P12 運命の始動
響き渡る鐘の音は俺たちに8時を告げ、すっかり白んだ空に溶けていった。
空を漂う雲は風に乗って涼しげに流れゆく。
最近寝つきがよくて、朝が気持ちいい。
鞄を持ったままんぐぐと声をだして伸びをすると、俺は隣を歩いているヴァーリを見つめた。
「どうしました?」
不思議そうな表情で首をかしげるその顔はやっぱり本当に幼くて、俺たちとは違う特別な存在だということが今でも信じがたい。
アルフって・・・・・・
「だから、どうしたんですか?」
「え? あ・・・えっと・・・・・・そうそう! アルフってさ、なんか固有技って持ってないのか?」
「固有技・・・・・・ありますよ」
俺は天界で出会ったアルフ、オノノクスのトーレルを思い出していた。
確か・・・
「ハイドラストリームとか言ってたな。トーレルっていうヤツが使ってきたんだ」
「トーレルさんですか・・・・・・僕が助ける直前ですか?」
「ああ」
ヴァーリは口元に手を当て、考えるような仕草をしていたが、「よし」と一言。
周りに誰もいないことを確認すると、両手を前に掲げた。
「ハイドラストリーム」
瞬間、包み込むようなヴァーリの手の間に水が収束を始めた。
それはズォォ・・・と音を立て、乱回転している。
小さな嵐、それはまさしく、俺が直に受けた技。
「お前それ・・・」
ヴァーリは水を四散させると、俺をまっすぐ見据えた。
「ハイドラストリームは何かにぶつかると爆発し、爆風と共に水しぶきが渦を巻いて敵を吹き飛ばす技です。直撃でもしなければ傷を負うことはないでしょう」
「つまりそれって・・・」
「はい、トーレルは天界からあなたたちを落とそうしただけでしょうね」
なるほど。
だから全員そろって地上におっこちたわけか・・・
確かにこれといった傷も無かった。
「なぁヴァーリ、他には技あるのか?」
「ありますよ。いくつか種類があるんですが、僕が使えるのはハイドラストリームと・・・」
ヴァーリの右手に風が吹き込んでいく。
風は手の上で、目で見えるほどに強くなり、小さな竜巻となった。
俺は思わず息をのんだ。
ヴァーリは照れたように笑う。
「この、エアロウェイブです。今はかなり抑えていますが、全力なら岩でもバラバラに切り裂けます」
かわいい顔してなんて恐ろしいことを言うんだこやつは。
ややひきつった笑みを浮かべ、俺はなんとか言葉を探す。
「えっと・・・ヴァーリって強い?」
「アルフですから」
笑みはさらにひきつった。
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学校の校庭。
空は浅黒い紅に染まり、校舎を赤く照らす。
タオルを首にかけてベンチで水を飲む俺は、呼吸を整えながらもフィーネとエイル先生のバトルを見守っていた。
「グラスミキサー!」
「かえんほうしゃ!」
エイル先生の火炎は渦を巻いた葉を燃やし尽くし、フィーネへと向かう。
「ああもうっ!!」
フィーネはとっさに大きく真上に跳躍。
かえんほうしゃはフィーネの足下をすれすれで通り過ぎた。
「反応が遅い! 俺が本気で撃っていたら今頃丸コゲだぞ!」
「わかってるわよ!」
着地したフィーネは尾を緑色に輝かせ、エイル先生向けて大きく飛び上がる。
「おっす、リシル」
「まだやってたんだ〜」
「もう夕方ですよ」
俺が首だけ振り返ると、そこには鞄を手に下げたリーオ、フィーネ、ヴァーリ。
「おう。俺がついさっき終わったからさ」
3人は汗を流してリーフストームを放つフィーネをしばらく見つめ、俺の隣に腰かけた。
「フィーネちゃん、気合入ってるね〜」
「だな。リシルはなんて言われたんだ?」
「守りが薄いって言われて、かえんほうしゃを直にくらったよ・・・」
さて、なぜ俺たちがエイル先生と戦っているのかと言うと、あれは先週のこと。
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「皆にちょっと提案なんだけどさ、今日からみんなでバトルの特訓しないか?」
「「「「「特訓?」」」」」
エイル先生は頷いた。
「そうだ。アルフと戦うことになるかもしれないんだから、強くなっておいた方がいいだろ?」
顔を見合わせる俺たち。
エイル先生は続けた。
「放課後、校庭で俺が1人ずつ相手をする。というわけで、やってくぞ」
「「「「うへ〜〜〜い・・・・・・」」」」
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というわけ。
エイル先生は普通に強いし、まぁ強くなれるんならいいんだけどさ。
一口水を飲み、フィーネの横顔を見つめた。
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時計塔内部にある、とある一室。
巨大な時計の真下にあるこの部屋はかなり高く、ここから望めるアンティーレの景色は素晴らしい。
活気に溢れるこの町はみているだけで、美しいと感じる。
窓枠に片腕を置いて外を眺めるオレは、ドタドタと物音がする背後を振り返る。
「イグリオ殿!」
「なんだ、騒々しい」
バァン! とドアを開け、慌ただしく入ってきたニョロトノ・・・ヒグラは息を切らせていた。
こやつはオレの部下・・・・・みたいなものだな。
ヒグラは1枚の書類を抱えていた。
「あの、なんか『はーどぼいるど』な姿勢ですね・・・」
「ほっとけ。それより、なんだそれは」
「あ、はい。国王陛下からでございます」
ヒグラが差し出した書類を受け取り、さっと目を通す。
「・・・・・・・・・あんのクソジジイが・・・」
「イグリオ殿、いかがいたしましょう」
「命令には背けない。立場上な」
背後の窓から望める景色。
活気あふれる美しい町、アンティーレ。
・・・・・・すまないな。
オレは立ち上がり、2人しかいない部屋の中で叫んだ。
「これよりオレたちはアルフに戦争を仕掛ける! アルフの殲滅が陛下の指令だ! アンティーレの長、ガブリアスのイグリオの名にかけて、任務を遂行する! 急ぎ、戦争の準備だ!!」
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こ、これはなんという急展開でしょう!?
・・・・・・自分で話しておいて自分で驚くというのも少し悲しいですな。
特訓中のリシル君たち。
そしてついに国が動き出す・・・!
ホッホッホ、次回もお楽しみに・・・