P11 神々の黄昏
オーディン、トール、ロキ。
まぁ有名なのはこのあたりだろうな。
知ってるか? 北欧神話。
俺・・・・・・リシルは学校の図書室の壁に寄りかかり、北欧神話について書かれた本のページをめくる。
「・・・・・・あった・・・」
トール。
神話の中では主要な神の1人で、雷神って呼ばれてる。
そしておそらくこれをもじってつくられた、トーレル。
それは俺たちが天界で遭遇したアルフ、オノノクスの名前だ。
そしてもう1つ
「ヴァーリ・・・ヴァーリ・・・・・・これだ」
ヴァーリ。
北欧神話において、最高神オーディンの息子とされている。
そして俺たちの仲間であるアルフのピチューの名もまたヴァーリ。
トーレル、ヴァーリ。
アルフと北欧神話になんらかの関わりがあることは間違いないだろう。
なんか聞いたことあるなって思ったら・・・・・・
・・・・・・知っといて損はないか。
俺はそう思い、ページをぱらぱらとめくる。
「何してるんですか?」
「うぎゃあッ!!」
大音量の悲鳴をあげる俺に、いつの間にか隣に立っていたヴァーリは慌てふためく。
「と、図書室なんですからしずかにしてくださいよ」
辺りを見回すと、貸出カウンターで眠りこける図書委員のケーシィが1人。
幸い、他には誰もいないようだ。
「ふぅ・・・・・・だから、お前が原因だっての」
「それより、北欧神話・・・ですか?」
不思議そうに俺の持つ本の表紙を覗き込むヴァーリ。
俺はそれを見て、正直戸惑った。
自分のことを、自分の同族のことを調べられているというのは、あまり気分のいいものではないだろう。
まぁ、アルフ研究部に入部した以上、そのくらいはヴァーリも考えていると思うがな。
ヴァーリは、そっと笑顔を浮かべた。
「よくわかりましたね。僕たちアルフは、北欧神話と関わりがあるってこと」
「じゃ、やっぱり・・・」
「はい、多分ご察しの通りですよ」
北欧神話と言えば、これは外せない。
神話における、最大最悪の出来事・・・・・・
「最終戦争・・・神々の黄昏、ラグナロク・・・・・・」
ヴァーリの顔から笑顔がフッと消えた。
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「へー・・・・・北欧神話とアルフかぁ・・・」
フィーネはそう呟き、かなり好みが分かれるマトマスープをスプーン一杯口に含み、顔をしかめた。
俺たちの学校は給食制で、食べるときはそれぞれ好きに机を寄せ合って食べる。
基本的に男子は男子、女子は女子のグループができるが、中には男女グループを作る猛者もいる。
俺たちアルフ研究部もその猛者グループの1種なのかもしれないが、ちょっと特別だ。
5つの机を囲んで座るのは、俺、リーオ、フィーネ、ティアル、ヴァーリ、ついでにエイル先生。
面白そうなこと話してるじゃないかと言いながら先生がずずいと割り込んできたもんだから、かなり狭い。
そういや、唯一俺の机には給食のトレイが置かれていない。
嫌いな物ばかりで食べることをあきらめた俺を叱責するように、腹がぐぅぁきゅるりんと不思議な音を奏でる。
腹減った・・・
水道水でも飲んで来ようかな・・・
「ラグナロク・・・つまりヴァーリ君、アルフは戦争を起こそうとしているってことか?」
エイル先生はよくわからないフライを口に咥えながらそう言った。
ヴァーリも同じく謎フライを咥えながら・・・・・・は行儀が悪いと判断したのか、ゴクンと飲み込んだ。
「ゲホゲホッ! ゲッホ! ゲホ! ・・・・・・ふぅ・・・」
どうやらのどに詰まりかけたようだ。
大丈夫か〜? ヴァーリ。
「えっとですね、僕が知ってる限りでは、アルフが戦争を起こそうとしているわけではないようなんです」
「それって、どういう意味だ?」
続くエイル先生の質問に、ヴァーリはややうつむきながら答えた。
「アルフは、どうやら戦争を予想しているようです」
「「「「予想?」」」」
「はい。アルフと・・・・・・地上の民の戦争・・・・・・」
俺たちと
アルフが・・・か・・・・・・
不思議と驚かない。
皆も同じみたいだ。
「でも〜、ちょっと矛盾してない〜?」
「矛盾・・・・・・ですか?」
ティアルの発言に、ヴァーリは少し驚いたような表情をした。
ティアルは口元に手を当て、難しい顔をしながら続ける。
「そうだよ〜。アルフは戦争を起こす気はないんでしょ〜? でも地上の人たちの中ではアルフのことを詳しく知ってるのは私たちとナレクさんだけのはずだよ〜? 地上の人たちが戦争を起こすって言ったって、天界の場所を知らないとだし〜・・・」
なんとなく暇になって机の模様をなぞっていた俺は、ティアルのビジバシと的を射た質問に、顔を上げた。
確かに、それじゃつじつまが合わないな・・・
「まぁでも、俺たちがどうにかしなきゃいけないってことは変わんないだろ」
リーオに全員の注目が集まる。
リーオはモーモーミルクをストローで一口吸い上げた。
「ふぅ。アルフのことも、ラグナロクのことも、知ってんのは俺たちだけだ。お偉いさんに相談しても信じてもらえないだろうしな。だから、俺たちがやろうぜ」
そう言ってにっと無邪気な笑みを見せたリーオに、俺たちは頷き返した。
なんか、責任重大って感じだな。
ところで・・・
「フィーネ、マトマスープ嫌いなら無理して飲まないほうがいいんじゃないのか?」
いまだになみなみと残っているスープとにらめっこをしているフィーネは、俺の言葉にほぅ・・・と一息。
スプーンを持参した食器入れの中に突っ込んだ。
そして思いっきり椅子にもたれかかる。
「辛い・・・・・・このレベルは学校の給食に出していいもんじゃないわよ・・・」
「そう〜?」
「そうですか?」
フィーネの両隣でゴクゴクとマトマスープを飲み干すティアルとヴァーリ。
辛いモンが平気な奴は、なんだかよくわかんねぇ。
俺は心の中でそう呟き、再び机の模様をなぞり始めた。
「なぁ皆、ちょっといいか?」
先ほどリーオに集まっていた注目は、今度はエイル先生に集まった。
「どうしたんだよエイル先生」
「そう慌てるなってリーオ君。皆にちょっと提案なんだけどさ、今日から皆で・・・」
次にエイル先生の口から放たれた言葉は、学生である俺たちにとってはもうなんとも言えない言葉だった・・・
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な、なんなのでしょうか・・・
エイルさんの言った、皆でやる事とは・・・・・
ホッホッホ、今回は結構大事なことを話しておりましたな。
ヴァーリ君も元気そうで何より。
ではこの辺りで失礼しましょう。
また次回・・・