P13 ラグナロク開戦
俺たちアルフ研究部の6人は階段を駆け上がっていた。
赤いレンガめいた石造りの階段は、アンティーレの中央にそびえる時計塔の内部を螺旋状に貫くものだ。
「長すぎだろ! この階段!」
リーオの悲鳴じみた声が、俺の後ろから上がった。
俺は前を向きながら口を開く。
「しょうがないだろリーオ! 町を見下ろす巨大な時計塔だぜ!? それを最上階まで登ろうってんだからこのくらいはあるだろ!」
「それより、急がないとマズイですよ!」
ヴァーリの声に、俺はしゃべることをやめ、階段の先を見据えた。
俺たちがここにいる理由。
その全ては今朝の新聞が原因だ。
階段の最後の1段を駆け上がった俺たちは、休むことなく通路を走る。
そしてその先にある1つの部屋に転がり込んだ。
その部屋はアンティーレの長が使用する執務室。
中央に置かれたテーブルの反対側に、目的の人物はいた。
「何故住民がここに居る。避難勧告はでているはずだが・・・」
冷ややかな目で俺たちを見つめているのはアンティーレの長、ガブリアスのイグリオ。
フィーネは声を荒げて叫んだ。
「何故って・・・戦争を止めに来たに決まってるでしょ!!」
「君たちが止めに来ることはわかっていたが・・・こんなにも早いとはな」
イグリオは部屋の奥へと歩み、窓から外の景色を・・・・・・いや、空のある一点を見つめていた。
しばらくして小さなため息とともにこちらへ振り返る。
「君たち、新聞は読んだか?」
アンティーレの長だけあってイグリオとは1度しか話をしたことがないが、そのときろ同じくらいの温和な声でイグリオはそう言った。
新聞に書いてあったこと。
謎の生命体、アルフとの戦争。
目の前にいるこの男がその指揮をとり、アルフを殲滅するというものだった。
「読まなきゃここにいねぇよ!!」
「落ち着いてくれリーオ君。話したいことがある」
「! なんで俺の名前を・・・知ってるんだよ・・・・・・」
「全て知っているさ。君たちはアルフ研究部としてアルフの調査をしていたこと。アンゲルス遺跡から天界へと向かったこと。そしてそこのヴァーリ君はアルフだということも」
何故そこまで!?
口をパクパク動かすだけの俺たちの代わりに、エイル先生が前に出た。
「イグリオさん、いくつか質問がある」
「なんだね、エイル先生殿」
「あんたが全てを知っているのは、国が秘密裏にアルフについて調べていたからだな?」
「そうだ、よくわかったな」
エイル先生は唇の端をかみながら続けた。
「そしてその調査は俺たちの監視もあったな? おそらく飛行タイプのポケモンか何かだ。天界に向かった時も、そいつがついてきていたんだな?」
「さすがだよ、君みたいな人材は私のところに欲しかったものだが・・・・・」
やりとりでわかったことが1つある。
推測だが、国がアルフについてノータッチだと公の場で公表したのは、調査を円滑に進めるため。
実際、アルフの調査を行っている者はごくわずかだった。
ガセが広がらず、真実だけを追うには非常に有効だっただろう。
そしてもう一つ・・・
「ナレクさん、そこにいるんだろ?」
俺の言葉を代弁するように発せられたエイル先生の言葉。
後ろの通路から、スッとナレクさんが現れた。
ナレクさんは不敵に笑った。
「ホッホッホ、よくわかりましたな。私がここに居ると」
エイル先生はナレクさんの方に振り向いた。
「天界に行ったときに付いてきたってのもあんただろ? 俺たちが情報のすべてを話したのもあんた一人だ。まさかあんたがグルだったとはな」
「え? うそ・・・まさか、ナレクさんが・・・・・・?」
フィーネはとぎれとぎれにそう呟いた。
おそらくリーオもティアルも同じような状態だ。
違和感はあった。
ナレクさんがアンゲルス遺跡のことを話す際、自分は行けないと言ったこと。
自分の目で真実を見たいと思うのは誰だって同じのはずだ。
ナレクさんはしばらく俺たちを見つめていたが、そっとうつむいた。
