の実。
中央の時計塔だけは無傷でその場にそびれたっていた。
倒れた軍のポケモンたちを冷たく見下ろすアルフたち。
プスプスと煙をあげ、意識を失ったエイル先生、ティアル、フィーネ、ヴァーリ、フェリル。
そして・・・・・・
「ヘッ・・・・・・平気か・・・・・・・・・・リシル・・・」
「リーオ・・・・・・」
かろうじて意識を保っているリーオ。
呼吸は荒く、左目を閉じている。
見れば、俺の体はリーオたちほどの傷を負っていない。
俺は一瞬で全てを悟った。
「リーオ、お前・・・・・・」
「エイル・・・先生との特訓・・・・・・で・・・覚えた・・・・・・まもる・・・だ・・・」
「なんで・・・俺を・・・・・・」
「信じてる・・・から・・・だ・・・・・・お前が・・・止めろ・・・・・・・・・ラグナ・・・ロク・・・を・・・」
リーオの目がゆっくりと閉じていく。
待てよ、リーオ。
ダメだろ、こんなとこで寝ちゃ・・・・・・
「おい・・・目・・・・・・覚ませよ・・・」
俺の願いむなしく、リーオの瞳はそっと閉じた。
リー・・・・・・オ・・・・・・?
瞬間、俺の中で何かが弾ける。
決して弾けてはならないものが・・・・・・
俺が止める・・・・・・
俺が・・・・・・
俺・・・・・・
「ぁ・・・・・・あああああああああぁぁぁぁあぁぁぁアァァアアァァァァアァアア!!!!!!」
俺という存在が闇に溶けていく。
代わりに生まれるもう一人の俺。
破壊の衝動に駆られた、俺の分身体。
俺には何も聞こえない・・・
何も・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アルフのトップとヴァーリ君の関係。
ラグナロクは一体どうなるのでしょうか・・・
そして暴走したリシル君は・・・・・・?
第1章天界の使者、いよいよクライマックス!