「はい、私はその監視役でございます。皆さん、本当にごめんなさい・・・・・しかし、私は知ってしまったのです。アルフの真実を・・・・・・」
「アルフの・・・真実?」
俺の問いに、ナレクさんは小さくうなずいた。
「救助隊の英雄伝説・・・レックウザとともに隕石の衝突を止めた話は知っていますな?」
「あ、ああ。もちろんだ」
英雄伝説は誰もが小さい頃からその絵本を読み聞かせられるものだ。
「とある本に書いてあったのです。それにのっている隕石・・・それはアルフによるものなのです」
「「「「「!!!」」」」」
イグリオさん、ナレクさん、ヴァーリを除いた全員が驚愕に包まれた。
俺はとっさに後ろのヴァーリを振り返る。
「ヴァーリ! それって本当なのかよ!」
ヴァーリはうつむきながらも、しっかりと頷いた。
「小さい頃に聞いたことがあります。そのことには触れてはいけないって・・・・・・けど隕石を落とした理由は・・・」
「ヴァーリ君はわかっているようですな、その理由を」
「おいナレクのじいさん! その理由ってなんなんだよ!」
「審判ですよ」
「審判・・・だと?」
リーオの右手が力いっぱい握られた。
これは、リーオが信じられない・・・といったことを考えているときのクセだ。
「そうですリーオ君。地上の民が存在するに値するかを見定めるものです。衝突を回避できるかは地上の民次第なんです」
俺は唇の端をかんだ。
ツ・・・と血が流れる。
ナレクさんはスッと目を閉じた。
「おわかりいただけましたか? アルフは私たちを滅ぼそうとしている。そして次の審判の日は近・・・」
「うるせぇよッ!!!!!!!!」
気づけば俺は大声を上げていた。
ノドが一瞬潰れかける。
「アルフが俺たちを滅ぼそうとしているだぁ? だからなんだってんだよ! イグリオ!! てめぇよくよく考えてみろよ、アルフに戦争で勝てると思ってんのかよ!!」
「さぁな。オレは国王の命令に従うだけだ。それにもう遅い」
イグリオは窓の外を指さした。
その先に視線を向けると、天空へとのびる一筋の光。
その下には、鎧を着た大勢のポケモンがいた。
少なくともアンティーレの住人ではない。
「あれはアンティーレに緊急招集された軍隊だ。全員が技を1つに集めて天へと放つ。この意味が分かるか? ・・・・・・さて、私はアルフとの戦闘に向かう。君たちは自分がどうするべきか考えるんだな」
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「オーディ! ちょっとオーディってば!!」
「わかってるシヴ。下界からの攻撃だろう?」
柱の隙間から外を除けば、巨大な光線が下からまっすぐのびている。
大分それているが、あれは下界の民によるものだろう。
別に無視し続けるのも可能だが・・・・・・
「どうすんのよ、本当に予言通り・・・・・・やるしかないってワケ?」
「まぁ、そういうことになるだろうな」
俺は踵を返して外に出た。
私としても気は乗らないが、下界の民に滅ぼされるわけにもいかない。
スゥーーーッ・・・と大きく息を吸い・・・・・・
「アルフの諸君!! ラグナロク、開戦の時だ!!」
叫ぶと同時に、建物からゾロゾロと現れる我が同志たち。
その数、15。
私を含めても16。
全員そろうには2人足りない。
1人はバカ息子だ。もう一人は・・・・・・
「いいか! 下界の民は愚行にはしった! ラグナロクの開戦というな! これはもはや審判ではない! 下界の民を殲滅しろ!!」
おーーーっ!! という鬨の声とともに、俺たちは翼を広げて飛び立った。
まず向かうべくはこの真下にある街・・・アンティーレ・・・・・・・・・
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私の裏切り、そしてラグナロクの開戦。
正直私も胸が痛みましたよ・・・・・・
ラグナロク、その勝利の行方は!?
そして地上の民の運命とは!?
第1章『天界の使者』 終わりに向けて全力でいきましょう!